コロナウイルス感染症

大阪府知事吉村氏のコロナウイルス対策の手腕を評価してみる

コロナウイルス対策で大阪府の吉村知事、東京都の小池知事が高い評価を受けています。
大阪、東京どちらも連日多数の感染者を出していますが、両知事は高評価を受けています。
和歌山県知事の仁坂氏も高評価を受けています。
大阪府と和歌山県のコロナウイルス対策を比較して吉村氏のコロナウイルス対策が本当に優れているのか評価します。
都会と田舎の違いがあるので人口比で比較できる所は人口比で見てみます。
5月12日までのデータです。

各種データ

大阪府和歌山県
人口882.3万人94.43万人
1人目の患者1月29日2月13日
2人目の患者2月26日2月14日
PCR検査数22562件
(25.6件/1万人)
3392件
(35.9件/1万人)
衛生検査所での
1日あたりのPCR検査
可能実施件数  ※1
282件
(0.32件/1万人)
100件
(1.06件/1万人)
陽性者数1750人
(1.98人/1万人)
63人
(0.67人/1万人)
陽性率7.8%1.9%
感染経路不明者数904人
(1.02人/1万人)
4人 ※2
(0.04人/1万人)
入院367人
(0.42人/1万人)
10人
(0.11人/1万人)
退院1101人
(1.25人/1万人)
49人
(0.52人/1万人)
死亡61人
(0.07人/1万人)
3人
(0.03人/1万人)
患者情報 ※3性別、年代、居住地性別、年代、居住地、
経過、病状、対応、
就業先

※1 新型コロナウイルスのPCR検査の1日あたり実施可能件数(都道府県別)
   厚生労働省のサイトより   
※2 和歌山県のサイトの患者の状況よりカウント
※3 大阪府と和歌山県のサイトで公開されている患者情報

検査体制

陽性者数、感染経路不明者数、死亡者数等全て大阪の方が多くなっています。
大阪府は人口が多いので田舎と比べ、対応は難しいのは当然です。
しかし、大阪府では1人目と2人目の患者発生まで1ヶ月近い間隔があります。
本来であれば、その間に検査体制の整備を行うべきだったのでしょうが、対応が遅れたのではないかと考えられます。

その間の2月13日に和歌山県では1人目の患者が発生し、対応に追われていました。
患者が医師であったため、院内感染を疑い、病院関係者全員と濃厚接触者等あわせて474人のPCR検査を行いました。県内では全てを行うことができなかったため、厚労省と大阪府に協力してもらったとのことです。

大阪府の衛生検査所で実施可能なPCR検査数は非常に少ないです。
大阪府知事の2月26日のメッセージでは、大阪府では1日90人分(180検体)の検査体制となっていました。
現在は民間にも依頼しているためにPCR検査数は増えています。
次のような報道がありましたので、対応の遅れは明らかです。

PCR検査、大阪で最長10日待ち 医師「保健所受け付けず」―民間委託で拡充急ぐ

感染者の4割が集中する大阪市では4月中旬、相談から検査までに最長10日間かかっていた。重症者やクラスター(感染者集団)の検査を優先したが、待機中に容体が急変して入院した人もいたという。大型連休中で検査が減少した1日時点でも、5日程度の待ち時間が生じていた。

時事ドットコムニュース  2020年05月04日

PCR検査を増やすことができないのは国の制度が原因であると考えられますので大阪府だけの責任ではありません。

コロナウイルスPCR検査と臨床検査技師に関する嘘 実は私は医学部保健学科を卒業し、臨床検査技師の資格も持っています。コロナウイルス関連の報道では間違った報道が非常に多いので正しい情報を...

しかし、大阪府知事という影響力のある方ですので国の制度に問題があるという認識があれば、国に制度見直しを要求すべきであった(すべきである)と思います。

情報公開

情報公開の面でも大阪府には問題があります。感染者の数が多いため、仕方が無い面があるのでしょうが公開されている患者情報が不充分です。(東京もです)

和歌山県では感染者の経過、対応、就業先(民間企業含む)まで公開しています。
就業先の濃厚接触者全員(無症状者を含む)のPCR検査を行い、結果を公開し、安全であることを周知することで、風評被害を防ぎ、早期に営業活動が再開されています。知事が直接会社社長に情報公開のお願いをすることもあったそうです。(1)
情報公開がしっかりしており、どこで患者が発生し、どういう状態なのかがわかりますので県民は警戒すべき地域がわかります。

大阪府には感染経路不明の感染者が904人も出ています。
これらの感染経路不明の感染者の行動調査はどこまで行われているのでしょうか?
大阪府では感染者の情報が不足しているため、府民は警戒すべき地域がわかりません。

4月21日、第二大阪警察病院に和歌山県から通勤している看護師がコロナウイルスに感染しました。
ところが大阪府が病院名を公表しなかったため、4月29日に和歌山県から通勤している別の看護師も感染しました。
病院長が公表するのを止めたという話ですが大阪府の情報公開のあり方と知事のリーダーシップが問われる事案だと思います。 (2)

感染経路不明者が出た場合

和歌山県では1例目の患者が医師であったため、院内感染を疑い病院関係者全員と濃厚接触者等、症状の有無にかかわらずPCR検査を行いました。
しかし、1例目の患者の感染経路が不明であったため、さらに範囲を広げて調査、検査をしています。
観光地が近いため、中国人が立ち入りそうな店を徹底的に調査しました。県内に感染拡大がないかを調べるために県内の他の病院の肺炎患者64人にPCR検査を行いました。(1人の感染者を発見)(3)(4)
発症履歴前後のヒアリングを徹底的に行い、その上で情報公開をして、県民に注意を促しています。(5)

大阪府では感染経路不明者が出た場合にどこまでの調査を行っているのかは不明です。

受診目安

和歌山県では、通常の風邪症状の人はかかりつけの病院を受診し、治療しても症状が続く場合はレントゲン又はCT検査で肺炎の有無を確認し、肺炎の徴候が確認された場合はPCR検査を行うという方針を2月25日に発表しています(6)。
37度以上の熱が4日間以上続く場合が受診目安という国の方針とは異なる方針を取り続けていました。

大阪府の場合、直接は関係無いのですが橋下徹氏は「軽症者は家で寝てろ」と主張していましたし、PCR検査が10日待ちという報道がありましたので、軽症者の診察からPCR検査までの流れはスムーズではありません。
2月26日、3月4日、3月16日、3月20日の大阪府知事のメッセージでは、【風邪の症状や37.5℃前後の発熱が4日程度(高齢者や基礎疾患等のある方は2日程度)続いている場合などは「新型コロナ受診相談センター(帰国者・接触者相談センター)」にご相談ください】とありますので国の方針を踏襲していました。

橋下徹氏の変節の経緯から見るコロナウイルス検査の必要性 橋下氏はコロナウイルス検査には否定的な立場でした。 橋下氏は、「PCRも重症化するような人を見つける為に必要で、一般の人がPCR...

縦割り行政の排除

和歌山県では行動履歴のヒアリング、トレースに関しては医学的知識は必要無いと考え、保健所だけでなく、県庁の他の部署に手伝わせることで保健所の負担を軽減しています。(7)

大阪府では保健所の業務が過負荷となり、PCR検査が10日待ちという状況が発生しています。

PCR検査、大阪で最長10日待ち 医師「保健所受け付けず」―民間委託で拡充急ぐ

府内のあるクリニックには発熱した人がほぼ毎日来院するが、他の患者とは別の時間帯に、防護服を着込んで診察している。男性院長は「保健所は必要な検査をほとんど受け付けていない」と語気を強める。

院長によると、患者に肺炎の所見があるにもかかわらず、保健所に検査を断られたケースがあった。発熱した別の介護職員は検査を受けられず、仕事に復帰できないまま2週間の自宅待機を余儀なくされているという。

時事ドットコムニュース  2020年05月04日

感染の段階に応じた対応

和歌山県では感染の段階に応じた対応を想定し、準備をしています。以下はその抜粋です。(8)

A 感染の初期の段階。各地でパラパラと一人、二人の感染者が見つかって、濃厚接触者にはPCR検査をし、濃厚とは言えないような接触可能性のある人にヒアリングをして経過観察下に置き、陽性者は感染症指定病院で手厚い医療加護を加える。

もう少し感染者が多く発見されるようになった段階。感染者とその接触者への対応は同じだが、数が増えるにつれ、当局の対応が忙しくなり、また陽性者が増えて、感染症指定病院の病床だけでは足りなくなって、一般病院の病床も感染症患者のために空けてもらうことが必要になってきた状況。

さらに感染者が増えてきた段階。感染者とその接触者への対応は同じだけれど、当局のマンパワーが不足して十分な対応が出来なくなった状況。感染者を入院させる病床のやりくりが大変になった状況。

さらに感染者が増えてきた段階。上記に加えて新たな感染の疑いのある者に対してもPCR検査をすぐには出来なくなって、順番待ちになっている状況。

さらに感染者が増えてきた結果、新規入院患者の病床を確保するため、感染症は治ったがまだ陽性が消えない患者をホテルなどの施設に移ってもらって陰性化を待つという状況。段々と一般のクリニックで発熱患者を診てくれる人が少なくなり、大病院の発熱外来に人が集まり始める。

さらに感染者が増えてきた結果、新規感染者の病床が更に不足して、自宅待機やまずホテルへ入居させるなどをせざるを得なくなった状況。また、病院もホテルから退出させるべき人を判別するためのPCR検査も出来なくなって、一定期間滞在した人は自動的に退院、退所をしてもらわざるを得なくなった状況。感染症の疑いがある人々の選別とPCR検査の実施のアレンジが出来なくなって、不安を感じる人々が感染症外来のある病院へ殺到していて、そこへ医師を回すために、重症患者に登用すべき医療人材が不足してきた状況。

さらに感染者が増え、重症者の数もどんどん増えて、重症者ですら十分に医療加護を加えられなくなり、軽症者の数も多すぎて検査も出来なくなるので軽症者には自宅で様子を見てもらって、特に重症化したときだけ、医療として命を救うことしか出来なくなった段階。

和歌山県はBの段階で大阪府はFの段階、ニューヨークやイタリアはGの段階と考えられます。

大阪府は感染段階に応じた対応を検討しているのかは不明です。あっという間にFの段階になってしまったというのもありますが、検査体制、医療体制の整備が遅れたことは否めません。

まとめると

吉村知事と仁坂知事の対応を比較することで対応の違いが明白になりました。
吉村知事にとって気の毒なのは都会と田舎という規模の違いです。
仁坂氏が大阪府知事であった場合、和歌山県と同じようなことが可能であるとは限りません。

仁坂知事はコロナウイルス感染症が問題になって以降、連日のように長文で県民にメッセージを発信し、情報公開を行っています。
吉村知事はテレビにはよく出演しているようですが、府民への文章でのメッセージは少なく内容も薄いです。大阪府が公開している情報も少ないです。
そういう事情で今回の記事の多くは仁坂知事が公開した情報を元にしたものですので、仁坂知事寄りの記事になっているかもしれません。

数字の上でもこれだけ大きく差がついていますので、吉村知事のコロナウイルス対策は決して褒められたものではありません。
東京都の小池知事は吉村知事以上に酷いと思います。
メディアに多数出演しているというだけで両者が高く評価されるのは、決して良い事ではありません。

近いうちに大阪府でも緊急事態制限が解除されると思いますが検査体制、医療体制の立て直しが急務であると考えられます。感染経路不明の感染者が多数出ていますので緊急事態制限解除により、再び感染者の増加が予想されます。吉村氏の手腕が問われると思います。

参考
(1)知事からのメッセージ 令和2年3月8日のメッセージ 新型コロナウイルス感染症に関して(その6)
(2)知事からのメッセージ 令和2年4月30日のメッセージ 新型コロナウィルス感染症対策(その21)
(3)知事からのメッセージ 令和2年2月19日のメッセージ 新型コロナ風邪発生
(4)知事からのメッセージ 令和2年2月25日のメッセージ 和歌山県新型コロナウィルス感染症(その2)一応の沈静
(5)知事からのメッセージ 令和2年4月1日のメッセージ 新型コロナウィルス感染症対策(その10)
(6)知事からのメッセージ 令和2年2月29日のメッセージ 新型コロナウイルス感染症に関して(その3)
(7)知事からのメッセージ 令和2年4月12日のメッセージ 新型コロナウイルス感染症対策(その13)
(8)知事からのメッセージ 令和2年4月27日のメッセージ 新型コロナウィルス感染症対策(その19) 

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