2020年09月25日
チェルニー2
前回の記事はこちら。
練習曲は、ショパンやリスト、ラフマニノフ、スクリャービン・・・のように芸術性を高めたようなものもあれば、ただひたすら指の訓練にスポットを当てて書かれた作品もある。
後者でもっとも良く使われている教本は、おそらくハノンだろう。その進化系としてピシュナーがありドホナーニがある。余談になるが、最近このドホナーニが密かにブームらしい。僕も高校生の頃にレッスンで良く使っていた。指の独立訓練としてはかなり厳しい課題が多いが、その分、効果もテキメンだった、と経験者として強く言っておきたい。
チェルニー(やル・クーペ)はどうだろう。音楽的につまらないからと、興味を示さない生徒も多い。とは言え、使い方次第では音楽的に使えるし、曲への応用にも十分期待できる。
チェルニーは機能和声の基本がこれでもかと詰まっているので、和音の感じを生徒に伝えるのに、とてもシンプルで分かりやすい。チェルニー30番で言えば、ここぞ!というときに減七の和音が登場する。そこには、スフォルツァンドが付いていることも多く、特別な和音であるということを視覚的にも確認もでき、それらがいろいろな曲で次から次へと反復して出てくるので、次第に感覚的に把握できる力の育成も期待できる。勘の良い生徒ならチェルニー30番だけでも理解できるが、40番もその延長線上にあるので慌てる必要もない。これらのことはチェルニーの師匠ベートーヴェンの作品をはじめ、あらゆる曲において役に立つ感覚だし、それ以上に複雑な和音が出てきた時の特別感にも反応できるようになるかもしれない。
ほかにも、属調へ転調していくきっかけの和音(ドッペルドミナント)にもスフォルツァンドやアクセントが付いているし、転調の際に必要とされるエネルギーの増幅のために、クレッシェンドが書いてあることも多い。これらのことは、仮にチェルニーの譜面からワザと記号を消してしまったとしても、元々書いてあるように演奏されるべき表現法だと思うし、これらの基本を理解できれば、バッハのように譜面に何も書いていない原典版を使っても解釈の一助となるだろう。
(続く)