旅行好きな利用者
介護を始めたいと思う人にとって、「介護」とは具体的にどんなことを指しているのか気になるでしょう。
例えばこみちの場合、ある利用者が画集を持っていたのがきっかけとなって話が始まりました。
持っていたのは、フェルメールの画集で、左から差し込む光を用いた構図が特徴の画家です。
左のイラストは、こみちが真似て描いた「真珠の首飾りの少女」という作品で、実際にこみち自身、美術館で見た思い出深い作品です。
そんなこともあって、利用者との会話が弾みました。
さらに、ヨーロッパ諸国、エジプト、ベトナム、中国にも渡航経験があるそうで、その時の話もしてくれました。
介護士だからと言って、利用者よりも幅広い知識が必要なのではありません。
大切なのは、「利用者の生きて来た時間や経験に寄り添い、人生観を共有すること」です。
こみちが勤務するのは、施設でも利用代が高い「ユニット」で、そこに入る利用者の多くが社会的な成功者やその家族です。
経営者やファッションデザイナー、裁判官などなど、いろんな経歴を持った人が入所し、いろんなことを話してくれます。
つまり、そこに到達していないこみちが知ったかぶりしても太刀打ちできるはずはなく、「なぜだろう?」と理由を追うことで発言の意図を探すのが精一杯の努力です。
もちろん、見た目だけで言えば、他の高齢者と何かが違う訳ではありません。
でも、これまでに見てきたことや経験してきたことが異なるのなら、それに応じた「介護サービス」が必要だと思うのです。
決して優劣の話ではなく、心地よいとされるケアに違いがあるという意味合いです。
利用者たちの共通点
利用者たちには共通点があって、その一つが「心の広さ」でしょう。
さらに言えば、思いやりがあって、人を気遣える人たちです。
だからこそ、こみちも勤務中は少しでも答えられるように努めるのです。
それを汲み取らずに、利用者の感情を無視したケアに走ってしまうと、利用者は感情を抑え込み、表情を失います。
なぜ怒らないのかというと、それは介護士の苦労に配慮しているからだと思います。
こみちが彼らの年代になって、同じようにできるかなぁと思うほど、彼らは精神的にも成熟した大人たちです。
だからこそ、時にわがままを言ったり、ムキになって感情をぶつけてくれた時は、「どうしましたか?」と自然に寄り添うことができます。
難しく考える必要はなく、利用者の様子をしっかりと観察していれば、どんなことに興味を持ち、どんな視点で考えるのかが分かります。
その流れに沿って寄り添えれば、彼らは温かく迎えてくれます。