精神科医を目指す医大生の備忘録

精神科に興味あるけど、どうやって勉強したらいいかわからない。という悩みを解決するために医師国家試験を解説しつつ、勉強していくことにしました!一般の方でも解けちゃったりするので、ぜひともお付き合いくださいませ!

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適量な飲酒は健康に良いは嘘だった? 医師国家試験 113B31

最新の論文では少しのお酒でも体に悪影響だそうです(´;ω;`)

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アルコールは我慢しないとだめなのでしょうか!?

医師国家試験(2019年度)精神科 113B31

48歳の女性。転倒による大腿骨骨折のため、昨日入院した。昨晩は夜間に全く眠らない状態が続き、今朝から手指と上肢に粗大な振戦が出現した。既往歴に特記すべきことはない。喫煙歴はない。20歳から飲酒を開始し、32歳から夫の母親を自宅で介護するようになり、飲酒する頻度が増えた。38歳から連日昼間も飲酒するようになり、45歳からは1日に焼酎500mL以上を飲酒していた。体温36.7℃。脈拍68/分、整。血圧140/88mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。血液所見:赤血球392万、Hb 13.0g/dL、Ht 42%、白血球7,500、血小板17万。血液生化学所見:総蛋白7.8g/dL、アルブミン3.8g/dL、総ビリルビン1.0mg/dL、AST 140U/L、ALT 80U/L、γ-GTP 210U/L(基準8~50)、総コレステロール295mg/dL、トリグリセリド240mg/dL。頭部CTで異常を認めない。

数日以内に出現する可能性の高い症状の予防に適切な薬剤はどれか。

a 選択的セロトニン再取込み阻害薬
ベンゾジアゼピン系薬
c 精神刺激薬
抗精神病薬
e 抗酒薬

 今回は、臨床問題と言われるタイプの問題ですね。

医師国家試験には一般問題と臨床問題の2種類があります。

 

見分けるのは簡単で臨床問題は今回のように問題文が非常に長いです。

患者さんの背景や血液検査など細かい情報が書かれており、そこから診断名や適切な検査や治療法を考えていくというより実践的な問題です。そのため、医者として必要な思考法がしっかり身についているかが試される問題です。

 

長い問題では複数の連問形式になっていて、画像検査などを入れると数ページに及ぶこともあり、なかなか心が折れますね(笑)

 

一方で一般問題とは、以下のようにセンター試験など一般的な試験で見られる選択形式の問題ですね。こちらは、単純な知識が問われていますね。

医師国家試験114D7 2020年度

アルコール依存症の治療について適切なのはどれか。

a 入院治療が第一選択である。
b 断酒会は匿名参加が原則である。
離脱症状ベンゾジアゼピン系薬を投与する。
d 脳症の予防としてビタミンDは有効である。
e 患者に知らせずに抗酒薬を食事に混ぜて投与する。

 ちなみにこちらの114D7の問題については、以前別記事で解説させていただいたのですが、正解はcのベンゾジアゼピンという睡眠薬を投与するというものでしたね!

 

アルコールを飲んでリラックスできるのは、チョコレートで有名なGABAという物質が関係しているのでした。

 

アルコール依存の人が入院などでアルコールを飲めなくなるとふるえや幻視といった「離脱症状が現れます。これは、アルコールによって活性化していたGABAスイッチが、禁酒によって急にオフになるからでしたね。

 

そこで、GABAスイッチに作用する睡眠薬ベンゾジアゼピン)を飲むことで、離脱症状を抑えることができるのでした。

詳細はこちらを参照してください。「アルコール依存症の治療に睡眠薬が有効!?

 

医師国家試験では似た問題が数年以内にリバイズされることがある!

医学生以外にとっては完全に余談になるのですが、医師国家試験では過去に出題された問題が数年後に別の形式で出題されるということが多々あります。

 

2020年度の試験で第114回目だったので、いくら医学の進歩が著しいと言っても重要な内容は限られているので、似たような問題を出さなければいけないという事情もあるようです。

 

今回面白いのは、2020年度の試験(第114回D7)で一般問題形式で「アルコール離脱にベンゾジアゼピン睡眠薬が効果的」という話が出題されたのですが、前年の2019年度に全く同じ内容が臨床問題として出題されているんですよね。

 

ですので、医師国家試験では同じ知識が「一般問題」→「臨床問題」→「一般問題」と交互に出題されるというのが定説になっています。

 

厚生労働省のお墨付きはアルコールは一日20gまで!

さて、今回のアルコール離脱に関する臨床問題を見ていきたいのですが、注目すべき箇所を抜き出すと

20歳から飲酒を開始し、32歳から夫の母親を自宅で介護するようになり、飲酒する頻度が増えた。38歳から連日昼間も飲酒するようになり、45歳からは1日に焼酎500mL以上を飲酒していた。

の部分でアルコール摂取量が多いと分かりますね。

 

厚生労働省が2000年に発表した推奨量として、アルコールは一日約20gまでとされています。これを普段飲むお酒に置き換えると焼酎なら0.6合(110ml)、ビール中瓶1本(500ml)、缶チューハイ1.5缶(500ml)、日本酒1合(180ml)、ワイン1/4本(180ml)とされています。

 

今回の患者さんは、45歳から現在まで約3年間も毎日500ml以上飲んでいるので、推奨量の4倍以上飲んでいるわけですよね。

 

ただ、「32歳から15年近く夫の母親を介護していた」というなかなかヘビーな記載もあり、昼間からお酒を飲まないとやっていけないくらいストレスフルな生活を過ごしていたのかなとも推察できますね。(国家試験本番は余裕がないでしょうが、暇な時にじっくり国家試験を解いていると、なかなか細かい設定がなされているなと感動しますね(笑))

 

ということで、アルコール依存症は間違いないでしょう。

 

さらに

転倒による大腿骨骨折のため、昨日入院した。昨晩は夜間に全く眠らない状態が続き、今朝から手指と上肢に粗大な振戦が出現した。

この部分から、介護疲れのためか不幸にも骨折(しかも大腿骨!!!)してしまい、入院してしまい、アルコールを飲めなくなってしまったんでしょうね。それで今朝から離脱症状である手足のふるえが出てきたという流れのようです。

 

ですので、「数日以内に出現する可能性の高い症状の予防に適切な薬剤はどれか。」という問いに対しては、GABA受容体に作用する睡眠薬である「b ベンゾジアゼピン系薬」が正解となります。

 

ちなみに数日以内に出現する可能性が高いとあるのは、今朝の時点では離脱症状が軽度だったが、今後数日より大きな発作が現れるというのを示唆しているのでしょう。

 

ということで、問題自体はそこまで難しくないのですが、なかなか社会的メッセージの強い問題でしたね!

 

個人的に直近の第114回医師国家試験(2020年度)で印象的だったのはレッドブル®などエナジードリンクを飲みすぎた患者さんがカフェイン中毒で搬送されるという問題が出題されたことですね。精神科領域なら、今後はゲーム中毒とかネット依存症の問題が出る時代が来るかもしれないですね。

 

少しのアルコールでも体に悪影響!?

先程も記載したように厚生労働省の健康日本21(第1次)では一日20gまでのアルコールならオッケーとお墨付きがあったわけです。

 

これは、1996年の海外の論文にて男性の死亡率がアルコール摂取量20g/日あたりが最も低いというデータが発表されたことを根拠といていました。

 

また適度な飲酒は血管に良い効果をもたらすので、心筋梗塞など心臓疾患の発症をおさえるなんて研究もあったりしたので、堂々とアルコールを飲む理由となっていたわけです。

 

しかし、2018年のLancetという権威ある雑誌にて「アルコールを摂取しないことが、病気の発症リスクを最小にできる」と発表されました。

もちろんアルコールは血管への良い効果もあるのですが、アルコールのせいで肝臓障害になったり、癌が発生しやすくなったりするトータルのリスクを考慮すると飲まない方が良いとうことのようです。

 

ということで、お酒好きの人にとっては悲しい結論になりましたね。今後は、厚労省からも公式に「アルコールは飲まない方が良い」という見解が出される時代になるのでしょうか。。。。(´;ω;`)

 

身体への悪影響という点ではアルコールは飲まない方が良いのは間違いないですが、適度なアルコールで気の知れた友人と食事をすることは「心の健康を保つ」という点では必要かなと思ったりもします!(体も心も両方大切ですからね!と自分に言い訳w)

 

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◆おまけ(残りの選択肢について)

a 選択的セロトニン再取込み阻害薬→SSRIと言われるうつ病に用いられる薬ですね!

ベンゾジアゼピン系薬→正解です!

c 精神刺激薬→精神刺激薬はADHDナルコレプシーに用いられるメチルフェニデートという薬なので誤りです!

ナルコレプシーについて知りたい方はこちらを参照ください!

抗精神病薬→これは統合失調症に有効な薬ですね!

統合失調症と薬については、こちらを参照ください!


e 抗酒薬→これは、アルコールの断酒目的に使われる治療薬なので、今回のような離脱症状の予防には使えませんね。

 

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