本日も簿記論ブログにお越し
いただき誠にありがとうございます。
初めましての方はこちらをお読みください。
5月に入り、いよいよゴールデンウィーク
となりましたね。
さて、今回の記事の内容です。
純銀、鉄、プラスチックなどの素材を
使って、同じプレス機械を使用すること
によりマグカップを製造している会社
についての話を書いています。
(前回の内容)
プレス機械を1回“ガッチャン”と
することで3種類のマグカップ
ができるので、一律の加工費
@2,000円を使った場合の
原価計算表は下記のとおりです。
【純銀マグカップ】
①直接材料費:10,000円
②加工費(予定配賦率):2,000円
③製造コスト(①+②):12,000円
【鉄マグカップ】
①直接材料費:3,000円
②加工費(予定配賦率):2,000円
③製造コスト(①+②):5,000円
【プラスチックカップ】
①直接材料費:50円
②加工費(予定配賦率):2,000円
③製造コスト(①+②):2,050円
この計算だと、プラスチック
のマグカップが高すぎて100均とか
に出せないので、問題となりました。
今回はこの続きです。
第4章:これならどうだ
B山君達は、その日、徹夜でプログラ
ミングを組み直す作業を行いました。
純銀であろうと、鉄であろうと、
プラスチックであろうと、
機械を1回“ガッチャン”とプレス
する加工費(予定配賦率)は同じ
でなければならない。
そのコンセプトは変えられません
でした。
そして、ついに以下の原価計算表
が出来上がったのです。
【純銀マグカップ】
①直接材料費:10,000円
②加工費(予定配賦率):40円
③製造コスト(①+②):10,040円
【鉄マグカップ】
①直接材料費:3,000円
②加工費(予定配賦率):40円
③製造コスト(①+②):3,040円
【プラスチックカップ】
①直接材料費:50円
②加工費(予定配賦率):40円
③製造コスト(①+②):90円
|
加工費の予定配賦率を一律@40円
としたので
これなら100円ショップ向けの
プラスチックのマグカップでも
利益が出るはずです。
修正された原価計算表に変更して
から、何もかもが順調でした。
E川営業部長はニコニコ顔です。
なにしろ、プラスチックだけでなく、
純銀のマグカップもかなりの安値で
受注できるようになったからです。
また、純銀のマグカップの製造コスト
が、最初の原価計算表による
15,000円から、
修正により10,040円にまで低下した
ので、工場の方でも最新鋭機械が
3種類のマグカップ生産に対応して、
フル稼働しているようです。
S田工場長が、生産ラインの自動化
で余った従業員を使って新たな生産
ラインの立ち上げに奔走している
という話も聞きました。
B山君達はようやく旨を撫で下ろす
ことができたのです。
ところが・・・
3月末の決算日を過ぎて数日後、
経理部長のY氏が眉間に青筋立てて、
システム開発部にやってきました。
「お前たちは、
A製作所をつぶすつもりかっ!!」
Y部長によると、2月までの月次決算
は黒字であったものの、当期1年間の
本決算を組んでみたら一転して
巨額の赤字になったそうです。
その原因を調べたところ、
年度末の決算整理で、「操業度差異」
が一気に噴き出したためであること
が判明しました。
これは、加工費の予定配賦率を@40円
と低く設定してしまったことが大本の
原因(つまり、基準操業度を多くした)
であることは一目瞭然です。
第5章:彼らが陥ったワナとは
結局、システム開発部では新しい
原価計算システムの運用を諦め、
旧原価計算表へと戻すことになりました。
「あ~あ、俺たちシステム・エンジニア
だけで原価計算システムなどに手を
出してはいけなかったんだなぁ。」
「ちゃんと、工業簿記・原価計算の
知識のある人(皆さんのことです)に
アドバイスを求めるべきだったんだよ」
「公認会計士やコンサルティングに
払う目先のコンサルティング料を
ケチったのがいけなかったのかな~」
今回の経験をしっかりと反省し、次の
原価計算システム構築に繋げる意欲に
燃える、開発部のメンバーたち。
さて、いままでのお話には、いくつかの
落とし穴があります。
まず、「プレス機械を1回“ガッチャン”と
操作するだけで、製品に配賦される加工費
が異なるのはおかしい」とする着眼点は
良かったのです。
問題は、純銀という高価な材料をプレス
加工する機械で、プラスチックのような
安価な材料もプレス加工することにあります。
いかに汎用型の機械といえども、
プラスチック加工にまで拡張しては
いけないのです。
これは原価計算システム云々という
よりは生産技術の問題です。
また、プラスチックにまで拡張する
ということは、純銀マグカップの
需要不足を見極めることができな
かったこと、
そして、生産設備購入の意思決定を
行った者の責任が問われるべきなの
です。
つまり、純銀マグカップは少量生産、
プラスチックマグカップは大量生産で
あり、そのいずれかに合わせれば、
操業度差異や過剰在庫の原因になる
わけです。
次に、加工費の予定配賦率を@40円
にまで引き下げたのはいいものの、
そこに操業度差異という概念
(簿記2級と1級のテキストで学習
しましたね!)を見つけ出すことが
できなかったのが彼らの最終的な
失敗でした。
これらに共通する問題点は、固定費に
対する考え方にあります。
原価を大きく分けると、変動費と固定費
に分類されましたね。
このうち、原価を計算する上でも、
原価管理上でも、もっとも関心を
注がなければならないのが固定費
なのです。
では、このことを理解するために
上記の金額をもとに簡単な計算例
で確認したいと思います。
3種類のマグカップを作る
プレス機械の減価償却費を6,000円
(加工費)とします。
この金額が予算額であり、この金額
をもとに予定配賦率を決めると
します。
このプレス機械で1回ガチャンと
プレスをかけ、純銀・鉄・プラス
チックの3種類のマグカップを
1個ずつ作る計画としましょう。
(これが基準操業度です)
3種類のマグカップに配賦される
減価償却費は次のようになります。
【純銀マグカップ】1個
②加工費(予定配賦率):2,000円
【鉄マグカップ】1個
②加工費(予定配賦率):2,000円
【プラスチックカップ】1個
②加工費(予定配賦率):2,000円
この計算が、B山君が最初に作った
原価計算表です。
この場合、減価償却費の配賦額は
合計の6,000円で、実際の発生額
も6,000円だとすると、両者の
間に配賦差異は生じません。
しかし、これではプラスチック
のマグカップを100均には納品
できませんね。高すぎます。
では、プラスチックのマグカップ
を100均に納品できる程度の
原価とするため、1個あたり
@40円と決めてしまい配賦したと
します。
【純銀マグカップ】
②加工費(予定配賦率):40円
【鉄マグカップ】
②加工費(予定配賦率):40円
【プラスチックカップ】
②加工費(予定配賦率):40円
うん。なんかいけそうですね。
なお、ここに工業簿記の観点を
いれると、
減価償却費勘定(加工費勘定)の
貸方に上記の合計で予定配賦額120円
が転記されることになりますね。
しかし、減価償却費の実際発生額
は6,000円です。
マグカップを何個生産しようとも
発生額は変わらない固定費です。
すると、工業簿記的には
減価償却費勘定(加工費勘定)の
借方に実際発生額6,000円が転記
されてくるわけですから、貸借差額
として5,880円が発生します。
そう。これが操業度差異であり、
固定費である減価償却費6,000円
の配賦不足を意味するわけです。
(6,000円発生しているのに
3つのマグカップに120円しか
配賦していません)
じゃあ、100均に納品できるよう
に、@40円にするためにはどう
すればよかったのでしょうか?
予定配賦率=予算額/基準操業度
で計算されますから、
分母の基準操業度を引き上げるしか
ないのです。
予算額6,000円/基準操業度X個
=@40円
X=150個
上記の計算から150個のマグカップ
を生産すれば、1個あたり40円の
負担でいけますね!
しかし、ここで問題が生じます。
この工場では、
プレス機械で1回ガチャンと
プレスをかけることで、純銀・鉄・
プラスチックの3種類のマグカップ
が作られるわけですから、
上記150個の内訳は3等分した
純銀:30個
鉄:30個
プラスチック:30個
となってしまうわけです。
そうすると、大量生産する
プラスチックのマグカップと
同様に、少量生産を前提とする
高級品としての純銀マグカップも
大量に生産しなければいけなく
なります。
う〜ん。これはどっちに合わせれば
いいのでしょうか?
こういう問題が起こってしまうのです。
ですので、設備投資の意思決定と
発生する固定費、そして需要見込み
と操業度見込みの見積もりは非常に
重要なんですね。
以上が今回の内容でした。
簿記2級や1級の工業簿記の勉強で
電卓叩いてとりあえず算定する
操業度差異の意味もこれで少しは
分かったでしょうか?
あなたの試験勉強のお役に立てれば
幸いです。
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