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Shining Rhapsody

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360話 学園都市防衛戦2

360話 学園都市防衛戦2

 

 

方針が決まり、あとは行動に移すのみ。だがそう単純な話でもない。

 

「この位置だと魔の森には落とせないな・・・」

「そうですね。背後・・・いえ、せめて左右どちらかへ回り込まなければ難しいかもしれません」

「いや、高さはどうにでもなるけど、正面の敵をオレの背後に撃ち落とすのは失敗する可能性がなぁ・・・」

 

ルークが自信なさげなのも無理はない。これがドラゴンやワイバーンといった、大型の魔物であれば心配は要らない。防御力は高いだろうが、今回に限っては吹き飛ばすだけで良いのだから。だがグリフォンが相手となればそうもいかない。当然それなりに大きくはあるのだが、流石にドラゴン程のサイズではない。

 

更に困った事に、グリフォンの飛行速度はその辺のワイバーンやドラゴンよりも速い。その上、群れ全体がエレナ達の隙を伺うよう、グルグルと上空を旋回している。これでは仮に反対側へ回り込もうと、何匹かにとっては真正面という事になる。ルークが言っているのはそういう意味だ。

 

「・・・みなさんの隙を作らずにグリフォンの注意を引きつける、というのが最善ですか?」

「まぁ、言うのは簡単だけど・・・出来そう?」

「少し考えさせてください」

 

ティナの言葉に頷くルーク。だが彼女の思考を妨げないよう気を使った、という訳ではない。実はルークも考えていたのだ。

 

(本当の最善はみんなに気付かれずにグリフォンを仕留める事なんだけど・・・ティナの手札じゃ難しいだろうな。それに、正直オレがその気になれば簡単に終わるんだが、それだと駄目だ。これを切り抜けられないようじゃ、向こうの大陸で生き残れない)

 

大した強さではない魔物の群れに混じる、強者と呼ぶべきゴブリンやコボルト。しかしルークが想像したのは、全く異なる魔物の姿。

 

(そういう意味じゃ、あのスタンピードは辛うじて首の皮一枚で繋がったとも言える。あのスライムの群れがこっちに来てたら、防壁もあっさり破られてただろうし。だが、こっちに来てない理由も気にはなるんだよな。こちら側に興味が無かったのならいい。でも、単純に移動速度が遅いだけだとしたら・・・後で確認しに行くべき――)

「ルーク、準備出来ました」

「ん?あぁ、わかっ・・・へぇ」

 

結論が出掛けた所で、ティナに思考を遮られる。てっきり考えが纏まったのだろうと思い込んだルークだったが、ティナに視線を移して思わず感嘆の声を上げる。何故なら、ティナの手には弓矢が握られていたのだ。

 

10年ぶり位に見たような気がするけど、自信の程は?」

「昔程の精度はありませんけど、今回は命中させるのが目的ではありませんから」

「まぁ、下手にみんなの真上で仕留めると落ちて来るからね。でも、オレが言ってるのは威力と手数について。単発だと気付いた個体に風魔法で防がれて、群れ全体の注意を引けない。そして距離が離れている上、向こうが居るのは上空だ。かなりの威力が必要になるぞ?」

 

ルークが心配しているのは今回、魔力や神力による身体強化を使ってはならないから。使えばエレナ達の注意がこちらへ向いてしまう。グリフォンの注意も向くかもしれないが、それでは当然駄目だ。

 

「身体強化無しで全力の連射は流石に腕に負担が掛かりますが、出来ないと言う訳にもいきませんから」

「そうか。まぁ、駄目な時はフォローするよ」

「ありがとうございます。ですが・・・ルークの方はどうするのです?」

「オレ?あ〜、大丈夫大丈夫。みんなに察知されない距離から石をぶつけるだけだし。じゃあ、早速行って来るから、ティナの好きなタイミングで射っていいよ」

「・・・は?」

 

何を言っているのかティナが理解出来ないうちに、忽然とルークの姿が消える。間抜けな声を上げてしまうのも無理はない。恐らく、ティナが無理をして矢を射ても5発が限度。それも狙いを付けずに、である。だがあろうことかルークは、石をぶつけると言う。旋回しているグリフォンの数は少なく見積もっても30以上。そんな真似が出来るなら、果たしてティナが矢を射る意味はあるのだろうか。そんな事を思ったのだ。

 

しかし、ティナの矢に意識を向けるからこそ、グリフォンの動きが単調になる。或いは一瞬止まるかもしれない。そう思い直した。思う事にしたのだった。

 

「・・・ふぅ」

 

下向きに矢をつがえ、目を閉じて息を吐く。弓矢の訓練は最低限しているが、身体強化無しで矢を射るなど百数十年ぶり。しかも今回は連射というほぼ曲芸。練習する時間も無いため、集中してイメージを固める必要がある。おまけに筋肉の負担を考えると、弦を引き絞った状態で準備する事すら許されないのだ。その緊張感たるや、普段のティナからは想像出来ない。

 

 

かつてない程真剣な表情のティナだったが、伊達に修羅場を潜り抜けていない。僅か数秒の沈黙の後、カッと目を見開き目にも止まらぬ早さで何度も矢を放つのだった。

 

 

359話 学園都市防衛戦1

359話 学園都市防衛戦1

 

 

ティナが三振りの刀を仕舞って頷いたのを確認し、ルークはティナを連れて学園都市の防壁上へ転移する。

 

「・・・ルークの言っていた通りの状況ですね」

「いや、もっと悪いかもしれない。あそこを見てみろ」

「あれはっ!?」

 

ルークが指差す方向へと視線を向けたティナが目を見開く。そこには地面に横たわるドワーフとウサギの獣人らしき者と、それを守るようにして取り囲むエルフ達の姿があった。

 

「おそらく、ランドルフさんとターニャだろうな。敏捷性に劣るランドルフさんを、俊敏なターニャが庇った。その治療に慌てて駆け付けたのはいいが、敵が邪魔で身動きが取れなくなったってところかな?」

「何を呑気に分析しているのです!?早く助けに行かないと!!」

「おっと!気持ちはわかるけど、今行くのはマズイ」

 

救援に向かおうとするティナの腕を掴み、引き止めたルーク。だがその視線はティナではなく、上空へと向けられていた。

 

「何を・・・グリフォン!?」

「みたいだな。でも、幾ら数が多いからって、あれは警戒し過ぎなんじゃないか?」

 

ルークの認識では、グリフォンはそこまで強敵でもない。確かに厄介ではあるが、些か大袈裟に見えたのだ。そんなルークの間違った認識を改めるべくティナが説明する。下手に動けばみんなの気が逸れる。そうなれば被害が増すのだから、今は口を動かす事しか出来ないのだ。尤も、誰かが即死しそうな状況になれば、ルークもティナも迷わず動くのだが。

 

「そう言えば、ルークは村周辺のグリフォンしか知らないのですね」

「どういう意味だ?」

「エリド村周辺のグリフォンは発見次第定期的に討伐している為、若い個体しかいません。その為、高く見積もっても精々が群れでBランクなんです。一方で、他の地域のグリフォンは老齢で群れの規模も大きく、並の冒険者では手が出せません。ですから高ランクなんです」

「・・・すると、あれは高ランクのグリフォンの群れって事か?高ランクって?」

「単体でAからSランクです。しかもあれ程の群れとなると・・・」

「なるほど。しかも他の魔物を相手しなきゃいけないのに、グリフォンの大群がその上を飛び回ってるのか。これは・・・ピンチだな」

「何を呑気な事を言っているのですか!」

「いや、そうは言ってもさ・・・」

 

他に表現のしようもなかったのだから、叱られても言い返しようがない。黙っていれば良かったものを、一言余計だったのである。とは言うものの、ルークの感想が間違っているわけでもなく。

 

「確かに、この状況で私が向かっても解決しませんね」

「ミイラ取りがミイラになるだけだな。が、手をこまねいてもいられない訳だ」

「何とかなりませんか?」

「う〜ん、みんながオレ達に自然に気付くか、やり過ぎに目を瞑って貰って禁呪で一掃するか・・・」

「今やり過ぎるのは良くありません」

「そうなんだよなぁ。こっちに向かってる魔物が他所へ向かっちゃうだろうから、余計な被害が増える。けど、このままじゃそうも言ってられないだろうし・・・」

 

ルークが一掃するとなれば、自然に対する被害が甚大ではない。一面を焼き尽くすか、氷漬けにするかなのだ。どちらにせよ、待っているのは動植物が死滅した広大な荒れ地である。おまけに、禁呪の直撃を免れた魔物達が一斉に逃げ出す。それも四方八方へ散り散りに移動するのだから、今後何処へ向かうのか予測するのは困難となるだろう。

 

「飛んで1体ずつ始末してしまえば・・・」

「突然空から魔物の死体が降って来たら、みんなの邪魔になるだろ?それに殲滅する前に逃げられると思う」

「では、魔法で1体ずつ吹き飛ばせば・・・」

「狙撃って言わなかったのは流石だけど、吹き飛ばすだけじゃ戻って来るでしょ?」

「・・・・・」

 

高ランクの魔物は賢い。自分達が不利だと悟れば、まず間違いなく逃走するだろう。そして確実に報復する。それが何ヶ月も先の事であれば、それまでの間にルークやカレンが討伐すれば良い。だがそれが数時間後であったら。結局は元通り、どころか戦況はさらに悪化する恐れがある。

 

つまり斬撃だろうと魔法だろうと、今に限っては討ち漏らしが許されないのだ。これがスタンピード本番となれば別である。押し寄せる魔物の勢いに押され、如何に高ランクのグリフォンだろうと逃げるに逃げられなくなるはず。時間を稼げば良いのだが、それはスタンピード本番を無事に乗り切れる程の強者に限っての話。ナディア達がそんな事をすれば、命を落としかねない危険な賭けとなる。

 

「戻って来る・・・待てよ?戻って来れない場所に落とせばいいのか!」

「そんな場所が何処に・・・」

「すぐそこにあるじゃないか!魔の森だよ!!」

「あっ!」

 

どういう仕組みか知らないが、何故か入った魔物が出て来れない不思議な場所。そんな魔の森が目の前にある。仕留められなくとも吹き飛ばす、であれば威力を抑えた魔法でも不可能では無い。

 

 

それが後にどのような事態を引き起こすのか。当然ルークが知る由もなかった。

 

 

358話 戦闘準備

358話 戦闘準備

 

 

状況と情勢の予測に思考を巡らすティナだが、じっくり考えさせる猶予は無い。まぁこれも予測に過ぎないのだが、いい意味で外れていれば考える時間はある。

 

「それで、どうする?あまり考えている時間は無いと思うし、今なら送って行けるけど?」

「・・・ではリリエルさんには私からお伝えして来ますので、お願いします」

「あぁ、わかった」

 

この場所へ魔物が到達するには、まだ時間がある。ルークが離れても問題は無いし、リリエルが居れば少し位の遅れは問題無いだろう。何より力を温存しておきたいティナにしてみれば、ルークが送ってくれるのは有り難い。そう考えたティナは、リリエルに説明すべく走り去った。

 

少しでも力を温存すべきだが、ウォーミングアップを兼ねての行動でもある。あまりルークに手間を掛けたくない気持ちの方が大きかったが。

 

 

「さて、ティナだったら死にはしないと思うが、疲れて足元を掬われる可能性はある。それに・・・今回ばかりは、幾ら雪椿でも折れるだろうな」

 

どんな名刀も使えば切れ味は鈍るし、そのまま酷使すればいずれは折れる。ルークは武器を消耗品と割り切っているから然程気にしないが、ティナは違う。いや、一流の冒険者なのだから、頭ではわかっている。しかし、だからといって愛用の武器が折れても気にしないというのは無理なのだ。

 

雪椿が折れるとなれば、かなり無茶な状況であるのは間違いない。そんな時に愛刀が折れてしまえば、確実に動揺するだろう。それは非常にマズイ。

 

そして、もしも無事に今回の事態を乗り切ったとしよう。そうなると、次に考えなければならないのはティナの戦力低下である。雪椿と同等以上の名刀など、すぐには準備出来ないのだから。今まで斬れていたモノが斬れない。そうなれば手数が増え、刀身の損耗も早まる。思うように戦えないストレスは使い手を、なかなか同等以上の刀を造れないストレスは作り手を追い込む。そんな負の連鎖が目に見えるのだ。

 

「研ぎまで終えて、どうしても納得のいかなかった刀身が三振り。万が一を考えてハバキと鍔、柄を用意しておいたのは幸いか。流石に鞘は無いけど、今回ばかりはアイテムボックスに入れておけば何とかなるな。流石はオレだ」

 

自画自賛しながら、ルークがその場から消え去る。数分後、再び元の場所に現れたルークは、持っていた三振りの刀を地面に突き刺した。

 

「ルーク?」

「ごめん、ひょっとして待った?」

「いいえ、私も今戻りました。ところでそれは?」

「うん?まぁ、雪椿になれなかった刀、かな」

「俗に言う影打ちという物ですか?」

「ははは。影打ちって漫画じゃないんだから、そんな大層な代物ではないよ」

 

ルークはティナの言葉に苦笑する。謙遜しているが、実はルークの愛刀である美桜と比べても遜色ない出来である。刀としては素晴らしい出来なのだが、ティナが持つには相応しくないというだけの理由で日の目を見なかった、何とも可哀想な刀である。

 

「ティナ、今回はこの三振りを使って欲しい」

「え?私には雪椿がありますけど・・・」

「あぁ、この三振りが使える間、雪椿は使用禁止ね」

「っ!?」

 

突然の禁止令に、ティナが愕然とする。

 

「幾ら優れていようと、雪椿も所詮は消耗品だ。どんなにティナが大事に扱おうと、酷使すれば必ず折れる。そして残念なことに、雪椿に代わる刀を用意するにはあまりにも時間が掛かるんだ。鍛冶に専念する時間が無い以上、それだと取り返しがつかない」

「その為の代用品ですか?」

「あぁ。本来なら廃棄するはずだった刀だから、全部折れたって問題ない」

「ですが・・・」

「心配する気持ちはわかるけど、そこそこの刀だから大丈夫だと思うよ」

「そこそこ、ですか?」

「そう、美桜と同じ位」

「それを世間では名刀と呼ぶのでは・・・」

 

戸惑うティナだが、ここで自分が何を言っても無駄だと諦める。何よりティナとしても、愛着のある雪椿が折れるのは非常に困るのだ。それに完全に使用を禁じられた訳でもない。この三振りの刀が使い物にならなくなれば、使っても良いと言われているのだから。

 

だからと言って、ルークが用意してくれた刀をぞんざいに扱うつもりもない。美桜と同等なら、明らかに名刀の類である。

 

「それと鞘までは用意出来ないから、アイテムボックスから直接出し入れして欲しい」

「わかりました。ちなみにですが、もし無事な刀があれば鞘を作って頂けますか?」

「いや、弱いゴブリンを100200斬るんじゃないんだ。まず間違いなく折れる」

「ですから、もしもの話です」

「・・・わかった。だからって、切れ味が鈍ったらすぐ交換、じゃダメだからな?本来なら雪椿も消耗品と言ってやれれば良かったのに、言えないからやむを得ない処置として出したんだし」

「・・・わかっています」

 

互いの思考が読めるため、釘を差しあったルークとティナ。ティナが使うには相応しくないのだから、鞘を作りたくないルーク。出来れば一振りも損なう事なく、何とか切り抜けたいティナ。

 

 

意地を張り合って危険を作り出す事はない。そう考え、あっさりと譲歩し合う2人であった。

 

 

357話 事後処理15

357話 事後処理15

 

 

ルークの説明に考え込むティナ。確かに時間は無いが、だからと言って考えなしに行動すれば良いものでもない。

 

一方のルークもまた、ティナの思考を妨げるような真似はしない。下手に煽るような発言は、ティナを怒らせるだけだと知っているからだ。しかも、出来れば一刻も早くティナには立ち去って欲しいが、迂闊な事を言えば勘繰られる可能性がある。ポーカーフェイスで静観するのが最善なのだ。

 

しかも、幾らティナを信頼していようと心配が無い訳でもない。さっさと行って欲しいが、出来れば行って欲しくないというジレンマ。複雑な心境なだけに、表に出せない気持ちが大きかった。

 

 

1分程の静寂を破り、ティナが口を開く。だがそれは行く、行かないの2択ではなかった。

 

「ルークは・・・どうするのが正解だと思いますか?」

「どっち、じゃなくて、どうする?」

「はい。先程の、弱いゴブリンと強いゴブリンが混じっていた場合の対処です」

「あぁ、それか。オレの場合、可能なら大規模な魔法で一掃する。どうしても無理なら・・・遠距離と近距離を交互に、かな」

 

可能なら。立地如何では、派手な魔法が使えない状況もあるだろう。その場合、普通に考えると魔法で牽制しながらの近接戦闘だろう。他にも手段はあるのかもしれないが、そんなのはその時になってみないとわからない。

 

「では、お母さん達の場合はどうです?」

「う〜ん、そうだな・・・魔法を使える者が雑魚を一掃、残った強敵は他のみんなが対処するしかないんじゃないかな?魔の森側に人員を割く必要は無いけど、それでも都市の半分をカバーしなくちゃならない。範囲的に見て20人やそこらじゃチーム分けも無理だろうから、数人ずつ順番に休むしかないと思う。長引けば疲労から脱落者も出るだろうから、敵を掻き回して勢いを止める存在は重要だろうな」

「それが私、ですか・・・」

 

ティナの問いに頷くルーク。充分過ぎる程理解しているティナに対し、それ以上説明する必要は無い。

 

 

彼女は基本、狩場を縦横無尽に駆け回り、ほぼ一撃で魔物を仕留める。手負いの獣や魔物は危険だが、一撃で仲間が殺られれば警戒もする。勢い良く押し寄せる魔物の足も止まると言うものだ。おまけに危機的状況に陥れば魔法も使うだろうから、ルークの代わりは充分に務まるはず。

 

仮にそれがカレンならば、強力な一撃による牽制も行える。だが現時点のティナに、そのような真似は出来ない。神族となった事でこれまでよりも強い力を手に入れたが、確立された戦闘スタイルを崩すというのは簡単な事ではなかった。

 

連携が得意とは言えないティナ。誰かを庇えば負担は増す。それが1人や2人ではないのだから、時間が経てば経つ程のしかかって来るだろう。だがそれを踏まえても、ティナが居るのと居ないのでは天地程の差があるのも事実。

 

「・・・村のみんなは、ほとんどが獣人。例えどれ程魔物が弱くとも、数が多ければ体力は削られますね。しかも今回は防衛戦。魔法を使えるのはエルフ族のお母さん、ララファールカ、エルヴィーラ、マルトノーラ、トルトレロッソ、それとフィーナさん。ですが・・・」

「回復役は必要だから、母さんとフィーナ以外は攻撃に魔力を回せないだろうな」

 

大群を相手にする場合、魔法による範囲攻撃は不可欠。それを考慮すると、強力な攻撃魔法を放てるエレナとフィーナだけでも攻撃に回さねばならない。

 

「回復役が4人では全員をカバー出来ないでしょうから、私も入れて回復役が5人」

「どの程度回復役に回るかはティナ次第だけど、緊急回避用に転移を温存しないといけない。さらに言えば、身体強化するのにも魔力は必要だ。幾ら神力の効率が良いと言っても、今の内に配分を考えておく必要がある」

「あ・・・私自身の持つ力では数回しか転移出来ませんから、半分を身体強化。もう半分を回復と転移に回すと考えると、攻撃魔法に回せる余裕は・・・」

 

そう、神力を手に入れたティナではあるが、神族として見ればまだ0歳。力の保有量だけを見るなら、産まれたての赤子同然である。しかも今回の場合、ルークの加護には期待出来ない。加護は与える側の余った神力を分け与える物であって、ルークが消費するような状況では供給がストップする。つまり今現在分け与えられた、蓄えた力でやりくりしなくてはならないのだ。

 

11人に対し、個別に自動設定された配分量。ティナに関して言えば、ティナ換算で約1人分。これは相当なチートと言えるのだが、今回のような場合は心許ない。エリド村の者達全員なら圧倒出来るが、魔物の大群相手の持久戦となれば別。身体強化の上昇率は2倍なのだが、言い換えればティナが2人増えたのと同じ。要はエリド村の住人が21人から22人になっただけの事。

 

 

因みにだが、もしも加護を与えられたのがティナ1人であれば、無双してあっさり解決していた事だろう。つくづく人生とはままならないものである。

 

 

356話 事後処理14

356話 事後処理14

 

 

ルークに諭され落ち着きを取り戻したティナ。そうは言っても、時間が無い事に変わりはない。そんなティナの気持ちを推し測る形で、ルークは内心で苦笑する。と同時に愕然とした。

 

(ふっ、焦る気持ちもわか・・・しまった!時間が無いのはオレの方じゃねぇか!!)

 

そうなのだ。仕方ないとは言え、本来ならば何でもかんでも引き受けていられない。急いで止めに行かなければ、ミリエル達がやり過ぎてしまうかもしれないのだ。既に手遅れな気もするが、今なら半分程度の被害で済むかもしれない。仮に100の内90が終わっていたとしても、10を救えるのと救えないのでは大分違う。

 

 

ティナは落ち着いたのだが、今度はルークが焦りだした。

 

(考えろ!まだ魔物は来ない。リリエルなら協力してくれるだろうし、今なら少しは離れ・・・いや、ダメだ!ティナの目がある。ティナに気付かれず離れる方法は・・・ある訳ねぇよ!)

 

焦って考え事をするのは碌な事が無いという、典型的な例である。そしてそんな時に思いつくのは、大抵がどうしようもない事。

 

「うっ!いきなりお腹がっ!!」

「・・・大丈夫ですか?」

「だ、ダメかもしれない!ちょっとトイレ――」

「回復魔法を掛けましょうか?」

(魔法バンザーイ!チクショー!!)い、いや、自分で掛けるから大丈夫!」

「そうですか?」

「あぁ・・・はぁ」

「?」

 

不思議そうに首を傾げるティナだったが、心配なさそうなので周囲の警戒に戻る。ティナは狩りでほとんど魔法を使わないため忘れがちだが、魔法が不得意という訳ではない。寧ろ直接戦闘よりも魔法の方が得意である。ならば何故使わないのかと言うと、素材が痛むから。

 

仕留める程の外傷となれば、その部位は失われる。内蔵を傷つければ肉の味は落ちる。効率の良い食材調達を突き詰めた結果、一撃で首を刎ねるという結論に達したのだ。

 

 

話を戻そう。どうにかしてティナの目を盗み、その間にミリエル達の下へ向かおうとしたのだが――

 

(自然にこの場を離れる・・・無理!)

 

そもそも、ちょっと席を外して転移した所でティナに気付かれる。それ以前に、ミリエル達が何処に居るのかわからないのだから、初めから不可能なのだ。一先ずの答えを導き出し、ルークは改めて考える。

 

(オレは抜け出せない。ならば、どうする?こうなったらリリエルを・・・ダメだ!)

 

リリエルを向かわせるのは本末転倒。ティナにはとっくにバレているのだが、堂々と向かわせたのでは新たな要求をされる可能性が高い。しかもリリエルを向かわせたのでは、合流に時間が掛かり過ぎる。やはりルークがこっそりと移動するしかないのだ。――果たして本当にそうだろうか?

 

(リノア達じゃ一月あっても追い付けないし、この村の住人は論外。残るはティナか・・・ティナ?)

 

大分回り道をしたが、ティナの目があるのならそれを他に向ければ良い。幸か不幸か、その理由ならばある。

 

「ティナ・・・不安だったら、先に学園都市に行ってていいよ?」

「え?ですが・・・」

「村を守るならともかく、今回は村人が無事ならいいんだ。それなら、オレとリリエルだけでもどうにかなると思うし」

「そう言われると確かに・・・」

 

魔物の素材にさえ目を瞑れば、村人を守り切る事は出来る。短時間であれば、リリエル1人でも問題ないだろう。だが学園都市となると、そうは行かない。守る規模も大きければ、住人だけでなく都市そのものを守り切る必要がある。

 

今回防壁を破られる事があれば、修復が終わるまで防衛に時間と人手を割かれる事になる。そうならないようにナディア達を残して来たが、たかが20人程度で大都市全てを守り切ろうというのは無理があった。

 

どんなに凄腕の冒険者であっても、普通はパーティで行動する。高難易度のクエストであれば尚更だ。しかし今回、その範囲が広すぎるとあって、全員が単独で防衛にあたる。連携が取れない分、11人に掛かる負担は計り知れない。単独で熟せるのは、圧倒的戦力を誇るカレンとルーク。そして単独での狩りに慣れたティナだけであった。

 

 

ティナもそれを充分に理解しているからこそ、隠し切れない程に焦っていた。故にあとひと押し。そうとわかれば説得は容易い。ルークも馬鹿ではない。冷静ならば、幾らでも口は回る。だが今回の場合、ある大きな懸念に辿り着いてしまったのだ。

 

「向こうは11に特化したメンバーが多い。手が回り切らなければ抜けられるし、そうなれば焦ってそこから崩される。一番心配なのはナディアなんだけど・・・」

「それはわかります」

「オレが行ければいいんだけど、宣言した手前、真っ先にオレが抜ける訳にもいかない。となると、危ない場所をカバー出来るティナが適任だと思う。って言うか、他に居ない」

「・・・・・」

「それと実は今気付いたんだけど、ちょっとした懸念がある」

「何です?」

「本格的な接敵まではまだ時間があると思うけど、第一陣が散発的に到達してる頃だと思うんだ」

「それがどうしました?」

 

魔物に限らず、生物の移動速度には差がある。その中で重要なのは、種族差でなく個体差。

 

「最初に到達するのは飛行出来る魔物だと思うんだけど、もしその対処に手間取ってるとマズイ事になる。そして、まず間違いなく手間取ってると思う」

「近接戦闘が得意な者ばかりですからね。あぁ・・・遠距離の得意なお母さん達に負担が掛かる、という事ですね?」

「それも無くはないんだけど、それよりもっとマズイ事がある」

「もっとマズイ事、ですか?」

 

これには流石のティナもすぐには思い至らなかったらしく、訝しげに首を傾げる。

 

「もたもたしてると足の速い、つまりはスタンピードで此方に来た魔物が追い付いて来るんだ」

「それはそうかもしれませんが、わかり切っている事ですよね?」

「いいや、問題なのはその後。次に来るのは元々此方側に居た弱い魔物。で、その次に来るのが少し離れた所に居た強い魔物。でもそんな都合良く、交互に辿り着く訳じゃない。何処かで必ず入り交じる。そうなると非常にマズイ」

「?」

「例えば・・・弱いゴブリンの群れを相手にすると、無意識の内に手を抜いてしまうんだ。熟練の冒険者であればある程に。当然だよな、オーバーキルなんて力の無駄だし。そこに見た目には違いのわからない、強いゴブリンが混じってたらどうなる?」

「っ!?」

 

ティナが目を見開く。これこそが、数多くの冒険者が帰らぬ人となった最大の要因である。素人の集団に達人が紛れ込んでいるようなものなのだ。咄嗟に反応出来る程の圧倒的実力差があるならともかく、今のナディアやエレナ達ではそうも行かない。

 

 

無意識の手加減を抑え込もうとして、意識的に力を込めるだろう。即ち、ルークの言う力の無駄を常に保ち続けるという事。誰もが思っているよりもずっと、消耗は激しいだろう。それは即ち、時間の猶予がティナの想像以上に短い事を意味しているのだった。

 

 

355話 事後処理13

355話 事後処理13

 

 

「お2人共、そこまでです!」

「・・・リノア?」

「リノア・・・さん?」

「私達も学園都市に向かいますから!」

「「っ!?」」

 

突然の宣告に、ルークとティナが揃って息を呑む。2人が驚いたのは、リノア達が付いて来る気なのかと思ったからだ。狙って告げたのなら策士だが、当然リノアにそのような意図は無い。焦って説明が不足しただけの事。

 

どのようにして向かうつもりなのかを言っていたら、2人がそこまで驚く事は無かった。だが転移するつもりだった2人に同行するとなれば、村の者達を置いて行くことになる。そこはまぁ百歩譲ったとしても、激戦が予想される学園都市にリノア達が向かう。そんなのは危険でしかない。だからこそ驚いたのだ。

 

「学園都市って・・・」

「危険なのですよ!?」

「覚悟は出来ています!」

 

頭の良い者同士であれば、言葉足らずでも良い。相手の意図を汲んで会話が成立するのだから。しかしリノアは違う。決して頭が悪い訳ではないのだが、通常とは異なる思考。所謂天然である。普通は噛み合わないはずの会話が、どういう訳か噛み合ってしまう。

 

「学園都市へ向かうという選択は素晴らしいと思いますが・・・」

「幾ら覚悟があっても、リリエルだけで守り切れるかどうかだよな・・・」

「いいえ、私達が魔物に遭遇する心配はありませんから!」

「そうなのですか?でしたら・・・」

 

自信満々に言い切ったリノアに、思わずティナが信じかける。だがティナより学園都市に詳しいルークが不審に思う。そんな場所があっただろうか、と。

 

「ちょっと待った。リノアは何処に居るつもりだ?」

「え?地下ですけど?」

「・・・え?」

「地下・・・あぁ、そういう事か」

「ひょっとして、地下通路を通って学園都市へ戻るという事ですか?」

「はい!」

「あの地下通路ですか・・・」

 

ティナが自分の通って来た道程を思い出していると、考えを察知した村の代表が口を挟んできた。

 

「えぇと、村の者達が使っている通路でしたら、魔物が入り込んでもすぐに対処出来ます。それにかなり深く岩盤の硬い地層の下を通っておりますから、例え竜種の群れが上で暴れたとしても崩落する危険は無いはずです」

「確かにそうですね」

「魔物が入り込んでも対処出来る、というのは?」

「ご存知かと思いますが、あそこは非常に入り組んだ造りとなっております。そこには侵入を報せる魔道具が仕掛けてありまして・・・」

「あぁ、だから至る所で待ち伏せしてる者が居たのか」

「ひょっとして・・・あの者達の奇襲を、正面から返り討ちにされたのでしょうか?」

「あぁ、かなりの人数が居て面倒だったな」

「そ、そうですか・・・」

 

代表が言い淀んだのは、ルークが難なく対処したからではない。正規の入り口を通った場合、一人前の冒険者であればほとんど迷い込まない構造になっているからだ。待ち伏せしていた者達のほとんどが、道中の抜け道から入り込む魔物を警戒して配備されていたのである。

 

まさかそこまで迷っていたとは思わず驚いたのと、ルークに対して気を遣ったのであった。

 

 

「ともかくそういう訳で、リノア様達の事は我々にお任せください。戦えない者達の避難という意味でも、地下へ向かうしかありませんので」

「そういう事ならわかった」

「それで、申し上げ難いのですが、我々にも移動の準備がありまして・・・」

「ん?あぁ、そういう事なら全員の準備が終わるまでの警護はオレがしよう。地下通路へ荷物を運び込むなら半日でいいか?まぁ、焦らずしっかり準備するといいさ」

「「「「「ありがとうございます!」」」」」

 

ルークの言葉に甘える形で、準備へと向かう村人達。会話を聞かれる心配の無い距離まで離れたのを確認し、ティナがルークに文句を告げる。

 

「準備に半日ですか?此方も時間が無いのですけど?」

「焦る気持ちはわかるけど、少し落ち着いたら?」

「・・・落ち着いていますから」

「いいや、落ち着いてないから。焦って自分の事しか見えてないよね?」

「どういう意味です?」

 

不機嫌そうに聞き返すティナに、ルークは内心苦笑しつつも説明する。

 

「この村の者達がするのは、単なる移動の準備じゃないよ」

「?」

「魔物の群れが押し寄せる以上、全員が村を離れるというのは防衛を放棄するって事だろ?すると、この村はどうなる?」

「防衛しないと・・・そういう事ですか。すみません、配慮が足りませんでした」

「いや、オレに対してなら構わないさ。それに彼らに対して急かすような真似はしなかったんだし、気にする必要は無いと思うよ」

 

 

防衛しない、つまりは為すがままである。防壁のしっかりした大都市ですら壊滅の恐れがあるのだ。魔物の大群が押し寄せるとなれば、村などあっという間に蹴散らされるだろう。だからこそ、彼らが向かったのは村を棄てる準備。

 

住む場所の斡旋等はリノア達がする。だが数名ならともかく、100名以上居るのだ。住居の用意だけでも数日、家財道具となればそれ以上掛かるだろう。全員が纏まっての生活となれば、ひょっとすると数十日住む場所すら見つからない可能性の方が高い。ならば安全な地下通路での生活も覚悟の上で、家以外の全てを運び出そうと言うのだ。

 

 

恐らく半日でも足りないだろう。そう思ったティナは、ルークが自分のために泥をかぶったのだと気付くのだった。

 

 

354話 事後処理12

354話 事後処理12

 

 

自分達を放って言い争うルークとティナに、戸惑いを隠せないリノア達。唯一冷静なのはリリエルだった。そんなリリエルにリノアが助けを求める。

 

「リリエルさん!どうすれば良いのでしょう!?」

「う〜ん、放っておけば?夫婦喧嘩はスライムも食わないって言うし」

「ですが、あまり時間が無いのですよね!?」

「それはまぁ、そうだけど・・・」

「止めては頂けませんか?」

「え、無理!」

「何故です!?」

「だって、あんなティナさん見た事無いし・・・怖くない?」

「確かにあそこまで声を張り上げるティナさんも珍しいですが・・・危険は無いと思うんですよ」

 

どんなに感情的になろうと、ルークが嫁に手を上げる事は絶対に無い。だからこそ身の危険は無いのだが、初めて見るティナの様子に断言出来ずにいるリノア。ルークとティナが言い争うのは初めてでもないのだが、それはほとんどの場合がエリド村での出来事だった。故にリノア達が躊躇うのも無理はないだろう。

 

ルークではなくティナに恐れている所が何とも言えないのだが、見ているだけでは収拾がつかないのも事実。そのためリノアはリリエルやクレア、エミリアだけでなく、この村の者達に対しても声を掛ける。

 

「誰か!あの2人を仲裁する、良い方法を思い付きませんか!?」

「あの、自然に収まるまで待ってはいけないのでしょうか?」

「ダメです!夫婦喧嘩に発展したらどうするのですか!?下手したら、この村など一瞬で消し飛んでしまいますよ!」

「「「「「なっ!?」」」」」

 

そんな事は有り得ないのだが、徐々にヒートアップする2人の言い争いに、リノアの妄想もまたヒートアップする。

 

「かくなる上は、私が命懸けでお2人を止めるしか・・・」

「ちょっと落ち着いて!」

「クレアさん・・・何か名案でも浮かびましたか!?」

「そうじゃなくて、ちょっと大げさ!」

「え?」

「少なくともあの2人が力に訴え出る事は無いでしょ!?」

「それは・・・そうですね」

「だから私達は、これからどう行動するかを決めるべきよ。今すぐに」

 

ルークとティナが聞いていないとも限らないため、クレアは口に出さなかったが、あの2人の仲裁は無理と判断した。彼女達では、どちらか一方に加担するのが関の山。その場合の選択肢は自然とティナになるため、後々ルークの機嫌を取る必要がある。だがそれは非常に厄介なのだ。

 

食い物を与えればどうにかなるティナとは異なり、ルークにはあまり欲が無い。仮に嫁達が団結しておだてようにも、頭がキレるせいで一筋縄ではいかない。スフィアかルビア、ティナ辺りなら上手くやるだろうが、頼り過ぎれば慣れて効果が減少してしまう。

 

そうなるとベストな選択は、2人を納得させる事となる。

 

「そうなると、最も現実的なのはここに残る事ですが・・・」

「いいえ、それはヤメておいた方が宜しいかと」

「何故です?」

「先程陛下の挙げられた選択肢で揉めているのですから、どれを選ぼうと解決にはなりません」

 

三択からベストと思われる答えを導き出したかに見えたリノアに対し、エミリアが真っ向から反対する。そう、この場合はどれを選んでも解決には至らない。ティナが説明する前にルークが口を挟んでしまったが、実は三択の中に正解と呼べる物は無いのだから。

 

 

ルークが最初に挙げた城へ帰る。これは言うまでもなく悪手。リリエルという護衛は居るが、まだ帝国内に犯人の仲間が残っている可能性がある。あの手この手でリリエルと分断されたら、リノア達の安全は保証出来ない。いや、そもそも城内で警戒されるのはルークやカレン、それ以外にも実力者が居るからである。そんな者達が揃って不在となれば、良からぬ事を企む者が大胆な行動に出ないとも限らない。

 

しかも城への帰還ともなれば、この村の住人達も連れて行く事になる。一種の恐怖対象であるルークが不在では、混乱するのは間違いないだろう。

 

 

次の獣王国への避難だが、これはリノア達の身を守る点では最適だろう。流石に魔物の群れが獣王国まで到達する事は無いし、リノア達を狙う者達も獣人の警戒網を抜ける事は困難。そこで問題となるのが、この村の住人達だ。

 

自重を辞めたとは言え、ルークは誰にでも転移を披露する訳でもない。そうなると、残された者達が魔物の驚異に晒される恐れがある。彼らには無事リノアに付き従って貰わねばならない。最早リノア達だけ安全な場所に避難すれば良いという話でもないのだ。

 

 

最後のこの場に残る。これが限りなく正解に近いのだが、実は幾つかの不安要素を抱えている。それなりに戦える者達が居るのだが、おそらくは犠牲者が出るだろう。リリエルが殲滅するという方法もあるが、ティナとしては避けたかった。何故なら、リリエルに関しては嫁達全員がお調子者だと認識している。つまりは、やり過ぎるのが確実なのだ。ナディア辺りは直接口にしたかもしれないが、ティナは気を遣ったのである。もっとも、あまりにも必死な今のティナを見れば、いずれ誰かが気付きそうなものなのだが。

 

 

「困りましたね・・・」

「国外で安全な場所があれば良いのですが・・・」

「飛んじゃう?」

「リリエル以外は飛べないわよ・・・」

「あのぉ?」

「「「「?」」」」

 

 

真剣に悩むリノア達に、背後から声を掛ける者があった。この村の住人、その代表と思しき男性である。

 

「でしたら地下を通って、ゆっくり学園都市へ向かわれては如何ですか?皇帝陛下も対処に向かわれるのですよね?」

「「「「・・・それだ(それです)!」」」」

 

 

この場合の最適解は、安全な地下を通り遅れて学園都市に向かう事。冷静な第三者だからこそ、あっさりと導き出せたのだろう。いや、言い争わなければルークもティナもすぐに気付いたはず。

 

 

的確なアドバイスを得たリノア達は、ルークとティナを今すぐ止めるべく、2人の間に夢中で飛び込むのであった。