話しことばの文を繋ぐ接続詞

話しことば(会話)でいちばんよく使われる接続詞は「で」です。「で」は「それで」が短くなったものだと言われています。

使用頻度の高い「で」ですが、日本語の教科書で扱われているのは見たことがありません。なぜ教科書に出てこないのか。教科書で扱われることの多い「それから」や「だから」と比べると、「で」はそれ自体の意味がとても曖昧でさらに書きことばでは使われないという特徴があります。実際話すときによく使っているのに記述的知識として記憶されにくく学校文法でも教わらないのが「で」なのです。

原稿ありきのスピーチなどは別として、「で」は友だち同士の会話にも、もっとフォーマルな会話にも頻繁に出てきます。これは「で」の曖昧さが、その場で即座に表現することを要求されるコミュニケーションの媒体とマッチしているからでしょう。

「で」の元の形とされる「それで」と比べてみると、「それで」は文と文の意味的な関係を表すことが多いのに対し、「で」は単に文と文を繋げる役割を担っているようです。下記の(1)と(2)の「それで」は後述の文が前述の文と時系列に沿った因果関係にあることを表していますが、(3)と(4)の「で」は意味的な関係ではなく単に話が続くことを示しています。

(1)それがまた添削されて戻ってくるんだわ。それで、また書き直してから提出。

(2)友だちになろうって自分から言ったんだって。それで、毎日毎日遊んでるそのと。

(3)うん、元気にしてた。で、なんか朝~だ- あそこは9時つってたかな。

(4)そいで、入院ですよ。で、血圧が高かったんですよね、やっぱり。

「で」と同じように、それ自体意味を持たないことばなのに会話の中ではとても重宝されることばにフィラーがあります。「えっと」「あの~」「え~」などのフィラーを使うことにより「ちょっと考える時間が要りますが、あなたに伝えたいことがあるんです」という意志を伝えることができます。一方「で」は「どう展開するかはっきり分かりませんが、この話にはまだ続きがあるんです」という意図を示すことができます。

また(5)と(6)のように、「で」の直後に「それで」や「だから」など別の接続詞が現れることもまれにあります。「で」 で取りあえず文を繋ぎ、その後に「それで」や「だから」で意味を繋いでいるのでしょう。

(5)もう寮出たいなとか思って。で、それで、他にアパート代とかゆったら倍になっちゃうじゃん?

(6)あの~サービスが悪かったの、すごく。で、だから、文句言ってね、マネージャーに。

書きことばでは意味が曖昧すぎて避けられるべき「で」ですが、話しことばでは日本語学習者にももっと重宝されてもいいのではないかと思います。

ちなみに、「で」の他にも「それで」の異形とされる様々な形(音)が存在します。

これらのバリエーションにも使われ方の違いがあるのかもしれないし、個人差や地域差、また場面によっての使い分けがあるのかもしれません。ことばってホントに奥が深いですね。

ちなみにのちなみにですが、自分がどれを使っているか想像がついたりしますか。普通に使いこなしている言語でも、日常の言語使用に関する勘はほとんど当てにならないという研究結果があります。いくつか自分の会話を録音してみて予想と合っていたら(合っていなくても)ぜひご一報を!


引用・参考文献

Hudson, Mutsuko Endo. 1998. So? (On Japanese Connectives sorede, dakara, and ja). Japanese/Korean Linguistics 7: 59-75.

Sadler, Misumi. 2006. A blurring of categorization: the Japanese connective de in spontaneous conversation. Discourse Studies 8(2): 303-323.

Sinclair, John. 1991. Corpus Concordance Collocation. Oxford: Oxford University Press.

用例の出典

Canavan, Alexandra and Zipperlen, George. 1996. CALLHOME Japanese Speech LDC96S37. Web download. Philadelphia: Linguistic Data Consortium. Browsable database accessible at https://ca.talkbank.org/browser/index.php?url=CallHome/jpn/