私は広島県北部の城下町の生まれだが、なば汁という郷土料理がある。
「なば」とは方言できのこのこと。
つまり「なばじる」とはきのこ汁のことだ。
私が子供の頃、秋になると周囲の山ではいろんなきのこが採れた。
松茸などは別として、「雑なば」と総称される市場価値の殆どないきのこ類は、自由に取っても咎められることはなかった。
子どもたちは遊びを兼ねて山に入り、いろんなきのこを採取した。
中には毒きのこもあるのだが、そういうことに詳しい子供がいて、それはダメだと教えてくれた。
採取したきのこは晩御飯のおかずになった。
そんなおかずの一つが「なばじる」というわけだ。
大柴小柴と呼ばれるきのこをはじめ、共通語ではなんと呼ぶのかよくわからない「なば」のたくさん入った醤油味の「なば汁」は私の大好物だった。
きのこの他に、豆腐、ほうれん草などがたっぷり入っていた。
家庭を持ってから、このなば汁が懐かしく、かみさんに言って再現を試みた。
しかし、何度作ってもらってもあの味が出ない。
あの懐かしいキノコたちを手に入れることは不可能。
市販のきのこの中ではしめじが一番近いような気がしてこれを使ったが、なば汁の味は出なかった。
きのこの他にどこが違うのだろう。
田舎に帰った折、母に頼んで懐かしい味を作ってもらった。
それを口にしたかみさんが
「鶏だわ」と思わず叫んだ。
「ああ、鶏が入っていたんだ」と私。
「まあ、あんたら、鶏を入れんこうに(入れないで)なばしる作りょうちゃったん(作っていたの)。そりゃあ、おいしゅうないわね。」
と、呆れ顔の母。
そうなんだ、私は材料として、きのこ、豆腐、ほうれん草を伝えていたがもう一つの重要な材料、鶏肉のこと忘れていた。
かくしてなば汁問題は解決。
それ以来、なば汁は我が家の定番料理となった。
本来秋の味だが、今は栽培されたきのこが一年中出回る。
鶏の旨味がたっぷり出た実だくさんの汁は、メインの料理があっさりしたもののときの副菜に打ってつけだ。
最近は「霜降りひらたけ」というきのこをよく利用する。
出始めの頃はそこそこ高級なきのこだったが、いまは手頃な値段で手に入る。
吸口にゆずを入れれば、一段と風味がアップする。
子供の頃の思い出の味には及ばないが、とても美味しい。
材料さえ揃えば簡単に作れるとカミさんが言っているので、みなさんもぜひ作ってみてください。
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