3回めの妊娠(6)
赤ちゃんが出てくる夢を見る
前提として、わたしは身近に赤ちゃんがいたことがないので赤ちゃんの存在をあまり意識したことがなく、たぶんそのせいで人生において「赤ちゃんが出てくる夢」というのを全く見たことがありませんでした。馴染みがないといえば呪いの市松人形に追いかけられる夢とかは見たことがあるけれど……。
それなのに妊娠中に赤ちゃんの夢を見るようになったのは、やっぱり心に不安や期待が渦巻いているからなんでしょう。
はじめての妊娠で流産の診断を受ける前日に、印象的な夢を見ました。
いつものように病院へ行くと、お医者さんがエコーで「顔が見えますよ」と赤ちゃんの顔を見せてくれるという夢。
そのときは「誰にも似てないなあ〜」と夢のなかで思いましたし、異所性妊娠の疑いがあって不安な時期でしたが、起きたときに満たされたような失ったような落ち着きどころのない気持ちになったのを覚えています。
そして2回めの妊娠でも、赤ちゃんが出てくる夢を見ました。
うちのリビングで、ケタケタと笑い声を立てながらよちよちと赤ちゃんが歩いてくる夢。その子を抱き上げてみると、心の底から「かわいい」という気持ちがこみ上げてくるのがわかりました。
わたしは赤ちゃんを抱っこしたことが現実では1回もないので、夢のなかでのあったかくて少し湿ったような背中の感触が不思議でした。
しかし次の日の夜に出血して、稽留流産。
でも流産が確定したときにあまり悲しくなかったのは、「ああ、この赤ちゃんは夢で見たようにうちのリビングを駆け回りたいから、そのために今回はちょっと仕切り直したのかもしれないなあ」という気持ちがあったからです。
勝手な思いかもしれませんが、なんとなく意思の疎通ができたような気がしていました。
それでわたしにとって「赤ちゃんが出てくる夢」は意味のあるもののように感じ始めて、そして稽留流産の手術を終えた日の夜。
また赤ちゃんの夢を見たのですが、内容が……。
生まれてみたら「なんか赤ちゃんの肌色が黒い」。
明らかに人種が……人種が違う。
病院のスタッフも慌てていてお医者さんも「どういうこと」とか言って気まずい空気が流れているし、夢のなかでしたが「えっ、心当たりは本当にないんだけど……」とわたしも戸惑っていると、立ち会いをしていた夫が「先祖返りかなあ、人間の祖先はアフリカだしねえ」と一言。
それでまったく自分たちに似ていない赤ちゃんでしたが「先祖返り」ということで解決し、一緒に家に帰って夫婦で責任もって育てることにしました。
しかし次の日、目が覚めると隣に寝かせていた赤ちゃんはワークアウトしてスタバに寄ってから会社に行きそうな、たいそうお尻の立派な黒人女性に育っていて、彼女はレンガ造りの小さなドームだった我が家の壁をパンチひと突きで破壊して、わたしたちを一瞥することもなくセントラルパークへジョギングに巣立っていきました。
夫と「なんかもっと一緒に過ごしたかったね、子育てこれで終了かあ」「いやぁ、巣立つのが早かったなあ」と家に空いた穴を見つめながらボーッと会話しているところで目が覚めました。
起きてからしばらくは、あまりの夢のインパクトに呆然としていました……。
そしてそんな夢のことも忘れた数ヶ月後、3回めのおめでたになりました。
妊娠初期の時期は今までの流産のことが頭をよぎり、不安な日々を過ごしていました。
そんななか、8週の頃にまた可愛い赤ちゃんを腕に抱いている夢を見てしまって。
「ああ、またこの夢でお別れをしてしまうんだ」
起きてすぐ夫に「今まで赤ちゃんの夢を見るたび流産してしまった。また夢を見ちゃった」と言いました。
夫が「心配なら病院行ってエコーを見てもらってきたらいいよ」と落ち着かせてくれて、健診の日ではないけれど病院に行こうかなと考えているうち。
ふと頭をよぎったのが誰だったんだかわからん、あの夢のなかの黒人女性。
ああそうだ、夢は夢だ。
そう思うと急にたかが夢ごときで不安になって泣きそうな自分がアホらしくなって、ストンと恐怖心がなくなりました。
ということで病院にも緊急受診はせず、ゆったりと次の健診日まで過ごすことができました。健診のエコーで見た赤ちゃんはもちろん無事で、元気にピコピコ動いていました。
今後もまた夢の内容で不安になるようなことがあったら、1日だけわたしたち夫婦の家にいた彼女のことを思い出して、自分のなかの恐怖心や不安に動じることなく強くありたいと思っています。
ありがとう夢の黒人女性。
でも……ほんと誰だったんだい。
▼3回めのおめでた生活はつづく
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