保育目標(保育方針)の大切さ

皆さんの保育園、認定こども園では保育目標(保育方針)や教育保育目標(教育保育方針)を定められているでしょうか?また、その見直しはされているでしょうか?

新設の保育園・認定こども園であれば、真剣に考えられていると思いますが、歴史の長いところだと、これまで使われてきたものが引き継がれているだけになっているのではないでしょうか?

今回は、保育目標(教育保育目標)の意義と使い方を考えてみたいと思います。

 

保育目標は誰のためにあるのか?

そもそも保育目標は誰のために設定するのでしょうか?

基本的には「子ども」「保護者」「職員」のために設定するものだと考えています。

子どものための保育目標

保育園や認定こども園で子どもたちが生活をすることは、子どもたちの最善の利益が確保されていなければなりません。「最善の利益」には様々な解釈があるのかもしれませんが、子どもたちが現在をよりよく生き、将来に渡って幸せな人生を送ることが出来るような力を身につけるための生活が確保されることが「最善の利益」と言えると考えます。

保育目標は子どもたちの「最善の利益」のために何をすべきか?を明文化したものにならなければなりません。

 

保護者のための保育目標

保育園や認定こども園に子どもを預ける保護者は、自分の子どもによりよい人生を歩んでほしいと感じ、また、自分自身もよりよい人生を歩みたいと感じていると思います。もちろん生活のために子どもの保育ができない(保育が必要となる)から保育園に預ける保護者が多数いることこも承知していますが、「どこでも良いから預かって貰えればよい」という保護者はそれほど多くないのではないか?と思っています。

待機児童問題が深刻で預かってくれるのであれば施設の質は問わないという人は少数で、預かってもらいたいと思っているが、質の悪い施設には預けたくないと考えている保護者が大多数ではないかと思っています。

そんな保護者にとって、「この施設はどんな施設なんだろうか?」を知るためにとても有効なのが「保育目標」であると考えます。

自分の子どもがこの施設で大切に育ててもらえるのだろうか?、自分の子どもはこの施設でのびのびと成長できるだろうか?と考えるときにその施設の保育目標と保護者自身の子育て観とが同じ方向に向いていれば、「この施設は大丈夫だろう」と判断されることになります。逆に保育目標と子育て観が整合していなければ、この施設は駄目だと判断されるでしょう。

 

職員のための保育目標

保育者養成校を卒業したての保育者に限らず、転職などで新たに職場を選択する人にとって、その施設で働くことが幸せか?を考えるときに、保育目標はとても重要な指標となります。そもそも自分の保育観と合わないところは就職先として選ばれないでしょうし、保育目標に納得し共感できない職場であれば、遅かれ早かれ離職することになると思います。

また、すでに勤務している職員にとっても、「こんなときどうすればよいのか?」と悩むときに保育目標が進むべき道を指し示す羅針盤となります。子どもを叱って言うことを聞かせる先輩がいたとして、本当にそのやり方を身に着けていくべきか?それとも子どもの思いを受け止めて、時には十分に甘えさせる事が必要なのではないか?というような悩みを感じたときに、保育目標に整合する方を選択することで悩みを乗り越えていくことが出来るようになります。

 

どうやって保育目標を定めるか?

子ども、保護者、職員のための保育目標となっていることがあるべき姿ですが、すべてを完璧に満たす保育目標を設定することは非常に難しいかもしれません。また、何となくイメージは持てるがそれを簡潔な言葉に置き換えることは一層難しいかもしれません。

経営者としては、その難しい問題に真正面から取り組まなければならないと考えています。「昔からこれだったから」という理由で保育目標を変えないことは、現在目の前に存在する子どもたちが最善の利益を享受できているのか、保護者が自園を選ぶときの判断基準となっているか、職員が判断に迷わないような保育目標になっているかという観点で見直さなければならないと考えています。

具体的な保育目標の定め方、見直し方の一つのアイデアを提示します。これ以外の方法もたくさんあると思いますので、何かの参考になれば幸いです。

 

目指す社会(人の集まり)とそこにいる具体的な人のイメージを言語化する

まずは経営者が考える理想の社会と理想の人物像をイメージし、それを言語化します

例えば「ルールを守り、整然と働き、真面目で勤勉な人が溢れる社会にしたい」と経営者が考えているのだとしたら、そこにいる人達は信号を必ず守り、自分に与えられた役割を全うすることを大切にしているでしょう。また、勤勉であることが価値のあることとされているため、自堕落な生活をする人はおらず、時間や手順を必ず守る人がたくさんいるでしょう。

他の例として、「自分の頭で考えて、共同体の目的のために創意工夫を凝らす人が溢れる社会にしたい」と経営者が考えているとしたら、そこにいる人達はどうすればよいかを自ら考えることが当たり前なので、前例踏襲は価値が低いと考えているかもしれません。また共同体(地域や会社、市町村、国など)が何のために存在し、どうなるべきかを考えることが当たり前になっているため、投票率が非常に高いかもしれません。また、創意工夫が重視されるため、何事にもチャレンジする人が多く、また、チャレンジした結果としての失敗は当たり前に許容される文化となっているかもしれません。

 

その社会と人を作るために、就学前に何が必要かを考える

上記のように具体的な社会とそこにいる人をイメージして言語化したら、就学前の時期に何が必要か?を考えていきます。1つ目の例からすれば、決まりを守ることの大切さをしっかりと教えることが必要になるかもしれません。もちろん、0歳児では決まりを理解できないでしょうし、1~2歳児でもまだ難しい側面があると思います。3歳児ぐらいになると段々と理解できるようになるでしょうから、しっかりと教えていくこと、決まりを守ることの大切さを身をもって経験出来るように環境構成していくことが考えられます。

2つ目の例からすると、チャレンジすることを喜ぶように関わり方を改めなければならないかもしれません。また、失敗することに怯えることがないように関わりを見直さなければならないかもしれません。

就学前は急激に成長する時期のため、どのタイミングで何をすべきかは様々です。また、個人差も大きいため、何をどこまで狙いとするのかも様々になる可能性があります。

 

自分の園で「やるぞ」と腹をくくる言葉を決める

何が必要か?が決まれば、後は「やるぞ」と腹をくくるしかありません。自分の園では上記の必要なことが出来るようにするために「○○をするんだ」と心に決めて、それを言葉にして書き出します

 

不必要な言葉を削ぎ落とす

可能であれば職員も含めて、こんな言葉で良いだろうか、経営者の思いが伝わるだろうか、理解しにくい部分はないだろうか?というように何度も見直したり書き直したりして保育目標を研ぎ澄ましていきます

ここで職員にも関わってもらっていれば、その保育目標は職員にも浸透し職員が自分の言葉で保育目標を語ることが出来るというおまけの効果も得られます。

 

終わりに

保育目標を決めたり、見直したりすることはその保育園に魂を込めるような作業です。

数日で終わるような簡単なものではなく、心のエネルギーを注ぎ込んで取り組まなければならない作業であり、非常にエネルギーを使う作業となります。ですが、これをしっかりと取り組んだ保育園では、保護者からの信頼を受けることも出来るようになりますし、離職率も徐々に下がってくると思います。

皆さんの園が良い保育目標を設定できることを期待しています。

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