崩壊
「…なんでなん」
時が止まったような空気をまた動かしたのはB子でした。
「なんでなんよ」
ポロッとB子の目から涙があふれ、そこからボロボロと立ったまま泣くB子を私は動くことも出来ずに下から見上げていました。
喧嘩?え?なに?
不意にコソコソと周りのお客さんが話している声が耳に入って、半個室と言えど立ち上がっていれば流石に目につくなとB子に座るよう声をかけました。
B子はストンと座りましたがそれでも涙は止まらず、ペーパーナプキンで1度顔を拭うとA子を見ました。
「…っ…、…」
何度も言葉を出そうとして息を吸い込んでは言葉にならず、視線がA子とテーブルを何度も彷徨ってたB子。きっと怒りや戸惑いやいろんな感情が爆発したようにありすぎて、ひとつの言葉として出てこないんだろうなと感じました。
そしてふと横にいる私の視線とかちあい
「のん…」
ゆらっとまた涙が浮かんできて
「のん、ごめんな。巻き込んで」
ポロッとまた落ちる涙を見ながら、私は胸がギュッと痛くなりました。
「のんは関係ないのにな。A子だけ誘って2人で話ししてもよかってんけど、聞くのが不安で怖くて、どうしてもいて欲しくて…もし違ったらさ、のんなら笑って〔ンな訳ないやん!B子何ゆうてるんよー!〕って空気変えてくれるかなって思ってな。っていうか、…そう言って欲しかった…っ」
手に持っていたケータイとクシャクシャになったペーパーナプキンを握りしめてB子が俯きました。その手にポタポタと涙が落ちていて
言葉の最後の方は泣き声と混ざってか細くなっていました。
その苦しげに聞こえる声にB子のわずかな希望すら無くなった感情が見えて、喉にグッと熱いものが込み上げてきました。
何て、声をかければいいんだろう
知らなかったていで「私もビックリした」って言えばいいの?違う。私は知ってた
でも知ってたと今伝えるのも違う。きっと、B子をさらに傷付ける
B子が今、怒りや失望や悲しみや不安で感情がぐちゃぐちゃになって私に助けを求めているのは分かるのに、私は自分がどうしたらいいのか分からずにいました。
「…A子…」
分からないけど、分からないけど、、なんとか前に進めたくて、さっきからずっと黙って俯いているA子の名前を呼ぶと、A子がチラッと視線を上げました。
「…のんは…知ってた」
一瞬目が合った後に、スッと逸らしたA子がようやく口にした言葉は、私にとっては今言うべきじゃないと飲み込んだ言葉でした。
「私、のんには言ってた…。」
A子の言葉に、言葉を失う私と、驚いたようにA子を見るB子。
「…でものんが黙ってたのは、B子の事を思ってだと思う…。私は言われてもいいかなって気持ちもちょっとあった時も…あったけど…のんは私に、やめときなってずっと言ってたし…」
B子の視線が、A子から私に向いて
そして
「嘘やろ…」
クシャッとB子の顔が歪み、一種驚きで止まっていた涙がまた溢れました。
「だって、私、のんに…ツライって、たいへんだって、どう、どうしたらいいんだろうねってさ……相談してた私は、なに…」
「B子、あの…、」
「旦那、帰ってこないから、ワンオペだ から、たいへんだよねってさ…話してたのに…、しっ…しってたの…?知ってて…知ってて、そうだねって返事…」
嗚咽に言葉が何度も遮られながら、両手で顔を覆いながら、B子は私に『裏切ってたんだ』という絶望の感情を言葉にして投げかけていました。
そんなつもりは、無かった
本当に無かった
傷付けたくなくて
傷付いて欲しくなくて
でも、それが本当はB子を裏切っている事だと心のどこかでは気が付いていた
だからB子との連絡を取らなくなった
面倒なことに巻き込まれたくないと保身に走っていた時点で、私はB子の事を裏切る選択をとっていたんだとこの時痛感しました。
なにも言わないA子
なにも言えない私
重い空気の中で、ズッと鼻をすすりながらB子が呟きました。
「…ママ友じゃなくて、、友達だと、思ってた」
その言葉で、昔、3人で話していた事がフッとフラッシュバックしました。
『ママ友ってなんやろね?』
『え?』
『ママ友と友達の違いってなんやろって』
『ママ友って、しょうみ子どもの関わりが無くなったら関わらんくなっていくやん?でも友達ってどんだけ環境変わっても変わらずに関わるやん。そゆことちゃう?』
『あーなるほど!子ども主体がママ友で、自分主体が友達的な?』
『知らんけどな』
『知らんのかーい』
そう言えば、なんだろうって聞いていたのはB子だった。答えたのはA子だった。
この時、3人とも口にはしなかったけどお互いを[じゃあうちらは友達やな]って
そう、思っていました。
「…友達って、…なんやろね…」
B子が聞いた言葉に、A子は何も言いませんでした。
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