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万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

半年振りのモンスター

Stay Homeと長梅雨と猛暑でこの半年は自分の中でバイクの存在が消えかけている。最近中免を取得した甥っ子にメッシュジャケットと夏用ブーツを譲ろうかなどと思うほどに。(愛車はカブ90で趣味が違うから有難迷惑だろう)

そうこうしているうちに目も頭も眩むような熱波も少し和らぎ、すがすがしい天気となってきた。そこへもってきて昼からの予定がすぽりと空く。よし、モンスターに乗ろう!と半年振りにバイク上の人となったのである。

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ところがラジオは「この後は不安定な天候で雨にご注意」などと不穏なことを口走る。おいおいおい。ただでさえ久しぶりで色々覚束ない上に雨が降ってはたまらない。滑るコケる怪我をする、いやマア、ちょっと町内を一周してくるだけならどうって事はないだろう、そうかなあ、そうだよ大丈夫だよ。

なぞと臆病と呑気を一人二役で演じながらモンスターの埃を払って、タイヤの空気圧を上げる。前2.3 後ろ2.7。シュカズドンとセル一発でエンジンが目覚める。古いバイクだがインジェクションの恩恵だ。先代のモンスターだと夏でもヘヤドライヤーでキャブを温めないと始動しなかった。今ならその時点で諦めてるだろう。


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走り出せばやはりドカ。ドカドカドカーッツとすっ飛んでいって何度か加速にのけぞってしまった。10年乗ってこれだ。散歩を待ちきれなかった大型犬に引っ張られる飼い主、といった有様でみっともない。そこら辺を一周の積りが気付いたら男山を眺めている。これもまあいつものことだ。スマホの雨レーダーを確認すると迫っていた雨雲は姿を消している。それみろ雲散霧消だ。ついでに臆病風も吹き飛ばしてしまおう。ようしズドンと走り出す。

後はいつもの能天気、このルートのゴール地点はいつものカフェで決まり…だったのだが経営者が変わってしまっている。オーナーの奥さんがわざわざ自分の席までやって来てくれて「長い間ありがとうございました、実は…」と切り出された時には胸が詰まった。同時に個体として認識されてたんだと気付いて嬉しくもあり、それがかえって切なくも感じたのだが、あれはずいぶん昔に思えるが昨年のことだった。

旧友のKが愛したコーヒーの味はどうなったんだろう、と店の前にバイクを止めたものの、やっぱり気が向かない。今の店は同じ名で同じ店構えだがあの素敵な奥さんはもういないと知っている。Kもあの人のファンだったに違いない。

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これは5年前の画像、よく見ると今の外装は少し違っている。

 

それよりもっと走ろう。このカフェの前の道はどこに行くのだろうといつも思っていた。いやどこに行くかは地図を見ればわかるが、どんな道かは走ってみなければわからない。いや今時はどんな道かもGoogle先生のお陰でツブサに分かってしまうのだったね。でも、眼前に広がる景色や空気や匂いまではわからない。それこそがバイクには大事なことなのだよ。またズドンとエンジンをかけ目的地も定めずフラリと走り出した。

フラリと出かける、などとそれは単にカッコつけてるだけで、現実にはそんなことあり得ない」なんて言う人もいるようだ。何を妬んでいるのか普段電車で移動する人は気付かないかもしれない。誰だってフラリと出かけることは出来るんです。バイクはそういう気になりやすいだけ。

車だと駐車場やUターンの事を考えてしまう。自転車はもっと気楽、なはずだが帰り道の体力が気になって意外と豪胆は出来ない。あてなき散歩も良いけれどあんまりキョロキョロしててはただの不審者だ。

その点バイクは幅の広さが魅力だ。市内をウロつくもよし、高速に乗れば100km先は昼飯前だ。その辺を一周のつもりが行く野の道もあっちゅう間、気づいてみれば天橋立、なんて事もよくあった。

カフェの前の道は走ってみるとなかなか気持ちのいい快走roadだった。ワインディングこそないが、目や腰が悪い今の自分にはちょうどいい程度のカーブとアップダウンがある。道幅も広く景色も開けている。方角がわからない程度に自分の住まいから離れた土地、というのもワクワクしていい。

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で、行き着いた先はお馴染みのこの川だった。(まあ途中で大体のところは推測できていたけれど)

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駅にはネイルカフェ、今風だ。

カヌーを楽しんでた独身時代にはよく来た場所だ。古い温泉旅館はとうの昔に廃業していたが風情のあった建物は残っている。会社の連中とカヌースクールの後に日帰り入浴したものだ。主催は販売促進課で美人揃いだった。そう言えば年代物の脱衣場の仕切りの引き戸は立て付けが悪く、いつも隙間があいていたナ…言わんとすることはわかるだろう男性諸君!…などと懐かしんでいたら路駐のスポーツカーの傍で腹の出たメガネのオッサンがしきりにこちらを見ている。

今にも「俺も若い頃はバイクに乗ってたんだよねー」と言いそうだ。「NSRってバイクでさー、ロッコーでガンマとバトルしてえー」なぞと続くのか。近付いてこないのはメットとサングラス姿の当方の年齢を判じかねているからに相違ない。自慢話をしたがる連中というのは歳上には決して話しかけてこないものだ。ただの腰抜けなのだ…と決めつけるのも良くないか。ひょっとすると騒々しい単車だな、と疎んでいただけかもしれないな。いずれにせよ用はない、これまたズドンで走り出す。


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少しクタびれたから一服しよう。この近くにライダースカフェがある。何度か訪れた店だが、ここ数年はハーレー軍団が駐車場を埋めている事が多く、敬遠していた。今日はバイクも車も一台も見当たらない。よし入ってみよう。あれ、こんなだったかいな?と思うと奥から出てきたマスターは別人だった。二年ほど前に移転してきたそうでバイクや車が好きな店主というスタイルは受け継がれている。

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ただし、へんぽんと翻っていた星条旗は今はない。特定の方向性には限定していないらしい雰囲気は好ましい。開け放たれたドアや窓からはまことに良い風がふんだんに入ってくる。都会のコロナ対策とは違うのだ。その後駐車場にシトロエンが入ってきてびっくりした。「俺も昔はBXに乗っててさ〜ハイドロは3台乗り継いだんだよねー」なんてクダ巻くところをまあ思い止まった。頃合いを見て店を出る。後は来た道を帰るだけ。

 

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なんとC6!これは自分にとって理想の絵面かもしれない。(シトロエンとドカ、整備士にとっては地獄絵図か…)

 

思いがけなく半日ソロツーとなってしまったが、やはり乗ればこれほど楽しいものは無い!と思うのがバイクである。肩や腰は痛むが無理さえしなけりゃまだまだ楽しめる。

そんな晴れ晴れしい気分で家に帰った。
部屋で着替えているとBGMのピアノトリオが耳障りでしょうがない。どうも音がスカスカだ。さては中華デジタルアンプがついにイカレたか?と思って音楽を止めてみてはじめて自分の激しい耳鳴りに気づいた。

これはいかん早く寝ようとシャワーを浴びて洗面所の鏡を見たら目の下のクマがものすごいことになっている。やはり相当疲労しているのだ。まじまじ鏡を見ると「初老」という単語が頭を駆け巡ってしまう。やれやれ。

浦島太郎がおじいさんになったのは竜宮城で夜ごと乙姫様に精魂吸い付くされたから、という大人向けのお伽話を思い出した。恐るべきはモンスター姫、ということか・・・