利用者の反応

利用者は介護士の先輩たち


よく言われることですが、高齢者は我々中高年の行末を生きる人たち。

つまり、これから10年後、20年後に到達する「境地」に立っています。

絶対に間違えてはいけないポイントは、利用者を「身体的心理的に支配すること」でしょう。

まるで、「モノ」を扱うように介護士が接してしまうと、利用者は気力を失い、覇気も消滅します。

実際、休み明けに勤務先に出ると、利用者たちの表情を確かめます。

「〇〇さん、風邪などはひいていないですか?」

言葉の内容よりも、声掛けをすることが重要です。

「元気よ!」と明るく応えてくれる人もいれば、「そうねぇ」と沈んだトーンで話す人もいるからです。

半日も経つ頃には、それぞれの利用者と一回は言葉を交わすように努めています。

テーブルをバンバンと叩いている利用者

少し別の作業をしていて、その場から遠ざかっていた間に、利用者が怒っていたりします。

「どうしたの?」

できる限り駆けつけて、話しかけるのですが、おおよそ何が起こったのかは察しがついています。

「ここにいるのがイヤになった!!」

きっと、トイレに行きたいと頼んだら、介護士に無視されたり、「後でね!」とはぐらかされたりしたのでしょう。

「トイレ?」

「そうだよ。私は寝たいんだよ!!」

二十代の頃、徹夜しても次の日は元気でした。

三十代には、仕事を丸3日続けたことがあります。

それも昔の話。年齢を重ねれば、無理はできません。

まして、70代、80代、90代を迎える年代なら尚更。

原則、車イスを使う利用者は、歩行が困難です。

トイレに行く場合も、介護士が何かとサポートしなければいけません。

今、トイレに行って寝たいと言う利用者もまた、トイレで便座に腰掛けるまでが容易ではないのです。

スケジュールを見れば、20分後には起きていなければいけない予定も入っています。

介護士たちが無視したり、後でねとはぐらかせるのは、「施設が設定したスケジュール」を尊重しているからです。

まして、利用者の一人なら応対できる時でも、それが3人、5人と増えれば介護士一人では対応しきれません。

二の足を踏む介護士ほど、他の介護士にお願いしたり、自分自身でやり通す自信がなかったりするのでしょう。

こみちはその利用者をトイレに誘導します。

そうしないと、その利用者の高ぶった気持ちがおさまらないと思うからです。

そして、二人きりになった時に、利用者の話に耳を傾けてながら、状況を説明させてもらうのです。

「寝たいんだよ!!」

感情的にそう言う時もあります。しかし、「分かるよ。私だっていろんな経験をしたんだ。大変なんだろう。でも、頭ごなしに…」

やはり、利用者は介護士の言動をしっかりと観察しています。

本当に行けない時は分かるようで、逆に行けるタイミングなのに「いけない」と言う介護士も知っています。

その分、こみちの姿を見ると、いろんなところから声が掛かります。

3人の時もあれば、4人以上の時もあるほどです。

では他の介護士が何をしているのかと言えば、それほど大変な業務を抱えている訳ではありません。

残念ながら、そんな介護士というのは「介護」がしたくて入職した人ではないのです。

厳しく指導すれば、辞めてしまうかも知れません。

それほど、介護現場は進んで希望した人とそうではない人が一緒に働いている職場です。

「見守り」をお願いすれば、本当に見ているだけの人だっているくらいです。

他の介護士が慌ただしく動き回っていても、「見守り」を続けられるのは、「介護の仕事」に面白味ややりがいを感じていないのでしょう。

無理と思えば無理になる!?


その日のメンバーによっては、課せられたスケジュールをこなすのも大変だったりします。

その理由は、ポイントとなる「大変な業務」を限られた介護士だけで行うからです。

「一緒にやるよ!」

そんな風に声かけしてくれたら、余裕がない介護士だって安心できるでしょう。

やはり、その一言があるかないかは大きなポイントです。

昨日の予定に組まれていた作業を、昨日のメンバーは手をつけることができなかったそうです。

そして、今日のメンバーを見て、「全て」を回してきました。

実は今日のメンバーも、急病で休みがあり、予定よりも少ない人数で回さなければいけません。

通常業務以外に、今日の予定、さらに昨日からの仕事まで加わったので大変でした。

しかし、半日を経過した時点で昨日の仕事は終わっていましたし、今日の予定もある程度は目処がついていました。

もちろん、いつものペースで仕事をしていたのではありません。

今日の仕事をしながら、合間に別の仕事をしたのです。

今日のメンバーの中にだって、「見守り」が得意な介護士が含まれています。

必要な範囲で、仕事をお願いし、動ける介護士たちで仕事をフォローし合いました。

最後にはきっちりと終えることができたのですが、動いた介護士同士は達成感を感じたはずです。

面白いもので、利用者たちもそんな介護士たちの仕事ぶりを見ています。

だからこそ「ちょっと待ってくれませんか?」とお願いした時、「貴方が言うなら」と時間をくれるのです。

もちろん、待ってもらったのですから約束は守ります。

そうやって、介護士は利用者と信頼関係を築くのです。

上手く話すとか、いつも寄り添うと言うことも大切ですが、「懸命さ」は側から見ればすぐに分かるでしょう。