トーキング・マイノリティ

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黄金の夜明け

2018-08-12 21:40:04 | 音楽、TV、観劇

 8月7日放送のBS世界のドキュメンタリー「極右の妻たち~ギリシャ「黄金の夜明け」」を見た。邦題は“妻たち”となっているが、原題はGOLDEN DAWN GIRLS、 2017年ノルウェー制作のドキュメンタリーである。番組で初めて「黄金の夜明け」なるギリシアの極右政党の名を知ったが、番組サイトでの紹介は以下の通り。

ギリシャで躍進するネオナチ政党。幹部の多くが刑務所に送られた後、表舞台に立った3人の女性は、信条と事実のはざまで矛盾にまみれた生き様を貫く。極右の内側に密着取材。
「黄金の夜明け」は2012年以降、過激な極右主張を掲げて選挙で躍進。党員が左翼の活動員を殺害、報復として暴力の連鎖が国内外に波紋が広がる中、党首の娘オウラニアは、幹部の妻ジェニーやその義母ダフニとともに、ウエブや街頭でのアピール活動の先頭に立つ。不都合には目をつむる姿勢や、主張の虚構ぶりを問うノルウェーの取材班に、3人はどう応じるのか?女たちは、男たちが塀の中から復帰すると、舞台裏へ身を退いてゆく。

 トップ画像は党首ニコラオス・ミハロリアコスの娘オウラニアで、番組サイトからの借用。当然メディアからは散々罵倒され、「憎悪の女」呼ばわりされたこともあるという。外貌は何処にでもいそうな普通の若い女という印象だし、ノルウェー人インタビュアーには、ディズニーDVDやゲームのコレクションを見せ、ごく普通の娘というイメージに躍起のようだ。飼っている愛犬に服を着せているのは、日本と同じで苦笑した。
 但し、口を開けば流石に極右政党党首の娘らしく発言する言葉は選んでおり、ノルウェー人インタビュアーに「貴女は何時も仮面をつけている」と言わしめた。

 オウラニアはナチスの鍵十字の旗をバックにした父の若い頃の写真を自慢げに見せていたが、ノルウェーと同じくギリシアも戦時中にドイツに占領された過去がある。それでもナチス好きが一部いるのか?番組ではナチス占領時に8歳だったという老人が登場、大勢の左翼が黒覆面の男たちによって木に吊るされたという証言をしていたが、行ったのはナチスではなくギリシア人協力者だった。
 父が極右政党創始者、娘も政治活動に加わるというのは、フランスの国民戦線初代党首のルペンとその娘マリーヌと重なる。ただ、フランスとギリシアの違いもあるのか、垢抜けて高等教育もあるマリーヌと対照的にオウラニアは野暮ったい。太めの体型やファッションもビジュアル面でマイナスに感じるが、「黄金の夜明け」の党名だけは国民戦線より響きが良い。

 党首の娘よりも党幹部の妻ジェニーや幹部の母ダフニの方は洗練された印象だった。前者は国際関係学と政治学の修士号を取得し、ダフニは潜水艦技師や病院の理事として働いた経験を持つほどなのだ。にも関わらずジェニーは、入党する前はパン職人やヘビメタバンドメンバーだった男と結婚した。私的には格差婚に至る経緯の方が気になったが。
 ダフニはかつては社会主義や左派政党支持者で、チェ・ゲバラの娘と一緒に写真を撮ったこともある。しかし左派政党に幻滅、息子が「黄金の夜明け」に入ってからは彼女も政治活動に加わる。どうして幻滅したのか、取材では深く追及していなかった。
 
 私にはノルウェー人の取材姿勢自体におかしさを感じた。人道主義者を自称するこのノルウェー人がオウラニアにしたインタビューは、このようなものだった。
自分に嘘をついているのでは?
貴女はナチスを支持しますか?
なぜ答えようとしないんですか?
私は貴女の本音は違うと思いたかった
私は貴女がナチスを支持しないと言ってくれるのを期待していた

貴方は自分が欲しい答えを私に言わせようとしている」、というオウラニアの反論もこれでは尤もだし、「人生にはいろんな選択肢があるの」と言った答えは意味ありげだった。端から結論に導くための誘導尋問にしか見えなかったし、愚問の連発そのものだ。「黄金の夜明け」の暴力行為を挙げるノルウェー人に対し、オウラニアはこう言い返す。
「私たちは火炎瓶で人を殺すスターリンのメス犬とは違う」
「党首や幹部の逮捕で、女性たちが党の活動から離れることを期待していた」、というノルウェー人の感想もお粗末極まる。父や息子、夫が逮捕されれば逆に奮い立つのが女ではないか!凶悪犯でも庇うのが母親だし、メディア関係者はかくも人間心理に疎いのか?

 ギリシア情勢に無知な私でも、極右が台頭するのは社会の混乱が背景にあることくらい想像がつく。ナチスナチスを繰り返せば極右が鎮まると思い込んでいる“人道主義者”だが、不都合には目をつむる姿勢や、主張の虚構ぶりでは極右と変わりない。
  ギリシアでは銃所持が認められているのか、何丁もの銃を自宅に保管している極右団体は不気味だが、報道側にも不快を覚える。

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2 コメント

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黄金の夜明け団・・・🐵。 (Mobile)
2018-08-12 22:31:58
記事よりもこの党名に興味を感じた。
黄金の夜明け団といえばカバラの教義を信じるフリーメーソン系の秘密結社だ(その他にはイルミネイツとか、いずれにしても秘教的な秘密結社の存在が知られている)。
これを党名にするとは、ブッ飛んでるなあ👍。ナチがハーケンクロイツをシンボルにしたのと似た傾向だ。
極右はこうした呪術的なものを信望する傾向があるのだろうか?
Re:黄金の夜明け団・・・。 (mugi)
2018-08-13 22:10:16
>Mobile さん、

 黄金の夜明け団という、カバラの教義を信じるフリーメーソン系の秘密結社があることは知りませんでした。いかにも右翼丸出しの“国民戦線”と違い文学的で、ネーミングセンスがあると感じましたが、実際は呪術的なものへの信望があった?尤も党幹部の身内の女性は、私たちは古代ギリシア人の子孫だ、スパルタのように戦うと言っていましたが。

 ナチス自体がオカルト傾向ありでしたからね。以前記事にしましたが、ナチス時代に古代アーリア人の偉大な指導者としてゾロアスターとブッタが盛んに持ち上げられていたそうです。
https://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/814410759f6dcbe8bb8dcbd00a9b1500

 仏教徒やゾロアスター教徒には大迷惑な話ですが、このコメントが的を得ているでしょう。
「(ドイツ人は)ヨーロッパの中ではローマ帝国周辺の蛮族ですから、古代アーリアに出自を求めたくなったのかも」