あの報告書は無意味?庶民に投資で資産形成をしろと促す狙いとは

死ぬまで働いて維持される年金制度

老後に2,000万円必要だから投資で貯めとけ」という金融庁の報告書が問題になり、一気に政局が盛り上がる情勢となった。選挙を控えて自民党は火消しに躍起になり、報告書は受け取らないだの存在しないだのと言って逃げている。

今週の19日に予定されている党首討論では、確実にこの問題がテーマになって論戦が交わされ、引き続いて参院選の争点として論議されることになるだろう。

10日にTBSの『報道1930』に出演した森永卓郎は、実際には2,000万円ではなく5,000万円が不足して必要だと解説していて、他の番組に出演した専門家からも、今後は年金支給額が減るから4,000万円は必要だという説明になっている。

森永卓郎によれば、最早、リタイアして老後に悠々自適の暮らしを送るという人生は庶民にはなく、80歳になっても、それを過ぎても、体が倒れるまで働き続けなければならず、保険料を払って制度を支える側に回らさせられるのだそうだ。それが、100年崩壊しない安心制度の意味なのだと言う。

 

想像するだに恐ろしい図だが、きわめてリアルな未来の真実であり、われわれの関心はしばらくこの問題から離れることはあるまい。

公務員だけはセーフ?

政府が選挙のために公表を控えているところの、5年に1度の『財政検証』の中身はどうなっているのか。

19日の党首討論の後、この問題がマスコミ報道で焦点となり、専門家たちがファイナンシャルな推計と予想を始め、10年後、20年後の年金制度の実態についてさらに具体的な像が描かれ、人々を戦慄させるに違いない。

森永卓郎の予想では、公務員だけがセーフであり、70歳退職でそれなりの年金を受け取ることができ、退職金と合わせてゆとりの老後生活ができる見込みだと言う。公務員については、70歳定年を間もなく制度化するだろうと言っていた。

民間については定年はなくなり、どこかで再雇用になって給料半分3分の1でずっと働くか、自分で新たな収入先を探すことになると言う。

退職金など期待できない

民間企業の退職金が年々減額傾向にある問題も指摘され、森永卓郎(61歳)の同期の友人たちが、いま深刻な状況に直面して困惑している件も紹介された。森永卓郎の同期だから東大経済学部を出た者たちである。2年前の卒業生の進路情報がネットにある。1980年に卒業・就職した、今や名だたる大企業の幹部たち。

 

東大経済学部卒の大企業の幹部たちが困惑しているのだから、中小企業に入った者たちの人生設計の破綻の程度はいかばかりだろうか。

 

「消費税増税が不可欠」と言いたかっただけ

そういう庶民に向かって、政府とマスコミは投資をやって資産形成をしろと言う。株の博打をやって儲けろと促している。

あの金融審議会の市場ワーキンググループの面々というのは、そうやって不安を煽り、政府と一緒になって庶民を口車に乗せ、庶民から金銭を巻き上げて賭場にぶち込んで溶かす胴元たちだ。

 

そういう証券会社の者たちを、マスコミはさも良識的な市場関係者として持ち上げて登場させ、報告書にはまともな内容が書いてあると宣伝している。

もともと麻生太郎氏が呼び集めた面々であり、この時期に発表することを麻生太郎氏が狙い、年金制度が破綻しないよう消費増税が必要であることを世間に強調し説得するために、いわば側面支援的な政治材料として、この報告書の作業は企画されたのだが、その真相についてマスコミは言わない。

投資など普通の庶民には不可能だ。年収200万や300万の人間には無理である。だから、基本的にこの報告書は無意味なものであり、政府が国民に示すものとして不適切なものだ。

にもかかわらず、あの報告書を打ち上げたのは、年金制度維持に消費増税が不可欠だと知らしめたかったからだ。

 

GDPを2倍にすれば解決する

となると、消費増税なしに社会保障を維持し、もっと豊かに充実させるべしと主張するわれわれの立場の者は、どうすればそれが可能なのか対案となる構想を打ち出す必要がある。年金を含めた社会保障の財源をどうするのか、それはどうやって作り出せるのか、具体的なエコノミクスの展望を示さなくてはいけない。

私は、日本のGDPを2倍にすることでそれが可能だという理論を持ち、その自説をずっと唱えてきた。欧州諸国が社会保障を維持できているのは、GDPを25年間で2倍にしてきたからで、税収を(保険料収入を)2倍にしてきたからだと。

GDPを1,000兆円にすれば、社会保障の財源不足で苦しむことはなくなり、年金給付を現在よりさらに増やし、国民の誰もがゆとりある老後生活を等しく送れるようになる。子どもも産むことができ、人口を健全に増やすことができる。

 

日本の公的年金制度は、GDPが世界の先進国と同程度に推移することを前提として設計されているもので、一国だけ成長を拒否する病気に陥り、30年間も「失われた」姿のまま停頓する姿を想定していない

 

日本はまるで成長していない

下図は藤井聡氏が作成し、三橋貴明氏がよく紹介するグラフである。この20年間で米国はGDPを2.3倍、英国は2.4倍、フランスは1.8倍、韓国は3.6倍に伸ばした。

出典:世界の全ての国・地域の名目GDPの推移図 – Facebook

出典:世界の全ての国・地域の名目GDPの推移図 – Facebook

例えば、試算すれば、1995年の日本のGDPは512兆円だが、もし他の国と同じように年平均3%の成長を遂げていれば、2015年には1.8倍の925兆円になっている。他の諸国が2倍になっているのに、日本だけがフラットなのが異常なのだ。

 

日本だけが経済規模を増やせていない

NHK-BSの『空港ピアノ』を見ていると、欧州の市民社会がかつてよりも格段に豊かになっている現状がよく分かる。25年間でGDPを2倍にしていて、経済拡大の果実を市民個々が得ていて、日本人と較べてゆとりある人生を送っている事実が伝わってくる。

同じ新自由主義の格差社会の矛盾と弊害に苦しんでいても、彼らは全体で経済を2倍に拡大させた中での矛盾と弊害であり、われわれは25年間成長なしの絶望と貧困である。

われわれは絶えざる生活水準の切り下げを耐えていて、銀座を闊歩する富裕中国人を横目に、歯噛みしながら日常を送っている。左翼学者の指導と訓告に従って、ユニクロを着て鍋をつついて、質素に清貧に暮らしている。

基本的に、少子高齢化についてはEU諸国も同じ条件だし、韓国も日本と悩みは同じだろう。リーマンショックの打撃と混乱も同じである。条件は同じだ。

 

条件は同じなのに日本だけが経済規模を増やせてない。

 

異常な緊縮病から脱却すべき

ここでもう1つ試算を示そう。レアな表計算の貼り付けで恐縮だが、最新の各国の1人当たりGDPを並べ、その数値をいわば1人当たりの「生産力」と仮定し、その国の国民の「生産力」を日本国民が持っていれば日本のGDPはどれだけになるのかを計算したものである。

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きわめて単純なシミュレーションだ。為替は1ドル110円。アイスランドに並んだときGDPは1,000兆円を越える。米国と並べば900兆円の線に近づく。豪州と並べば800兆円に届く。ドイツの水準で700兆円。ドイツ人は優秀で、ドイツ経済は立派だけれど、日本人がドイツ人に生産力で劣るということはあるまい。

 

まして、豪州や米国にどうしてこれほど差をつけられなければならないのか。不本意で不面目。要するに、異常な緊縮病、あるいは萎縮病を患っているとしか思えない。異常を異常だと自覚し、病患を正しく発見して治療し再生することが大事なのだ。

 

※本記事は有料メルマガ『世に倦む日日』2019年6月12日号の一部抜粋です。

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