鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「ひらけ駒!」3

  • 南Q太「ひらけ駒!」3(モーニングコミックス)

ひらけ駒! 3巻

ひらけ駒! 3巻

本作の主人公は、一応宝くんだと言いたいが、宝くんとその母親のふたりが主人公なのかも知れない。小学生が何をするにしても親の存在を抜きにしては語れないだろうが、将棋を間において親子の関わりに多くのページ数を割いている。だからこれは将棋漫画だともいえるし、子育て漫画だともいえる。

宝くん親子だけでなく、子供たちと、それを取り巻く大人たちの関わり合いというものが、さまざまな形で描かれていく。

たとえば一巻では、宝に勝った途端に自慢話を始め、そこらの女流棋士には負けないなどと嘯くオッサンが登場する(宝は、女だからって甘く見ると火傷するぜ、と毒づく)。

二巻では、宝たちがすごい強い人がいた、と話をしていると、そばにいた大人が「それって大人の人?」と訊いてくる。宝の友人は、「なんでみんなそーいうこと訊くの? 将棋強いのに大人も子供もかんけーない!」と言い返す。「星の王子さま」の冒頭の話ではないが、大人と子供の価値観の違いが如実に表れているようで興味深い。

また宝ママが、宝よりずっと年下なのに宝より強い子(大樹くん)に対し、というより、その子を自慢に思っているぽい父親に対して対抗意識を持ってしまい、宝に、あの子には二度と負けるな、とけしかけるシーンもある。

好きなものに打ち込んで、勝ったり負けたりを繰り返しながら少しずつ強くなっていく、という意味では、本作もスポコン漫画の一種には違いないのだが、こうした展開は通常のスポコン漫画とは一線を画している。*1

ただし、これだけ「大人」が描かれているのに、宝の父親が出て来ない。影も形もない。連載時、宝の父親はどうしているのか、はちょっと話題になったことがある。仕事人間で帰宅も遅く、宝の将棋にも関心がないから作中に出て来ないのか、いない(離婚または死別)のか。いないと考えた方が自然かもだが、その割に宝ママは家にいる時間が長く、家事もきちんとしているようであり、お金にさほど困っている様子がないので、シングルマザーぽくもないのだ。それに、「兄弟がほしい?」と訊かれた宝が、ママはもう年齢的に無理でしょ、と答えるシーンがあるが、もしシングルなら、年齢の前に「パパがいないのにどうやって?」となるところだろう。

終盤、宝は三段に昇段。が、その後スランプに陥る……



漫画・コミックランキング

*1:そういえば「おおきく振りかぶって」にも野球部員の母親が多数登場し、親子の会話や親同士のコミュニケーションなどもかなり描かれている。これは珍しいパターンだ。