歪んだ心理空間における精神的被害

モラハラ、DV、ストーカー、セクハラ、性犯罪等における加害者心理と被害者心理

自己愛性人格障害における「顕在型」と「潜在型」

 日本人の自己愛性人格障害者に多いとされるのは、いわゆる「潜在型」なので、「顕在型」との違いについてまとめておきます。

 

 下は、アメリカ精神医学会、DSM-IV精神疾患の診断・統計マニュアルにおける自己愛性パーソナリティ障害の診断基準です。

 

DSM-IV-TR精神障害の診断と統計マニュアル)

(空想または行動上の)誇大性、賛美されたい欲求、共感性欠如の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ以上で示される。
  1. 自分の重要性に関する誇大的な感覚(例:業績や才能を誇張する、十分な業績がないにもかかわらず優れていると認められることを期待する)。
  2. 限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛の空想にとらわれている。
  3. 自分が「特別」で独自な存在であり、他の特別なまたは地位の高い人達(または高名な機関)にしか理解されないし、あるいはそういう人としか交流するべきではない、と信じている。
  4. 過剰な賛美を求める。
  5. 特権意識をもっている。つまり、特別有利な取り計らいや、自分の期待を無条件に満たしてくれることを理由なく期待する。
  6. 対人関係における搾取的振る舞い。つまり、自分の目的を達成するために他人を好きなように利用する)。
  7. 共感の欠如。他人の気持ちおよび欲求を認識しようとしない、またはそれに気づこうとしない。
  8. しばしば他人に嫉妬するかあるいは、他人が自分に嫉妬していると思い込む。
  9. 尊大で傲慢な行動、または態度を見せる。

(ロニングスタム, p. 84 より引用.)

 

 これはカーンバーグによって記載された自己愛性人格障害と言ってよいもので*1 、攻撃的、顕在的、外向的なタイプが強調されています。

 これに対して、クーパー(Cooper, A.M)は自己愛性人格障害を二つに分け、「DSM-IVは主に顕在的な自己愛障害を表現しているが、潜在的な自己愛障害を表現することに失敗している」と考えています。クーパー(Cooper, A.M.)、マスターソン(Masterson, J.F.)、アクター(Akhtar, S.)、トムソン(Thomson)、ギャバード(Gabbard, G.O.)*2 、ロニングスタム(Ronningstam, E.F.)、らは、自己愛性人格障害は明らかに二つに分類可能であるとしています。クーパーによれば、「カーンバーグ的な積極的あるいは外向的自己愛性の病理は、反社会性人格障害境界性人格障害であろう」(町沢, p.41)。

 したがって、自己愛性人格障害の二つの型について、次のように特徴づけることができます。

 

I.自己概念

顕在型 ― 誇大性;ずば抜けた成功へのとらわれ;自分が特別な存在だという過剰な意識など

潜在型 ― 劣等感;恥辱心を抱きやすい傾向;傷つきやすさ;栄光や権力を求めるのに手段を選ばない;批判や現実の挫折に対して著しく過敏など

 

Ⅱ.対人関係

顕在型 ― 数は多くても浅薄な人間関係;他者からの賞賛を強く欲する態度;他者への軽蔑は時に偽りの謙遜で隠蔽される;共感の欠如など

潜在型 ― 心から他人に頼ったり、信頼することができない;他人の才能や深い人間関係を結ぶ能力への羨望;他人の時間に対する配慮のなさ;手紙の返事を書かない、など

 

Ⅲ.社会適応

顕在型 ― 社会的魅力;成功していることもある;賞賛を得たいためだけのたゆまぬ精勤;強い野心;外面への囚われ、など

潜在型 ― 恒常的なあてどのなさ;仕事に深く関わろうとしない;好事家的態度;多岐にわたるが表面的でしかない興味;その美的嗜好はしばしば間違った知識に基づいていたり、人真似でしかない、など

 

Ⅳ.道徳、基準、理想

顕在型 ― 戯画的謙遜;特異でむらのある倫理観;社会政治関係に熱心なそぶり、など

潜在型 ― 気に入られるためには簡単に価値観を変える;病的な嘘つき;非行傾向;民族や道徳問題に関する過度の相対論など

 

Ⅴ.愛と性

顕在型 ― 不安定な結婚生活;貪欲に誘惑するが、冷酷;抑制のない性生活など

潜在型 ― 愛情を持続できない;恋人が自分自身の興味、権利、価値観を持つ別の人格であると認めることができない;近親姦タブーを真に理解できない;性的倒錯が随伴している、など

 

Ⅵ.認知様式

顕在型 ― 物知り;独断的で自説に固執する;理路整然とした発言;自己中心的認識様式;言葉を愛する;手っ取り早い方法で知識を得ることを好む、など

潜在型 ― しばしば見出し的情報にとどまる知識;名前など細かいことを忘れてしまう傾向;自己評価を傷つけられそうになると現実の意味を変えてしまう;自己評価を調整するために言葉や話を用いる、など

(ロニングスタム編『自己愛性の障害』, 金剛出版, p.69を参照)

 

 まだ私の憶測にすぎない段階で、文献上の確認をしていませんが、潜在型の自己愛性人格障害は、妄想性人格障害に似ていないでしょうか? 傷つきやすく、批判や現実的挫折に著しく過敏、自己評価を傷つけられそうになると現実の意味を変えてしまう傾向や、現実離れした誇大な空想的自己イメージを抱いている点など、妄想性人格障害と共通している点が、けっこうあるような気がします。

 また、イルゴイエンヌの言う「モラル・ハラスメント」の加害者である「自己愛的な変質者」は、潜在型の自己愛性パーソナリティ障害者にそっくりだと感じます。

 

参考文献

エルザ・F・ロニングスタム編『自己愛の障害―診断的、臨床的、経験的意義―』佐野信也監訳, 金剛出版, 2003年.

町沢静夫自己愛性人格障害駿河台出版社, 2013年.

 

 

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*1:DSM-IV の公式基準は顕在型の現象型である(ロニングスタム, p. 14, cf. p.68)。

*2:「鈍感型」(他者との関係における自分の尊大さや自己顕示性の影響に気付いていない)と、「過敏型」(他者の反応を過剰に気にして自己主張、あるいは自己顕示的な行動を抑制する)とに分けている(1989年)。