肝機能指標と糖尿病[6-2]~西村 様の例~

このシリーズ『肝機能指標と糖尿病』を思い立ったきっかけは,この記事へ のコメント欄で,西村典彦 様が,糖尿病発覚以来の詳細な肝機能変化データを提供してくださったことでした.

そういえば以前 耐糖能と肝機能との関係を調べた文献 を読んだことを思い出して,この機会にまとめてみようと思った次第です. 貴重なデータをご提供いただいた西村様,どうもありがございました.

二人の例を比較してみます

わかりやすように,西村様と私のデータをグラフにして対比しました.

空腹時血糖値とHbA1cの推移

左が西村様,右がぞるばのグラフです. 縦軸のスケールはほぼ合わせてありますが,横軸は左が「月単位」右が「年単位」とまるで違うことに注意してみてください.

左のグラフはずいぶん数値が暴れているように見えますが,これは測定間隔が違うためでしょう. 頻繁に測定すればするほど,偶然の変動や測定バラツキが目立つからです.

糖尿病発覚時点での二人の空腹時血糖値は似た数字ですが,HbA1cは(おそらく)西村様の方が高かったはずです. その後,私(右)の血糖値は悪化していきますが,これが糖尿病学会推奨の『1600kcal 高糖質 カロリー制限食』のなんともすばらしい成果です. 一方 西村様(左)も血糖値・HbA1cともに一進一退という状況でした.

しかし 二人とも糖質制限食に切り替えてからは,経過が似てきます.血糖値とHbA1cが はっきりと下がりだしたからです.私は 現在 糖質制限食9年目ですが,2年を経過してそろそろ3年目に入る西村様も おそらく今後緩やかに安定していくでしょう.

なお,私と西村様とで,血糖値はそれほど違わないのに HbA1cが1%以上 違いますが,もともと私は 若いころから HbA1cは 4%台がほとんどでした.これはこの記事『糖がつきやすい人』の項にも書いたように,「血糖値が同じなら 誰でも糖化率は同じ」とは限らないからです.私のヘモグロビンはあまり糖を寄せ付けないようです. ただこの低いHbA1cのために,『自分は絶対に糖尿病にならない』と油断していたという面があります.

肝機能指標の推移

AST,ALT,γ-GTP(右グラフのみ;緑線)の変化です.

横軸の目盛りが違うため,まるで違うグラフに見えますが,糖質制限食開始後,ALTが徐々に減少していく傾向は同じです. 西村様(左)のグラフで 2019年2月に ALT,ASTがともに飛び跳ねているのは,特に思い当たるところがなければ,測定精度の問題かと思います[この件は,後程 別の記事にします]

AST/ALT比の推移

このグラフは非常にわかりやすいです.二人とも糖質制限食になってから,素直に改善傾向に切り替わったからです.

『AST, ALT,γ-GTPが基準値内の十分低い値であり,かつ AST/ALTが1以上』

という健全な肝臓の姿に戻っていくことがよくわかります.

[引き続いて highbloodglucose 様から提供いただいたデータを紹介します]

コメント

  1. 西村 典彦 より:

    分かりやすくまとめていただき、ありがとうございます。
    今年2月のAST、ALT増加ですが、昨年12月頃に摂取したナイアシンの影響が残っていた可能性があります。

    その後も文献を探していると、下記の久山町研究を見つけました。

    http://www.epi-c.jp/entry/e001_0_0159.html

    結論では、

    「肝機能の指標になる酵素と糖尿病新規発症リスクとの関連について,日本人一般住民における9年間の追跡研究による検討を行った。
    その結果,γ-GTPおよびALTは糖尿病の危険因子であることがわかった。この関連は飲酒量,インスリン抵抗性,炎症マーカーなどとは独立したものであった。
    また,γ-GTPおよびALTの糖尿病新規発症リスク予測能は,既知の危険因子(空腹時インスリン,ウエスト/ヒップ比,高感度CRP)よりも優っていた。2型糖尿病の発症機序における肝臓の役割は,予想以上に大きい可能性がある。」

    と記述されており、γーGTP、ALTは糖尿病発症リスクの予測能は既知の指標よりも優っていると書かれています。
    しかもインスリン抵抗性などとは独立した因子であると言っています。すなわち、インスリン抵抗性を介さずに発症する痩せ型糖尿病の原因である可能性があります。
    AST/ALT比<1.0(γ-GTPは正常)は、非アルコール性脂肪肝の指標です。これを引き起こすのは、アルコールと同じ代謝系で代謝される果糖の過剰が考えられます。

    上記研究には、AST/ALT比についての記述はありませんが、私のデータやぞるば様にご提示いただいたデータ、この久山町研究を総合して考えると糖尿病発症リスクの指標としてかなり確証が持てました。
    しかもALT単独では正常値でも、AST/ALT比でみれば異常が発見できるのであれば、他の指標より早期の発見につながり、さらに優れた指標となりうることを示唆しています。

    おかげ様で、原因、対策、回復に向けて、今後の方向性がだいぶ見えてきました。