統合失調症では女性の方が予後良好と言われているのはなぜ? 医師国家試験精神科 113B18
統合失調症と言えば、幻聴!
医師国家試験2019年度 精神科 113B18
統合失調症を強く示唆する患者の発言はどれか。
a 「自分には霊がとりついている」
b 「(天井のしみを指さして)虫が這っている」
c 「自分は癌にかかっているので、明日には死ぬ」
d 「自分の考えることがすべて周囲の人に伝わっている」
e 「外に出ると通行人が自分を見るので、外出できない」
今回は統合失調症の問題ですね。タイトルに書いた統合失調症と男女差の関係は後半に書いています!
統合失調症に見られる発言に関する問題は、2020年の医師国家試験の114B21(以前に解説済)でも出題されていたので、2年連続の出題だったんですね。
統合失調症は、脳内のドパミン神経系などの脳機能の変調を基盤として、感情、思考、自我、知覚など様々な精神機能に異常をきたし、特有な症状が出現する病気でしたね。
特に統合失調症に役立つ症状として、シュナイダーの一級症状というものがあります。シュナイダーは、一級症状のうち2番(対話性または実況解説する声)と3番(自己の行為を批評する幻聴)が確実に存在すれば統合失調症と診断できると主張しました。(厳密には、症状が他の病気が原因で生じたものではないことも必要。)
なお、近年ではDSMという診断基準が用いられますが、一般内科の開業医の先生とかが、シュナイダーの一級症状を統合失調症のスクリーニングに用いるなんてケースもあるようです。
一応、シュナイダーの一級症状を載せておきますが、初見だと意味不明ですよね。
自分はだいぶ慣れましたが、初めて勉強した時は頭の中が「!????」という感じでした。思考化声や構想伝播と言われてもなかなかピンとしませんよね💦
◆シュナイダーの一級症状(参考までに)
- 思考化声(頭の中で考えた事が声として自分に聞こえるetc)
- 対話性または実況解説する声
- 自己の行為を批評する幻聴
- 身体的被影響体験
- 思考奪取・思考への干渉
- 構想伝播
- 妄想知覚
- 感情・欲動・意志のさせられ体験や被影響体験
精神科では、患者さんの発言を「医学用語」に変換することが必要
精神科に限らず、医者は患者さんの訴えを医学用語に変換する必要があります。
例えば、「お腹が右下の方が痛い」と患者さんが訴えたら「右下腹部」と言い換えます。
そして、右下腹部痛なら「虫垂炎(いわゆる、盲腸)、腸閉塞(腸がつまる病気)、女性なら子宮外妊娠」といった感じで可能性のある病名を頭に浮かべるわけです。(このような行為を医学用語で「鑑別疾患を挙げる」と言います。)
精神科も基本的には同じです。ただ、精神科が他の診療科と異なる点は「患者さんが自分自身で困っている点を教えてくれない場合がある」という点です。
例えば、今回の統合失調症の患者さんはそもそも自分自身では病気だと思っていない(病識がない)ため、患者さん自身に質問するというより、患者さんの雰囲気や患者の家族から情報を集めていく必要がありますね。
ということですので、今回の問題の選択肢の発言を医学用語に置き換えていきたいと思います!
a 「自分には霊がとりついている」
これは、憑依状態を表します。以前扱った解離性障害という病気でみられます。
多重人格ってホントにあるの? 解離性障害について 医師国家試験113A25 - 精神科医を目指す医学生の備忘録
ちなみに、統合失調症にも「自分は神の生まれ変わりだと考える」妄想着想という症状もあるので、少しややこしいですね。
b 「(天井のしみを指さして)虫が這っている」
これは、小動物幻視と呼ばれるものですね。アルコール依存症の患者さんの離脱症状として見られます。以前、アルコール離脱の際には睡眠薬を投与するという話で説明させていただきました。
アルコール依存症の治療に睡眠薬が有効!? 医師国家試験114D7 - 精神科医を目指す医学生の備忘録
c 「自分は癌にかかっているので、明日には死ぬ」
これは、うつ病などに見られる微小妄想の一つの心気妄想ですね。自分の健康状態をマイナスに評価するというものでしたね。
妄想=確信!?うつ病と妄想について 医師国家試験 114E13
d 「自分の考えることがすべて周囲の人に伝わっている」
これは、シュナイダーの一級症状にも含まれる構想伝播という症状です。テレビドラマとかで統合失調症の患者さんが「自分の考えがCIAに盗聴されている」なんて主張するシーンが流れたりしますよね。ですので、これが正解になります。
ちなみに、構想伝播は、英語でthought broadcastingと言います。thoughtは考えるの意味で、boradcastはテレビなどを放送するの意味ですよね。なので、直訳すると「自分の考えが世間に放送されてしまう」という感じでしょうか。英語の直訳の方がイメージがつきやすいですね(笑)
e 「外に出ると通行人が自分を見るので、外出できない」
最後に、これは注察妄想と呼ばれるものです。これは自分が誰かに見られていると考えてしまう妄想で、被害妄想の一つですね。これも統合失調症に見られても良いのですが、選択肢dの構想伝播はシュナイダーの一級症状に含まれているので、統合失調症を強く示唆するのはdが正解という感じでしょうか?
統合失調症は女性の方が予後が良いのはなぜ?
統合失調症の発症年齢は、一般的に男性は20代初期に多く、女性では20代後半以降にピークがくるとされます。
35歳くらいまでの男性の発症率は、女性よりも1.5~2倍高いとされています。それ以降は男女共に発症率が下がるのですが、女性の場合は50歳くらいで再び発症ピークが来ると言われています。
このような原因として、ホルモン仮説というものがあります(詳細は、Why sex differences in schizophrenia?(2010)という論文に書かれています!)
すなわち、女性ホルモンであるエストロゲンという物質が脳に影響を及ぼして統合失調症の発症に関係しているのではないか?という考え方のようです。
エストロゲンは、主に女性の月経に関係しますが、それだけでなく、骨の量が減らないようにしたり、LDLコレステロールという悪玉コレステロールを減らす役割があります。(ですので、閉経すると女性は骨粗鬆症になったり、血管が硬くなる動脈硬化になりやすくなります。)
このエストロゲンは、神経発達に対しても保護的な効果があると考えられています。よって、閉経するまでの女性は、エストロゲンが豊富に分泌されているので、脳が障害されにくく統合失調症になりにくいのではないか?という仮説です。
逆に閉経するとエストロゲンの分泌が低下するため、中年女性の統合失調症の発症率が高くなるのではないか?という考えのようです。
実際、女性の統合失調症の患者さんにエストロゲンを投与すると症状が改善したという論文が報告されているようです。
とはいえ、まだ仮説レベルなため、統合失調症患者さんへのホルモン投与は保険適応となっていません。
しかし、将来的にホルモン仮説が証明されれば、治療薬にエストロゲン製剤が加わるという日が来るかもしれないですね!
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