2018年の税制改正による恩恵と影響 | 米国公認会計士のフィリピン税金や法律のあれこれ

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こんにちは、米国公認会計士の橋本です。

 

今日は、2018年にフィリピンにおいて税制改革が行われましたが、それによる恩恵と影響についてお話ししたいと思います。

 

 2018年の税制改革(TRAIN-LAW)では主に所得税改革がテーマとして取り上げられました。これは低賃金労働者の声を反映した政策の一環だと思いますが、低所得者層向けに税金がかかる最低賃金が引き上げられました。それにより2017年度とくらべて賃金労働者が支払う税金が格段に安くなっています。その代わり扶養控除といった人的控除が撤廃され、家族構成による税金の不均衡がなくなったことによる税率低減幅が緩和されています。この政策により大多数の労働者が減税効果の受益者となりますから、多数の労働者がこの税制改革を支持しています。

 

 しかし、政府がその次に考えるのは、所得税減税により落ち込んだ税収をどこかで穴埋めしなければならないということです。この考え方は万国共通だと思います。

 

 例えば日本では法人税が段階的に引き下げられつつありますが、その税収の落ち込みをカバーするために、今年の10月から消費税が8%から10%になることは良く知られていますが、その他個人所得税の老年者控除の廃止、扶養控除適用年齢幅の縮小、配偶者特別控除の縮小、たばこ税や酒税の増税などが挙げられます。

 

 またマレーシアでは消費税(Goods  and Service Tax)が2018年6月に6%から0%に引き下げられましたが、その税収の落ち込みをカバーするために新しく売上税(Sale and Service Tax)が導入されています.。 Sales Taxは生産者が販売したときにかかる税金ですが、2次流通時にはこの税金は不可されないので実質的には消費税が廃止されたように錯覚させる効果があります。そしてService Taxはレストランやゴルフ場利用などのサービスを受けた時に6%がかかりますので、実質的に消費税の消費者負担は変わっていません。そのほか、不動産譲渡税(企業や外国人)が5%から10%に引き上げられ、2019年6月からは出国税なる税金も徴収されます。

 

 フィリピンでも同様に個人所得税の減税と引き換えに印紙税や利息にかかる源泉徴収税率が引き上げられています。またガソリン税などの引き上げが行われており、バスやタクシーなどの交通機関の運営を圧迫する事態となっていて、運転手組合による税制改正反対のデモが連日行われています。また法人税率の段階的引き下げも視野に税制改革第二弾が計画されていますが、それと引き換えにPEZAなどの経済特区への税制優遇の撤廃が進められようとしています。

 

 税金の増減は市民生活に多大な影響があるだけでなく、政府の歳入と表裏一体の関係にあるため、一つの法改正により影響を受ける政府機関や市民が大勢いるということを意識しなければなりません。歳入増加により政府支出を増加させることができますが、市民生活を脅かすリスクもはらんでいます。そのバランスの上に成り立っているということを常に意識しておく必要があろうかと思います。

 

 フィリピンも他の東南アジア所得と同様にグローバル経済の流れに逆らうことはできません。ある国が外国投資の誘致に成功して発展する陰でその他の国は社会の潮流から取り残される可能性がありますが、外国投資を誘致するための競争を意識するあまり極端に税率を下げてしまうと政府財政が破綻の危機に陥ります。フィリピンの通貨はドルや円と比べようもなくマイナーな通貨であり、以前の東南アジアの通貨危機を自身のことのように深刻に考えていて、自国通貨の投げ売りや暴落或いは海外流出を防ぐ通貨プロテクトをかけています。それが現在の外国投資規制へとつながっています。 自国通貨の状態を意識しつつ、外国投資を誘致するため或いは市民の声を政策に反映して発展を維持するための難しいかじ取りを迫られています。 そんな中で、恩恵を受ける市民もいれば、増税に苦しめられる人々もいることを痛感しています。

 

 日本もまた長引く経済の低迷に苦しんでいますが、それはどの国に行っても政府や市民は同じような悩みや苦しみを抱えていることを知っていただければと思います。ただ同じような苦しみを経験しているのであれば、そこからお互いの国や人々が共通の目的をもって協力できることもあるのではと思います。

 

 相互協力によりお互いが発展の道を見つけていってくれることを願うばかりです。

 

 今日はこの辺で失礼いたします。