とらちゃんのゴロゴロ日記-Blog.ver

2004年12月09日 15時15分
1985年公開の、ラッセ・ハルストレム監督による子供の世界を子供の目線で描いた傑作だ。彼は、この後「やまかし村」シリーズ（1986）や「サイダーハウス・ルール」（1999）と「ショコラ」（2000）を発表して世界的に有名な監督になった。本作はその最初のスタートになった作品といっていいだろう。母親が病弱で、父は行方知れず、兄とも別れて生活するイングマルという少年の経験する出来事を、丁寧な描写で描いている。少し悲しく、またユーモアに溢れ、周りの大人は多種多様という世の中の縮図のような世界を小さな村で映像にしている。これは、レイダル・イェンソンの原作のすばらしさと、ラッセ・ハルストレム監督・共同脚本の手腕だろう。傑作だ。

1950年代のスウェーデンの海辺の小さな町とその近くの山の中の村が舞台だ。イングマル（アントン・グランセリウス）は、何かつらいことがあると、人工衛星で打ち上げられたライカ犬のことを思い出してその犬よりもましだと思って切り抜けてきた。ライカ犬は、各種のセンサーを付けられて、5ヶ月も地球を回り飢え死にするまで宇宙にいたのだ。そのライカ犬に比べれば、自分の人生はいい方だと考えるようにしていたのだ。兄のエリックは要領がよくて、すぐに自分をいじめる。母は労咳でベッドにいつも寝ている。父は、赤道の近くでバナナを取っていて行方がわからない。そんなイングマルは、愛犬シッカンが唯一の友達だった。

女の子と遊んでいて怒られてしまい、ごみ置き場に逃げ込む。シッカンと夜をそこで明かそうとして焚き火をするが、その火がごみに燃え移って火事になってしまう。家ではおねしょをしたり、ミルクを飲むと震えてこぼしてしまう。母に負担を掛けるということで、兄のエリックはおばあちゃんの家に、イングマルは山間の村で叔父の家に預けられる。愛犬シッカンは、犬用のホテルに行くという。

叔父の家に着いてみると、ちょっと変わり者の叔父とうるさい叔母と祖父母がいた。祖父は寝たきりだったが、話し相手になってみると女性用の下着のカタログを読んでくれという。叔父は庭にあずまやを作っていた。叔父はガラス工で、イングマルは手伝いをしたりする。また、近所にはいつも屋根の修理をしている変なおじさんもいたり、芸術家を気取って工場の女工をモデルにするやつもいた。

イングマルはその女工の見張りに付いていくことになる。裸になるというので、変なことをされないためだった。サッカーチームでは、背の高いサガ（メリンダ・キンナマン）という女の子を好きになる。サガは胸が膨らんできたので、サッカーを続けられないと悩みを打ち明ける。イングマルは、サガの胸にゴムを巻く手伝いをすることになる。また、ボクシングのリングが納屋の屋根裏にあって、子供たちは対戦をする。グローブが一組しかないので、グローブをはめていない手は防御専用というルールだった。サガと二人だけで対戦をしている時に、サガが抱きついてきて友人に見られてしまう。

冬が近づいて、母の容態が悪くなったので兄弟は自宅に戻る。でも、犬のシッカンはどこかに行ってしまって、姿が見えない。母は救急車で病院に運ばれていく。それを、近所の人たちはやじうまのように集まってくる。兄は、モデルガンでやじうまを追い払う。イングマルは、母をしっかり見送れない。最後の面会で、「クリスマスプレゼントは、何がいい」と聞く。彼はトースターを買う。母の家事が楽になるようにと考えていた。

母が亡くなると、兄弟は別れ別れになってしまう。でも、ライカ犬よりましだと思う。雪の中をまた、叔父の家に引き取られる。イングマルは、学校で他の女の子からパーティーに誘われる。でも、そのパーティーではその女の子とサガがイングマルを取り合ってけんかをする。これも、楽しい。最後には元のさやに納まり、サガはスカートをはくようになる。そして、スウェーデン出身のボクサー、イングマル・ヨハンソンの世界タイルマッチをラジオでいっしょに聞きながら、二人は眠ってしまう。

イングマルは、後になって「ママが元気なうちに、いろいろ話せばよかった」と回想する。子供の世界を生き生きと描いて、素晴らしい作品になった。母が亡くなったり、父が行方不明で兄弟とも別れることになる。さらに、愛犬のシッカンとも別れてしまう。それでも、何とか前向きに生きようとする主人公がたくましい。ほんとうに温かい作品だ。