ラグビーの伝説 エリス少年の伝説

世にある「伝説」は、実はほとんど事実とは異なります。
途中で脚色されたり、都合の悪いところはしょってしまったりしています。
しかし、世に伝え、語りつぐ意味があるから「伝説」なのであり、
事実と違っていようが、その意味や意図が変わるものではありません。

ラグビーにも伝説があります
一番有名なのが、ラグビーの始まりとされる「エリス少年の伝説」です

昔は情報は非常に乏しかったし、映像に残っているとしても20世紀中盤以降であり、映像すらないことも多い。口から口へ想いが語り継がれて伝承、伝説となります。

今は情報化時代であり、様々な角度からの映像がありますし、当事者もSNSなどで発言したりします。伝説ができにくい時代になってしまいました。

このコーナーはラグビーの伝説を伝説として、聞いたことの記憶を、そのまま記しておきたいと思います。
ここでそうしないと、もはや「伝説」が語り継がれなくなってしまうかもしれません。

(オールドファンの中には同じ話を違った展開で聞いている人も多いと思います。そのように様々な形になってしまうのが伝説の伝説たる所以です)

「信じるか信じないか、それはあなた次第です。」



1800年代の初め頃、フットボールは、イングランドの多くのパブリックスクールでは一般的なスポーツでありました。1チーム100名ほどが入り乱れてボールを蹴りあい相手ゴールを目指します。ここラグビーの街にあるラグビー校の芝のグランドでも他校と同じようにこんなフットボールが盛んに行われていました。フットボールには色々なルールはありましたが、少々荒っぽいプレーが当時の少年達には大人気です。

1823年の秋、ラグビー校の上級生になったウイリアム・ウェブ・エリス少年は、華奢で小柄でクラスではあまり目立たない存在です。そのエリス少年がこのフットボールのゲームに出場することになります。エリス少年の学年は同級生が少なかったので、チームには下級生がほとんどでした。また1チーム100名が出場するチームなので、いきなりレギュラーとなります。

ゲームは拮抗し白熱します。ゲームの終盤、相手チームが蹴り上げたボールが秋の青空に高く舞い上がり放物線を描いて落下してきます。そのボールをグランドの真ん中で、100人の中の1人、エリス少年がキャッチします。

「ナイスキャッチ」誰かが声をかけました。

ただ、エリス少年はこのボールを一体どうしたものか一瞬考えています。

周りの同級生は「何してんだよ早く蹴り返せよ」とまくし立てました。

エリス少年は、活躍したい、勝ちたい、点数を上げたい自然な気持ちで、ボールを手に持ったまま、全速力で相手ゴールを目指して走り出します。当時は手でキャッチすることは許されてはいましたが、手に持って走ることまでは、ルールにはありませんでした。自分で蹴り返すか、地面においてチーム他のメンバーが蹴るのが普通だったのです。エリス少年もそんなことはもちろん知っています。だけど、秋の青空の下エリス少年の衝動はそれを抑えるものではありませんでした。

唖然とするチームのみんな。相手チームの選手たちも、まさかのプレーに棒立ち状態となります。その中を颯爽と風を切って走りに抜けるエリス少年。途中からエリス少年の顔には笑みも浮かんでいました。ボールを持って走ることがこれほどの快感だとはそれまでわかりませんでした。ルールを破ったことさえすっかり忘れていました。

そしてゴール。

そのプレーぶりがあまりにも自然で、かっこよく、素晴らしいものだったので、下級生たちは、エリスがルールを破ったことを批難することも躊躇します。それどころか、そんな爽快な上級生のプレーをみんな真似をしたくなります。その後そのプレーには。「ランニングイン」という名前も付けられます。

1838年には、「ランニングイン」はラグビー校のフットボールのルールに正式に認められるようになり、ランニングインを得意とする、ジェイム・マッキーというスタープレーヤーも登場してきます。ラグビー校でのランニングインありのフットボールが、ラグビー校方式のフットボールとしてラグビーフットボールとして確立していったということです

ラグビー校には少年の像と記念のプレートがあります。

このエリス少年の功績を称えて、ラグビーワールドカップのトロフィーの名前もエリスカップと言います。

このエリス少年は実在の人物で、卒業後、宣教師となります。60を超えるまで牧師として人生を送ります。そして病気療養のためフランスに渡り、そこで亡くなります。墓はフランスのニースの近くの海の見える丘の上にあります。

次のワールドカップは2023年フランス大会です。エリス少年がボールを持って走ってからちょうど200年、エリス少年が眠るフランスの地で行われます。

「この話、信じるか信じないかはあなた次第です」

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