糖尿病医療学[途中下車]

プーカプカ様のブログ記事 [イベント告知と、新聞記事から]を読んでいたら,予防医療普及協会の理事として,ピロリ菌検査やHPVワクチン接種を推奨している堀江貴文氏(ホリエモン)の記事が紹介されていたので読んでみました.

ホリエモンが課題だらけの医療業界を斬る! 「大学の医学部で経営も教えるべき」

ホリエモンが斬る! 予防”というインセンティブなき「国民皆保険の欠陥」

「意識低い系」の人たちが,健康診断を受けずに糖尿病を悪化させて医療費膨張の原因になっている.
しかし,正攻法で予防医療を啓蒙しても効果はない.
したがってインセンティブとペナルティ(=アメとムチ)の手法で,強制的に予防医療に取り組むように追い込むべきだ

(C) akizou さん

具体的には,

  • 毎年の定期健診で血糖値が高いと指摘され続けている人は上がると健康保険料がどんどん上がる仕組みにする.
  • 重度の糖尿病で足が壊疽となり腐っている画像などを見せて,ホラー映画の手法で恐怖心をあおる.

というムチをふるう一方で,

  • HbA1cを下げる目標を達成した人は『糖尿病レストラン』で,豪華な和牛フルコースをプレゼントされる

などといったアメを与えてはどうか,という提案をしています.

糖尿病医療学とは対極

この件を「糖尿病医療学」の番外編として取り上げたのは,堀江氏は『一般大衆とはすべてレベルの低い人の集合体だ』とみなす傾向があり,「糖尿病患者のこころ」(= 意思・葛藤・不安などすべて)は,まったく視野に入っておらず,ただ 『予防医療という新たな起業チャンス』ととらえていいるのだなと思ったからです.ここまで述べてきた『糖尿病医療学』とはみごとなほど対極にある考えです.

堀江氏の著書『健康の結論』にも目を通してみましたが(3分で読めました),医療データをかなり単純化しており,多分1次データを見ずに書いているのでしょう.

上記の糖尿病患者への『アメとムチ』のアイデアにしても,たとえば緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の人は,本人の怠惰な生活による自業自得だとでも言うのでしょうか?

なお,堀江氏は,上記記事中で「日本は 国保,健保組合,共済などと制度がバラバラだが,韓国では一本化している」などと韓国の健康保険制度を絶賛していましたが,韓国で保険適用されるのは 安価な薬・治療法だけであって,自宅近くの開業医にかかるだけなら3割自己負担ですが,大病院になるにつれて,その負担割合は高まり,大学病院クラスにかかると診察費は全額自己負担,残りの診療費も60%自己負担となります. つまり『高額治療』を受けられるのは実質上『お金持ち』だけです.また韓国で国民皆保険制度が確立したのは 1989年です. 戦前から健康保険制度があり,1961年に国民皆保険となった日本と,遅れて整備された韓国とを比べても意味がありません.

ただ,この『誰でも平等に安価に高いレベルの治療が受けられる』日本の健康保険制度が,『万一にも 病気になったら大変だ』という意識が育たない原因だというのはたしかにその通りでしょう.自治体が配布している 通り一遍の「健康のしおり」には効果が薄いのも事実です.だから何か別の手法が必要だろうという堀江氏の主張の そこだけは賛成です.医療の問題は,医療関係者と厚労省だけで議論されがちですが,そこに異分野の人が別の発想で 口をはさむのは望ましいことだと思います.

コメント

  1. 佐々木カルフ より:

    1か0か、そんな話が多いですね。
    厚労省や医療関係者もしかり、ホリエモンもしかり、です。
    二者択一を迫る理由は、私も経験あるので多少なりともわかる気もします。
    それを乗り越えて多様な考え方を身につけられたら、いろいろな道も開けるのだと思うのですが・・・

    • しらねのぞるば より:

      > 1か0か、そんな話が多い
      食事療法についても それは言えますね.
      どうして 「なんとか食事流派」にこだわるのでしょうかね.
      「この食事療法でなければ,すべて間違い」と言っても,ほとんどの人は実際にはいろいろなものを食べているわけで,どれにも分類できないケースが多いはずです.
      私などは,見る人の立場によって「不徹底な糖質制限」「いいかげんなヴィーガン」,どうにでもなりそうです.