教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

2/19 BSプレミアム 英雄たちの選択「明治の行方を決めた政変~征韓論危機 伊藤博文の決断~」

 明治新政府が分裂しかねない危機的状態が征韓論での対立だったのだが、その中で伊藤博文がどう動いたかを紹介するようだ。伊藤博文に関してはつい先日に「にっぽん!歴史鑑定」が憲法制定に関連して扱った直後であるが、今回はその憲法制定に携わる前の話のようである。

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伊藤博文のもう少し若い頃の写真

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イギリス留学で日本の近代化の必要を感じる

 イギリス留学の経験のある伊藤博文は西洋文明導入の必要性を感じていた。彼の留学は長州の情勢の切迫で半年で帰国することになるが、この時の長州は攘夷実行に外国船を砲撃した報復として4カ国連合艦隊の攻撃を受けて砲台を占領され、賠償金を請求される立場にあった。伊藤は語学力を買われてこの交渉を担当することになり、賠償金を幕府に負担させることに成功したという(どういう風に交渉を持っていったんだ? 恐らく「異国船打ち払いは幕府の方針であり、長州藩はそれに従っただけだ」と主張したというところか)。松陰は伊藤のことを「学問については劣るが、かなりの周旋家になりそうだ」と評したらしいが、その才がいきなり開花したようである。さらに伊藤は薩摩を通してイギリスの武器を輸入するという任務を成功させ、イギリスとの外交官と知り合うことで日本の将来の姿のイメージを描くようになったという。伊藤の考えは武士だけでなく全国民の力を結集するというものだったという。木戸孝允は伊藤のこの考えに共感したという。

 

大久保らを海外に連れて行くことで自らの考えを理解させる

 明治新政府が成立してから、伊藤は大蔵省の役人として務めることになり、大蔵省主導で産業化を推進するというプランを立案するが、このプランは急進的すぎると大蔵卿である大久保利通に反対される。伊藤は大蔵省を去るが、大久保に西洋文明を理解させないと日本の近代化はできないと考えていたという。その伊藤に訪れた絶好の機会が岩倉使節団の派遣。伊藤は岩倉から同行を求められるが、その時に木戸孝允と大久保利通を連れて行くように提案する。彼らに西洋の現状を見せようと考えたのだという。

 伊藤の狙い通りに木戸と大久保は西洋の進んだ文明を目にして驚嘆する。そして日本の近代化が不可欠であるということを痛感、大久保は議会制の導入が必要と考えるようになった

 

新政府内で征韓論を巡る対立が発生

 しかし岩倉使節団が帰国した時に国内は大変なことになっていた。使節団不在の間の留守政府は薩摩、土佐、肥前の勢力が中心となっており、彼らが勝手に西郷隆盛を朝鮮に派遣することを決定していた。この時、日朝間では緊張感が高まっており、もし西郷が向こうで殺害されるようなことでもあれば、それを口実にして戦争も辞さないという強硬な話であった。しかしこれに伊藤は驚く。今の日本は戦争なんかしている場合でなく、まずは近代化を急ぐ必要がある。伊藤は西郷を止めるために大久保を参議にするように岩倉に働きかけたという。そして岩倉、大久保は西郷の朝鮮派遣に反対する立場で閣議に臨む。太政大臣の三条実美もこれに賛成するのだが、西郷がこれに強行に反対する。そして西郷の即時派遣が決定されてしまう。これを受けて岩倉、大久保に木戸が辞意を表明、板挟みになってしまった三条はストレスで倒れてしまう。

 

征韓論阻止のために奔走

 さてここで閣議に参加できない立場の伊藤の選択であるが、留守政府側の西郷らにつくか、あくまで大久保ら使節団側に付くかである。これについては番組ゲストの全員が大久保らにつくという解答で、実際にそれしか選択はなかったろう。現実に伊藤もその選択肢を選ぶ。

 伊藤の秘策は三条実美が倒れたことで、岩倉具視が正式に太政大臣の代理に就き、太政大臣権限で西郷の派遣をやめさせるということだった。岩倉は太政大臣として西郷の派遣案と延期案を上奏、明治天皇の意志は既に決まっており、延期案が採用されることとなった。これを受けて西郷や江藤新平らは参議を辞職する。

 政変後に伊藤は工部卿に就任して産業振興に尽くす。生野銀山への最新技術の導入による産出量の増加などを図ったという。そしてその後に伊藤は総理にも就任することになる・・・と見事なまでに憲法絡みのことは省略してあるし、その後の西郷の西南戦争なんかも完全に割愛である。

 

 確かに朝鮮と戦争なんてしている場合ではなかったのであるが、西郷らを排除してしまった場合には内戦になることを懸念しており、その懸念通りの内戦になってしまったのだが、それは伊藤にとっては問題でなかったのか? どことなく尻切れトンボ感のある番組構成である。

 なお西郷隆盛は政治家でなくてあくまで軍人であり、職にあぶれ始めていた不平士族の要望も一身に背負っている立場だったので、正直なところ戦争を求めていたというところはあるだろう。しかし新政府のこれからを考えると士族の大幅なリストラは不可欠であることも征韓論の対立の背景にある。結局は西南戦争や佐賀の乱のような不平士族の武力蜂起を新政府は力尽くで押さえるというところから明治は始まることになってしまったのである。これが政治家と軍人の対立の一番最初だったような気がする。そして伊藤博文は周旋家ということで、バリバリの政治家だったわけである。薩摩ローカルの軍人だった西郷とは根本的に肌が合わないだろうことは想像に難くない。それに身分に関係なく結集してといっても、農民出身の伊藤は良いが、下級藩士とは言え一応士族である西郷ではそうすんなりとはそういう考えにはならないだろう

 先日の「にっぽん!歴史鑑定」はやたらに伊藤の人物の小ささが滲む感じがあったのに対し、今回の内容は結構伊藤アゲをしていたように感じたのだが、それでもやはりどことなく小者感もつきまとってしまっているのは何なんだろう? まあ西郷ほどのカリスマがある人物でなかったのは間違いないが。

 

忙しい方のための今回の要点

・イギリス留学経験のある伊藤博文は、士族だけでなく国民の総力を結集しての近代化が不可欠であると考えていた。
・大蔵省に勤めることになった伊藤は、大蔵省が主導して産業を振興するプランを立案するが、大蔵卿の大久保利通に急進すぎるとして却下される。
・大久保に海外の現状を見せる必要を感じた伊藤は、岩倉使節団への同行を要請された時に、大久保利通や木戸孝允などの要人も同行させることを提案。伊藤の狙い通り、西洋の現状を見た大久保らは驚嘆し、日本の近代化の必要性を痛感する。
・しかし岩倉使節団の渡欧の間に、留守政府は西郷を朝鮮に派遣することを決めていた。これは朝鮮との戦争も想定した考えで、まずは戦争よりも近代化を優先するべきと考えていた伊藤はこれを食い止めるのに奔走する。
・結局は三条実美に変わって岩倉具視が太政大臣代理に就任し、明治天皇の決断を引き出すことで西郷の朝鮮派遣の延期を決定。西郷らは政府を去ることになる。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあ西郷は本当に薩摩ローカルの人間で、西洋のことなんて全く知りませんでしたからね。だから意識としては江戸幕府に薩長が取って代わったぐらいのイメージで、日本を近代化して欧米列強と肩を並べられるようにするなんてビジョンはなかったでしょう。それと薩摩は強引に琉球を侵略して属国的扱いにするなんてこともしてましたから、朝鮮をそれと同じようにするイメージだったんじゃないかという気はします。

 

次回の英雄たちの選択

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