人気blogランキングは? 時のない場のドットは、やがて消滅するブラックホールに逆らい、不分明に果てしない闇に満たされた「空」に、おらそらく宙ぶらりんだろうけれど、はっきりと選ばれた「黒点」となって現れた。…私は、すでに「こちら側」の存在だ。
 ごく自然の衝動のように、私は、広がる胎盤に根を下ろし、貼りつき、心音に合わせ温かい体液が送り込まれてくる透き通った皮膜をドックドックと揺るがせ、プニョプニョとした細胞を幾度も幾度も分裂させ、ひたすら「生」に向かって変化するプロセスを刻み込み、生来の羅針盤を頼りに航路を定め、自ら万華鏡さながらキラキラと輝いて、船出のドラを高らかに鳴らし続ける。
 私が、「生命」となる胎内で目覚めた時、まるでスクリーンに映し出されるような鮮烈な物語は、その瞬間から、嵐のようにフラッシュバックする記憶さながらに、命の風景をしっかりと体感させるのだ。…あたかも、あらかじめ用意されたシノプシスに従った鮮やかな展開ぶり…。
 この私に、選ばれし者の喜びも自負もありはしない。たとえ、「選んで選んで、この子じゃこの子じゃ」と呟く母がそうであっても…。
 だがしかし、まるで人生のアバンタイトルを、まんまとうまく編集しきった恍惚と傲慢さを、思わず露わにした風ではあった。…いやそんなこと、あろうはずはない。
 どこからか「閃きの声」を聞き「覚醒」し、ドットから穏やかな膨らみになり、透き通っていた皮膜の厚みを次第に増していく、とてつもなく長い時の流れの果てに、「頭脳」と「情動」を持った、形ある「私」になっていく。
 その声が、「造物主」からのものなのか、私の母となる者が呼びかけたものか、私自身のモノローグなのか、あるいは他の「何か」であるのか、未だ定かではない…。
 けれど今、「ここにある」という真実を認めざるを得ない私は、確信をもって言えるのだ…「こうして、母は、私の初めて知る女になった」…「宿命の呪縛」と言わずして何と呼ぼう。
 私は、それでも、呪縛のがんじがらめの枷に懸命に抗いながら生きようとした。望まなかった「こちら側」での生を、課せられたことへの、かなわぬ「レジスタンス」…。
 「KIMI、ねェそこにいるのね…わかっているのよ。KIMIを、そこに閉じ込めている以外、手負いのあなたを、私の下に引き留めておく手立てがあったかしら。元はといえば、それが、女たちによって傷つけられたものであればあるほど、そうよ、あなたは、私によって、そこで温かく抱かれたまま守られていなければならなかったのよ…でもね、いくらなんでも奔放すぎたわね。あなたが、海辺の古い館に逃げ込んでしまうようでは…まるで処女の芝居じみた自傷行為のようなものよ…自らの行動はしっかりと戒めるべきってことよ。KIMIのやりそうなことなんて、どんなにうまくおおい隠したって、私には分かるのだから。…ほら、あなたは私に嘘はつけない。あなたはやましいと、その広い額にポッと桜色の天使を浮かび上がらせるわ。それがわかるのは私だけ。そうよ、どんな女にもできやしない…たとえ敏腕の刑事にだって…」
 今、こんなところから、最後の一歩が踏み出せないのは、思い巡らせてみると、恐らくCHIKOが投げ打つ「呪縛」の網にひっかかっているからに違いない。
 私は、「ろくでもない男」になろうとした。けれど、なんのことはない、全くの大根役者の顛末で…まんまとCHIKOに取り込まれちまったというわけだ。
 すっかりCHIKOの体の中に組み込まれ、身動きすらままならないままに、その場を放棄し逃れるなどとてもできやしない。
 そう、私は、CHIKOから逃れられない。
 やがて、CHIKOの胎内でこのままドットとなり、ブラックホールに飲み込まれ、消滅するのだろうか…。
 ほら、そうすれば、CHIKOを抜きにした私の人生はなかったと言わしめるようなものではないか。
 傲慢と言われようと、何よりも、私のいないCHIKOを思い描くことができるだろうか…。
 CHIKOの眼差しに甘えるようですらある温かさの中で、私は目を閉じる。
(C) JULIYA MASAHIRO 浮かび上がるスクリーン…あたかも大島渚ばりの「青春残酷物語」のストーリーに、すんなりと飲み込まれていく。時折、刻印するように色鮮やかな展開を見せる。
 それは、脳幹にためこんだ記憶片を、自由自在にコラージュし描き上げる「セクサス」「プレクサス」「ネクサス」…。
 赤坂見附…地下鉄の階段を登り切ったところにある小さな公園…くるくると回る遊具に浅く腰を下ろした私は、遠く聞こえるデモ隊のシュピレヒコールを聞いている。
 一ツ木通りから路地を抜けた正面のマンションの一室の小さなベッドで過ごした女を、成田からのフライトに見送って、気怠い眠りの中から、やっと起き上がり、たどりついた場所。…女の香りが、まだ指先に残っている。
 ニューオータニの麦わら帽子が夕暮れの中に揺れて見える。
 あァ、あの女たちと、どっぷりと過ごした一室が見える。彼女たちが出かけた後、夜の明けるのを待つようにして弁慶橋を渡った。
 幼かったHIROが、私の掌に包まれて、焼け落ちたばかりのニュージャパンを見上げている。
 「パパ、迷子になっちゃうからね…僕の手をしっかりと捕まえていてね…これから、ママに会いに行くんだから…」
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