「もうひとつのラスト」  第6話 | ノベルの森/アメブロ

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オリジナル小説、今はSF小説がメインです。今日からは「多次元文章世界」と題して、ノンフィクション(ショート・ショート含む)とエッセイを展開していきますのでどうぞ応援してください。

「もうひとつのラスト」は、市川拓司先生の原作「そのときは彼によろしく」の二次創作小説です。原作のラストのその後を想像して物語を書き始めました。



ぼくの方が年上なんだぞ、と言おうとしかけたが、何とか押さえ込み、丸めて飲み込んだ。・・・第5話
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もうひとつのラスト  第6話






それでも、赤面したのを悟られないように(この部屋の灯りは新しいだけあって、隣の部屋のそれより遥かに明るいのである)彼女を抱きしめようとした。

我ながら名案?だと思ったのだが、香瑠は僕のその手をすり抜けてキッチンに続く部屋に足を踏み入れて立ち止まった・・・何なんだそれは・・・多少ムッとしたが取りあえず目の前の壁に寄りかかり、足を交差してみた。

多分にぎこちなく見えただろうけれど、あのままだとまるでサーカスのピエロだった。
けれど、香瑠は僕を振り向きもしない。結局のところぼくの一人芝居は、ブーイングさえ貰えなかったのだ。

「壁紙は綺麗に張り替えられているけど」
香瑠は小刻みに顔を左右に振ってから続けて言った。
「ベッドは?ベッドは何処なの?」
「やっぱり照明を変えなきゃダメかな?」
ちょっと暗いよね・・ぼくはそう言い足してから部屋の隅へ行き、もう一つのドアを押し開けた。香瑠と手を繋ぐことを忘れずに。

彼女は、ぼくに擦り寄るようにして部屋の入口に立った。
(そう、いいね!その位置だ)
ぼくが想定した丁度いい位置に香瑠が立ったのを確認して、すぐ傍の壁にあるスイッチを押して部屋を明るくした。
そして、香瑠が「ただいま!」と言った時に何故か言いそびれた、あの言葉を今、口にしようと決めた。
ひょっとしてこんな展開を想定したのかな?あの時、僕は?
とにかく、「お帰り」とぼくは言った。そして、

「ここが僕たちの部屋だよ」とも言ってみた。
香瑠は何も言わず、ぼくの身体を横に押した。

もう少しそっちに寄って、てこと?たぶんそうだと思い、ぼくは壁伝いに50センチほどカニ歩きしてみた。
香瑠は無言のまま、繋いでいた手を解くと、ぼくの前に進み出てそのまま背中をぼくに預けた。

香瑠は、僕を振り返り、見上げた。飴色の髪が彼女の顔の半分を隠している。
ぼくは利き腕で、そっと彼女の髪をかき上げた。

「ありがとう。素敵よ、とても・・・」
「それって、ぼくのこと?」
んふ♪と彼女は羽根のように軽く笑い、
「そう、あなたが一番。それからこの部屋、ベッドもカーテンも、みんな素敵」
そう言うと彼女は、もう一度部屋を見渡す・・・。








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