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― 本と通路と味方1 ―

2022/05/12
文字数:985文字

4【本と通路と味方1】

夢を見た。

窓一つない細い通路にいた。
通路の片方に扉がいくつか、ついている。
その一番奥の扉を開けた。
椅子が一つとカウンターのような机、その先に天井まで届く本棚が両側に立っていた。
机の上にも本が雑多に置いてある。

椅子に座って、私はそれを整理する。
赤い本があった。
パラパラとめくる。人が倒れて血が流れてる……そんな写真が何枚も張られていた。

「終わった?」
後ろの扉が開いて、女性が顔を覗かせる。
私は首を振ってまだだと伝える。
「そう……あれ?それ…ヤバいよ」
赤い本を見て、女性の顔が曇る。
何が?と私が聞く前に、扉はパタンと閉まった。
女性がパタパタと駆けていく足音が聞こえた。

私は本の整理を続けた。
暫くすると、また扉が開いた。
次に顔を出したのは男性だった。ちょっと強面の体育会系の男性。
「終わったか?」
私はまた首を振る。
「そうか……何か、変なものみなかったか?」
男性の手が私の肩に伸びる。
ザワリと何かが騒いだ。『変なもの』は赤い本の事だと思った。
「何もないです」
私は言わなかった。
「本の整理が終わったら早く帰れよ。事件があったみたいだから」
赤い本の写真が私の中に蘇った。
「わかりました」
男性は「本当に何もなかったよな」と、念を押して扉から出て行った。

なぜか本の中の写真が被害者で犯人があの男性だと思った。
本の整理をしている場合ではないと思った。
カウンターから出て、本棚の間の通路を先へ先へと進んだ。
本棚の先は……壁と左右に伸びる通路だった。

左側は少し先でまた左へと道が曲がっている。それ以外に道はない。
右側は真っすぐに伸びる通路といくつかの右への通路。
左側を選んだ。

左に曲がった先に見えたものに、私は一瞬ぽかんとした。
そこには、いくつかのお店があった。
昔のたばこ屋のようなもの。洋服を飾ってるところ、駄菓子が置いてあるところ。
片側が壁でなければ、ここが建物の中だという事を忘れそうだった。
洋服屋さんの前でおばちゃんだかおじちゃんだかよく判らない人達に声をかけられた。
「そんなに急いで、どうしたのよ」
「どこへ行くの?」
「ああ。追われてるのね。早く行かなきゃ」
「大丈夫よ。誰にもあなたの事は言わないから」
「私たちは味方よ」
三人のよくわからない人物が言葉を少しかぶせながら、私が何も答えないうちに話が進んでいく。
「ほらこっちよ」
そう言って、洋服屋さんの奥を指さす。
私はそこから外へと出た。




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