孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド洋・南太平洋島しょ国で地政学的に注目される総選挙がふたつ モルディブとソロモン諸島

2024-04-24 23:37:50 | 国際情勢

(ソロモン諸島の遠隔地に投票箱を運ぶ支援をするニュージーランド軍の部隊【4月19日 ロイター】)

【インド洋のモルディブ 親中国の与党が圧勝】
世界各地で“勢力圏”維持・拡大を目指す大国間の綱引きが日々行われていますが、先週・今週はインド洋のモルディブ、南太平洋のソロモン諸島という島しょ国で注目される選挙が行われました。

いずれも小さな島国ではありますが、地政学的な重要性から、選挙結果が国際的に注目されています。

先ず、インド洋の島国、モルディブは伝統的に影響力を行使してきたインドと、近年進出が著し中国の争い。
選挙前の時点では、昨年末に就任した親中国派の大統領が駐留インド軍の撤退を求める一方で、議会は親インド派の野党が最大勢力でした。

****中国接近強める大統領就任後初の総選挙、モルディブ親中与党の過半数獲得が焦点…駐留インド軍は撤退始める****
インド洋の島嶼(とうしょ)国モルディブで21日、総選挙(一院制、定数93)の投票が行われた。中国への接近を強めるモハメド・ムイズ大統領が昨年11月に就任してから初の総選挙となる。少数与党だったムイズ氏率いる人民国民会議(PNC)が過半数を取れるかどうかが焦点だ。
 
モルディブはインド洋のシーレーン(海上交通路)の要衝で隣国インドや中国が選挙結果を注視している。
ムイズ氏は昨年秋の大統領選で「駐留する印軍の撤退」を掲げ、野党モルディブ民主党(MDP)を率いる親インドの現職を破って大統領に就任した。

1月には歴代大統領の慣例を破ってムイズ氏がインドより先に中国を訪れ、習近平シージンピン国家主席と経済面などでの連携強化を確認した。3月には、中国が無償でモルディブに軍事援助する内容の協定に両国が調印した。海洋監視などを担っていた印軍は3月に撤退を始めた。
 
改選前の最大勢力は42議席を持つMDPで、与党のPNCは16議席にとどまっていた。ムイズ氏の大統領就任後は、閣僚任命などを巡って国会が空転した。
 
モルディブでは中国の融資によるインフラ(社会基盤)整備が進む。PNCは単独過半数を獲得し、事業を加速させたい考えだ。ただ、ムイズ氏を支持してきた大統領経験者が昨年11月に新党を設立したため、PNCの思惑通りにならないとの見方がある。【4月22日 読売】
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結果は・・・親中国派の与党が3分の2超の議席を獲得する圧勝でした。
中国支援によるインフラ開発の利益に対する国民期待が大きかったと指摘されています。

****モルディブ総選挙、親中大統領率いる与党が大勝…インフラ整備で対中債務が膨張する懸念も****
インド洋の島国モルディブで21日に投開票された総選挙(一院制、定数93)で、親中国のモハメド・ムイズ大統領が率いる与党・人民国民会議(PNC)が単独で3分の2超の議席を獲得し、大勝した。複数の地元メディアが22日報じた。対中接近がさらに進みそうだ。
 
地元メディアは、少数与党だったPNCが改選前の4倍超の65議席以上を獲得すると報じた。一方、親インドの野党モルディブ民主党は11〜13議席にとどまり、改選前の3分の1を割り込む見通しだ。
 
ムイズ氏は、中国に接近した2013〜18年のアブドラ・ヤミーン政権でインフラ(社会資本)整備の担当閣僚を務め、中国の融資を受けて首都マレと空港島を結ぶ橋や、首都周辺の高層住宅の建設を主導した。今回の選挙戦でもPNCはインフラ整備推進を掲げており、外交筋は「政権が約束する開発の利益実現を国民が期待したのではないか」と分析する。
 
ただし、中国の融資でインフラ整備がさらに加速した場合、債務の膨張が懸念される。モルディブは今年2月、国際通貨基金(IMF)に「大幅な政策変更がなければ、対外債務に窮するリスクを今後も抱えるだろう」と警告を受けた。
 
インドの影響力はさらに低下しそうだ。昨年の大統領選でムイズ氏が掲げた公約に従い、海洋監視などのためにモルディブに駐留していたインド軍の撤退が進んでいる。インド洋の安全保障の観点からインドはモルディブを重視しており、主要紙タイムズ・オブ・インディアは「モルディブがさらにインドから離れる」と危機感を示した。
 
一方、中国外務省報道官は22日の記者会見で「モルディブの人々の選択を尊重し、各領域における交流や協力を拡大させる努力をする」と述べ、ムイズ政権との関係強化の方針を示した。【4月22日 読売】
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【南太平洋のソロモン諸島 与野党ともに過半数獲得できず連立協議が焦点に】
南太平洋のソロモン諸島は旧日本軍が攻防戦を戦ったガダルカナル島を中心とした島しょ国ですが、近年は台湾と断交した親中国派の首相のもとで中国と安全保障協定を結び、中国の南太平洋島しょ国への進出のモデル事例・橋頭保ともなっています。

一方、中国に対抗してこの地域での影響力維持拡大を目指すアメリカ・オーストラリアは、ソロモン諸島が中国の軍事拠点となるのではないかと警戒を強めています。

****ソロモン諸島で総選挙の投票始まる 台湾と断交し中国と関係深める“現政権継続か”が最大の焦点に****
南太平洋の島国、ソロモン諸島で17日、総選挙の投票が始まりました。台湾と断交して中国との関係を深める現政権が継続するかが最大の焦点です。

オーストラリアの北東、およそ1600キロに位置する人口70万人あまりのソロモン諸島で現地時間の朝7時、総選挙の投票が始まりました。

前回、2019年の総選挙で、4度目の首相に就任したソガバレ氏はその年に、台湾と断交して中国との国交を樹立。中国資本による開発を急ピッチで進めるなど、経済的な結びつきを強めています。

また、2022年には中国と安全保障協定を締結し、安全保障の分野でも関係を強化していて、ソロモン諸島に近いオーストラリアなど西側諸国は、中国の軍事拠点ができるのではと警戒しています。

ロイター通信によりますと、ソガバレ氏はソロモン諸島では前例のない2期連続での政権運営を目指し、親中路線を継続する姿勢を鮮明にしています。

一方の主要野党は、ソガバレ政権が過度に中国に依存していると批判し、中国との安全保障協定の破棄など関係見直しを訴えています。

南太平洋の島国では今年、ナウルが台湾と断交して中国と国交を樹立するなど、中国の影響力が強まっています。オーストラリアメディアは、今回のソロモン総選挙は「南太平洋地域の将来を左右する可能性がある」とも指摘しています。

総選挙の結果が判明するのには1週間程度かかるとみられ、新政権の発足は、来月初旬ごろになる見通しです。【4月17日 日テレNEWS】
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こちらの結果は、親中国路線の与党は過半数を失いましたが、野党も単独過半数には至らず、連立協議が注目されています。親中派のソガバレ首相は議席を維持しています。

****ソロモン 親中ソガバレ大統領派は過半数確保できず 議会選結果確定 連立協議へ****
南太平洋のソロモン諸島で24日、議会(定数50)選挙の結果が確定した。親中派のソガバレ首相が率いる与党OUR党の獲得議席は15にとどまった。単独で過半数の議席を確保した政党はなく、与野党の連立協議が始まった。

急速な中国接近を進めるソガバレ氏が続投するかが焦点で、米国や中国、オーストラリアが協議の行方を注視している。

選挙は17日に行われた。地元メディアによると、野党連合が13議席、別の野党の統一党が7議席を獲得した。このほか、少数政党や無所属候補が15人当選しており、各党が取り込みを進めている。

選挙戦でソガバレ氏は中国支援によるインフラ整備を政権の実績としてアピールしたが、中国接近に反発する一部有権者が野党支持に回ったようだ。議会選と同時に行われた地方議会選挙では親中派として知られた東部マライタ州首相、フィニ氏が落選した。

ソガバレ氏は2019年の前回選挙で4度目の首相に就任。同年、台湾と断交し中国と国交を樹立した。22年には中国軍の寄港を可能とする安全保障協定を結ぶなど、急速に中国との関係を深めた。

連立協議について米ブルームバーグ通信は「ソガバレ氏が敗れれば、中国の太平洋における戦略的野心を後退させるだろう」と指摘した。【4月24日 産経】
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【激化する南太平洋島しょ国をめぐる米豪・中国のせめぎ合い】
こうした状況を睨みつつ、南太平洋パプアニューギニアを訪れた中国の王毅外相は、南太平洋地域は大国間の対立の場となるべきではないとも発言しています。

****南太平洋地域、大国間の対立の場となるべきではない=中国外相****
南太平洋パプアニューギニアを訪れた中国の王毅外相は20日、南太平洋地域は大国間の対立の場となるべきではなく、域内の国々への支援に政治的条件はないと述べた。

パプア外相との共同記者会見で「中国の南太平洋島しょ国への関与と協力は地政学的な利己心を排し、共通の発展を達成するための相互支援・援助に尽くしている」と語った。

その上で、中国はパプアとハイレベルの交流を維持し、自由貿易協定の交渉をできるだけ早く開始する用意があるとした。

また、中国国営の新華社通信によると、王氏は全ての当事者が太平洋島しょ国ソロモン諸島の人々の選択を尊重し、内政干渉を控えるべきだと述べた。(後略)【4月22日 ロイター】
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もちろん外交的建前であり、米豪からすれば「対立を持ち込んでいるのは中国だ」という話にもなります。

****中国は「要衝」島嶼国の取り込み注力 米国とのせめぎ合い激化****
中国の習近平政権は太平洋島嶼(とうしょ)国の取り込みに力を入れている。経済力を背景に台湾と外交関係を持つ国の切り崩しを進めているほか、治安維持部門の協力をテコに影響力拡大を図っている。

南太平洋は海上交通路(シーレーン)の要衝であり、米国とのせめぎ合いも激しくなっている。

1月、ナウルが台湾との外交関係を解消して中国と国交を樹立した。同月の台湾の総統選では、中国が「台湾独立派」と敵視する民主進歩党の頼清徳副総統が当選しており、民進党政権への圧力の一環とみられる。

1月にはツバルの総選挙でナタノ首相が落選した。在任中は台湾との外交関係を続ける姿勢を堅持しており、ツバルの新政権の動向に注目が集まる。19年にはソロモン諸島とキリバスが相次いで台湾と断交し、中国と国交を結んでいる。

中国は昨年2月、太平洋島嶼国担当の特使を新設し、18年から駐フィジー大使を務めた銭波氏を任命した。太平洋地域での経済、軍事的な影響力を拡大させることにつなげる狙いがある。

今年1月にはパプアニューギニアが中国と警察協力について交渉中であることが明らかになった。ソロモンは22年に中国軍駐留を可能とする安全保障協定を締結しており、中国は他の島嶼国にも同様の協定を結ぶよう打診している。

中国にとって同地域は戦略的に重要な意味を持つ。台湾有事の際に米海軍の接近を阻止する防衛ライン「第2列島線」上に位置するためだ。ハワイやグアムの米軍基地をにらんだ戦略的拠点を確保する狙いもある。

米国にとっても戦略上の要衝であり、中国の影響拡大を阻止するための対応を進めている。米国は22年に島嶼国との第1回首脳会議を開き、安全保障面などで連携を強化する「太平洋パートナーシップ戦略」を発表。23年にソロモンとトンガに大使館を開設するなど関与を強化してきた。【2月8日 産経】
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パプアニューギニアのトカチェンコ外相は2月7日、「われわれが中国と安全保障協定を結ぶ手続きを前に進めることは絶対にない」と述べています。トカチェンコ氏は1月末、中国から安保協力の提案があったことを認めていましたが、協定締結を明確に否定した形となっています。【2月7日 時事より】

前出の王毅外相のパプアニューギニア訪問は、こうした動きを踏まえたものでもあります。

【中国が進める警察協力】
経済支援と並行して中国が進めるのが警察協力。

ソロモン諸島は22年に中国と安全保障協定、23年に警察協力協定を締結し、中国から財政支援を受けています。
バヌアツにも23年に中国が警察の専門家グループを派遣。警察物資を提供し、警察の能力向上やインフラ整備について協議しています。

****キリバスで中国警察が活動、米国務省が懸念表明****
米国務省報道官は26日、太平洋島しょ国が中国の警察から支援を受けることに懸念を示した。

ロイターは先週、太平洋島しょ国のキリバスで中国の警察官が現地の警察とともに活動していると報道。中国の警察官が地域の警備や犯罪データベースプログラムに関与している。

同報道官はこの報道について「中華人民共和国から警察隊を受け入れることが太平洋島しょ国の助けになるとは思えない。むしろ、地域の緊張や国際的な緊張をあおるリスクがある」と発言。

世界各地への警察署の開設など、中国の「国境を越えた弾圧の取り組み」を容認しないとし「中華人民共和国との安全保障協定や安保関連のサイバー協力が、太平洋島しょ国の自治に及ぼす潜在的な影響を懸念している」と述べた。

キリバスはハワイに比較的近く、太平洋で350万平方キロメートル以上の排他的経済水域(EEZ)を有するため戦略的に重要な国家と見なされており、日本の衛星追尾用のレーダーステーションもある。【2月27日 ロイター】
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****中国、トンガにサミット警備支援申し出 「勢力圏拡大には関心なし」****
中国は12日、南太平洋の島国トンガに対し、同国で8月26日に開催される太平洋諸島フォーラム首脳会議(サミット)の警備支援を申し出たと明らかにする一方、南太平洋での中国の影響力をめぐる西側諸国からの懸念を一蹴し、「勢力圏拡大に関心はない」と主張した。

人口11万人に満たないトンガは、サミット開催には支援が必要だと訴えている。だが、西側諸国は、特に安全保障を中心に南太平洋での中国の影響力拡大を懸念している。

在トンガ中国大使館はAFPの取材に対し、トンガ警察がサミットに対応できるよう、バイク20台と「車列警護訓練」の提供を申し出たと述べた。

さらに、「中国は地政学的競争や、いわゆる『勢力圏拡大』には関心がない」とし、中国はトンガの主権と独立を「全面的に尊重」していると説明。支援を希望する他の国々とも喜んで協力すると補足した。 【4月13日 AFP】
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一方フィジーでは、軍事クーデターで実権を掌握した前政権とオーストラリアやニュージーランドとの関係が悪化し、前政権は中国と接近、2011年には中国と警察協力協定を結び、中国の警官派遣を受け入れ、フィジーの警官を中国で訓練させるなどしてきました。

しかし、2022年12月の総選挙結果を受けて首相に就任したランブカ首相は中国との関係の見直しを進め、今年3月末、自国に駐在する中国人警察官を中国に送還したことを明らかにしています。

中国・王毅外相の「地政学的な利己心を排し、共通の発展を達成するための相互支援・援助に尽くしている」という建前と裏腹に、米豪との勢力争い、台湾排除をめぐって熾烈な争いが続いています。

米豪・中国といった「大国」にすれば、島しょ国のような経済的に困難な「小国」はオセロの石のようにひっくり返しやすいという話もあるのでしょう。

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中国  止まらない少子化で「女が家庭を守る」伝統に回帰する習政権 しかし、女性の意識とは真逆

2024-04-23 23:17:45 | 中国

(【23年10月1日 WEDGE】 中国が2018年あたりから急速に低下している理由の分析も必要に思われます)

【止まらない少子化 「出産に優しい文化」キャンペーン】
経済協力開発機構(OECD)によると、1人の女性が生涯に産む子どもの人数を示す「合計特殊出生率」は、中国は21年に1.16でした。少子高齢化の進む日本の同1.30も下回り、深刻さを増しています。
22年には1.09に下がったとの現地報道もあって、少子化進行が止まりません。

****中国、止まらない少子化 出生数過去最少、雇用悪化で将来不安か****
中国国家統計局は17日、2023年末の総人口が22年末比208万人減の14億967万人だったと発表した。人口減少は2年連続で、減少幅は22年(85万人)より拡大した。教育費の増加や、若者の雇用環境の悪化などを背景にした少子化に歯止めがかからず、出生数が7年連続で減少したほか、死者数も増加した。

 ◇2年連続人口減、62年ぶり
2年連続の人口減少は毛沢東が主導した食料や鉄の大増産運動「大躍進」が失敗し、大量の餓死者を出した1960〜61年以来62年ぶりとなった。

23年の出生数は、前年比54万人減の902万人で49年の建国以来過去最少を更新した。

中国政府は79年から導入してきた「一人っ子政策」を見直し、21年からは3人目までの出産を容認。地方政府や企業も、複数の子供を育てる世帯を対象に補助金の支給や休暇の義務化を打ち出すなど対策を急ぐが、少子化を食い止められていない。

出生数低下の背景にあるのが、住宅価格や教育費など結婚・子育てにかかる費用の高騰だが、それに加えて若者の雇用環境の悪化による将来不安の影響も大きいようだ。

 ◇経済回復遅れ 若者失業率21%
新型コロナウイルス禍から経済の回復が遅れる中国では、23年6月には、都市部の若者(16〜24歳)の失業率が21・3%と過去最悪を更新。統計局は同8月、「統計の改善」を理由に公表を一時停止して物議を醸した。統計局は今回、公表を再開し、12月は14・9%に改善したとしたが、「学生を含まない」と調査対象を修正した影響などがあり、若者の雇用情勢は依然厳しい。

また65歳以上は2億1676万人と全人口の15・4%(前年比0・5ポイント増)となり高齢化がさらに進行した。中国政府が23年予算で計上した社会保障費(就業支出含む)は、3兆9192億元と、5年前の1・45倍に膨れ上がっており、今後さらにその割合が増加するとみられる。少子高齢化の加速は中長期的に中国の財政や経済成長に深刻な影響をもたらしそうだ。(後略)【1月17日 毎日】
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中国政府は出産増加に向けて、今のところは「強要」ではなく奨励策に力を入れる形で、あれやこれやの対策をとってはいますが、自分の人生を自分で決めたいと考える女性の意識の意識の強まりによって、目立った成果を上げていません。

****中国の出産圧力、女性が突きつける「ノー」****
政府は「もっと産め」 14億人の人口、2100年には約5億人に落ち込む可能性が高い

中国の女性たちは、もううんざりだと思っている。中国政府はもっと出産せよと要求するが、それに対する彼女たちの反応は「ノー」だ。

政府の嫌がらせに閉口し、子育てのさまざまな犠牲を警戒する若い女性の多くは、政府や家族の希望よりも自分自身を優先しようとする。彼女たちの拒絶によって中国共産党は危機に追い込まれている。高齢化する社会を若返らせるため、共産党は何としても赤ん坊を増やさなくてはならない。(中略)

昨年10月、習近平国家主席は政府が支援する「中華全国婦女連合会(ACWF)」に対し、「女性分野のリスクを予防し、解決する」ことを促した。(中略)共産党がいくら「家庭の価値観」を説いてもほとんど効果がなく、それは中国の農村部でも同様だ

「出産に優しい文化」キャンペーンは、緊急の国家課題の様相を呈し、政府主催のお見合いイベントや軍人家庭の出産を奨励するプログラムが設けられている。

西部・西安市の住民は8月、中国のバレンタインデーにあたる「七夕節」の期間に、政府の番号から自動音声メッセージを受け取ったという。「あなたに甘美な恋と適齢期の結婚が訪れますように。中国の血統をぜひ続けましょう」(中略)

政府は一人っ子政策の時代に特徴的だった「強要」ではなく、奨励策に力を入れる。地方政府は2人目・3人目を出産したカップルに現金を支給する。東部・浙江省のある県では25歳までに結婚したカップル全員に137ドル(約2万円)相当のボーナスを出す。(中略)

また当局は一人っ子政策時の重要な手段だった人工妊娠中絶を抑制しようとしている。1991年には1400万件を超えたが、2020年には900万件弱へと3分の1以上減少した。それ以降、中国は精管切除術や卵管結紮術、中絶に関するデータ公表を中止している。(中略)

カリフォルニア大学アーバイン校のワン・フェン教授(社会学)は、中国社会には二つの相反する変化が起きていると指摘する。女性の権利への認識が高まったことと、家父長制を推進する政策の拡大だ。(中略)

中国政府はフェミニズムを外国勢力が後ろ盾となった邪悪なイデオロギーとみなす。女性の権利を唱える活動家を拘束し、そのソーシャルメディアのアカウントを削除するなど、何年にもわたって取り締まりを続けている。

それでも女性たちは人間関係や家族、仕事に関する自らの経験について、ネット上で以前より声高に発言している。彼女たちの投稿は個人的な形でフェミニズムを表しており、当局がそれを取り締まるのはより難しい。(後略)【1月16日  WSJ】
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女性が政府の要請に否定的なのは、女性にとって出産・子育てが大きな負担になるという現実が背景にあります。(このたりは日本も同様でしょうが)

****中国の養育費は世界有数の高さ、女性の負担重く シンクタンク報告****
中国のシンクタンク「育媧人口研究智庫」は、同国の養育費が1人当たり国内総生産(GDP)でみて世界有数の高さだとの報告書をまとめた。

18歳までの養育費は1人当たりGDPの約6.3倍。これに対しオーストラリアは2.08倍、フランスは2.24倍、米国は4.11倍、日本は4.26倍。

子育てにより女性の有給労働時間と賃金は減少するが、男性の生活に大きな変化はないという。

報告書は「中国の現在の社会環境は母親に優しいとは言えず、女性が子供を育てる時間的なコストと機会費用が高すぎる」と指摘。「養育費の高さ、女性が家庭と仕事を両立させる難しさといった理由から、中国人の平均的な出産意欲は世界最低に近い」としている。

中国では昨年、2年連続で人口が減少。出生数は2016年の約半分に落ち込んでいる。

報告書によると、0─4歳の子どもを育てる女性は有給労働時間が2106時間減り、6万3000元(8700ドル)の収入を失う。子どもを持つ女性は賃金が12─17%減り、余暇の時間も0─6歳の子供が1人いる女性は12.6時間、2人の場合は14時間減るという。

報告書は養育費を下げる政策を全国レベルで可能な限り早期に導入すべきだと主張。現金給付や優遇税制、保育サービスの改善、母親と父親の育児休暇平等化、外国人ベビーシッターの活用、柔軟な勤務体制、独身女性と既婚女性の同等な生殖権といった対策を挙げた。

「現在の超低出生率を改善できなければ、中国の人口は急速に減少し、高齢化が進む。そうなればイノベーションや国力全体に深刻な悪影響が出る」としている。【2月21日 ロイター】
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【23年の婚姻数が10年ぶりに増加 ただし、特殊要因かも】
そうしたなかで、23年の婚姻数が10年ぶりに増加したという中国政府を喜ばせるニュースも。

****中国の婚姻数、10年ぶり増加=ウィズコロナ移行で反転****
中国民政省は18日までに、2023年の同国の婚姻登録数が768万組だったと発表した。中国メディアによると、婚姻数は22年に過去最低を記録したが、23年は前年比12.4%増で、10年ぶりの増加となった。

中国の婚姻数は13年の約1347万組でピークを迎え、14年から減少に転じた。22年は683万5000組で、13年の約半数まで落ち込んでいた。23年は前年までの厳格な新型コロナウイルス対策が解除され、「ウィズコロナ」に移行したことが結婚増の背景にあるとみられる。【3月18日 時事】 
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ただ、これは記事にもあるように、新型コロナウイルス対策で結婚を控えていた人が解除によって婚姻に至ったということ、更には辰(たつ)年の24年に子どもを産むと縁起がいいと考える人が数字を押し上げたことなどの影響も大きいと思われ、今後も増えるのかどうかは不透明です。

婚姻・出産増加に向けて、中国の女性団体、中華全国婦女連合会が、何百人も招待するような伝統的な大規模結婚式ではなく、「質素な」結婚式を奨励する記事をネットに掲載するといった対策も。
“中国当局、質素な結婚式を奨励 婚姻と出生率引き上げへ”【3月26日 ロイター】

【中国女性と習近平政権の示す真逆のベクトル】
ここで、これまでの出産や婚姻に関する話題とは表面的には全く関係ない話、中国女性の女性器整形に関する記事をひとつ。

****中国で加熱「美容整形ブーム」の知られざる裏側 現役医師が初めて明かす「ヒミツの部位へのプチ整形」が人気急上昇のワケ****
中国でいま、空前の美容整形ブームが起きているという。世界4大会計事務所の一つである「デロイト トーマツ」の調査によれば、2025年に中国の整形市場は実に3500億元(約7兆円)を超えると予測。なかでも最近、注目を集めているのが“秘めたパーツ”に施されるプチ整形という。その実態を「日本の第一人者」と呼ばれる医師が初めて明かした。

(中略)中国の国内事情に詳しいニュースサイト「レコードチャイナ」の任書剣氏が言う。
「(中略)しかし1980年代以降に生まれた世代はアイドルブームやインターネットの普及などを通じ、“見た目も心を表す”といった考えが主流で、整形やタトゥーに対する抵抗感も薄れています」

そんな新しい価値観を体現し、近年の整形ブームを引っ張るのが、現在30〜40代の「中女(オトナの女性)」という。(中略)

一方で最近、話題を集めているのが〈天使名器〉と呼ばれる、女性器へのヒアルロン酸注入手術です」(任氏)

女性たちの「不満」の核心
中国の“中女”たちから「天使名器造成の第一人者」と呼ばれるのが、東大医学部卒で、都内・港区六本木で美容外科「ヴェアリークリニック」を経営する井上裕章医師だ。その井上氏がこう話す。

「(中略)昨年11月、初めて中国に招待され“衝撃”を受けました。年会費が数千万円もする富裕層向けの美容サロンで行われたトークセッションにゲストとして呼ばれたのですが、会場には司会役の男性のほか、30〜40代の中国人女性が20名ほど集まっていた。

驚いたのは、彼女たちの口から次々と夫婦の営みに関する不満が飛び出したことです。中国ではいまだに“男性本位”の考えが根強く、会場にいた30代の女性の一人は『夫は行為に至るまでの過程を楽しむといった行動を一切取らない。寝ている私を叩き起こして“入れて・出して”で終わり。その間、私はひたすら耐えるしかない』と話していました」(井上氏)

また別の40代女性は「中国ではこれまで女性が性を楽しむことは禁忌とされてきたので、正直、何をどう楽しんだらいいのかも分からない」と打ち明けたという。

「そこで私が女性器形成術を説明し、その効果の一つに“感度の高まり”があることを話しました。(中略)」(井上氏)

トークライブの場で手術
井上氏の説明を聞いた女性のうち、30〜50代の3人が「実際に“天使名器”の手術を受けたい」と、その場で手を上げたという。(中略)

国内で吹き荒れる“不況の嵐”もドコ吹く風。「中女」たちの欲望はむしろ加速しているという。(後略)【4月21日 デイリー新潮】
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出産や婚姻に関する話題とは全く関係ない“下半身”の、しかも一部富裕層女性の話ではありますが、中国の女性が自分自身、自分の人生について自分で決断・行動するという方向で声を上げ始めているという意味で、非常に印象的に思えました。

そのベクトルの向きは、習近平政権が進めるような共産主義的社会観からの共同富裕とか出産奨励といたもの、あるいは、家父長制的な発想を引きずる「女性は結婚、出産に・・・」といった話とは真逆の方向を指し示しているように思えます。

おそらくこうした真逆のベクトルが存在する現状(前出【WSJ】でワン・フェン教授(社会学)が“中国社会には二つの相反する変化が起きている”と指摘するもの)では、中国政府の出産奨励策は大きな効果はでないでは・・・と思った次第です。

【「中絶禁止」に向かうのか?】
「奨励」で効果が出ないなら・・・「一人っ子政策」で不妊手術などの「強制」の実績もある中国のことですので、「中絶禁止」などの「強制」が表面化するのでは・・・とも推測されます。すでに「医学的に必要ではない」中絶は制限されています。

ただ、上記のような真逆のベクトルを考えると反発もこれまでになく大きくなることが予想され、下記記事で王豊(ワン・フォン)教授(社会学)は「ほとんど想像できない」とも。

****低すぎる出生率で迷走...中国政府は「中絶禁止」に向かうのか****
<人口維持に必要な水準を大きく下回る少子化は悪名高い1人っ子政策を放棄しても止まらない>

中国は何十年もの間、人口増加を抑えるために1人っ子政策を続けていた。だが今は、ほぼ回避不可能な人口減少の趨勢(すうせい)を、中絶の制限などで逆転させようと躍起になっている。(中略)

中国政府は22年に出産・子育て支援策を導入。出生数の増加を期待しているが、人口減少に歯止めはかかっていない。この程度の施策では不十分というのが専門家の見方だ。

この人口動態の変化は、欧米とよく似ている。乳幼児死亡率の低下とともに、生まれる子供の数は減り、子育ての費用が増えるにつれて、子供を持つ余裕がなくなる人々が増える。特に1980~90年代生まれのミレニアル世代は人生で2度の深刻な景気後退を経験している。

高齢者の面倒を誰が見る?
「多くの若者が子供も持ちたがらないし、結婚もしたがらなくなった」と、ハーバード大学フェアバンク中国研究センターで中国社会を研究するスーザン・グリーンハル教授は本誌に語る。「(中国の)子育て費用は法外で、韓国に次いで世界で2番目に高い。既に育児の負担と時間的制約に悩まされている女性にとって、2人目の子供の出産は仕事と収入、自由を失うことを意味する」(中略)

「悪名高い1人っ子政策を撤廃した後も、予想外の急速な少子化が進んでいる現状を、中国政府は強く懸念している」と、王(人口と高齢化、格差の問題に詳しいカリフォルニア大学アーバイン校の王豊(ワン・フォン)教授(社会学))も指摘する。「だが、少子化はこの国の経済・社会構造に深く根差した現象であり、出生率の低下を食い止める手っ取り早い処方箋はない」

グリーンハルによれば、中国政府がこの問題に取り組み始めたのは13年。夫婦のどちらかが1人っ子の場合に限り2人目を産めるようにして、1人っ子政策を初めて微調整した。「15年には制限なしの『2人っ子政策』を発表し、16年1月1日から全てのカップルが2人の子供を持てるようにした」と言う。

「新たな国勢調査のデータで出生率の上昇が一時的なものであることが判明すると、21年8月には再び政策を変更して『全てのカップルが3人目を産める』こととし、出生率向上のために極めて多数かつ多様な支援措置を導入。同じ21年には、新しい政策のニーズに合わせて人口・出産計画法も改正された」

「女が家庭を守る」伝統に回帰
中国はまた、習近平(シー・チンピン)国家主席が言う「新時代の結婚・出産文化」を育成するため、「若い女性が家庭に戻り、フルタイムで出産・育児と年長者の世話をするよう奨励している」と、グリーンハルは言う。「(今の中国は)女性が家庭を管理し、男性が稼ぐ伝統的な国家にかなり近いものをつくろうとしている」

中国政府は既に「医学的に必要ではない」中絶を制限する政策を導入し、男女の産み分けを防ぐ目的で胎児の性別判明後の中絶も制限していると、グリーンハルは指摘する。

中国では1950年代から中絶規制が緩和された。1人っ子政策が続いていた数十年間は、地方当局が「違法な」妊娠の中絶を女性に強要していた。

中国政府は中絶禁止まで踏み込むだろうかと王に質問すると、「ほとんど想像できない」という答えが返ってきた。「今の中国は高学歴社会でもある。若者たち、特に若い女性は自分たちの権利に敏感だ。人々の意思に反するやり方は政治的な自殺行為になる」

中国が検討していない政策の1つは、移民の増加による生産年齢人口の確保だ。「日本や韓国も歴史的に移民受け入れが非常に少なく、それが全人口と生産年齢人口の減少を加速させた要因の1つになった」と、アジアの高齢化問題に詳しいニューサウスウェールズ大学シドニー・ビジネススクール(オーストラリア)のフィリップ・オキーフ教授は本誌に語った。

「たとえ中国が移民の拡大に意欲を示し、外国から中国に移住する意思と能力を持つ労働者がいたとしても、中国の労働力の絶対的な規模を考えれば、移民の受け入れによって状況を変えるのは難しいだろう」

さらにオキーフはこう言葉を続けた。「中国にとってもっと現実的な当面の目標は、合計特殊出生率が0.72の韓国や0.97のシンガポールのような近隣諸国のレベルまで落ち込まないように、現在進行中の出生率低下に歯止めをかけ、安定させることかもしれない」【4月22日 Newsweek】
******************

「今の中国は高学歴社会でもある。若者たち、特に若い女性は自分たちの権利に敏感だ。人々の意思に反するやり方は政治的な自殺行為になる」・・・・それでも共産党支配に必要とあらば強権でやる、反対は許さないというのが中国の怖いところではありますが・・・。
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アルゼンチン  「チェーンソー男」ミレイ大統領の「ショック療法」「壮大な社会実験」の現況

2024-04-22 23:00:30 | ラテンアメリカ

(アルゼンチン中銀は11日に政策金利を10%引き下げて70%とする決定を行った。昨年のミレイ政権発足以降で実質的に3度目の利下げとなる。ミレイ政権による「ショック療法」的な政策運営にも拘らずペソ相場はジリ安の展開が続いている上、生活必需品を中心とするインフレも重なり、直近3月のインフレ率は前年比+288%に達している。ただし、足下では前月比ベースのインフレ率は鈍化しており、中銀はインフレ鈍化に自身を強めるなかで一段の利下げに動いたとみられる。【4月22日 西濱徹氏 第一生命経済研究所】)

【レースから零れ落ちてしまえば、住むところの保証もなく、生きていくことも難しくなる】
下記は3月13日ブログ“アルゼンチン 「ショック療法」を発動する自由主義者・ミレイ大統領 持続可能性には疑問も”の冒頭部です。

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【「ショック療法」省庁廃止・補助金削減などで財政収支は黒字に 一方で物価上昇率276%】
経済混迷が続く南米アルゼンチンはかつての富裕国から転落した唯一の国と言われている国。(日本がこれに続くのでは・・・とも言われていますが) そのアルゼンチンでは昨年11月に「政界のアウトサイダー」を自称する右派(極右とも)のハビエル・ミレイ氏(53)が大統領選挙で勝利し、12月10日に新たな大統領に就任しました。

ミレイ氏は自由主義を信奉する経済学者出身で、中央銀行の廃止や経済のドル化などの過激な主張も展開していました。また、選挙戦ではチェーンソーを振り回して公的支出をぶった切ると叫ぶようなパフォーマンスも。

大統領就任後、さすがに中央銀行の廃止や経済のドル化などの過激な政策は手をつけていませんが、中央省庁削減やエネルギー・公共交通の補助金削減による財政健全化、通貨ペソの50%切り下げなど「ショック療法」を実施しています。(後略)【3月13日ブログ】
*****************

個人的に「チェーンソー男」ミレイ大統領の自由主義的改革「ショック療法」(「壮大な社会実験」とも)を国民が受け入れるのかどうか、どこまで耐えられるのか興味があり、その後の状況を・・・といっても、あまり情報は多くは目にしませんが。
その中で、下記は西原なつき氏のブログ記事。長いので今日はこの記事の紹介で終わりそうです。

****ミレイ政権発足から4カ月。変化していくアルゼンチン経済、「痛みを伴う改革」に国民の反応は?****
昨年末、アルゼンチンで自由主義ハビエル・ミレイ政権が発足して120日が経ちました。
トランプ元大統領との面会やダボス会議での発言に世界から注目を浴びるなど、何かとその動向に関心が集まるミレイ氏ですが、国内の影響や反応はどうなのでしょうか。

これまでのアルゼンチンのポピュリズムから大きく方向転換して舵を切るミレイ新政権。
「痛みを伴う改革」と政府も発表しており、彼のプランの最初のステップは「国民の消費を減少させてインフレ率を抑え、マクロ経済を整える」というものです。

120日が経った今、実際インフレ率は抑えれているのか?というと、今は月のインフレ率が10%程度と前政権の昨年末の数字とほぼ同じですが、この数カ月のうちに減少に向かうだろうと言われています。(数字だけ見るとこの3カ月で減少していると報道されていますが、就任初月に25.5%と大きくインフレ率が上昇したところから比較しての減少なので、年比較すると変わりません。)

具体的な消費を抑えるための政府のやり方としては、インフレ率に伴う給与や予算の値上げを実行しない・または値上げしてもインフレ率に伴わない額面→物の値段は上昇し給与は減少する、ということになるので、単純に家計は厳しくなり、消費活動が出来なくなる・節約モードになる、いう仕組みです。

これは地方予算、国立の大学や研究所への予算にも同じことが起きています。
現実にインフレ率が落ち着くだろうと言われているのは今年の6月以降であると言われています。

次の段階としては例えば銀行がクレジットを発行することができるようになるだろうと言われており、例えば家や車をローンで買えるようになるなど、国民の消費の仕方も変わってくる、というものです。
(今現在は1年後のインフレ率が想像できない事などから、一部の富裕層以外はローンを組むことができません。大きな買い物をしたい場合、現金一括払いが基本です。)

それによる国民の生活の変化
それに伴って何が起きているかと言うと、従業員の給与値上げをしないわけにはいかない企業、インフレに伴い予算は足りない→従業員を解雇していかざるを得ない、というケースも増えています。

リストラ問題で深刻なのは、政府職員。3月末のイースター休暇の直前に「解雇通知や契約更新無しの通知が7万人に届く」とミレイ大統領からの公式会見がありました。
これは、ミレイ大統領の当選前のパフォーマンスでも話題になっていた「チェーンソー」プランで、とにかく不要なものを切り捨てていく、というものを有言実行する形です。

この発表では、ミレイ大統領は契約未更新という形で職員の切り捨てを実施できることを「とても光栄に思っている」と発言しており、お祝いモードでメディアに対応していたことがとても印象的で、多くの人々の反感を買い、大規模ストライキにも繋がりました。

ここにはアルゼンチンの根深い問題が潜んでいて、政府職員の中には「実際には働いていないけれど登録されており給与だけ受け取っている」人が多くおり、その人たちを淘汰していくという目的。

ただ、解雇されている人たちの中には正しく働いている人も含まれており、現段階、この4カ月で解雇通知があった政府職員の人数は24000人。7万人まであと46000人・・・次にチェーンソーの餌食になるのはだ~れだ?というホラー映画のような状況です。

またそのチェーンソーでカットされているのがあらゆる領域の国からの補助金です。
ガソリン代、ブエノスアイレス市内の公共交通料金、光熱費、地方への予算、また国内全土の公共工事には国が一銭も出さない、などが挙げられます。昨年から工事が始まっていた新しい公共病院や国の原子炉の工事は途中で中止となり、現在放置されている状態です。

国民全体に共通して及んでいるテーマは、光熱費の上昇。今月はガス、電気、水道代と通してこれまでの約3~5倍の値段になりました。

そして現在リアルタイムで問題になっているのは教育部門です。国立大学への国からの予算は2023年と同額と発表があり、存続自体が難しくなっています。(1年のインフレ率は287%)

教授たちの給与問題、また大学の電気代を払うことすらできなくなっており、学生たちが勉強や研究を続けていくことが難しく、今週は大規模な大学生・大学関係者たちによるデモが行われます。

またアルゼンチンは実はバイオテクノロジー・ナノテクノロジーが進んでいて、380の企業・スタートアップが存在し、その分野では世界でもトップ10に入るレベルを持っています。

その発展を担っているのは国立大学(UBA)、そして国立科学技術研究所(CONICET)で、アルゼンチンのテクノロジーに関わる企業全体の88%がこの2つの機関と大きく関わっています。

しかし、この研究所も国立大学と同様の扱いを受けており、研究者たちの解雇やこれまで出ていた予算の大幅カットにより、こちらも存続の危機に至っています。(中略)

自由主義が与える影響、「値付けの自由」
大統領就任直後に施行した緊急大統領令により、366項目の法律が改変されました。
その中に含まれていた「値付けの自由」を目指す法律改変により、家賃と医療保険料が大幅に上昇していることも問題になっています。

家賃に関しては、今まで家主と借主の間にあった規律がなくなり、契約内容も家主が自由に決めることが出来るようになりました。これまで家賃は法律的には国内通貨のみ可であったのが、米ドルでもなんでもOKになり、インフレも相まって家賃相場はつり上がっています。

医療保険料もこの4カ月で大きく値上がりし、月々のインフレ率を越えています。(これまでの保険代の予算としては平均月給の18%程度であったものが、現在は30%を占めています。)払えなくなって解約した人も多く、これは中流階級層へのダメージが大きい、と問題視した政府から主要な保険会社への値下げ交渉があったものの、「ミレイ大統領が出した新しい法律の効力はまだ続いている」ということで交渉は成立せず、現在はその政府が改めて法的措置を取っているところです。

また公立病院ではがん患者たちへの抗がん剤治療が中断されるなどしています。予算がカットされこれまでの治療が同じようには提供されないので、プラスのお金を払える人のみが治療対象、という状況です。

また公立病院でも緊急手術から優先して行っているので、緊急度の低い手術の大幅な延期などをはじめ、こちらも問題になっています。

その様相はまさに国民の耐久レース、いつまでの辛抱になるのかは誰もわかりません。

現在のアルゼンチンの最低賃金は約200ドル。市内に家を借りようとするならワンルームでも200ドル程度が相場、外食すれば出ていくお金はほとんど日本と変わらない感覚です。

給料は目減りしていく中、物の値段は上がっていく。それでもせめて職をキープできて、貯金があり、病気をせずにこれまでの生活を続けられたら勝ち、そのレースから零れ落ちてしまえば、住むところの保証もなく、生きていくことも難しくなります。

このやり方を持って、IMFの提示する課題は3月時点で達成したことになります。
ミレイ大統領の思い描く国には実現する可能性はありますが、しかしそこにたどり着くまでにどうなってしまうのか様々な懸念や不安が社会には広がっています。中流階級層以下はもちろん、富裕層の中にも疑念を抱く人も増えているような印象です。

彼の言う「自由主義」、思い描く社会というのは、貧困層は見捨てられる社会ですが、そんな現在のアルゼンチンの貧困率は52%。この4カ月で毎月100万人ペースで貧困層が増えている状況です。

中東情勢への関わり
2月のイスラエル訪問時、ヘルツォグ大統領との会談にて在イスラエル・アルゼンチン大使館をエルサレムに移す方向で進めていく、という話し合いがあったことは国内でも大きく話題になりました。国際的な超右派と足並みを揃える意向で、現在アルゼンチンはイスラエル側についています。

また現在NATO加盟の申請を始めたところで、デンマークから6億ドルかけて古い戦闘機24機も購入したと報道がありました。

ミレイ大統領は以前から熱狂的にユダヤ教・オーソドックス(超正統派)に大きな憧れを抱いていて、改宗はしていないものの、在アルゼンチンのオーソドックスの会合やイスラエルでの会合にもしっかりと帽子を被って参加しています。

その他の気になる動きとしては、イーロン・マスク氏との会合にも注目が集まりました。

アルゼンチンは世界の主要リチウム生産国のひとつでもあり、現時点では中国企業の投資が一番多い状況です。
ミレイ大統領による「誰でもアルゼンチンの国土を好きなだけ自由に買えるようにする」法律改正も緊急大統領令の中に含まれており、その効力は現在も続いているはずです。

経済的に不安定な国、インフレでの値上げで生活が苦しくなることはこれまでにも何度もありましたが、ここまでの経験は私も10年生活していて初めてなので戸惑っています。

これまでは、どんなに経済危機だと騒いでもそれでも人々はなんとか楽しみを見つけながらそれなりに暮らせていました。それは国が借金まみれになりながらもこれまでのポピュリズム政権が作り出していたもので、汚職や沢山の問題を孕んでいたのも確かです。現在は国民がその代償を払っている、と言って間違いはないでしょう。

うまく上流・中流階級層、90年代後半からの経済危機や軍事政権時代を経験していない若者の憎悪を引き出して、票につなげたのがミレイ政権。現在もそのスタンスは変わらず、法律改変案など説明して国民を説得するのではなく、通して「前政権の悪口を言い続ける」。国民の反感を引き出し、支持率を獲得している、という印象です。

毎日ニュースをつけると新しい問題が勃発しているアルゼンチン。
先週末大きく話題になったのは、国会にて「上院議員の給与を3倍に値上げする案」が上院議員たちの挙手により可決する、というニュース。毎日飽きません。

どんな未来が待っているのか、一般庶民にも、エコノミストたちにとっても、誰にも予測することができません。【4月22日 西原なつき氏 Newsweek】
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「上院議員の給与を3倍に値上げする案」は反大統領派が多数の議会主導で、ミレイ大統領は反対しています。

自由主義的改革・・・弱肉強食のレースに残れる者はそれなりの成果を得ますが、そこからこぼれ落ちる者は“住むところの保証もなく、生きていくことも難しくなります。” そのことでこれまで非効率と無駄が蔓延していた経済は活性化するという「ショック療法」  戦後、日本を含めた多くの先進国が選択した「福祉国家」的な流れとは逆行します。

こういう厳しい改革にどこまで国民、特にラテン気質といわれるような国民性の国民が耐えられるのか興味深いところですが、就任100日時点では国民の支持率は悪くないようです。まあ、これからでしょうか。

****ミレイ大統領=就任100日で支持率50%超も=軍政被害者数千人発言で波紋****
24日付オ・グローボによると、就任から100日が経過したアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は、厳しい支出削減策を実施しているにもかかわらず、国民からの支持率が50%を超えている。同氏主導の財政政策は、12年ぶりとなる2カ月連続の財政黒字達成など、一定の成果を上げている。

一方、同国が陥った不況(景気後退)は中間層を加速度的に貧困化させているという。

政治・経済のアナリストらは、現在の大きな疑問は、国民が大統領の手腕に疑問を挟まずに政府が行っている厳しい調整策をいつまで受け入れられるか、また、どの時点で大統領への支持を止めるかで、同国は今後も困難な時期が続くと指摘する。【3月27日 ブラジル日報】
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“しかし、インフレの高止まりは続いており、また、景気後退の兆候も見られることから、このような状況は、持続可能性があるとはいえず、国民がいつまで我慢することができるかが問題である。ミレイに対する国民の期待は依然として高いが、個々の改革措置については必ずしも支持されていないものも多いと言われる。”【4月4日 WEDGE】

自由主義的改革は経済活動だけでなく、上記記事にもあるように教育にも及んでいます。
下記記事は私立学費補助に関するものですが、前提として、現行の義務教育と無償教育廃止があります。(ミレイ氏は選挙戦終盤で無償教育の廃止を否定してはいますが)

****ミレイ政権、低中所得層向け私立学費補助の一時給付金制度を導入****
アルゼンチン人的資源省は3月21日、人的資源省決議61/2024号を公布し、「教育バウチャー制度」と呼ばれる、国の助成を受けている私立の幼稚園、学校に通う子供を持つ低中所得層の学費を補助する一時的な給付金制度を導入した。

この制度は、国の助成を受けている私立の幼稚園や学校(初等、中等教育段階)に通う子供を持つ低中所得層の世帯を対象に、現金を給付するものだ。(中略)

人的資源省は、現在の厳しい経済情勢を考慮すると、国民が子供の教育を維持するには支援が必要と主張している。(中略)

一方で、ミレイ政権に否定的な報道をみると、今回の教育バウチャー制度を2つの理由で批判している。第1に給付金の金額が不十分、第2に無償の公立学校の運営資金が削減される中、この制度が私立学校を利するという批判だ。

教育バウチャー制度は、ハビエル・ミレイ大統領が2023年の選挙期間中に導入を主張していたものだ。ミレイ大統領は選挙期間中、現行の義務教育と無償教育を廃止し、学校ではなく子供に助成することで学校教育に市場原理を導入し、学校間の競争による教育の質向上を主張していた。

ところが、選挙終盤の公開討論会で、ミレイ大統領は無償教育の廃止を否定した。それにもかかわらず、教育バウチャー制度が無償教育の廃止を念頭に置いたものだとして批判している。【4月17日 JETRO】
******************

学校教育に市場原理を導入・・・・ここでもレースからこぼれ落ちる者はどうなるのか?という問題があります。

【中国と距離を置き、アメリカ寄りに 特にトランプ復権に期待】
外交面では、コロンビアのペトロ大統領を「テロリストの人殺し」と呼んで外交問題になりましたが、両国は3月31日に発表した共同声明で、関係修復に動いていることを明らかにしています。(ラテン諸国同士のののしりあいは珍しいことではありません)

西原氏記事にある“(ミレイ氏が)熱狂的にユダヤ教・オーソドックス(超正統派)に大きな憧れを抱いている”というのは初耳。それならイスラエル支持も納得。

“現時点では中国企業の投資が一番多い状況”ともありますが、ミレイ氏は中国から離れてアメリカ寄りに路線を変更しています。特に個人的に馬が合うトランプ氏復権となれば加速するでしょう。

****アメリカ寄りになったミレイ政権に中国が報復を開始****
中国はアルゼンチンでのダム建設から撤退
アルゼンチンで2つのダム建設を施工することになっていた中国企業Gezhouba社はミレイ新政権からの工事継続のサインを待ちきれず撤退を決めた。1800人の従業員は解雇。中国から派遣されていたエンジニアも本国に帰国させた。(中略)

ミレイ大統領支持のトランプ氏大統領復帰が怖い中国
当初、中国政府はこのダム建設の再開を期待していた。ところが、米国でトランプ氏が大統領に復帰する可能性が次第に高まっている。

ミレイ大統領を強く支持しているトランプ氏が大統領に選出されれば、アルゼンチンは完全に米国寄りになると中国は判断したようだ。この判断も中国がこの工事の継続を断念する理由となったようだ。

中国はスワップ取引も撤退か?
この決定に続いて、中国はアルゼンチンとのスワップ取引から撤退する可能性も生まれている。仮にそうなると、アルゼンチンは同取引から発生する180億ドルに加え、総額300億ドルの負債が新たに加わることになる。(3月13日付「ラ・ポリティカ・オンライン」から引用)。

更に、ミレイ大統領にとって不安材料となるのは、中国がアルゼンチンからの輸入を減らす可能性も生まれて来る。(中略)実際、中国は大豆と牛肉の輸入についてはそのウエイトを既にブラジルにシフトしている。皮肉なのは、アルゼンチンの最大の貿易取引国であるブラジルがアルゼンチンの中国向け品目の市場を奪っていることになる。【4月5日 白石和幸氏 アゴラ】
**********************

興味深いところでは、ロシアによるウクライナ侵略後、アルゼンチンに移住するロシア人が急増しているとのこと。
“ロシアから1万キロ以上離れたアルゼンチンへ、ビザなし渡航で移住急増…戦争忌避や動員逃れ”【4月20日 読売】

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ネパール  日本で急増する「インネパ」の表と裏 ネパールでの日本語学習ブーム

2024-04-21 22:20:26 | 日本の外国人労働者

(インネパ【2022年7月6日 YAHOO!ニュース】)

【ネパール人 日本における外国人労働者数で第4位 「飲食サービス業」に特化が特徴】
****日本の外国人労働者は過去最多の200万人、ベトナム人が50万人超え****
厚生労働省の発表(1月26日)によると、日本における外国人労働者数(2023年10月末時点)は204万8,675人となり、過去最高を更新した。前年より22万5,950人(12.4%)増加し、伸び率も前年の5.5%から6.9ポイント上昇した。外国人を雇用する事業所数は31万8,775所(前年比6.7%増)で、同様に過去最高を更新した。

外国人労働者数を国籍別にみると、ベトナムが最も多く51万8,364人(前年比12.1%増)で、全体の4分の1を占めた。次いで、中国39万7,918人(3.1%増)、フィリピン22万6,846人(10.1%増)となった。ベトナムは2020年に中国を上回って以来、首位が続いている。技能実習生が20万9,305人と、圧倒的に多いのが特徴だ。

前年からの増加率が大きかったのは、インドネシア(12万1,507人)で56.0%増加した。次いで、ミャンマー(7万1,188人)が49.9%増加し、ネパール(14万5,587人)が23.2%増加した。インドネシアは技能実習生を中心に、建設業での伸びが顕著だった。

在留資格別にみると、前年からの増加率が大きかったのは、「専門的・技術的分野の在留資格」(59万5,904人)で24.2%増。次いで「技能実習」(41万2,501人)が20.2%増加した。一方、「特定活動」(7万1,676人)は2.3%減少した。(後略)【1月31日 JETRO】
********************

上記の数字を若干補足すると、国籍別でベトナム、中国、フィリピンに次ぐのが増加率3位のネパール14万5,587人。 在留資格別では、「資格外活動のうち留学」が27万人強。「資格外活動のうち留学」の34.7%が「宿泊業・飲食サービス業」となっています。【厚生労働省資料より】

全体的に増加している印象が大きいのがネパール人。

****急増ネパール人、留学生は2位に浮上 人手不足救うか?****
日本に在留するネパール人が急増している。2023年6月末時点で約15万6000人。留学生に限ると4万5000人を超え、国籍別でベトナム人を上回り中国人に次ぐ2位に浮上した。日本で就職する人も増え、介護やホテルなどの現場で人手不足を和らげる役割を担う。(後略)【1月11日 日経】
****************

増加率では、上記のようにインドネシア・ミャンマーの方が大きいのですが、ネパールの特徴は「宿泊業・飲食サービス業」が29.7%と際立って高いことです。他の国の場合、同割合はベトナムは10.4%、中国が14.0%。

建設業や製造業と異なり、人目につきやすい飲食業で増加していることで、ネパール人「急増」のイメージが強まっていると思われます。

【「インネパ」・・・コック招聘の手数料稼ぎビジネス化している面も 開店と呼び寄せの連鎖が拡大】
ネパール人の従事する飲食業・・・「インネパ」と称される「ネパール人経営のインドカレー店」「インド・ネパール料理店」です。

****ネパール人経営のインド料理店「インネパ店」、なぜ激増? 背景にある2つの歪曲(わいきょく)****
店舗数は有名チェーン店よりも多い
今や都市部では、1駅に2~3軒あることも普通。そう、「インネパ店」の話である。

インネパ店とは、「インド・ネパール料理店」の略で、ネパール人が手がけるインド料理店を指す。最近ではよく知られることだが、巷にある外国人経営のカジュアルなインド料理店は、実は多くがネパール人経営だったりする。

インネパ店には、共通する“テンプレート”のようなものがある。まずは、ナンとインドカレー、タンドリーチキンなどをメニューの中心に据えていること。中でも多くの店がウリにするのが、こってりまろやかなバターチキンカレーに、おかわり自由なナン。そして、チーズたっぷりのチーズナンだ。ちなみにこうした料理は北インド料理がルーツで、ネパール料理ではない

またインド料理店をうたいながら、よく見るとメニューにネパール餃子のモモがあったり、店の内外にネパール国旗やヒマラヤ山脈の写真を掲げていたりするのも、多くのインネパ店に共通する。

そんなインネパ店が近年、激増している。’22年現在、全国に少なくとも2000軒のインネパ店があり、軒数はここ15年ほどで5倍前後になっていると見られる。

街によくあるチェーン店の国内店舗数を見てみると、たとえば松屋は977店、ドトールは1069店、CoCo壱番屋は1238店(すべて’22年1月時点/日本ソフト販売による集計)だ。インネパ店の多くが個人経営で2000軒の一大チェーンというわけではないものの、今やそうした有名チェーンの店舗数をはるかに上回っていることがわかる。(後略)【2022年7月6日田嶋章博氏 YAHOO!ニュース】
******************

この「インネパ」拡大の背景にあると上記記事も指摘しているのが、仲介手数料をとるコックの呼び寄せ自体がビジネス化し、開店と呼び寄せの連鎖がどんどん広がっていく・・・という現象。

****「カレー屋は貧困を固定化する装置です」借金まみれで日本にやってくるネパール人労働者が搾取から抜け出せないワケ****
(中略)
家や土地を売り、足りなければ借金してまでカネを作るネパール人たち
コックが独立開業してオーナーになり、母国から新しくコックを呼び、そのコックも独立し……という暖簾分け的なシステムのもとに「インネパ」が広がっていった経緯を見てきたが、ここまで爆発的に増殖した理由はほかにもある。そのひとつが「コックのブローカー化」だ。

「外国人が会社をつくるには500万円の出資が必要じゃないですか。ネパール人にはすごく大きなお金です。家族や親戚や銀行から借りる人もいますが、中には誰かに出させる人もいるんです」
こう語るのは、自らも都内でカレー屋を営むネパール人Rさん。この500万円を何人かのネパール人に分割して支払ってもらうのだという。

「たとえば、新しい店で3人のコックを雇うとします。この人たちはネパールでスカウトしてつれてくるんです。日本で働ける、稼げると言って」 そしてビザ代や渡航費、手数料などの名目で代金を請求する。仮に1人アタマ150万円を出してもらえば計450万円で、オーナー本人の出費は50万円で済む。日本行きのチャンスと考えた人たちは、借金をしたり家や土地を売ったりしてこのお金をつくってくる……そのあたりまではまだ、健全だったかもしれない。

やがて、カレー屋ではなく人を呼ぶほうが本業になってしまう経営者も現れた。多店舗展開し、そこで働くコックをたくさん集めてきて、もはや会社設立の500万円とは関係なく、1人100万円、200万円といった代金を徴収する。(中略)

それでも海外で稼げると思った人たちは、どうにかお金を算段して志願する。彼らを呼べば呼ぶほど儲かるわけだから、誰だっていいとばかりに調理経験のない人もコックに仕立て上げた。

本来、調理の分野で「技能」の在留資格を取得するには10年以上の実務経験が必要となる。しかし一部のカレー屋オーナーは日本の入管に提出する在職証明などの書類を偽造し、新しくやってくるコックのビザを取得していたのだ。カレーとナンのつくり方なんか自分が教えればそれでOKという経営者たちが、次から次へと母国から人を呼んだ。

「日本に来て初めてナンを食べたよ」というネパール人
だから現場にはスパイスのこともよく知らなければ玉ねぎの皮も剝けないコックがあふれてしまった。「インネパ」の中にはぜんぜんおいしくない店もちらほらあるのはそのあたりに理由がある。(中略)「これはもうビザ屋であって、カレー屋ではありません」(

工場で違法就労するネパール人
また、ネパールから呼んだ人間を自分の店で働かせるならまだしも、工場に「派遣」するケースもあったと聞く。コックの分野で「技能」の在留資格を取っているなら、工場で働くのは完全に違法である。

ちなみに経営者は、自分のツテでコック志願者を集めたり、ネパール側のブローカーと協力するなどしているそうだが、親戚筋であってもお金を要求することがあるようだ。そのあたりの額は人間関係にも縁戚関係にもよるという。

「でもふしぎなものでね。近い親族だから、あの人には世話になったからって、お金を取らずに日本に呼んでるいい人もいるんだけど、私が見る限りそういう人たちはみんな成功してない。元手の軍資金がないから。借金なしで日本に来たほうも、ハングリー精神がないからなのか、あまりがんばらない。だからうまくいかない」
なにが正しいのかわからなくなってくる話なのだ。

さらに、コックたちへの搾取も目立つようになった。約束したよりもはるかに安い給料で働かせるのだ。月に8万円、9万円程度しか払わないこともあるという。経営者の子供の送り迎えとか、家事までやらされているコックもいるそうだ。
「抗議をしても、じゃあ誰がコックのビザを取ってあげたの、と。やめてもいいけど、日本のことも日本語もよくわからない、料理もロクにできないのに、借金も背負っていて行くところあるの、と」

ネパール人がネパール人を搾取する構図
こうして同国人の食い物にされているコックもいるのだとRさんは訴える。同じような境遇のコックが安いアパートで同居しているし、勤め先はレストランだから食べるものだけはあって月10万円以下の給料でもなんとか生きてはいけるが、きわめて苦しい。故郷での借金の利息もある。

それでも平均月収1万7809ネパールルピー(約1万7100円、国際労働財団による。2019年)の祖国にいるよりは、と耐え忍ぶ。

そんなコックたちも、いくらか日本の生活に慣れてくると故郷から家族を呼ぶ。妻や子供たちは「家族滞在」の在留資格を取得して日本で暮らすことになる。そしてこの「家族滞在」の場合、週に28時間までの就労が許可される。月にするとだいたい100時間、時給1000円なら10万円を稼ぐことができる。コックの夫の給料と合わせればどうにかやっていけるし、切り詰めれば故郷に送金もできる……こんな家庭が、実は日本にかなり存在する。(中略)

また社会保険に加入していない店、コックが非常に多いことも問題となっている。厚生年金や国民年金は、老後もこの国に住んでいるかどうかわからないからと加入しない。

さすがに国民健康保険は支払っている人が多いが、個々で手続きをしている。いわば個人事業主のような扱いなのだ。中には国民健康保険の存在すら知らず、あるいは知っていても加入しない人もいて、万が一のケガや病気のときに困るというのはよくある話だ。

ネパール人の貧困を固定する装置になったカレー屋
それでも耐え忍んで働き続け、数年たったある日、こんなことを通告されるコックもいるのだという。「ビザが更新できなくなったからクビ。とつぜん言われて、あとは自分で店を探せって」

代わりに経営者は違う人間をネパールからコックとして呼ぶ。もちろんお金を取って、だ。こうして定期的に人材を回転させることで、一定のお金が供給される仕組みをつくり上げたのだ。だがコックにしてはたまったもんじゃない。

「カレー屋はネパールの貧困を固定化する装置になっているんですよ」

それでも、なのだ。
こんなリスクや理不尽を負ってでも、ネパールを出たい。どんな形でもなんの仕事でもいいから、外国で稼ぎたい。そんな人たちがたくさんいる。一般的に貧しいとされる国に生まれ育ち、なおかつグローバル化とデジタル社会によって他国の生活を知ってしまった立場でないとわからない「お金」への強い渇望感が、彼らを突き動かしている。

「海外に出ないと豊かになれない」ネパール人の切実な思い
(中略)とにかく海外に出ないと、豊かになれない。ネパール人たちのそんな切実な思いが、日本のカレー屋大繁殖につながっていった。

だからブローカーの存在も一概に否定はできない。豊かさへのきっかけを与えてくれる存在でもあるからだ。はじめはコックとして搾取されながらもだんだんと要領を覚え日本になじみ、独立して成功する人も確かにいるのだ。【4月21日 文春オンライン】
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「インネパ」は決してネガティブな面だけではありません。
前出田嶋氏は・・・

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一方でインネパ店の存在は、ポジティブな面も決して少なくない。

「ネパール人による日本での就労が、経済的にも文化的にも、本国に寄与している部分は小さくないでしょう。来日してビジネスで成功するネパール人も多くいます」(著書『日本のインド・ネパール料理店』で、日本全国のインネパ店を巡ってその成り立ちをつづったインド食器販売店「アジアハンター」代表 小林氏)

「日本には、コックに敬意を払うすばらしい文化が根づいています。だから私は、ネパール人が日本でコックになること自体は、反対ではありません。ネパール人が来日後に困らないよう、ビザの審査時にせめて最低限の日本語能力と健康状態、そして受け入れ先の雇用環境をチェックしてもらいたいんです」(在日ネパール人コックの実情をつづった『厨房で見る夢』の著書があるネパール人臨床心理士ビゼイ氏)【前出“ネパール人経営のインド料理店「インネパ店」、なぜ激増? 背景にある2つの歪曲(わいきょく)”】
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【ネパールでは日本語学習ブーム】
かくして、ネパールでは・・・

****日本語学校が急増! ネパールの若者の間で「日本語」が流行る微妙な事情****
現在、ネパールでは日本語学習が大流行しています。街中では「STUDY IN JAPAN 」という看板があちこちに掲げられ、「はじめまして」と挨拶する若者によく出会うようになりました。この背景にあるのは「40万人の外国人留学生受け入れ」を掲げた日本の政策。海外に働き先を求めるネパールの若者にとって、この方針は渡りに船といえるのです。

なぜ日本へ?
ネパール人の海外出稼ぎ者の数は累計で約600万人。人口の5分の1が外国で出稼ぎをしていることになります。最大の出稼ぎ先といわれるインドは、ネパールとの国境の往来が自由であることから、この統計には含まれていません。大勢の人たちはアルバイトや卒業後の就業を目的に学生として海外に渡ります。

実際は600万人を優に超えると思われる、働く世代の国外流出が止まらない大きな原因は、ネパール国内で経済成長を後押しする産業が育っていないからです。

国内に若者向けの成長産業が少ないとはいえ、多くの人が出稼ぎ先として選んできた中東やマレーシアは、安全面や職場環境面で不安が払しょくできません。そこで、安定した出稼ぎ先や留学先を求めるネパール人が選んだ国の一つが日本。東日本大震災やコロナ禍の影響で日本への留学生が激減していたため、日本政府が呼び込みに力を入れたことが奏功したといえます。

就学中もアルバイトができ、ビザ手続きが比較的簡単といった日本の特徴は、ネパール人のニーズにぴたりと一致。将来は家族を呼び寄せられる可能性があることや、留学初期費用が150〜200万円程度と欧米に比べて安いことも大きな魅力です。取得に時間はかかりますが、30万円程度で済む特定技能ビザも社会人に人気があります。

日本語をちゃんと勉強しないと…
多くの若者が日本への留学や就職を目指すようになり、留学を仲介する日本語学校は大人気。数年前までは日本語学校が1校もなかった田舎でも、今では数百メートル以内に5〜6校がひしめきあっています。

筆者がそのうちの1校を訪問したところ、特定技能ビザにも挑戦可能な学校ということもあり、経営者でもある先生が1人で5クラス、計100人ほどの生徒に教えていました。現地の日本語学校の先生たちはほとんどが日本からの帰国者です。

日本語学校に行かずに日本語を学ぶことも可能ですが、学校には日本の学校や派遣会社とのコネクションがあります。学習目的だけでなく、日本に行く橋渡しをしてもらうために、多くの人は日本語学校に通うことを選びます。

ある日本語学校の事務員によると、生徒の望みはとにかく手っ取り早く日本に行くことで、学校の評判を上げたい先生も多くの生徒を送り出したいと思っているそうです。そのため、日本語を学び始めて数週間でも日本語学校の面接試験に参加させ、なかにはこっそり答えを教えている先生もいるとか。

結果的に、日本のことをよく知らず日本語の勉強も不十分なままで来日してしまう若者が増加。日本の文化や習慣、人間関係に戸惑ったり、思うように稼げず多額の借金をしたり、精神的に追い詰められたり、悪質な仲介業者や学校に搾取されたりという人たちが増えていくことになります。

ネパールの若者たちが日本に熱い思いを抱いてくれるのは、とてもうれしいことです。それが失望で終わらず、「憧れの国日本」が本当に住みよい場所となるために、政府だけでなく迎える私たちも真剣に考えねばならない時代が来ているようです。【2023年12月19日 GetNavi web】
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ロシア  “ウクライナでの失敗”で進む経済的中国依存 権益でも、人でも極東で強まる中国の存在

2024-04-20 22:11:31 | ロシア

(2018年9月11日、ウラジオストクで行われた「東方経済フォーラム」に参加しているロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席が、会談後にエプロン姿となり、料理の腕前を披露し合う場面があった。【2018年9月12日 ロイター】
当時から5年半、両者の力関係は大きく変化しています。)

【戦術的には優勢なロシアだが、戦略的にはウクライナ侵攻は大きな失敗】
パレスチナ、イラン・イスラエル関係の影に隠れた形になっていますが、ウクライナでは物量にものを言わせたロシアの攻勢によってウクライナは苦境に立たされています。
“「ウクライナ年内敗北も」 米CIA長官、支援なければ”【4月19日 共同】

ウクライナにとって死活的に重要なのがアメリカの支援。そのアメリカの支援は米国内の与野党対立によって停滞していましたが、ここにきてようやく動き始めたようです。
“米下院、ウクライナ・イスラエル支援を別個に審議へ”【4月16日 ロイター】

海の向こうのウクライナより国内対策を優先すべきという共和党保守強硬派は依然としてウクライナ支援に反対していますが、共同歩調を取ってきたトランプ前大統領もここにきて変化を見せています。
“トランプ氏「我々にとってウクライナの存続は重要だ」、大統領選を見据え軌道修正か”【4月19日 読売】

このままアメリカの支援が遅れて、結果ウクライナが敗北し、その責任を問われるような事態を避けたいのかも。
逆に言えば、それほどウクライナの現状は厳しいということでしょう。

ただ、仮にロシアが戦術的にウクライナで「勝利」したとしても、総合的・戦略的に見ると、ロシア・プーチン大統領のウクライナ侵攻は大きな失敗に終わったというべきでしょう。

ひとつは、ウクライナがNATO陣営に走るのを阻止すると言いつつも、実際にはスウェーデン・フィンランドのNATO加盟など、NATO陣営の拡大・強化を招いたこと。

もうひとつは、西側の経済制裁のもとでの戦争遂行のため、中国依存を強め、中国の「従属的なパートナー」と言われるような地位(「属国化」といった表現も)にロシアを追い込んでいることです。

もちろん、アフガン侵攻の1万5千人を遥かに超える5万人超の死者を出し、多くの人材が国外に流出するなどロシア国内の体制にとっての打撃も小さくありません。

また、軍事大国ロシアの軍事力に大きな疑問が持たれる結果にも。

上記のような多大なコストを考えると、ウクライナ東部・クリミアにおけるロシアの支配を強化できたとしても、まったく割に合わない失敗戦略でした。そもそも侵攻と同時に首都キーウを制圧する予定だったのでしょうが、ここまで戦闘が長引いていること自体が完全に目論みが外れた状況です。

【ロシアにとって中国は“命綱” 進むロシアの「従属的パートナー」の立場】
今回取り上げるのは、そうしたコストのひとつ、中国との関係・・・というか、強まる中国依存の状況です。

****「親愛なる友よ」中国への依存強めるロシア…習近平政権、露との連携利用しつつ深入り避ける構え****
北京で(2023年10月)18日開かれたロシアのプーチン大統領と中国の 習近平シージンピン 国家主席との会談では、ウクライナ侵略を続けるプーチン政権が、エネルギー分野などで中国への依存を強めていることが浮き彫りになった。習政権は、米国主導の国際秩序に対抗するためロシアとの連携を利用しつつも、深入りを避けているとみられる。
 
「親愛なる友よ」
侵略開始以降、旧ソ連圏外で初の外遊に中国を選んだプーチン氏は、会談の冒頭、習氏にこう呼びかけた。「一帯一路」構想を「非常に発展している」と述べ、「あなたの指導の下、成功を収めている」と称賛の言葉を繰り返した。

会談の主眼は、経済とエネルギー分野の連携強化だ。中国当局によると、今年の中露の貿易総額は9月末時点で1700億ドル(約25兆円)を超えた。2024年までに2000億ドル(約30兆円)に上げる目標を掲げるなか、プーチン氏は「今年は間違いなく突破する」と強調した。必死のアピールは、米欧の経済制裁が続く中、ロシアにとって中国との結びつきが死活的であることを際立たせた。

露側の期待感は同席者にも表れた。エネルギー担当の副首相のほか、露国営の石油会社ロスネフチやガス企業ガスプロム、銀行や原子力関係の企業トップが会談に同席した。石油や天然ガスの中国への輸出拡大を見据えた動きとみられる。
 
習氏は、プーチン氏との会談が13年以降で42回に上り、「良好な関係と深い友情を築いてきた」と述べ、プーチン氏が欠かせないパートナーだと強調した。
 
米欧も中露接近を警戒する。AP通信によると、9日に習氏と会談した米上院民主党トップのチャック・シューマー院内総務はロシア支援の停止を求めた。
 
ただ、習政権もロシアへの過度な肩入れはしない構えだ。英メディアによると、習氏は3月のモスクワでの会談で、プーチン氏にウクライナで核兵器使用を控えるよう警告。それでもプーチン氏は6月、隣国ベラルーシへの戦術核配備の開始を宣言するなど威嚇を続けた。米ブルームバーグ通信によると、中国は6~7月にロシアからの原油輸入を3割近く減らしたという。
 
中国にとって対露貿易総額(22年)は、対米国(約7600億ドル)と対欧州連合(EU)(約8500億ドル)の総額を合わせれば、約8分の1にすぎない。露専門家からは「中国がロシアだけを理由に西側を含む関係を悪化させることはない」との分析も出ている。(後略)【2023年10月19日 読売】
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ロシアにとって中国との関係は頼みの綱ともなっていますが、中国にとってロシアはカードの1枚に過ぎません。

その後もロシアと中国の交易は拡大しています。

****中ロ貿易が過去最高=深まる相互依存****
2023年の中国とロシアの貿易総額は前年比26.3%増の2401億ドル(約35兆円)となった。過去最高だった前年の1903億ドルを更新し、初めて2000億ドルを突破。ともに対米関係などが冷え込む中、経済的な相互依存を深めている。

「協力は健全かつ順調に発展している」。中国の習近平国家主席は昨年12月、訪中したロシアのミシュスチン首相との会談で中ロ関係をこう自賛した。両国は18年に約1000億ドルだった貿易総額を24年までに倍増させることで一致していたが、1年前倒しで達成した。
 
ウクライナ侵攻を受けて日米欧などから制裁を科されたロシアにとり、中国との関係は侵攻を続ける上で「命綱」となっている。ロイター通信によると、ロシア産原油の最大の購入元は中国。一方、侵攻以前に主な輸出先だった欧州向けは激減。エネルギー業界の関係者は「中国が原油を買わなければ、戦費を十分に調達できない可能性がある」と指摘する。
 
中国も米国による半導体の輸出規制などに苦しむ中、外交的に立場が近い大国のロシアとの関係を重視。中ロ間では高官の往来が相次いでおり、習氏自身も23年の初外遊先としてロシアを訪問した。
中国は同年に自動車などの対ロ輸出を急増させ、貿易面でロシアとのつながりを深めた。

ただ、中国にとって対ロ貿易の比重は約4%にとどまっており、対欧州連合(EU)の13%や対米の11%、対日の5%を下回る。先の関係者は「中国はロシアの苦境をうまく利用し、経済的な利益を得ている」と指摘した。中国はロシア産原油について、サウジアラビア産などに比べて安価に調達してきたとされている。【1月12日 時事】 
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【極東権益を侵食する中国 ウラジオストク港使用権を回復】
単に経済的な「ロシアの中国依存」だけでなく、そうした力関係を背景に、中国のロシア極東への進出も進んでいます。

****中国がロシアの港を奪還? 極東権益を侵食中****
ウラジオストク港の使用権を165年ぶりに回復

中国は2023年6月1日から、ロシア極東の最大都市ウラジオストクの港の使用権を165年ぶりに回復した。さらに西部国境では、中国とキルギス、ウズベクの横断鉄道計画にゴーサインを出し、ロシアの権益を次々と侵食している。

ウクライナ侵攻で衰退が加速するロシアの弱みを突いて「兄弟関係」を逆転しただけではない。ウクライナ危機の最大の受益者は中国かもしれない。

中国「祖国の懐に」と興奮
「ロシアによって165年間使用された後、港はついに祖国の懐に戻った」
中国東北部の吉林省と黒竜江省が、省産品を浙江省など沿海地域に出荷する際、ウラジオストク港を使用する特例措置が6月1日から認められたニュースを伝える報道だ。

かつて中国領だったウラジオストクが、帝政ロシアとの不平等条約によって奪われた「屈辱の歴史」をそそいだかのような興奮ぶりだ。ロシアはもちろん太平洋艦隊の基地がある極東最大の軍事拠点の同港を中国に「返還」するわけではない。順序を追って説明しよう。

中国税関総署は2023年5月4日、中国東北部の老朽化した工業基地を活性化するため、同年6月1日から国内貿易品を国境越えの通過港としてウラジオストク港を使用できるようになると公告した。

ロシア政府がこれを認めたのは、習近平が2023年3月の全国人民代表大会(全人代=国会)で3期目の国家主席入りを果たした後、3月20〜22日に初の外遊先としてロシア訪問した時だ。プーチン大統領との10時間以上におよぶ首脳会談での、最大のテーマはウクライナ問題だった。

首脳会談後に2人は、「2030年までの経済協力の大枠に関する共同声明」に署名した。この中で、「両国の鉄道、道路、河川、海運など輸送迅速化を含む物流面での協力」をうたい、ウラジオストク港使用でプーチンの「ダー(イエス)」を勝ち取ったのだった。

沿海州は清朝時代には「外満州」(Outer Manchuria)と呼ばれる中国領だった。しかしアヘン戦争で清朝が弱体化、帝政ロシアは1858年のアイグン(璦琿)条約と、1860年の北京条約でアムール川左岸を獲得、ウスリー川以東の外満洲を両国の共同管理地として「割譲」した。

中国側は帝政ロシアに奪われた国土の総面積を外満州にモンゴルと西域を合わせ約500万平方キロメートルと、現在の中国領土の半分強に相当すると主張、中国にとって屈辱的割譲だった。

ウラジオストク港使用権の付与に合意した背景は何か。まず経済面。中国が吉林省や黒竜江省から貨物を輸送する場合、今は大連港まで運んで、江蘇省、浙江省向けの貨物船に積み替えている。大連までの距離は短くても300キロメートル、長ければ600キロメートルである。

ウラジオストク港開放によって最短100キロメートル、最長でも300キロメートルと輸送距離は半減され、コストパフォーマンスもいい。吉林、黒竜江省から中国南部への輸送は「国内貿易」扱いだから関税の問題も発生しない。

一方、ロシアのメリットは何か。これまでロシアはウラジオストク港を、原油、天然ガス、海産物、木材などを日本、韓国、アメリカ、台湾に輸出する窓口にしてきた。しかしウクライナ侵攻に伴う経済制裁で、西側諸国への輸出量は激減。ウラジオストク港には「閑古鳥が鳴く」状況だ。

プーチン政権を支え、要求をのませた中国
中国が対西側貿易減少の穴を埋めてくれれば、ロシアも「ニエット(ノー)」とは言えない。それがウラジオ使用権を求める中国の要求を受け入れた経済的理由だ。双方にとり「ウィンウィン」のケースだ。

では、政治的にはどうか。西側は中国がロシアのウクライナ侵攻を非難せず、ロシア軍の即時撤退を求めていないとして、「ロシア寄り姿勢」を批判。広島サミットの首脳声明でも中国にロシア軍撤退を要求するよう求めている。

2023年3月の中ロ首脳会談の共同声明は、「(中ロ)双方は、国際連合憲章の目的と原則が尊重されなければならず、国際法が尊重されなければならないと信じる」とした。ウクライナ侵攻が国連憲章に違反していること念頭にした、事実上のロシア批判だ。中国は決してロシア寄りの立場をとっているわけではない。2014年のクリミア併合を中国が認めていないのもその証左だ。

共同声明はさらに、ウクライナ危機の解決に積極的な中国の意思を歓迎し、「『ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場』(2月の声明)に示された建設的な命題を歓迎する」と、中国の仲介工作を支持した。

共同声明を読む限り、ロシアは中国の主張をそのまま受け入れたことがわかる。ウクライナ侵攻後、中ロ2国間貿易は前年比30%増となった。大半が経済制裁で西側に輸出できなくなった原油、天然ガスを中国が輸入しているからだ。ロシア経済を支えるうえで、原油を大量に輸入してくれる中国とインドの存在は死活的に重要だ。

中国は経済的利益を与えてプーチン政権を支えているだけに、ロシアは中国の要求をむげに断れない。米中対立の激化で、中ロは安全保障協力を強化することに「共通利益」を見出している。中国からすればロシアにさまざまな要求をのませる絶好のチャンスでもある。こうしてみると、中国こそウクライナ危機最大の受益者ではないか。

中国とロシア(旧ソ連)は1989年5月、当時のゴルバチョフ共産党書記長の訪中で関係を正常化。最大の懸案だった国境問題は2004年、東部のウスリー川など3河川の係争地を2分割することで合意し国境線を最終画定した。
しかし、不平等条約によって奪われたウラジオストクの存在は、中国にとっては屈辱の歴史の象徴でもあった。

一方、ロシアにとっては極東最大の軍事的意味という重要性がある。にもかかわらずウラジオを開放したのは、中国との協力によって、加速する衰退と孤立を回避したいからだ。

中国が獲得したのはウラジオストク港使用権だけではない。習近平は5月18、19日、シルクロードの古都西安で中央アジアのカザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン5カ国首脳との首脳会議を開いた。(中略

中国・キルギス・ウズベク鉄道が前進
日本の全国メディアは報じていないが、宣言は中国・新疆ウイグル自治区からキルギスタンとウズベキスタンに延びる「新鉄道建設」(総延長523キロ)の着工加速も盛り込んだ。鉄道が完成すると、中国貨物を鉄道で中央アジアから中東各国に輸送できるだけではない。中国から欧州への鉄道の最短ルートにもなるのだ。

計画は1997年に浮上したが、山岳地帯を貫く工法や環境問題、軌道幅など技術問題に加え、ロシアと中国のどちらが出資するかなど政治的理由もあり一向に進展しなかった。

変化は2022年5月16日、モスクワで開かれたロシアと旧ソ連構成6カ国の集団安全保障条約機構(CSTO)首脳会合で起きた。プーチンがキルギス大統領の進言を受け、計画を中国資金で建設することに「反対しない」と初表明した。これにより着工への展望が一気に開け、王毅外相(当時)は翌6月に「2023年着工」を発表した。

中国のロシア権益侵食について、ロシアはどう受け止めているのか。フランスのマクロン大統領は2023年5月14日付のフランス紙とのインタビューで、ロシアは国際的に孤立し、「中国の属国に成り下がった」と酷評した。

これに対しクレムリンのペスコフ報道官は「両国は戦略的パートナーであり、従属かどうかの問題などない」と反論した。プーチン自身も6月16日、サンクトペテルブルク「国際経済フォーラム」で、欧米制裁にもかかわらず、「世界経済のリーダーの地位を維持する」と強気の姿勢をみせた。

しかしプーチンの強気に説得力はない。中国共産党は1921年の創設以来「共産主義の祖国」ソ連から、革命理論をはじめ党組織論を学んできた。新国家建設もソ連をモデルにし、ソ連を「兄」、中国が「弟」の兄弟関係にあった。

その関係がいまは完全に逆転したのは、差が開く一方の経済力にある。ウクライナ戦争発動の遠因は、1991年のソ連崩壊。長期にわたり世界の半分を支配した「帝国の喪失感」はプーチンだけでなくロシア国民に広く共有されている。

しかし戦時経済の長期化でロシア経済は深刻な打撃を受け、中国の協力抜きの生存は危うい。ウラジオストク港の使用権回復と中央アジア権益拡大は、中国がロシアの弱さを突いて獲得したものだ。同時に権益侵食が過剰になれば「傷ついた熊」の誇りを傷つけかねない。

それが高じれば、中ロ関係にひびが生じ西側の利益になることを中国は自己の歴史経験から知っている。今後中国がどこまでロシア権益に手を出すか、アクセルとブレーキを交互に踏みながら微妙なハンドリングを迫られる。【2023年6月20日 岡田充氏 東洋経済オンライン】
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【極東ロシアに流入する中国農民が地元住民を圧倒】
「権益」だけでなく「人」の動きも。

****中国、「無限の協力関係」の中でロシア極東の一部を静かに乗っ取り?―米誌****
ロシアがウクライナ侵攻後、中国との関係をより深める中、米誌「ニューズウィーク」は「無限の協力関係をけん伝する中国が、ロシア極東の一部を静かに乗っ取ろうとしている」と報じた。さらに「中国と国境を接する極東ロシアに流入する中国農民が地元住民を圧倒し、人民元依存で経済のかじ取りができない」とも伝えた。

ニューズウィークは日本メディアの記事を引用して「極東の沿海州(プリモルスキー州)の国境地帯では中国人農民が急増しており、その経済的影響力は地元住民を圧倒している」と紹介。「1860年に清朝がロシアに割譲したこの地域は中国の政策立案者やナショナリストの関心の的となっている。昨年、中国は国内の地図に沿海地方の行政の中心地であるウラジオストクの中国語名である海参崴のほか、七つのロシア極東部の中国語名を記載するよう定めた」と続けた。

さらに「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナは常にロシア国家市の一部だったと主張するのと同じように、中国の習近平国家主席は失われた領土の回復を『中華民族の偉大な復興』の最優先課題に挙げている」と指摘。「ロシア国境と接する中国東北部黒竜江省の鶴崗市はかつて石炭の産地として栄えたが、経済の先行きは暗い。そんな中で、これからも多くの中国人農民がロシアに向かうかもしれない」と予測した。

米シンクンタンク、スティムソン・センターの中国プログラム責任者ユン・スン氏は「ロシア極東地域における『黄禍論』的な不安は今に始まったことではない。何世紀とは言わないまでも、それが何十年も存在してきたのは国境の両側の人口バランスが大きく崩れているためだ」と説明。「中国人の流入はロシアの支配を脅かしかねない。まだ主権の問題が交渉のテーブルに上る段階ではないと思うが、現地の中国人農民をどう管理するかは厄介な問題になるだろう」とした。

学術雑誌「アメリカン・ジャーナル・オブ・エコノミクス・アンド・ソシオロジー」に掲載された2021年の研究では、中国人農家の存在や中国人所有企業との取引がロシアの地元農家の所得を押し上げるケースもあることが分かったという。

ウクライナ侵攻で西側から経済制裁を受け、銀行の国際決済網SWIFT(スイフト)から排除されているロシア経済を戦時需要とともに支えているのは中国との貿易だ。

ロシア経済省によると、2023年上半期、ロシアは中国との貿易高の4分の3、その他の国との取引の4分の1を人民元で決済した。米ブルームバーグ通信によると、ロシアの中央銀行は3月29日に発表した年次報告書の中で「外貨準備に関して人民元に代わる良い選択肢がない」と言及。

ニューズウィークは「中露間に外交的緊張や貿易摩擦が生じた場合、『従属的なパートナー』であるプーチンは窮地に立たされ、中国が直面する経済的課題の悪影響を受けることになる」との見方を示した。【4月20日 レコードチャイナ】
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記事にもあるように“ロシア極東地域における『黄禍論』的な不安は今に始まったことではない”ですが、ただでさえ人口希薄・経済不活性なロシア極東への中国の人的移動がウクライナ問題を背景として一段と加速しているようです。

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アメリカ  伝統的親イスラエル国家で若者らに広がる親パレスチナ 二つの流れの間で軋轢も

2024-04-19 22:56:49 | アメリカ

(アメリカ国内で昨年10月中旬にCNNなどが行った調査【2023年11月10日 NHK】)

【バイデン政権 対イスラエルで微妙で難しいかじ取り】
パレスチナ・ガザ地区の惨状、加えて食糧支援団体に対するイスラエルの攻撃、予想されているラファへの地上侵攻などに対する国際的及びアメリカ国内の世論が厳しさを増すなかで、イスラエルの後ろ盾となってきたアメリカ・バイデン政権のイスラエル・ネタニヤフ政権に対する対応も強く抑制を求める、あるいは批判的なものになっています。

****バイデンがネタニヤフに「最後通告」、軍事支援見直しを示唆 その数時間後、イスラエルは...****
バイデン米大統領が4日、イスラエルのネタニヤフ首相に対して事実上の「最後通告」を突き付けた。パレスチナ自治区ガザの市民や外国の支援団体関係者の保護を徹底しないなら、米国はイスラエル支援を見直すと宣言したのだ。

イスラエルはこれまでのイスラム組織ハマスとの戦闘を続ける中で、多数のパレスチナ市民の犠牲者を生み出しており、米国は何度も戦術を修正するよう求めてきた。そして1日に米国の食糧支援団体ワールド・セントラル・キッチン(WCK)のメンバー7人がイスラエルの攻撃で死亡したことで、ついにこうした強いメッセージを発した。

WCKメンバーの死亡についてイスラエル側は、意図的な攻撃ではなかったと説明している。

ホワイトハウスはネタニヤフ氏に求める具体的な対応策や、同氏が米国のメッセージに耳を貸さなかった場合にどうするのか詳しいことは明らかにしていない。ただ複数の専門家は、米国からイスラエルへの武器供与にブレーキをかけたり、国連において米国がイスラエル支持姿勢を弱めたりすることを示唆していると分析した。(中略)

11月の大統領選で再選を目指すバイデン氏は、パレスチナ市民の犠牲者が増加する事態に幻滅した与党民主党左派からのネタニヤフ氏の行動抑制を迫る圧力に応じながら、大半が親イスラエルの無党派層に離反されないようにするため、ガザ紛争を巡る問題では一貫して難しいかじ取りを強いられている。

そうした中でこれまでバイデン氏は、イスラエル向け武器供与を条件付きとすることに抵抗を続けてきた。
しかしホワイトハウスの声明によると、バイデン氏は今、イスラエルに「民間人の被害や人道面での苦難、支援従事者の安全問題を解決する個別具体的で目に見える措置を発表し、実行すること」を求めている。

また声明には、米国のガザに関する政策はイスラエルによるこれらの面での当面の対応を評価した上で決定すると明記された。

ブリンケン国務長官はもっとはっきりと「イスラエルの政策に必要な変化が見られなければ、米国の政策は(従来から)変わるだろう」と言い切った。

イスラエル政府はホワイトハウスの声明発表から数時間後、ガザへの支援物資流入を増やすための幾つかの対応策を発表。ただこれが米国の要求を十分に満たすのかどうかはまだ分からない。

<堪忍袋>
イスラエルがガザで市民にとって比較的安全な避難場所として最後に残った最南部ラファへの地上侵攻を計画していることについても、米国は思いとどまるよう働きかけを強めてきた。

米国とイスラエルの協議に詳しい関係者の1人は、バイデン氏が自らの懸念を伝え、ネタニヤフ氏がイスラエル側の方針の妥当性を主張する緊迫した電話でのやり取りが時には30分続いたケースもあったと明かす。

あるホワイトハウス高官によると、米国とイスラエルの会話は「非常に直接的かつ率直」で、米側の発言者にはハリス副大統領やブリンケン氏、サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)などが含まれていた。

同高官は、ガザで支援従事者や市民が殺害されることは決して許されないと強調し、包括的な解決策が求められると付け加えた。

バイデン氏は長らく米国のイスラエル支援を抑制することを避けてきたが、とうとう堪忍袋の尾が切れる段階に達しているかもしれない。(中略)

元中東担当国家情報副長官のジョナサン・パニコフ氏は、バイデン氏は米国とイスラエルの関係を揺るがすほどの、例えば高額兵器の供与差し止めや国連でイスラエル支持を完全に放棄するといった劇的な措置は講じそうにないと予想しつつも、小型兵器供与に条件を付けたり、パレスチナ人に危害を加えているユダヤ人入植者へのさらなる制裁を発動したりする可能性はあるとの見方を示した。[ロイター]【4月5日 Newsweek】
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****イスラエル首相は「過ち」犯している バイデン氏****
米国のジョー・バイデン大統領は9日に公開されたインタビューで、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相のパレスチナ自治区ガザ地区をめぐる政策で「過ち」を犯していると述べ、停戦を求めた。

バイデン氏は、米国のスペイン語放送局ユニビジョンのインタビューでネタニヤフ氏のガザ紛争への対応について問われ、「過ちを犯していると思う。彼のアプローチには賛同できない」と回答した。

また、イスラエルが先週、米慈善団体の職員7人を死亡させたイスラエルの無人機攻撃を「言語道断だ」と改めて非難。 イスラエルに対して、6〜8週間停戦し、同国に搬入されるすべての食料・医薬品への完全なアクセスを認めるよう求めていると語った。 【4月10日 AFP】
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もちろん、アメリカがイスラエルを見放した訳でもなく、イスラエル支援は継続しています。

シリアのイラン大使館領事部ビルが空爆を受け、イランがイスラエルへの報復を宣言していたことに関し、バイデン大統領は「イスラエルの安全を守るため、できる限りのことをするつもりだ」とし、実際、13日に行われたイランの攻撃に対して米軍はこれを阻止するイスラエル防衛を行っています。

****イランがイスラエルに報復攻撃 米軍やヨルダン空軍が90機以上のドローンなど撃墜****
アメリカ軍はイランがイスラエルを攻撃した際に、アメリカ軍の部隊が80機以上のドローンなどを撃墜したことを明らかにしました。 アメリカ中央軍は14日、イランがイスラエルに向けて発射した弾道ミサイル6発とドローン80機以上を中東に展開するアメリカ軍が撃墜したと発表しました。(後略)【4月15日 BBC】
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しかし、(今日極めて限定的な形で行われたことが報じられている)イスラエルのイランへの報復については、バイデン米大統領はネタニヤフ首相に対し、イランに対するいかなる対抗措置にもアメリカは反対であり、参加しないと伝えていました。

****バイデン氏「イスラエルの反撃に反対」 ネタニヤフ氏に伝える***
米ニュースサイト「アクシオス」は13日、イランによるイスラエルへの攻撃を受け、バイデン米大統領がイスラエルのネタニヤフ首相に対し、イスラエルによるいかなるイランへの反撃についても反対する意向を伝えたと報じた。米政権関係者の話としている。

バイデン氏と政権幹部は、壊滅的な結果をもたらす地域紛争に発展することを懸念しているという。【4月14日 毎日】
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パレスチナの今後についても、バイデン政権はパレスチナ国家樹立による「二国家共存」しか方策はないと、その受入れをネタニヤフ首相に求めていますが、一方で、国連へのパレスチナ自治政府の正式参加については拒否権を行使してこれを阻んでいます。

****米、パレスチナ自治政府の国連加盟を求める決議案に拒否権 安保理、日仏など12カ国賛成****
米国は18日、国連安全保障理事会でパレスチナ自治政府の国連加盟を求める決議案に拒否権を発動し、同案は否決された。イスラエルとパレスチナの2国家共存の実現に向けては「あらかじめ当事者間の合意が必要」(ウッド米国連次席大使)と判断。安保理15理事国中、日本やフランスなど12カ国が賛成し、英国とスイスが棄権した。

パレスチナ自治政府は、2011年に国連への新規加盟を申請し、12年から「オブザーバー国家」としての活動を認められている。安保理や総会などで発言できるが、投票権はない。パレスチナ自治区ガザや西岸、東エルサレムを領土とするパレスチナ国家の承認を目指している。

決議案はアルジェリアが提案した。イスラエルのエルダン国連大使は採決前、「ガザを実効支配する(イスラム原理主義組織)ハマスの加盟を認めるのか」と述べ、反対するよう各国に強く求めていた。パレスチナ自治政府のマンスール国連大使は否決を受け、「パレスチナの自決権は不可侵で、永遠だ」と訴えた。(後略)【4月19日 産経】
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イスラエル、パレスチナに対するアメリカの対応は、上記のように「しかし・・・」「一方で・・・」という表現が繰り返されるように、“非常に微妙なかじ取り”を迫られています。

【アメリカを強固なイスラエル支持にしてきたユダヤ系社会の影響力】
“非常に微妙なかじ取り”の背景にあるのは、ひとつはアメリカ国内でのユダヤ系社会の持つ影響力です。これまでのアメリカのイスラエル支持を方向づけているものです。具体的には議員の選挙を左右するロビー活動です。

****「他の子供たちが遊んでいる間に勉強に励む」米ユダヤ系、少数派でありながら政財界に絶大な影響力****
イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム主義組織ハマスとの戦闘で、米国はイスラエルを支持する立場を鮮明にしてきた。背後にはユダヤ系米国人らの「イスラエル・ロビー」の力が存在する。米国で少数派でありながらなぜ絶大な影響力を持つのか。

ハリウッドや投資会社、巨大ITも
米国の非営利団体「米イスラエル協力事業」によると米国内のユダヤ人の人口は、イスラエル(ユダヤ人口約720万人)よりも多く世界最多だ。しかし、米国内の2%(約750万人)程度にすぎない。

米国へのユダヤ人移住が進んだのは19世紀後半からだ。欧州の一部でユダヤ人に対する迫害が起きたことがきっかけで、1920年代までに200万人が渡米した。(中略)

渡米したユダヤ人は、映画産業の核となるハリウッドや、ゴールドマン・サックスなどの金融・投資会社、NBCやCBSなどのテレビ局を設立し、米国の政治や経済、マスメディアへの影響力を拡大していった。グーグル、メタ(旧フェイスブック)など巨大IT企業の創業者もユダヤ系だ。

豊富な資金力と組織力 選挙を左右
イスラエルのロビイストは、文字通り議会のロビーを歩き回り、議員に直接働きかけを行っている。豊かな資金力と全米にネットワークを張り巡らせた組織力で選挙情勢も左右する。各議員の活動をチェックし、イスラエルの利益に反する行動をとれば献金をやめると言われる。

米国の政治学者ジョン・ミアシャイマー氏は「主要な報道機関にもロビーの影響は大きく、イスラエルにとって都合の悪い内容を排除し、イスラエルを支持する内容を掲載する傾向が強い」と指摘する。

米国に多数あるイスラエル・ロビー団体の中で代表的な「イスラエル広報委員会(AIPAC、本部ワシントン)」は、財界有力者らの会員が300万人以上。17か所に地域事務所を置く。年間予算額は1億ドル(約150億円)以上で政界への影響力は全米ライフル協会を上回ると言われる。

年次総会には議員や閣僚らが超党派で駆けつける。
2022年の米中間選挙では、親イスラエルでない候補者を落選させるため2600万ドル(約40億円)を費やしたとされる。

政界にユダヤ系議員も多く、上院議員の1割近くに上る。閣僚や高官にも多く登用されてきた。バイデン政権でもブリンケン国務長官やイエレン財務長官らがそうだ。

「第2の外務省」
AIPACは、ユダヤ人によるヨルダン川西岸の占領地への入植活動やガザへの武力行使などイスラエルにとって有利な動きを促進するため、米連邦議会に強く働きかけることを任務としている。イスラエルの「第2の外務省」と言われる。

1992年大統領選でブッシュ元大統領(父)が再選できなかったのは、イスラエルによる入植活動を阻止したことでイスラエル・ロビーと対立し、「ユダヤマネー」がクリントン元大統領に流れたのが一因との指摘もある。AIPACなどの働きかけで米国によるイスラエルへの援助額は年間40億ドル(約6000億円)近くに上り、対外援助国としては最大だ。

ミアシャイマー氏は「AIPACは最も強力なロビー組織だ。政治家たちは、イスラエルに圧力をかければロビーによって落選など政治的代償を余儀なくされかねないことを十分理解している」と語った。【4月16日 読売】
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ただ、アメリカのユダヤ人社会全体がAIPACのようにイスラエル現政権支持という訳でもありませんが、それはまた別機会に。

【若い世代、リベラル派民主党員で広がる親パレスチナの流れ】
こうしたユダヤ人社会のロビー活動は以前からのものですが、バイデン政権のかじ取りを難しくしているのは最近の親パレスチナ世論の高まりです。

****親イスラエル国家 アメリカで何が?*****
「アメリカはイスラエルとともにあり、確実に支援していく」 (2023年)10月7日、ハマスによる大規模攻撃直後にバイデン大統領が述べた言葉です。

歴史的に強い結びつきがあり「特別な関係」と言われてきた両国。 しかし、ガザ地区で民間人の犠牲者が増えるにしたがって、9000キロ以上離れたそのアメリカでも、今回の衝突を境に政治や社会の変化が浮き彫りになっています。(中略)

若者に広がるパレスチナ支持
ところが、いま、そのアメリカに異変が起きています。若い世代の間では、イスラエルではなく、パレスチナを支持する世論がじわりと広がっているというのです。 実際、全米各地の大学でパレスチナを支持するデモが起きています。

ニューヨークに住むマイルス・グラントさん、24歳。ニューヨーク大学で行われた、パレスチナを支持するデモに参加していました。自身は、ユダヤ系アメリカ人だというグラントさんですが、イスラエルとパレスチナに関する歴史を学ぶうちに、パレスチナを支持するようになったといいます。

マイルス・グラントさん
「過去20年間のパレスチナ人の死者数と、イスラエル人の死者数を比較すると衝撃的です。何十年もの間、パレスチナの人々は閉じ込められ、人間扱いされてこなかったことは本当に許しがたいです」(中略)

若者がパレスチナ寄りの背景は
なぜ、若い世代はパレスチナを支持する傾向にあるのか。 アメリカ世論や選挙に詳しい専門家は次のように指摘します。

ジョージ・ワシントン大学 トッド・ベルト教授 「若い世代は差別と人権により敏感で、抑圧される側に共感する傾向が強いのです。イスラエルはパレスチナと比べて不釣り合いな防衛力を持っていて、イスラエルはパレスチナの人たちを不当に迫害していると感じているのです」

10月中旬にCNNなどが行った調査では、次のような結果が出ています。
「ハマスの攻撃に対するイスラエル政府の軍事的対応は正当性があるか」という問いに対し、65歳以上の81%が「完全に正当性がある」と回答しました。 ところが、18歳から34歳の若い世代では「完全に正当性がある」と答えたのは27%にとどまりました。

軌道修正余儀なくされたバイデン大統領
イスラエル・パレスチナ情勢で、揺れるアメリカの世論。 これを踏まえて、バイデン大統領は軌道修正を余儀なくされています。(後略)【2023年11月10日  NHK】
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今日のニュースでも・・・
****米コロンビア大学で学生ら108人逮捕、ガザ攻撃巡りイスラエルへの抗議活動…負傷者なし****
米ニューヨーク市の警察は18日、パレスチナ自治区ガザで攻撃を続けるイスラエルへの抗議活動をコロンビア大学で行った学生ら108人を不法侵入容疑で逮捕した。AP通信によると、学生らはテントを張って芝生を占拠していたが、撤去された。(中略)

学生らは17日から抗議活動を行い、イスラエル寄りの企業と関係を絶つよう大学に要求していた。大学側は停学処分にすると警告し、双方の対立が深まっていた。(後略)【4月19日 読売】
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こうした親パレスチナの高まりの背景として、“ソーシャルメディアが普及し始めていて、現地の未加工の映像がリアルタイムで拡散し、既存メディアに触れる習慣のない人たちにも届いた”【2023年10月26日 Newsweek】こと、“国内政治で貧困の構造的要因に強い関心を抱くリベラル派民主党員たちが、国際政治で(力と富と軍事力で格段に劣る)パレスチナに共感を抱き、パレスチナを支持するのは、自然な流れだったのかもしれない”【同上】といったことが指摘されています。

【伝統的親イスラエルと若い世代の親パレスチナの軋轢】
こうした若い世代で最近強まった親パレスチナの流れと従来からの親イスラエルの流れの間では軋轢も強まっています。

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ハーバード大学やコロンビア大学など、米名門大学の一部学生がパレスチナへの支持を表明したことが、深刻な分断をもたらしている。学生たちの行動をきっかけに、大学への寄付を取りやめる大口寄付者も相次いでいる。
 
寄付者たちは、大学当局が反ユダヤ主義を黙認し、テロを支持する主張を許容していると考えて、怒りをたぎらせているのだ。いわば「イスラエル版9.11テロ」のような出来事の後、野蛮な斬首やレイプ、赤ちゃんや高齢者の惨殺を正当化するなど言語道断だ、というわけだ。【同上】
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アメリカの南カリフォルニア大学(USC)は4月15日、2024年の卒業生総代のスピーチを取りやめると明らかにした。 卒業生総代の学生はイスラム教徒で、親パレスチナの姿勢を表明していた。

名門私立大学として知られるUSCの2024年卒業生総代に選ばれたのは、医用生体工学を専攻し、副専攻で大量虐殺への抵抗を学んだアスナ・タバサムさんだ。

アンドリュー・グスマン学長は、スピーチ中止の理由を「ソーシャルメディアと、現在起きている中東の紛争に煽られた激しい感情の高まりが、卒業式のセキュリティと混乱の重大なリスクを生み出している」からだと説明している。(後略)【4月18日 HUFFPOST】
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米Googleが、同社とイスラエルとの契約に抗議した20人以上の従業員を解雇した。

GoogleはAmazonと共同で、イスラエル政府とイスラエル軍にクラウドコンピューティングやAIなどを提供する12億ドルの契約「プロジェクト・ニンバス」を結んでいる。

この契約に反対するGoogleの従業員が4月16日、ニューヨークとカリフォルニアにあるGoogleのオフィスで10時間に及ぶ抗議活動を実施し、そのうち9人が逮捕された。

さらに、同社グローバル・セキュリティ部門ヴァイスプレジデントのクリス・ラコウ氏は17日、内部調査の結果、28人の従業員を解雇したと全社メールで伝えた。(後略)【4月19日 HUFFPOST】
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Google創業者はユダヤ系ですが、それが関係しているのかどうか・・・。(上記2本の記事は長くなり過ぎたので、冒頭部だけ紹介しました。興味のある方は元記事を参照してください)
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気候変動  影響で紛争増加 「気候正義」を求める途上国 対策不十分な政府は「人権侵害」

2024-04-18 23:18:24 | 環境

(アラブ首長国連邦(UAE)ドバイの冠水した道路(2024年4月17日撮影)【4月18日 AFP】
これも気候変動の影響か?)

【様々な事象と気候変動の関連性は?】
個々の異常気象・災害が長期的な温暖化に起因する気候変動に関係するものかどうかは素人的にはなかなか判断が難しいところもあります。

昨年6月以降、10か月連続で記録が更新されている気温上昇はおそらく温暖化によるもののようです。

****「史上最も暑い3月」 10か月連続で記録更新*****
欧州連合の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は9日、先月が観測史上で最も暑い3月になったとし、2023年6月以降、10か月連続で記録が更新されていると発表した。

C3Sによると、先月の世界の気温は、1850〜1900年(産業革命前)の3月の平均気温を1.68度上回った。
アフリカからグリーンランド、南米、南極まで、世界の広い地域で平均を上回る気温が観測された。 【4月9日 AFP】
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“C3Sのサマンサ・バージェス副所長はロイターに、「異常な記録が長期的な傾向となっており、非常に懸念している。このような記録が毎月続くことは、気候が急速に変化しつつある事態を示している」と述べた。”【4月9日 ロイター】 

いろんな事象はある限界を超えると変化が一気に加速することがよくありますが、そういう限界が近づいているのでしょうか。

ロシア・カザフスタン国境で起きた大洪水は、地球温暖化現象とは直接は関係がないとのことです。

****ロシア、カザフスタン:洪水により10万人以上の住民が安全な場所に避難する*****
『フランス24チャンネル』4月10日付けでは、ロシアやカザフスタンの洪水のピークにはまだ達していないがウラル山脈地域や西シベリアの多くの地域では記録的な洪水の被害が起きていると伝えている。そのため、10万人以上の住民が避難生活を余儀なくされているという。

ロシア大統領府のドミトリ・ペスコフ報道官は、4月10日、テレビを通じて「現状はかなり緊迫している。備えは不充分で、水位は上がり続けている。 ウラル山脈周りと西シベリアの多くの地域は記録的な洪水にみまわれている。」と伝えた。

カザフスタンとロシアで起きている洪水は、気温上昇による大雨の発生、雪解け水の増加、さらに河川を覆っていた氷が解け始めたことが相重なったためで、地球温暖化現象とは直接は関係がないという。【4月11日 JCC】
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砂漠の国UAEなど中東地域での大雨は、最近行われている人工降雨の影響ではないかとの話もあるようですが、専門家の話では人工的なものではなく、やはり地球温暖化などの気候変動のひとつと見るべきということのようです。

****“1日で1年半分の雨”街に襲来 空港も大規模冠水「人生で初めて」****
■空港も大規模冠水「人生で初めて」
中東・アラブ首長国連邦を襲った暴風雨。ドバイ国際空港では駐機場が冠水し、まるで湖のように…。24時間雨量は142ミリを記録。平年の年間降水量が94.7ミリのため、一日で1年半分の雨が降ったことになります。

この国で観測が始まった1949年以来、最大となる記録的な大雨によって各地で洪水や冠水が発生。(中略)
週末からアラビア半島で続いていた嵐。なぜ、ここまでの大雨となったのでしょうか。

UAE国立気象センター アルナクビ上級予報官
「もし、人工的に雨を降らせようとしたなら、その影響はあっただろうと思います」

可能性の一つと指摘されているのが「クラウド・シーディング」。“雲の種まき”です。
雲の中に氷の核となる物質を放出。人工的に雨を降らせる技術で、干ばつや水不足対策としてUAEなど中東の国々で利用されています。しかし、今回の嵐が来る前はこの試みは行われていなかったということです。

そこで考えられるもう一つの原因が…。

気候学者 コリーン・コルジャ氏
「今回は気候変動によって、嵐の勢力が過剰に増強された可能性が高い」 「地球温暖化などの気候変動が多くの異常気象が引き起こしている」。専門家たちは警告しています。【4月18日 テレ朝news】
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分かりやすいところでは、暑くなれば熱中症が増える・・・まあ、それはそうでしょう。

****熱中症搬送者、40年に倍増予測 3都府県で、名工大チーム****
地球温暖化による気温上昇が続き、2040年に世界の平均気温が産業革命前より2度上昇すると仮定すると、夏場の熱中症による救急搬送者数が東京、愛知、大阪の3都府県で10年代と比べて倍増するとの試算を、名古屋工業大などのチームが18日までに発表した。救急医療の逼迫が懸念されるとしている。

チームは、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による最も気温上昇が高いシナリオに基づき、3都府県の気温を算出。熱中症の搬送者数を予測した。(後略)【4月18日 共同】
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おそらく感染症などの地域分布も変わるのでしょう。デング熱など、これまでは熱帯地域特有の病気とされていたものがその他の地域にも拡散することになるのでしょう。

【気候変動による被害総額は2050年までに推計で年間38兆ドルとの予測も】
気候変動の影響は災害、農業など経済、健康など多岐にわたりますが、分かりやすい指標として金額換算すると、気候変動による農業やインフラ、生産性、健康への被害総額は2050年までに推計で年間38兆ドルに達するとの報告が。

****気候変動の被害、2050年までに年38兆ドルか=独研究所****
ドイツ政府の支援を受けているポツダム気候影響研究所(PIK)が17日発表した報告書によると、気候変動による農業やインフラ、生産性、健康への被害総額は2050年までに推計で年間38兆ドルに達し、人類が排出する温室効果ガスの量が増えるにつれ、さらに被害額が膨らむことがほぼ確実と分かった。

気候変動の経済的影響は完全には理解されておらず、エコノミストの間では頻繁に見解が分かれる。PIK報告書は深刻さで際立っており、今世紀半ばまでに国内総生産(GDP)が世界規模で17%落ち込むと試算している。

報告書の共著者レオニー・ウェンツ氏は「気候を守ることの方が、気候を守らないよりも格段に安上がりだ」と述べた。

報告書によると、2050年までに産業革命前からの気温上昇を2度以内に抑える地球温暖化対策には推定6兆ドルの費用がかかるものの、対策を怠って2度超上がった場合の推定損害額の6分の1未満にとどまるという。

従来の研究では、気候変動は一部の国の経済に恩恵をもたらす可能性があると結論づけられていたが、今回のPIK報告書では、ほぼすべての国に被害をもたらし、最も大きな打撃を受けるのは貧しい発展途上国であることが判明した。

ただ、各国政府は排出量を抑制するための歳出が少なすぎるだけでなく、気候変動の影響に適応するための対策費も不足している。

今回の報告書に至る研究過程では、過去40年間の1600以上の地域の気温データと降雨量を調べ、どの事象が被害をもたらしたかを検討した。

さらに、その被害評価と気候モデルの予測を使用し、将来の被害を推計した。それによると、排出量が現在のペースで続き、産業革命前からの気温上昇が平均で4度を超えた場合、経済的損失は2050年から2100年までに推計60%の所得損失に達することがうかがわれる。気温上昇を2度以内にとどめると、所得損失は平均20%に抑え込める可能性がある。【4月18日 ロイター】
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【気候変動がもたらす紛争増加 「気候正義」を求める途上国】
単に経済的に大きな損失を被るだけでなく、気候変動は資源の減少を通して、その稀少となった資源の奪い合いという紛争を多発させることが予想されます。

****アフリカの異常気象による「最悪のシナリオ」が現実に… 気候変動→資源減少→紛争増加 日本も他人事ではいられない****
2023年11月下旬、アフリカ・ケニア東部のトゥーラ近郊。取材のため車で通りがかった私は、赤茶色の濁流を前に立ち往生していた。(中略)

この場面だけ見れば一地域の大雨被害と思われるかもしれない。しかし、ここから北西に約400キロ、東京―大阪間ほどしか離れていないエリアでは、前年のこの時期は干ばつに見舞われていた。しかも、国連が「過去40年間で最悪」と評したほどのひどさ。ケニア・ソマリア・エチオピアの国境が接する一帯は23年前半まで苦しんだ。

それが一転して、その年の後半からは水害が多発している。ロイター通信は、ソマリアでは70万人以上が洪水で家を追われたと報じた。

地球各地で見られる気候変動。アフリカでは近年、異常気象による災害が顕在化。乏しい資源を奪い合って紛争が増えるという「最悪のシナリオ」も危ぐされている。現地では何が起きているのか。

▽ウクライナ侵攻の裏で進む食料危機
ロシアのウクライナへの全面侵攻開始が世界の目を集めていた2022年2月下旬、ケニア北部マルサビット郡には深刻な食料危機が直撃していた。

「食べ物がほしい」  車を走らせると、やせ細った子どもたちが訴えかけてくる。文字通り「不毛の大地」に、衰弱して息絶えた家畜の死骸が散在していた。

ケニアの「国家干ばつ管理機関」でマルサビットを担当するマモ・イサコさん(29)は恨めしそうに空をにらんだ。 「最後に雨が降ったのは昨年4月です」 家畜をはぐくむ緑はうせ、乾いた黄土色の砂地がかなたの山裾まで続いていた。(中略)

干ばつでも、地下水をくみ上げたり雨が豊富な遠方から輸送したりして、マルサビットの住民は渇きから逃れていた。だが、飢えは深刻だ。集落の副首長アンドリュー・レマロさん(34)は、食料危機が起きるメカニズムをこう説明する。

「集落の住民のほとんどは放牧をなりわいとしてきましたが、干ばつで牛やヤギ、ラクダといった家畜の餌となる植物が集落の周辺に生えなくなりました。家畜を避難させるため、集落の男たちはまだ植生がある100キロ以上離れた餌場まで家畜を連れて行ったきり、半年近く戻りません。集落に家畜がいなくなった結果、女性や子どもの栄養源となるミルクや肉が手に入らなくなったのです」

▽気温上昇が多様な被害に 
気候変動は、国連によると1800年以降は主に人間活動によって引き起こされた。化石燃料(石炭、石油、ガスなど)の燃焼によって温室効果ガスが発生し、気温が上昇する「地球温暖化」が問題視されている。

気温上昇によってもたらされる被害は多様だ。国連はまずこう説明する。
「気温が高い状態が長期化すると、気候のパターンが変化し、通常の自然界のバランスが崩れる」 

その上で、世界的に嵐や干ばつの被害が増えていると指摘する。
気候変動の影響は日本も含め世界に及ぶが、堤防やかんがい設備といったインフラの乏しいアフリカは異常気象への耐性が弱く、被害がより甚大になることが予想されてきた。

2023年にはアフリカ各地で大規模な水害が発生。2〜3月には、1カ月以上にわたり勢力を保ったサイクロンが南部のマラウイやマダガスカル、モザンビークを直撃。多数の死者が出た。北部リビアでも9月に大規模洪水で約4千人が死亡している。

▽紛争増加の原因にも…
気候変動に対して脆弱な国は一般的に貧しく、これまでも食料や水の不足がたびたび問題になってきた。こういった国では気象災害の増加で資源がさらに希少になり、紛争が増加するとの懸念も高まる。

国際通貨基金(IMF)はアフリカの貧困国を念頭にした予測を公表している。 「最悪のケースでは2060年までに、一部の国で人口に占める紛争犠牲者の割合が14%増える」(中略)

▽「不公平ただせ」、いらだつ途上国
気候変動対策を話し合う国際会議などでは近年「気候正義」というキーワードをよく聞くようになった。簡単に言い換えると次のようになる。

「気候変動が進んだのは長期にわたり温室効果ガスを大量排出してきた先進諸国の責任だが、甚大な被害を受けているのは発展途上国だ。この不公平をただそう」

貧困国が多いアフリカではとりわけ、気候正義を意識したような発言が聞かれる機会が増えた。
 「空っぽな約束だけで傍観してきた」(赤道ギニアのヌゲマ大統領)
 「連帯と信頼を崩す」(タンザニアのサミア大統領)

アラブ首長国連邦(UAE)ドバイで2023年11〜12月に開かれた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)。首脳級会合ではアフリカ各国首脳から先進国へのいらだちをあらわにする言葉が相次いだ。

背景にあるのは、先進国側の姿勢に対する怒り。2020年までに低所得国に、気候変動対策資金を年1千億ドル拠出すると先進国側は約束していたが、守られなかった。

中央アフリカのトゥアデラ大統領は「アフリカは第一の被害者だ」と断言し、先進諸国に対して、アフリカの気象災害に対する補償を求めた。

COP28で補償は議題にならなかったが、一方で「損失と被害」基金の運営ルールが採択された。この基金は、気候災害に見舞われた途上国に対する復興支援に当てられる。

気象災害激化という現実を前に、国際社会では気候変動対策について、アフリカ諸国を始めとした途上国の意見をより真剣に聞かなければならないという雰囲気がこれまで以上に強まってきたようだ。【4月18日 47NEWS】
******************

途上国は対策を講じるにために必要な資金がありません。もし必要な資金を投じれば債務不履行(デフォルト)に陥る恐れがあります。

****発展途上国は気候変動対応で債務不履行の恐れ=米大学報告****
ボストン大学グローバル開発政策センターなどは14日公表した報告書で、発展途上国は今年の利払いを含む対外債務返済額が過去最大の4000億ドルに達すると予想、50カ国近くは向こう5年間にわたり気候変動対応や持続可能な開発に必要や資金を投じれば債務不履行(デフォルト)に陥る恐れがあるとの見方を示した。(中略)

発展途上国47カ国は温暖化対策の国際ルール「パリ協定」の2030年の目標達成に必要な資金を拠出すると、対外債務が今後5年以内に国際通貨基金(IMF)が定める返済不能の状態に陥るという。また19カ国は返済不能までには至らないものの、流動性が不足して歳出が目標を達成できなくなり、支援が必要になるという。

ボストン大学グローバル開発政策センターのディレクター、ケビン・ギャラハー氏は「発展途上国の債務負担は非常に重く、現在の債務状況を考えると、そのような資金調達に動けば(債務不履行に向かって)進みかねない」と述べた。【4月15日 ロイター】
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【欧州人権裁判所、スイス政府の気候変動対策は「人権侵害」】
残された時間は少ない・・・というのはいつも言われる話。

****温暖化から地球救う猶予「あと2年」、国連高官が対策強化訴え****
国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のサイモン・スティル事務局長は10日、地球温暖化が政治家の課題から抜け落ちているとし、気候変動の大幅な悪化を回避するのに各国政府と企業幹部、開発銀行に残された猶予はあと2年だと述べた。

極端な気象や熱波の爆発的発生を防ぐために気温上昇を1.5度以下に抑制するには、2030年までに温室効果ガス排出量を半減させる必要があるとされる。しかし、昨年に世界で排出されたエネルギー関連の二酸化炭素量は過去最高を記録した。

現状の取り組みでは30年までに排出量はほとんど抑制されないとみられている。(後略)【4月11日 ロイター】
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スティル氏は「温室効果ガス排出を大幅に削減できるチャンスはまだある。だが、さらに強力な計画が今必要だ」とも語っていますが、私は確信をもって悲観的です。

人間は漠然とした将来の不安のために目の前の利害を犠牲にできるほど賢くありません。気付いたときにはすでに後戻り出来ない所に立っているでしょう。

賢くないのであれば、訴えてでも無理やりにでも・・・

****欧州人権裁判所、スイス政府の気候変動対策は「人権侵害」と初判断 各国に影響も****
欧州人権裁判所(フランス・ストラスブール)は9日、スイス政府の不十分な気候変動対策が人権侵害にあたるとする判決を下した。欧州メディアによると、欧州人権裁が政府の気候変動対策の責任を指摘する判断を示したのは初めて。

スイス政府は上訴できず判決に従う義務があるため、気候変動対策の強化を迫られそうだ。

会員2千人超の高齢女性の団体が、スイス政府が気候変動対策を十分にしなかったとして欧州人権裁に提訴。気候変動による熱波で健康や生活の質が損なわれ、死亡するリスクがあると主張していた。

スイスメディアなどによると、欧州人権裁はスイス政府が過去の温室効果ガス削減目標を達成していないなどとして「将来の世代がますます深刻な負担を負う可能性が高いことは明らかだ」と指摘した。十分な気候変動対策を講じなかったことにより、欧州人権条約が定める「私生活と家族生活の尊重を受ける権利」が侵されたと結論づけた。

ロイター通信によると、スイス政府の代表は「判決を分析し、スイスが今後どのような措置をとるか検討する」とした。今回の判決が適用されるのはスイス政府だけだが、欧州各国の気候変動対策にも影響を与えそうだ。人権侵害を基にした気候変動訴訟が欧州全体で増加する可能性もある。

スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんは欧州人権裁の判決を称賛し、「これは始まりに過ぎない。私たちはもっと闘わなければならない」などと訴えた。【4月10日 産経】
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スーダン  武力衝突から1年 国連の仲介・支援活動の限界

2024-04-17 23:51:46 | スーダン

(スーダン北東部ポートスーダンで撮影に応じる正規軍兵士ら=2023年4月(AFP時事)【4月16日 時事】
正規軍兵士には見えませんが、双方のこうした「兵士」が戦っているのが実態でしょう)

【スーダン武力衝突1年 国民の6人にひとりが避難民となっており、パレスチナ・ガザの5倍】
「忘れられた紛争」スーダン内戦については、3月29日ブログ“スーダン内戦  「忘れられた紛争」で拡大する被害 「代理戦争」の側面も 武器としての性暴力”で取り上げました。

スーダンでは、昨年4月15日、国軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の統合問題を背景に、軍が主導する統治評議会議長のトップ、ブルハン国軍最高司令官と、同副議長でRSF司令官のダガロ氏の権力闘争としての武力衝突が発生して、今もなお続いています。

「忘れられた・・・」というのは、“推計で約1万5000人が死亡し、家を追われた避難民の数はガザの5倍近い約830万人に上る。ところが米国やロシアといった大国の思惑があまり絡まないこともあり、国際社会の関心は低いままだ。”【4月8日 毎日】という事情。

そのスーダン内戦も1年が経過した節目ということで各メディアが取り上げています。

****スーダン武力衝突1年 戦闘続く “820万人が住む場所追われる”****
(中略)
戦闘は首都ハルツームやその周辺などで続いていて、国連は世界の紛争地のデータを集めているNGOの数字として、先月上旬までに1万4790人が死亡したとしていて、犠牲者はさらに多いおそれがあると指摘しています。

また、OCHA(国連人道問題調整事務所)によりますと、少なくとも820万人が住む場所を追われ、このうち170万人以上が国境を越えてエジプトやチャドなどの周辺国で避難生活を余儀なくされています。

日本を含む各国の大使館や国連機関などは安全を確保できないとしてハルツームから退避していて、現地の実情の把握も難しくなっています。

WFP(世界食糧計画)は、スーダン国内では1800万人が深刻な食料不安を抱え、5歳未満の子どもおよそ380万人が栄養失調に陥っているとしています。

一方で、パレスチナのガザ地区やウクライナの情勢などに国際社会の目が向けられるなか、スーダンへの支援にことし必要な27億ドルのうち、集まったのはわずか6%にとどまっていて、国連は人道状況がさらに悪化しかねないとして各国に支援を訴えています。

スーダン武力衝突 1年の経緯
スーダンでは2019年に独裁的な長期政権が崩壊したあと、民主化への模索が続いたものの、2021年に軍がクーデターを起こして実権を握りました。

その後、軍の傘下にある準軍事組織のRSFが軍の再編などに反発し、去年4月15日、首都ハルツームや国際空港などで激しい衝突が発生しました。

軍事衝突が拡大する中、各国が自国民を退避させる動きが広がります。

日本も自衛隊機を派遣し、4月24日には日本大使館やJICA(国際協力機構)、それに支援団体などの関係者やその家族あわせて45人が東部の都市ポートスーダンから自衛隊機でジブチに退避しました。

国連のほかエジプトやサウジアラビアなど周辺国が停戦や和平交渉を呼びかけていますが道筋はたっておらず、1年たったいまも現地では戦闘が続いています。

このため教育や医療など社会基盤の崩壊が進み、人道危機が深まっていて、国連はおよそ4800万の人口の2人に1人が人道支援を必要としているとしています。

ただ、多くの支援関係者が退避を余儀なくされたほか、治安の悪化で支援を届けるのは容易ではなく、周辺国に逃れた避難民の支援も含め厳しい状況が続いています。

支援活動のNPO「現地に目を向けて」
武力衝突から1年となるのにあわせ、現地で支援活動をしてきた日本の団体などがオンラインの報告会を開き、人道危機が深まる現地への支援と関心の継続を訴えました。

今月9日に行われた報道機関向けの報告会にはスーダンへの支援活動を続けてきたNPOの「ロシナンテス」と「難民を助ける会」の職員などが参加しました。

スーダンでは、いまも軍と準軍事組織の戦闘が続き、人道危機が深まる一方、治安への懸念などで支援活動は困難に直面しています。

このうち医療や教育の支援を行ってきたロシナンテスは遠隔の支援を続けスーダン北部の2600人以上が身を寄せる3つの避難所で衛生環境の改善を目指してトイレなどの整備を進めることにしています。

ロシナンテスの川原尚行理事長は「単独での活動は難しいですが、国連機関などとともに現地に戻れないか調整を続けています。気持ちとしては年内にでも戻りたいと思っていますが、治安状況によるので情報収集を続け、判断したいです」と話していました。

また、「難民を助ける会」の職員でウガンダから支援を続ける相波優太さんは、スーダンにとどまる現地スタッフを通じて避難民に食料配付などの支援を行っていることを紹介しました。ただ、スタッフ自身も何度も避難を余儀なくされ、厳しい状況に置かれていると話していました。

相波さんは「情勢が安定したら、感染症対策事業なども再開したいと思っています。メディアにも関心をもってもらい、現地で何が起きているのか少しでも多くの人に目を向けてもらいたいと思います」と訴えていました。【4月15日 NHK】
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避難民が820~830万人・・・パレスチナ・ガザの5倍、総人口(約4810万人)のおよそ6人に1人に当たります。

【欧米は20億ユーロの支援表明】
国際社会も“見捨てた”訳ではない・・・ということで、飢餓寸前に陥った数百万人れを支援する国際会議がパリで開催され、20億ユーロ(21億3000万ドル)の支援が表明されてはいます。

****スーダン内戦1年、欧米諸国が飢餓対策で20億ユーロ支援表明****
アフリカ北東部スーダンで政府軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の戦闘が始まって1年となる15日、飢餓寸前に陥った数百万人を支援する国際会議がパリで開かれ、フランスのマクロン大統領は支援総額が20億ユーロ(21億3000万ドル)を超える規模に上ることになったと表明した。

会議はフランスとドイツが共催し、両国はそれぞれ1億1000万ユーロと2億4400万ユーロの拠出を確約。欧州連合(EU)は3億5000万ユーロ、米国は1億4700万ドル、英国は1億1000万ドルを約束した。

これまでのスーダン向けの国際的な人道支援は、戦闘継続や紛争当事者側からのさまざまな制限に加え、パレスチナ自治区ガザやウクライナなど他の地域で起きている危機に対する支援の需要も生じている影響で、思うように進んでいない。

マクロン氏は会議の締めくくり演説で、紛争解決と紛争当事者への外国からの支援を停止するため国際協調の必要性を強調。「残念ながら、われわれが本日躍起になって集めた額は、戦争が始まって以来、複数の国が紛争当事者同士の殺し合いを手助けするためにかき集めた額よりも恐らく少ないだろう」と述べた。

国連の専門家らは、アラブ首長国連邦(UAE)がRSFに武器支援を実施したとの疑惑に信憑性があると述べている。一方で、複数の情報筋はスーダン軍がイランから武器を受け取ったと述べている。ただ、紛争当事者双方はそうした報道を否定している。

スーダンのインフラは機能不全に陥り、避難民は850万人を超えている。ドイツのベーアボック外相は「即座に協力し合えた場合にのみ、大規模な飢餓を回避できる」と発言するとともに、事態が最悪となる場合は今年中に100万人が餓死する恐れがあると付け加えた。

スーダン国内では2500万人が支援を必要としており、国連は今年27億ドルのスーダン向け支援を要請。また、数十万人の難民を受け入れている近隣諸国への支援として別途14億ドルの支援を求めている。【4月16日 ロイター】
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もちろん内戦状態を止めることが第一ですが、20億ユーロが実際に飢餓に直面している人々の救済に使われるなら大きな助けにはなるでしょう。ただ、(本当に拠出されたとしても)戦闘状態にあるなかで現実にどのように運用されるのか・・・。

【「世界がスーダンの人々を忘れようとしている」】
グテレス国連事務総長はスーダンでの民間人への無差別攻撃は「戦争犯罪や人道に対する犯罪」となり得ると警告、一方で、「世界がスーダンの人々を忘れようとしている」と危機感を表明しています。

****国連総長、無差別攻撃は「戦争犯罪」 スーダン戦闘1年****
スーダンで正規軍と準軍事組織の戦闘が始まって15日で1年となったのに合わせ、アントニオ・グテレス国連事務総長は同日、民間人への無差別攻撃は「戦争犯罪や人道に対する犯罪」となり得ると警告した。

スーダンでは昨年4月、正規軍と準軍事組織「即応支援部隊」の武力衝突が勃発。グテレス氏は報道陣の取材に応じ、これまでに1万人以上が死亡しており、1800万人が飢餓に直面しているとし、「これはもはや二つの勢力間の紛争にとどまらず、スーダンの人々に対する戦争となっている」と語った。

その上で、「民間人を無差別に攻撃して殺傷したり、恐怖に陥れたりすることは戦争犯罪や人道に対する犯罪に該当し得る」と強調。特に成人女性や少女に対する性暴力、援助物資を積んだ車両への攻撃を非難した。

また、北ダルフール州の州都エルファシェルでの情勢不安と人道状況の悪化に懸念を表明した。 【4月16日 AFP】******************

****スーダンへの関心低下 国連危機感、戦闘1年****
国連のグテレス事務総長は(中略)中東情勢などに各国や市民の関心が移り「世界がスーダンの人々を忘れようとしている」と危機感を表明した。

グテレス氏は、1800万人が飢餓に直面し、2500万人が支援を必要としていると指摘。「スーダンの人々が熱望する平和で安全な未来への呼びかけをやめるつもりはない」と述べ、双方に戦闘停止を求めた。【4月16日 共同】
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【昨年末に民主化を支援する国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)の活動終了】
しかし、現実には「忘れようとしている」のは国連も同じ・・・と言ったら言い過ぎでしょうが、国連のスーダンへの関与も低下しています。
国連安保理は昨年末、民主化を支援する国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)の活動終了を決めています。

これは国連と緊張状態にあるスーダン政府からの要請に基づくものであり、国連は、「国連がスーダンから撤退するというのは、事実誤認だ。人道・開発支援を提供する国連の国別チームはスーダンにとどまる」とはしていますが、危機が継続・深刻化するなかで関与の低下は否めません。

****安保理、国連スーダン・ミッションの終了を決議****
1日、国連安全保障理事会は、スーダンにおける国連ミッションの任務終了を決議した。理事会15カ国のうち14カ国が決議案に賛成、ロシアは棄権した。

同決議案は、国連スーダン統合移行支援ミッションに対し、12月4日から活動の縮小を開始し、その任務を他の国連機関に移管するよう求めるものだ。可能であれば、2月までに移管を完了させることを目標としている。その後、3月1日にミッションの閉鎖を開始する。(中略)

国連スーダン派遣団とスーダン当局との関係は、紛争勃発以来、緊張状態にある。5月、(スーダン政府軍を率いる)アル・ブルハン氏はアントニオ・グテーレス国連事務総長に書簡を送り、当時グテーレスのスーダン担当特別代表だったフォルカー・ペルテス氏の交代を要求した。

国連がペルテス氏を擁護すると、アル・ブルハン氏は彼を「ペルソナ・ノン・グラータ」に指定した。関係が悪化の一途をたどるなか、ペルテス特使は9月、スーダンの外から効果的に仕事を遂行することは不可能だとして辞任した。

それ以来、スーダンの国連ミッションは、ポートスーダンに駐在するクレメンタイン・ンクウェタ・サラミ副特別代表兼スーダン常駐・人道調整官の指導の下にある。

先月開かれた安全保障理事会で、スーダンのアルハリス・イドリス・モハメッド国連大使は、スーダンの国連ミッションの閉鎖を求める自国の決定を伝えた。スーダン外務省は、現在の状況を鑑みると、同ミッションはもはやスーダン国民と同国政府の望みに沿うものではない、と述べた。

米国のロバート・ウッド特別政治問題担当代表代理は、1日の安保理決議後、理事会に対し、同国は「ミッションの安全かつ秩序ある撤退」を可能にするため決議案に賛成票を投じたが、スーダンにおける国際的プレゼンスの低下は「残虐行為の加害者を増長させるだけであり、民間人に悲惨な結果をもたらす」と引き続き懸念していると述べた。

同氏は「UNITAMSの活動は、現在進行中の紛争、残虐行為、人権侵害や虐待、数千万人のスーダン人に対する悲惨な人道的状況、地域の安全と安定を脅かす波及リスクの増大を考慮すれば、全ての面で極めて重要である」と付け加えた。

11月30日、ステファン・デュジャリック国連報道官は次のように述べた。「国連がスーダンから撤退することはない。私たちは、戦争の終結、人道支援の促進、文民統治への移行の回復を目指し、全ての努力を継続する」

「政治ミッションがどうなっているかにかかわらず、スーダンには人道支援に携わる仲間が大勢残っており、人道支援を切実に必要としている人々を支援していることを忘れてはならない」。「そのため、国連がスーダンから撤退するというのは、事実誤認だ」【2023年12月2日 ARAB NEWS】
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国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)は国連平和維持活動(PKO)ではなく、国連特別政治ミッション(Special Political Mission: SPM)です。

“PKOは軍事・警察の部隊派遣を伴い、時には国連憲章第7条に基づいた武力行使も用いて文民保護、治安回復、和平合意実施を行うが、SPMの主眼は紛争予防や和平合意の締結、選挙支援、平和構築など政治的プロセスに特化している”【2023年7月7日 中谷 純江氏(一橋大学講師 国際連合平和活動 安全調整担当官) IINA“国連特別政治ミッションはPKOの代替案となりうるのか――マリからのPKO撤収で問われるスーダンの教訓”】という目的の違いがあります。

現実にはPKOに比べ、SPMはコンパクトな活動になります。

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SPMはPKOより費用対効果の良いオプションと捉えられる傾向にある。またホスト国においては、国連憲章第7条の(武力行使)可能性が視野に入るPKOを避けてSPMという形でのみ国連ミッションの受け入れを容認する場合もある。

よって政治ミッションとは言っても武装解除(ネパール、コロンビア)や停戦監視(イエメン、リビア)などの軍事・警察機能を兼ね備えるSPMも増えてきた。またイラク、リビア、ソマリアなどの危険地帯で展開しているSPMでは安全確保のために警備部隊(Guard Unit)も展開している。

しかしながら、概してSPMの規模はPKOの10分の1程度で、アフガニスタン・UNAMAやイラク・UNAMIの規模で予算がつくミッションは稀である。”【同上】
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イメージ的には、国内の内戦状態・混乱にPKOで対処し、混乱が一定に収まった段階で、新たな統治体制確立をサポートするSMPに移行する・・・といったところでしょうか。

しかし、現実にはスーダン・ダルフールで活動してたPKOの国連・アフリカ連合合同ミッション(UNAMID)がはスーダン政府の要請に基づき撤収することになり、選挙や憲法改正などの権力移譲措置の実施、またダルフールのみならず南スーダンとの国境地域での紛争解決など広い委任権限がSPMの UNITAMSに与えられました。

当初から人員的にも非常に厳しいものがありました。
“縮小しながらもダルフールで文民保護にあたっていた(PKOの)UNAMID(2019年段階で要員7000人前後が13箇所に展開)の撤退と(SMPの)UNITAMSへの引き継ぎも定められた。この全国規模の新ミッションは首都ハルツーム以外では地方事務所7箇所で総勢250名というスリムな形で発足した。国連財政状況の厳しさから当初のミッションコンセプトを3分の1まで削らざるを得なかったからである。”

準軍事組織の存在は引継ぎ当時から懸念されてはいましたが、その懸念が現実となり政府軍と準軍事組織の間で紛争が勃発、SMPのUNITAMSは事態に対処することもかなわないなかで、スーダン政府の要請により撤退を余儀なくされた・・・というのが現実です。

SMPとしての国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)の失敗と言うより、現実世界において国連が果たしうる役割の限界を示している・・・と言うべきでしょうか。

【リビアでも 国連リビア特別代表が辞意】
スーダン以上に最近情報が少ないのが東西勢力が分裂状態で争うリビアですが・・・

****国連リビア特別代表が辞意 和平見通せず、仲介断念****
東西分裂状態のリビアで和平協議を仲介する国連リビア支援団(UNSMIL)のバシリー事務総長特別代表は16日、ニューヨークの国連本部で記者団に対して辞意を表明した。「リビア指導者らの政治的意思の欠如」で協力が得られず、和平の進展が期待できないとして、仲介を断念したと説明した。後任は未定。

バシリー氏は2022年9月から同代表。内戦状態のリビアを外国勢力が代理戦争に利用していると指摘し「状況は悪化している」と訴えた。

リビアでは40年以上統治したカダフィ独裁政権が、11年に北大西洋条約機構(NATO)の軍事介入を受けて崩壊した。【4月17日 共同】
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よく知りませんが、国連リビア支援団(UNSMIL)もSMPのひとつではないでしょうか。(違うかも)
いずれにしても、そのリビア国内でプレゼンスを強化するための改革案が安保理で議論されましたが、ロシアが反対していました。【2021年10月1日 ARAB NEWS“国連リビア支援団をめぐる安保理の紛糾が続く”】
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韓国 「怒れる人々」 高度成長原動力の教育の過熱の結果「少子化」 成長を可能にしたのも「少子化」

2024-04-16 23:33:03 | 東アジア

(塾の授業を終えて帰宅する子どもら=2022年5月26日、ソウル江南区の大峙洞で【2022年5月30日 中日】

【40歳以下の「怒れる人々(アングリーピープル)」の怒り・不満】
周知のように今月10日に行われた韓国総選挙では保守系与党が敗北しましたが、背景には40歳以下の「怒れる人々(アングリーピープル)」の怒り・不満があると指摘されています。

また、一般に韓国の世論調査結果は日本と比べて変動・振れ幅が非常に大きいように思えます。(調査の精度、あるいは国民の気質のせいかと思っていましたが)そのあたりの背景にも40歳以下の「怒れる人々」の存在があるようです。

****「40歳以下の世代」の怒りのわけは? 韓国総選挙で浮き彫りに…社会を揺るがす「若者たちの不満」とは****
韓国で10日、総選挙(定数300)の投開票が行われた。最大野党「共に民主党」と衛星政党「共に民主連合」は計175議席、文在寅(ムン・ジェイン)政権で法相を務めた曺国(チョ・グク)氏が率いる「祖国革新党」12議席など、左派・進歩(革新)系が過半数を大きく上回る議席を占めて圧勝した。

尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の支持基盤、保守系与党の「国民の力」と比例区用の衛星政党「国民の未来」は108議席にとどまった。与党は選挙戦中盤で一時、過半数を獲得するのではないかという観測も出ていたが、しりすぼみの結果に終わった。

「長ネギ事件」が勃発
与党陣営としては、選挙戦を通じて、尹大統領のイメージを悪化させる事件が相次いだことが痛かった。その一つが「長ネギ事件」だ。

尹大統領は3月18日、ソウル市内のスーパーを訪れた。そこで、長ネギ1束が875ウォン(約100円)で売られているのをみて、「合理的な値段だ」と言ってしまった。ソウルでは最近、長ネギの価格が3000〜4000ウォンで推移している。875ウォンは特別割引価格だったが、尹氏はそれが「普通の値段」だと思ったらしい。

韓国では選挙のたびに、政治家が電車の運賃や卵の値段などを知らずに言及し、「特権階級」「世間知らず」という批判を浴びてきた。案の定、尹氏もSNSを中心に「庶民の生活を知らない」という攻撃を受けることになった。(中略)

尹政権は「死に体」なのか
尹政権は現在、任期を3年残しているものの、韓国政界のなかでは「これから緩やかなレイムダック化(任期中の政治家が政治的影響力を失うこと)が進む」という見方が支配的だ。

まず、第一に国民の最大の関心事である経済分野で展望が開けていない事情がある。韓国銀行(中央銀行)が1月に発表した、2023年GDP(国内総生産)成長率は1.4%増にとどまった。

半導体不況や物価高が影響し、22年GDP成長率の2.6%増からほぼ半減した。来年1月に米国でトランプ政権が再登場すれば、韓国は経済でも安全保障でも、ますます負担を強いられることになる。(中略)

そして何より、今回の韓国総選挙の展開自体が、「尹政権のレイムダック化が進む」という予測を裏付けている。選挙が浮き彫りにしたのは、40歳以下の「怒れる人々(アングリーピープル)」の姿だった。

彼らが怒る理由は「不公平」「不正義」だ。与党は、選挙戦の序盤で苦しい立ち上がりを迫られた。尹大統領の「不公平な姿勢」が嫌気されたからだ。

尹政権はこれまで、検察官のほか、尹氏の学歴である「ソウル大卒」の人物、「MBライン」と呼ばれる李明博(イ・ミョンバク)政権当時の幹部らを次々に起用してきた。

極めつけが、妻の金建希(キム・ゴンヒ)女史の「特別扱い」疑惑だ。尹氏は1月、金女史がからむ株価操作疑惑事件を捜査する特別検察官任命法案に再議要求権(拒否権)を行使した。昨年11月には金女史がブランド品のバッグを受け取る隠し撮り映像がYouTubeで公開されたが、尹氏は直接の謝罪を避けた。

乱高下する支持率
ところが選挙戦中盤で、保守陣営が息を吹き返した時期もあった。(中略)一つは共に民主党の公認候補選びを巡る混乱だ。(中略) もう一つの事情は、尹錫悦政権が2月6日に発表した大学医学部定員の大幅増員政策だ。(中略)有権者は「医師の不正義」をなじる尹政権の医療改革を拍手喝采して迎え、支持率が上向いた。

「不公平」に再び焦点
そしてさらに、選挙終盤になると保守陣営の支持が再び急降下した。(中略)これは、尹政権の「不公平」に再び焦点が当たった結果だった。

尹政権は、職権乱用の疑いで捜査を受けている李鍾燮(イ・ジョンソプ)前国防相を駐オーストラリア大使に就任させたため、「捜査逃れだ」という批判を浴びた。李氏は結局、大使を辞任した。

3月には、元KBS記者で、大統領室の黄相武(ファン・サンム)市民社会首席秘書官が舌禍事件を起こして辞任した。尹氏が側近を特別扱いする姿が「長ネギ事件」もあって市民の怒りを買い、「KAIST強制退場事件」で若者の反感を買う結果になった。

なぜ、40歳以下の世代は怒るのか
尹政権を悩ませているのが、比較的保守的な考えが多いとされる40歳以下の若い世代での不人気ぶりだ。(中略)40〜50代は1980年代の民主化闘争の記憶を残す世代で、ほぼ「進歩支持」を変えない世代という特徴がある。

韓国の40歳以下の世代は保守的とはいえ、その時々の「不正義」で怒り、支持層を変えるのだ。これが、韓国総選挙の期間中、保守と進歩の支持がたびたび変動した背景と言える。

では、なぜ、40歳以下の世代は怒るのか。ソウルに住む50代の男性は「それは、韓国の戦後の歴史と大きな関係がある」と語る。1960年代までの韓国は失業率の高い、世界の最貧国の一つだった。(中略)

韓国人が「漢江の奇跡」として世界に誇る経済成長は、朴正熙(パク・チョンヒ)政権の開発独裁とともに、個々人の「自分は良いから、せめて子供を貧困から脱出させたい」という強い思いから実現したとされる。

「こんなに努力したのに、こんな就職口しかないのか」
「貧困からの脱出」としての手段が教育だった。韓国統計庁によれば、韓国の高校生の1日当たりの平均勉強時間は8時間を超える。ほとんどの高校生が通う学院(塾)では「高校生活の3年間は(大学受験に励むため)お前たちの人生から削り取れ」と言われる。激烈な競争は大学に入っても続く。少しでも良い就職を勝ち取るため、「スペック」と呼ばれる付加価値をつけるために皆必死になる。

知人によれば、韓国企業が求めるTOEICの最低スコアが700点以上。ソウル勤務時代の2017年ごろに取材した大学生は「良い会社に入りたかったら、900点くらいとらないとだめです」と語っていた。

韓国統計庁によれば、15〜29歳の青年失業率は24年2月現在6.5%で、26万4000人の青年失業者がいる。この数値は24年3月時点での韓国全体の失業率2.6%の倍以上の数値だ。これは、「こんなに努力したのに、こんな就職口しかないのか」と怒る若い人々が多い結果だとされる。

政治家の娘の「不正入学」
だから、彼らは不公平な社会が許せない。今回の選挙で曺国氏が率いる祖国革新党が支持を集めたが、「既存の進歩派勢力が分裂しただけ。若い世代は見向きもしなかった」(韓国政界筋)という。曺国氏の娘が韓国の名門、高麗大学に入学する際、不正を働いたからだ。(中略)

この怒りは、大統領の妻としてセレブな生活を楽しむばかりで、女性の権利向上には動かない金建希夫人、自分たちの権利を守ることに汲々とする(ように見える)医師たち、自分の逮捕を免れるために党を私物化する李在明氏、大統領と親しいというだけで、専門分野でもない駐オーストラリア大使や大統領室市民社会首席秘書官に就任してしまう尹氏の側近たちに向かった。

一方、前出のソウルに住む50代の男性は、アングリーピープルの特徴の一つとして「若くて社会経験が浅いうえ、SNSを使いこなすため、直情的・爆発的に行動する傾向がある」と語る。これが、その都度の社会的な話題ごとに、支持する政党がコロコロ変わった理由なのだという。(後略)【4月12日 牧野愛博氏 文春オンライン】
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【「漢江の奇跡」「貧困からの脱出」の原動力となった「教育」への思いが、韓国社会の「少子化」という大きな負担に】
「漢江の奇跡」「貧困からの脱出」の原動力となった「教育」への思いが、今韓国社会に大きな負担となっています。
「人口減少で地球から消滅する最初の国」とも評される韓国の「少子化」の最大原因は教育負担(教育に対する強迫観念を含めて)であると言われています。

****小学生が医大へ向け猛勉強、世帯月収の4割が教育費…出生率0.72人という「超少子化」を招いた韓国の「私教育問題」****
(中略)韓国で深刻な社会問題と化しているのが「超少子化」である。このままでは国家そのものが消滅すると指摘される中、その原因とされるのが過熱する教育問題だ。韓国で何が起きているのか。(

世界でも類を見ない韓国の超少子化現象
 韓国統計庁が発表した2023年の韓国の合計出生率(暫定集計)は0.72人、出生児数は初めて23万人台に落ちこんだ。直近の23年第4四半期(10月-12月)だけを見ると、韓国の出生率は0.65人で、軍事侵攻されているウクライナの0.7人よりも低い数字となっている。世界で類例のない韓国の超少子化現象に対して、海外ですら「国家消滅の危険性」を指摘しているが、韓国政府としては解決策が見いだせていない状況だ。(中略)

世界でも類を見ない韓国の超少子化現象は、国際的な関心事となっている。すでに2006年の国連の人口フォーラムで「韓国は少子化で地球上から消える最初の国家」と名指しした世界的な人口学者、オックスフォード大学のデービッド・コールマン名誉教授は、23年に訪韓した席で「韓国は2750年に国家消滅の危険にさらされる」と再度警告した。米ニューヨークタイムズ誌は、「韓国の人口減少速度が過去にペストが蔓延していた中世ヨーロッパより速い」と分析した。

子供が親を恨むのではないか
ペストによる人口減少に比肩する自国の超少子化現象について、韓国の多くの専門家は、過度な「競争圧力」によって若い世代が未来に対する不安を感じるのが最大の原因だと指摘する。就職難による雇用不安や高い住宅価格上昇による住まいへの不安、そして子育てに寛容でない企業文化、行き過ぎた教育費などが挙げられるだろう。
 
中でも、一般国民は子供の教育への負担感を強く感じていることが分かった。最近、保健福祉部は子供を産まないと決めた青年世代の夫婦を対象に「ファミリーストーミング(ファミリ+ブレーンストーミング)」という意見聴衆を実施しているが、この場で教育への懸念が集中的に語られている。

会議に出席した若い夫婦の口からは、「1歳の誕生日パーティーで子供が歩いているかどうかから始まって、どこの学校に通っているかとか、職場はどうなったかとか、長期間にわたってほかの子と比較し続ける。その無限競争に親として参戦する自信がない」「入試戦争が不安でしょうがない」「わが子が学校でめげないようにと、無理してでも、学校への送り迎えのための外車を買う友人もたくさんいる」「他の人のように子供に投資できないようなら、子供が親を恨むのではないかと心配だ」など、容赦のない本音が飛び出した。
 
ソウル市の江南区大峙洞はこのような「わが子を成功へと導かなければならない」という韓国の親たちの強迫観念が集結した場所といっていいだろう。韓国では学校などで実施する「公教育」に対し、私設の塾などによる教育を「私教育」と呼ぶ。この大峙洞は3.53平方キロメートルほどの狭い面積の中に実に1000以上の塾が密集する塾街として有名だ。

大峙洞キッズたちのロイヤルロード
大峙洞の名門塾には全国各地から受験生が集まるため、大峙洞の名門塾入試のための勉強を教える「セキ(セキとは子という意味)塾」も登場した。自分の体重の3分の1にもなる重いカバンを背負って塾を転々とする小学生や、大学受験対策を始めなければならない中学生、夜明けまで眠れないほど不法な授業を受けなければならない高校生たちはここ大峙洞の主人公で、いわゆる「大峙洞キッズ」と呼ばれる存在だ。

近年、大峙洞の塾では小学生を対象にした「大学医学部入試準備クラス」が旋風ともいえる人気を呼んでいる。小学生医学部クラスでは小学校3年生の時から高校の数学課程の微積分を教える。中でも英語専門の幼稚園から小学校医大入試クラス(塾)を経て自私高(自立型私立高校、名門大学進学率の高い超難関高校)に入学する進学コースは、大学医学部を目標とする大峙洞キッズたちのロイヤルロードだという。

ソウル市江西区に居住するキム・ヨンウン氏は、中学校3年生の長男の塾通学のために、この大峙洞への短期間の引っ越しを検討している。学校で成績トップという彼女の長男は現在の自宅近くの最も大きな塾街である木洞で3つの塾に通っているが、夏休みを利用して大峙洞塾の集中講義を受けることを考えている。

「平日は木洞の塾に通って、週末だけ大峙洞にある塾に通っています。大峙洞までは往復2時間近くかかるので、毎回車で送り迎えする主人も大変ですが、息子がとても疲れていて……。今度の夏休みには大峙洞で集中コースを受けなければならないので、家から通うより塾の近くの部屋を借りて住むようにしたほうがいいと考えています」(キム氏)

老後の準備ができない
大峙洞の塾街の不動産屋はキム氏のように子供の塾のために引っ越しをしようとする教育ママたちが行列をなしている。特に夏休みと冬休みには1ヶ月から3ヶ月の超短期契約が急増する。ここで不動産屋を運営するパク氏によると、超短期契約の賃貸料は一般的な賃料より、50%も高いのに物件が足りないくらいだという。(中略)

ごく普通の共働き夫婦であるキム氏の家庭は、1ヶ月の世帯収入1000万ウォン(約110万円)のうち、4割程度が2人の子供の教育費に消えてしまう。キム氏が続ける。

「各種の塾代をはじめ、子供たちが学校でくじけないよう、息抜きとして休みのたびに海外旅行も行かなければならないなど、絶えずお金がかかります。子供の教育のおかげで貯金など老後の準備は全然できていません」

少子化で学生数が急減している韓国。かたや、私教育費はむしろ着実に右肩上がりとなり、21年以降、毎年、過去最高を更新している。尹錫悦政権は、私教育費の節減のため「塾など、学校の授業外で学ぶような内容を入試問題に出題することを禁止する」という「キラー問題排除案」を発表した。しかし、効果は薄く、23年度の私教育市場は前年比で4.5%の成長を見せ、市場規模で27兆1000億ウォン(約2兆9800億円)に達した。

「少子化」の呪いから逃れるためには
韓国経済人協会は少子化現象の約26%が私教育費増加に起因するという分析結果を出した。さらに、住宅価格より私教育費が少子化問題に対し、2〜3倍もの影響を及ぼすという調査結果まである。韓国の私教育が少子化の根本原因として名指しされているのだ。

歴代政権も過度な私教育ブームを鎮めるために学校などの公教育を強化する各種政策を展開したものの、国民の公教育に対する不信はなかなか消えない。

韓国を国家消滅に導く「少子化」の呪いから逃れるためにも、私教育に過度に依存している韓国の教育文化が変わっていかなければならないだろう。だが、多くの国民が「学歴こそ無限競争社会を勝ち抜く最高の武器」と信じている限り、解決が容易ではないのも、また事実なのである。【4月16日 金敬哲氏 デイリー新潮】
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小学校3年生の時から高校の数学課程の微積分・・・息抜きとして休みのたびに海外旅行・・・良い会社に入りたかったら、TOEIC900点・・・・客観的に見たら異常ですが、渦中にいる者にとっては頑張るしかないというのが現実です。

そんな非人間的とも言える過酷な競争を勝ち抜いて医師になった若者が、その医師の特権を揺るがすような定員増に憤るのもわかるものがあります。「不正入学」に憤るのも当然でしょう。

“小中高生が習い事に費やした金額は3年連続で過去最高を更新。小中高生のおよそ8割が習い事に通い、高校生1人当たりの出費は月平均でおよそ8万2000円。(2023年 中学生は約6万6000円、小学生は約5万円)韓国では収入より教育費の支出が上回る「エデュプア(教育貧困層)」という言葉も広がっています。

しかし、今、韓国の4年制大学に通う学生の就職率は6割ほどであり、3人に1人は就職できない状況だといいます。”【4月14日 テレ朝news】

【厳しい現実のなかで若者の人生観に大きな変化 その結果としての「少子化」加速】
「子供を生まない」「結婚しない」というのもそうした現実への対応です。

****「人口減少で地球から消滅する最初の国」 “非婚手当”も 韓国で何が起きている****
(中略)こうしたなか、若者の人生観に大きな変化が生まれていました。実際に韓国の若者に結婚観や、子どもの有無の希望について聞いてみると。

韓国の若者
「子どもを持つのもいいですが、それよりも2人で旅行したりして、2人の人生に集中したいです」
「私は結婚しなくても、自分の家族がいればいいですよ」
「子どもを持つと経済的に大変です。住居費も高いし、教育費もたくさんかかりますから」
「子どもは欲しいけど、経済的キャリアを考えたら厳しいかなと思います。韓国では正直難しいと思いますね。特に女性は。子ども生んだら女性が育てないといけないという認識があるので…」
「結婚して子どもがいれば幸せそうですが、子どもを生んだら、韓国で育てたいとは全く思いません。あまりに競争が激しい環境のなかでストレスを多く受けました。学生時代に戻りたいかと聞かれたら、私は『絶対に嫌だ』と答えます。そんな思いを子どもにはさせたくありません」

韓国経済と社会に詳しい亜細亜大学の金明中(キムミョンジュン)特任准教授は、出生率を改善するためには、従来の経済支援と競争社会の見直しのほか、男女間の意識改革が重要だと話します。

亜細亜大学 金明中特任准教授
「国の経済的な支援というのが 『子育て世代に偏っている』。これは日本も韓国も同じ。ただ(この世代への)経済的な支援だけでは大きな効果を得ることは難しい。日本も韓国も『性別役割分担意識』が残っている。これも少子化にかなりマイナスの影響を与えている。この部分をだんだん意識改革する。改善する必要がある」【4月14日 テレ朝news】
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【「漢江の奇跡」「貧困からの脱出」を可能にしたのも「少子化」であったが、「人口の配当」期間を終えると・・・】
「教育」が「漢江の奇跡」「貧困からの脱出」の原動力となったと、また、現在の最大の問題が「少子化」にあると再三にわたり述べていますが、客観的に分析すれば、「家族計画」による出生率抑制・「少子化」こそが「人口ボーナス」となって「漢江の奇跡」を可能にしました。

しかし、少子化のもたらす「人口の配当」をもらえる期間がすぎると、少子化の悲惨な結末も。

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人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる「唯一の現実的な方法」とは?****
(中略)
「人口の配当」が成長を後押し
出生率の低下は、人口統計学者が「人口の配当」と呼ぶものを介して、特定の状況下ではプラスの効果をもたらす可能性がある。
人口の配当は、出生率の低下によって国民の年齢構成が変化し、生産年齢の人口が増え、生産労働に寄与しない年少者と高齢者の割合が減って、その国の経済が加速度的に増加することで得られる。

実際、過去の出生率低下は韓国を非常に貧しい国から非常に豊かな国へと変貌させるのに役立った。韓国の少子化が始まった60年代は、政府が計画的な経済開発に着手し、家族計画を採用して人口の調整に乗り出した時期と重なっている。

当時の韓国は朝鮮戦争の後遺症で、経済も社会も疲弊していた。実際、50年代後半の韓国は世界で最も貧しい国の1つであり、61年の時点でも国民1人当たりGNPは約82ドルにすぎなかった。
だが韓国政府が経済開発5カ年計画を導入した62年から、劇的な経済成長が始まった。

重要なのは、政府が国の出生率を下げるために積極的な家族計画を導入したことだ。そこには、既婚男女の45%に避妊の知識と手段を提供するという目標も含まれていた(当時の韓国ではほとんど避妊が行われていなかった)。
家族計画の普及は少子化に拍車をかけた。多くの夫婦が、子供を産む数を減らせば家族の生活水準が向上することを理解したからだ。

経済政策と家族計画が両輪となって、韓国は出生率の高い国から低い国へと変身を遂げた。結果として、総人口に占める従属人口(年少者と高齢者)の割合は生産年齢人口に比べて減少した。こうした人口動態の変化は経済成長の起爆剤となり、それは90年代半ばまで続いた。生産性の向上と労働力の増加、失業率の緩やかな減少が相まって、GDPの成長率は年6~10%の高水準で推移していた。

おかげで今の韓国は世界有数の豊かな国となり、国民1人当たりGDPは3万5000ドルに上る。

韓国が貧しい国から豊かな国へと変貌を遂げたのは、少子化のもたらす「人口の配当」によるところが大きい。だが、この配当をもらえる期間は限られている。その期間を越えて少子化が続けば、その国には往々にして悲惨な結果が待っている。(後略)【4月16日 Newsweek】
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上記記事は解決策として“韓国がこの状況を好転させる唯一の現実的な方法は、移民を大幅に増やすことだ”と指摘しています。
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ミャンマー国軍  「アラカン軍」との戦いにロヒンギャを「盾」として利用 両者の対立を利用

2024-04-15 23:04:06 | ミャンマー

(バングラデシュ領に逃げ、投降したミャンマー国軍の兵士。国境管理が強まり、難民としてロヒンギャが避難することの妨げになっている(現地SNSから)【4月15日 デイリー新潮】

【重層的な差別の構図 ラカイン族とロヒンギャの対立を利用する国軍】
もとより戦争は「殺し合い」ですから、そこに「正義」とか「公正さ」を求める筋合いのものではない・・・とは思うものの、それでも「えげつないな・・・」と感じてしまうことも。

ミャンマー情勢については1週間まえの4月8日ブログ“ミャンマー  首都でも国境地帯でも厳しい状況が報じられる国軍”で取り上げたばかりですが、現在の“主戦場”のひとつとなっているのが西部ラカイン州における少数民族武装勢力「アラカン軍」と国軍の戦いです。

アラカン軍(AA)は、(ミャンマー全体では少数民族ですが)ラカイン州海岸部で多数派である仏教徒ラカイン族(アラカン族)の主権回復を闘争目的とする武装組織です。

そのラカイン州は、イスラム教徒の少数民族ロヒンギャが多く暮らす地域で、国軍とその協力者により民族浄化的な迫害が行われる地域でもあります。

ラカイン族(アラカン族)は多数派ビルマ族からは少数派として差別を受ける一方で、更に劣後する状況にあるイスラム教徒ロヒンギャに対してはこれを差別する側でもあります。ラカイン族とロヒンギャの間には対立・憎しみがあります。

こうした差別される者が、更に弱い立場の者を差別する差別の重層構造は珍しくはありませんが、ラカイン州の状況もそのひとつです。

戦闘で劣勢にたたされ、兵員不足を補うために徴兵実施に踏み出した国軍は、この差別の構造を利用して、無国籍状態に置かれているロヒンギャを兵員に取り込み、アラカン軍との戦いにおける使い捨ての盾のように利用しているとの情報があります。

****ミャンマー兵にされるロヒンギャの悲劇… 嘘つき「国軍」の酷すぎる所業とは****
2021年に国軍が起こしたクーデターによって、緊張状態がつづくミャンマー。今、国軍は、国籍がないロヒンギャを兵士にして、戦闘の前線に送りはじめている。

ミャンマー西部のラカイン州に暮らすロヒンギャは50万人とも60万人ともいわれている。

ラカイン州を中心に暮らすベンガル系イスラム教徒のロヒンギャは、国軍による迫害から逃れるために、2017年に多くの人々が隣国バングラデシュに避難した。

いまでも100万人を超える人々が、バングラデシュ南部の難民キャンプに収容されている。彼らが置かれている現況は「2017年のときよりひどい」といわれる。

利用される対立の構図
今回のクーデターでは、国民の多くが国軍に反発し、少数民族の武装組織も反旗を翻した。ミャンマーは半ば内戦状態に陥っているが、とくに戦闘が激しいのはラカイン州で、地元の少数民族軍であるアラカン軍と国軍が衝突している。ロヒンギャはその戦闘の盾のように使われている可能性が高い。

ラカイン州の民族地図は錯綜している。土地問題などをめぐり、ラカイン族とロヒンギャは長く対立してきた。その両派を、ビルマ族を中心にしたミャンマー国軍が武力で抑え込む構図ができあがっていた。

アラカン軍との戦闘で劣勢に立たされている国軍の兵力不足は深刻で、それを補う目的で、国軍はロヒンギャを戦闘に駆り立てはじめている。ラカイン族とロヒンギャの対立を利用しようとしているわけだ。

現地は電話、ネットなどの通信環境が遮断されている。強制的に国軍兵士に仕立てられたロヒンギャの数の把握は難しいが、少なくとも1,000人、1万人を超えているという人もいる。

国籍、弔慰金も「嘘」
国軍はロヒンギャに対し、国軍の兵士になれば国籍を与えるといって勧誘していると,もいわれる。しかし、在日ビルマロヒンギャ協会のアドバイザー、アウンティンさん(55)は、「真っ赤な嘘。国籍をもらったというロヒンギャはひとりもいない」と語る。

犠牲者は増えている。3月初旬には、ラカイン州の州都シットウェ近くで100人を超えるロヒンギャが連行され、国軍の基地に送られた。

それから1週間もたたない3月13日、97人の遺体がロヒンギャの元へ届けられた。国軍の船に乗せられ、前線に向かう途中でアラカン軍の襲撃を受けたと説明された。国軍は遺族に100万チャット(約7万円)と米2袋を渡すと通知したという。

あまりに少ないが、これにも前出のアウンティンさんは憤りを隠せない。「これも国軍の嘘。遺族の誰ももらっていませんよ」

さらに3月14日には、国軍基地内で7人のロヒンギャが死亡した。国軍は訓練中に地雷が爆発したと説明していた。しかしその後、基地から逃げようとしたロヒンギャを国軍が殺害したことがわかってきた。

国境管理が厳重に
ラカイン州ではアラカン軍の攻勢がつづいている。ほぼ半分はアラカン軍の支配エリアになったという。毎日のように、「アラカン軍がミンビアにある国軍基地を占領」といった情報が入る。国軍と対立してきたラカイン人の意気はあがる。

しかしこの戦況も、ロヒンギャを追い込めることになっている。アラカン軍に追われた国軍兵士は、隣国のインドとバングラデシュに越境し、投降するケースが後をたたない。

結果、インドとバングラデシュは国境管理をより強めている。ロヒンギャは難民としてバングラデシュに向かうことが難しくなってきているのだ。

ロヒンギャはガザ地区のパレスチナ人のようにラカイン州に閉じ込められ、国軍の暴挙におびえている。【4月15日 下川裕治氏 デイリー新潮】
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国軍は「国籍のない者は徴兵していない」としていますが、夜中に国軍が村に来て徴兵に適した若者を探し出し、30人以上を連れていった・・・といったロヒンギャ住民の証言なども報じられています。

イギリスに拠点を置く人権団体「ビルマ・ロヒンギャ協会」は2月28日の声明で、「ロヒンギャは国軍に『人間の盾』にされ、結果的にアラカン軍(AA)の攻撃の標的にされている」と主張しています。

【苦戦が続く国軍 貧困が深刻化する経済危機】
戦況については、国軍の劣勢が続いているようです。南東部カイン州では国境貿易の要衝が少数民族武装勢力の手に落ちています。

****少数民族武装勢力が“国境貿易の要衝”にある軍拠点占拠と発表 ミャンマー****
ミャンマー南東部の少数民族武装勢力は11日、国境貿易の要衝ミャワディにある軍の拠点を占拠したと発表しました。地元メディアは、首都の空軍基地も複数の砲撃を受けたと報じていて、軍の支配力が低下しています。

ミャンマー南東部カイン州の少数民族武装勢力「カレン民族同盟」は、ミャワディにある軍の最後の拠点を占拠し、武器を押収したと発表しました。

ミャワディをめぐっては、軍が今月、隣国のタイ政府に対し、タイ側に逃れた軍関係者を帰国させるために特別チャーター便の運航許可を求める事態となっていました。

また、地元メディアは11日、首都ネピドーにある空軍基地が複数の砲撃を受け、死傷者が出たと報じました。ネピドーの軍事施設は今月4日にも無人機で攻撃を受けています。

ミャンマーでは、去年10月に少数民族武装勢力が一斉蜂起して以降、軍は各地で拠点を奪われるなど支配力が低下しています。【4月11日 日テレNEWS】
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国軍兵士・関係者が国境を超えて逃げ込んでいるタイではセター首が7日、ミャンマー国軍が弱体化しつつあるとし、今こそ協議を開始する好機との見方を示しています。

****ミャンマー紛争、タイは中立維持 避難民受け入れの用意=外相****
タイのパーンプリー外相は9日、ミャンマーの紛争でタイは中立を維持しているとし、混乱によって住居を追われた最大10万人の人々を受け入れる用意があると表明した。

ミャンマーの紛争激化を協議する閣議に先立ち、対立する両勢力に和平協議に参加するよう促した。

また、セター首相はこの日、「ミャンマー情勢はタイにとって極めて重要だ」とソーシャルメディアXに投稿し、政府は平和と安定のためにあらゆる関係者の協力を推進する用意があると述べた。

セター氏はこのほど行われたロイターとのインタビューで、2021年のクーデターで政権を掌握したミャンマー国軍が弱体化しつつあるとし、協議を開始する好機と述べていた。【4月9日 ロイター】
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内戦の混乱のなか、市民生活は困窮しています。

****ミャンマー貧困率、50%に急増 国連報告、経済危機続く****
国連開発計画(UNDP)は11日、ミャンマーの経済状況に関する報告書を公表し、2017年に24.8%だった貧困率が23年には49.7%に急増したと明らかにした。

21年2月の国軍によるクーデター以降、危機が続いていると指摘。「中間層が消えつつある」として年間推定40億ドル(約6100億円)の支援が必要だと各国に呼びかけた。

報告書は約1万3千世帯への調査をまとめた。貧困を抜け出して安定した収入を得られているのは、人口の25%に満たないと指摘。多くの家庭で医療費や教育費などを削減して日々の生活をしのいでいると分析した。【4月11日 共同】
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この一点をもってしても国軍による統治は失敗していると言え、すみやかに政権の座から去るべきでしょう。
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