読書メモ「これで安心!シロアリ対策:神谷忠弘」
築古物件へ投資をする上で、恐らく避けて通れないのがシロアリである。
購入段階で判明している場合は避けることも可能だが、長年保有していればいずれ被害に遭うこともあるだろう。
またシロアリ被害がある物件は誰も買いたがらない。
一般居住用としての需要はほぼないし、投資用としても心理的なハードルは高い。
だがその分指値は効きやすく、対策を取り修繕できれば割りに合った投資となりえる。
今回紹介する「これで安心!シロアリ対策」は日本のシロアリについてかなり詳しく、具体的な対策方法まで書かれている。
今後の自分のためにも内容をまとめておきたい。
1.日本の主なシロアリ
日本に生息するシロアリは大きく分ければ2種類だ。
ヤマトシロアリとイエシロアリ
ヤマトシロアリが北海道を除く全域に生息するのに対し、イエシロアリは千葉県以西の温暖な地域に限られる。
その分布図については次のサイトが分かりやすいので引用する。
イエシロアリは危険!ヤマトシロアリとの見分け方や被害を解説 【ファインドプロ】
実際にシロアリの被害を確認する場合、アリの種類を特定することが何より大事だ。
(1) ヤマトシロアリの生態
生息域は北海道の北側を除いた日本全域。
群飛(羽アリが飛びたつこと)は4月末~5月中ごろ、雨上がりの午前中。
集団は一定範囲で分裂、融合を行い、分散した小規模の巣群を形成する。
イエシロアリとは異なり、家屋に甚大な被害をもたらすことは少ないが、土台や柱など、重要な構造部分へ被害を与えることもある。
(2) イエシロアリの生態
生息域は千葉県以西の温暖地域。
群飛は6~7月、アジサイが咲くころの蒸し暑い夕刻が中心。
本巣や分巣といった大規模な巣系を形成。大集団となり活動エリアが広い。
大規模集中型のシロアリであり、短期間で家屋に甚大な被害を与える。
最悪のケースでは家屋倒壊もあり得る。
2.シロアリの迷信・俗説
・木材が腐るとシロアリが発生する。
因果関係はない。
腐ったり湿った木材にシロアリが集まるのではなく、シロアリが到達したために木材が湿り、腐る。
・シロアリは木材腐朽菌に誘引される。
蟻道内にいるシロアリ(自然状態)は誘引されない。
蟻道内のシロアリは機械的、地形に沿って進む。そして目の前のものを何でもかじる。
・蟻酸を分泌し、物体を溶かす。
シロアリは蟻酸を持たない。
・腐った木材しか食べない。
乾いていても食べる。
・湿気がなければ生きられない。
必要な水分は地下などの水源から持ち込む。
むしろ絶えず濡れている場所では生きられない。
・高い場所の被害は少ない。
コロニーが大きくなれば高所も被害に遭う。
・断熱材など栄養のないものは食べない。
物質をあらかじめ判断せず、目の前のものに食いつく。
・ヒバなどは食べない。
樹種は選択しない、被害の程度は異なる。
・羽アリは光に向かわない。
強く光に誘引される。
・好適温度がある。
蟻道を作りながら進行するため適応の範囲は広い。
・砂地より植壌土を好む。
適応した限りでは特に関係ない。
・炭やマイナスイオンを嫌う。
まったく嫌わない。
・高い床下ではシロアリが侵入しない。
1メートルにも及ぶ蟻道もある。
3.シロアリ対策
(1) ヤマトシロアリ
・家屋の被害にかかわる集団だけを個別に駆除することが基本。
・活動エリアが小さいため、薬剤の忌避性の有無にかかわりなく駆除が可能。
・侵入が予想される部分(玄関など)への薬剤による予防は有効。
・イエシロアリ同様、点検可能な家屋の構造が最も重要な要素となる。
(2) イエシロアリ
・基本的に通常の薬剤散布だけでは駆除に至らない。
・巣系を把握した上で、巣の機能を根本的に破壊することが駆除の決め手となる。
・遅効性で非忌避薬剤を少量用いて巣系全体を死滅させるなどの方法がある。
・すでに近くで巣が確認される場合は、巣そのものの駆除が必要。
・巣が遠くにある場合、あるいは確認できない場合でも、点検可能な家屋の構造としておくことが、対策の上で有利となる。
(3) 効果のない対策
・木材への防腐剤塗布。
・炭や調湿材を床下に設置したり撒くこと。
・銅板などの金属を侵入場所へ設置すること。
4.シロアリ対策の問題点
本書を読んで実感したのが、シロアリに対する誤った認識である。
先に挙げたような、迷信や俗説は誰もが持っているものだろう。
そんな知識しかないにもかかわらず、実際にシロアリ駆除を行おうとしても的外れな対策になるし、専門業者へ丸投げせざるを得ない。
シロアリに限らずだが床下産業というものは、非常に業者と顧客の情報格差が大きいのだ。
そのため無知な客は業者の言うがままに不必要な方法を選び、大きな費用を支払わざるをえないのではないだろうか。
特に著者はヤマトシロアリの被害に対して、床下全域に薬剤を撒いたり、誘引するためのベイト材を設置することは過剰であると指摘している。
各現場にあった方法をオーダーメイド的に行うことが大事なのであって、画一的な施工では非効率で過剰的になってしまう。
客側も正しい知識を身に着けないと、不必要な出費を避けることはできない。
私がこの本を読んだ感想としては
・ヤマトシロアリであればDIYでも十分に対処可能である。
・築古物件は大抵床下は布基礎なので、点検口があれば駆除は楽である。
・巣や蟻道が発見できれば直接駆除する。
・予防のために床下の入り口と基礎の柱に薬剤を塗る程度で十分。
といったものである。
恐らく次の3号物件ではこの本で得た知識をフル活用することになる。
その基礎的な知識を得るにはまさに最適な本だったと言える。
DIYしない大家にとっても物件のシロアリ被害とは無縁でいられないだろう。
現時点で自宅のシロアリ被害に困っている人にも是非オススメしたい一冊だ。