北国の冬

北国の冬

 北国の冬は寒い。
 いや、当然だけど。
 西の方以外は寒いの、当然なんだけど。
 しかし、住んでる身には利点よりも苦労の方が断然多く、
四季の中でも最も手間も時間もかかる、厄介な数か月である。

 ドカ雪は降るし、道路凍ってツルツル滑るし、
敷地の雪掃きに至っては、朝に五回夕方五回、そして夜も五回とか当たり前だし。
外出時手袋必須、なければかじかむし。

 あれは大学センターの二次試験当日。
 校舎内に入り、建物の中だからもう手袋は必要ないだろうと外したところ、試験会場に入るまで結構時間があった。
 気づけば指が、ほとんど動かない。
 焦った。会場に入った後も一心に手をさすり、温まるよう努めた。
その結果、鉛筆を握り継続して動かせるまでには回復、無事試験に挑むことができ、合格することができた。
 人生の岐路をうっかりで台無しにする寸前で、間一髪回避できた。
 北国の冬をなめちゃいかんな、やはり。
 寒さが肌にしみ、鼻も頬もお手々も真っ赤っ赤。冷たさが痛みに変わることもしばしば。

 話を戻そう。
 あと、灯油代かかるし。
 いや、夏だってクーラーで電気代バカにならんとこありますけれど、
灯油代には暗黙の了解でプラス電気代含むとこありまして、その点ご理解いただきたく。

 ドカ雪と言えば。
 朝晩寒い時間帯は積もるばかりで、日中日が照って気温が上がると溶け始めた雪が、
もうそれはドカドカと屋根to屋根で、でっかい衝撃音立てて落ちてくる。もちろん予告無しなんで驚くのなんのって。

 あと軒先に連なるツララ。溶け出し水滴が垂れだすとカウントダウン開始。
 降ってくるというより落ちてくる、この表現の方がふさわしいかと。
当たったことはないけれど、もしあのぶっとくて先の尖った氷の柱が頭に直撃したら……って考えると、ゾッとする。
 子どもの頃は届く範囲の、中くらいの太さのツララなんかは、木の棒で叩いて落として遊んでた。
 何がそんなに楽しかったか、今になってはよく分かんないけど、小さいときって何が楽しいのか、
大人には理解不能な行動に楽しさを見出す才能に溢れてるから。
 ルーティーンというよりはループする繰り返しの動作、その持続性に中毒を覚える年ごろであり。
もしかしたら発育期の脳の発達に必要不可欠なものなのかもしれない、よく分かんないけど。
 雪合戦やそり滑り、雪だるま作ったりとか、寒いのこらえるの込みで冬を楽しめる、
これは夏の暑さも娯楽に変換できることから季節を問わずなんだろう、苦を苦と思わずに外遊びを楽しめる、
それは幼年期の特権と言っても過言ではなさそうだ。

 その点、十代に入ると苦を苦と、楽じゃないと楽に思える。成長は残酷だ。
 代表例が雪道。
 子どもでも転んでお尻打ったりするけれど。特に踏切沿いがすってんころりんポイントになっていて、老若男女問わず転倒する。

 だが乗車時の危険度はその比でない、半端ない。
 学生なら自転車、十八歳以上なら車の運転。
 原付含めバイク載る人は目に見えて減るので、今回の例えからは外しときます。
 めちゃくちゃ滑るのってなんのって。即席アイスリンクへ早変わり。
 自転車なら右へ左へ一瞬で、バタッと倒れる。歩道のない車道の端を、それも狭いとこペダル漕いでる間は緊張しっぱなし。
 自身一度、タイヤが滑り車道へ見事バタンと倒れたことがあり、あれは怖かった。
奇跡的にも後続車がこなかったからよかったけど、あれ、きてたら轢かれて即死だったかもしれない。笑えない話。
 方や笑える話といえば、あれは大学生時分。
 キャンパスへ歩いて向かう僕の前を、バカップルが男漕ぎ役、女は後ろの荷台に立って自転車乗ってた。
肩に手乗せてキャーキャーわめいてる姿にムッとしていたら、そんな態勢バランス悪いに決まってる、倒れるにも決まってる、
案の定二人そろってズダン!
 やぁいやぁい、ざまあみろ!と、心の中で歓喜の声を上げた。独り身の嫉妬、醜いね……

 変わって車、自家用車。
 こちらは昔ならチェーン、今はスタッドレスタイヤ装着するんで、自転車と比べればだいぶ安全性が高いのだが、
ガタイが大きくスピードが出る分、滑った後が大変だ。
 それゆえブレーキは常にポンピング、制限速度を守って、ゆっくり安全運転を貫く。
 それでも悲しいかな、滑るときは滑る。
 
 先ほど即席アイスリンクと書いたが、その名にふさわしくスケートさながら、運転中に三回転半、周りに回ったことがあった。
 ハンドルに力を入れれば入れるほど、コントロールを効かせようとすればするほど、回転に磨きがかかった。
 ああいう場合はその逆、危険そうに思えるが、運転という概念から最中遠ざかり身を任せるのがモアベター。

 そういえば奇遇にも、自転車で倒れたのと同じ現場で、トリプルアクセルは起こった。
 不思議……いや、ていうか考えてみれば自転車も車道乗ってて滑ったんだから、起きてもおかしくないか。
人間、必然を偶然に置き換えたがるものだ、特に僕ね。
 ただこれは本当の話だけれど、車で滑った際も後続が来てなくて、更には対向車線を走ってくる車もなかった。
更には狭い道での出来事だったが、家々の外壁にぶつかることもなく、結果車も僕も無傷で済んだ。
偶然とはいえ、奇跡的と言いたくなる。

 色々とやるべきことが増える北国の冬。
 それでも雪が降らなければ第一次産業全般へ影響大だし、人の心理は勝手なものでさみしく感じたりもする。
 STOP温暖化、雪やこんこん、待ってるぞー!

北国の冬

北国の冬

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-10-16

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