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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇レポ】ミュージカル『ウィー・ウィル・ロック・ユー』(위윌락유, We Will Rock You) @ Jamsil Sports Complex, Seoul《2019.12.28マチネ》

WWRYキャストと特設会場

 今回も少し長めに滞在した年末年始のソウル遠征。普段は枠がなくて観れない、観ない作品を中心に観ようということで選んだ作品の一つが『ウィー・ウィル・ロック・ユー』(We Will Rock You, 위윌락유, 以下WWRY)。『ルドウィク:ベートーヴェン・ザ・ピアノ』、『ブルーレイン』などで注目するようになったチョ・ファンジさんが主人公のガリレオ役で出演しているので、ファンジさんのロック歌唱を聞いてみたいというのが動機。私が観た回の複数キャスティングされているキャストのみなさまは以下の方々でした。

 ガリレオフィガロ:チョ・ファンジさん
 スカラムーシュ:イム・ソラさん
 キラー・クイーン:ソ・ムンタクさん
 カショーギ:チョン・サンユンさん
 ビヨンセ:イム・チュンギルさん
 オズ:ペク・ジュヨンさん
 バディ:キム・ジェマンさん
 教師チェ・ジウォンさん

2019.12.28 マチネのキャストボード 2019.12.28 マチネのキャストボード
 

作品紹介

 WWRYの世界初演は2002年ロンドンのドミニオン劇場 (Dominion Theatre) にて。地下鉄トッテナム・コート・ロード駅から地上に出てきてすぐに目に入ってくるこの劇場を飾っていた故フレディ・マーキュリーの彫像は長らくこの駅周辺のランドマークでしたが、そんなフレディ像も2014年にドミニオン劇場での公演が閉幕されると撤去され。いまだにドミニオン劇場の前を通る時にフレディの姿が見えないとなんとなく寂しい気分になってしまう私です。

2013.4.29 ドミニオン劇場にて撮影 2013.4.29 ドミニオン劇場にて撮影
 

 作品のタイトルや巨大なフレディ像からも想像がつく通り、WWRYはロックバンドQUEENの楽曲を使ったジュークボックス・ミュージカル。一部の歌詞はミュージカルの物語に合わせて改変されていますが、ほぼほぼQUEENのオリジナルの歌詞を使った楽曲でミュージカルが構成されています。というわけで作詞作曲はQUEEN、脚本はコメディアンで小説家でもあるベン・エルトン氏の本作。ロンドンのオリジナルプロダクションではQUEENのギタリストのブライアン・メイが音楽監修、ロバート・デ・ニーロがプロデューサーとして製作陣に名を連ねています。

 韓国では2008年に来韓公演がありましたが、韓国人キャストを起用したプロダクションは今回が初めて。アンコール曲など一部の曲はオリジナルの英語歌詞のまま歌われているものの、韓国語の訳詞が今回の公演のために新たに制作されています。今回の公演のために作られたのは韓国語訳詞だけではなく、なんと公演会場もチャムシル総合運動場内の1,500人弱の観客を収容できる専用劇場。赤坂ACTシアターが1,324人収容、大阪の新歌舞伎座が1,453人収容可能なのでそのクラスの劇場を想像してもらえればなんとなくこの特設会場の大きさがイメージできるかと思います。

チャムシル総合運動場のWWRY特設会場 チャムシル総合運動場のWWRY特設会場
 

あらすじ

 日本語版ウィキペディアにも詳しい作品のあらすじが確認できますが、いつも通りplayDBに掲載されているシノプシスをざっくり意訳したものをご紹介。

遙か未来。かつて地球と呼ばれていた惑星、 《アイプラネット》。
キラー・クイーンの支配と統制の下、人間の人生はオンライン上にだけ存在する。 集まってくる群衆も、演奏するバンドも存在しないそこには、 自由を望む夢想者ガリレオと反抗児スカラムーシュ、 ロック&ロールが存在していた時代を忘れていないボヘミアンたちがいる。 ガリレオスカラムーシュは予言に従い、ボヘミアンたちと音楽を求めて旅立つ。

 キラー・クイーンがトップとして君臨する《グローバルソフト》社によって徹底的な言論・思想統制が敷かれるWWRYの世界。ジョージ・オーウェルの『1984』のような管理社会のディストピアが舞台ですが、そんな小難しいお話ではなく。思わず一緒に熱唱したくなるQUEENの名曲に乗せられたB級トンデモSFを肩の力を抜いて楽しむのがこの作品の醍醐味だと私は思っています。

(以下、ネタバレが含まれるためご注意ください。)

感想

 私が初めてWWRYを観たのは2011年のロンドン。初観劇の際に強烈に印象に残ったいい意味でのしょうもなさ満載のストーリーはそのままに、技術の進歩によって大幅にパワーアップされて見応えも迫力も満点になったセット。色々とブラッシュアップされている今回の韓国公演は恐らくノンレプリカライセンスのプロダクションだと思うのですが、オリジナルの面影が感じられてどこか懐かしさを感じるプロダクションでした。

 冒頭で書いたファンジさん以外で今回観るのを楽しみにしていたのがキラー・クイーン役のソ・ムンタクさん。韓国のミュージカルファンにとっては『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(Hedwig and the Angry Inch) のイツァーク役のイメージが強いですが、本業はロックシンガーであるムンタクさん。ハスキーでパワフルなロックヴォーカルがめちゃくちゃカッコイイタク姐さんのキラー・クイーン役はかなりのハマり役で期待通りとっても素敵でした。手下である秘密警察のカショーギ長官はキラー・クイーンのことを「マダム」と呼んでかしずいていますが、そうしたくなるオーラがタク姐さんのクイーンにはあります。たまたま私が観た回では客席の最1、2列目にお揃いのスタジャンを着たタク姐さん親衛隊が団体観覧していて、大いに会場を盛り上げていました。

 カショーギ役は2018年のランボー以来かなり久しぶりだったサンユンさん。大劇場でも小劇場でもどんな役も器用に消化するサンユンさんなので、この役も難なくこなすんだろうなぁと思ってはいましたが実際観てみたら期待以上!「ムワハハハハ」といういかにも悪役な笑い声が脳裏にこびりついて離れなくなること請け合い。ロンドン公演では白を基調としていたカショーギの衣装は韓国版では黒のロングコートに黒の革パンツにゴールドのアクセントを付けたスタイリッシュな衣装になっていたのですが、この衣装がとてもよくお似合いで。長身のサンユンさんがロングコートを翻す姿はサマになっていてかっこいいのですが、その絶妙に鼻についてイラッとする感じのかっこつけ具合が胡散臭いカショーギのキャラクターにぴったり。(褒めてます)なんか妙にクセになってしまいます。ムワハハハハ!

 お目当てのファンジさんが演じるガリレオ役は物語の主人公ではありますが、強めヒロインのスカラムーシュに主導権を握られがちなヘタレ男子。ちょっと情けなくてかわいい一面もたっぷり観れて、本気を出した時の色気溢れる素敵な歌声とオーラも存分に堪能できるこの配役はとても美味しかったです。あらためてファンジさんは二十代前半のフレッシュな俳優さんなんだなぁと実感。キュートもセクシーもどちらもいける子は強い。やっぱりこれからがとても楽しみな俳優さんです。ファンジさんの歌声で「We Are The Champions」、「Bohemian Rhapsody」が聞けて満足。作品としてはこの2つの曲とタイトル曲の「We Will Rock You」を作品を一緒に歌えるようになっているときっと楽しいのでこれから観る予定の方はぜひ。おまけのような書き方になっちゃって申し訳ないのですが、スカラムーシュ役のイム・ソラさんもめっちゃ歌がうまくてかわいかったです。

 作品柄、客層は普段の韓国の大劇場ミュージカルの客層とは違った雰囲気で、親子3世代の家族連れや若い頃にQUEENの音楽を聴いていたと思われる少し年配の世代の方がとても多かったです。男性の観客比率もかなり高め。昔からのQUEENファン、映画『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットをきっかけに増えた新しいファン、ミュージカルファンをそれぞれバランスよく取り込んでいたように思います。最後はロックコンサート会場さながらに盛り上がってみんなで熱唱するのはロンドン公演と同じく。世代を超えて、国境を越えて愛されるQUEENの音楽はキラーコンテンツなんだなぁ、ということを今更ながらしみじみと感じました。気楽に観れて、ロック音楽を全身に浴びたい方はぜひ。