不思議な鹿に出会うという奇跡。 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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美術の世界には、奇跡を起こしたヒーローが数多く存在する。
もしも、そんな彼らにヒーローインタビューを行ったなら・・・?



インタビュアー (以下:イ) 「放送席、放送席。
                 こちらには、エウスタキウスさんにお越し頂いております」

エウスタキウス (以下:エ) 「はじめまして。プラキドゥス・・・じゃなかった。エウスタキウスです」

イ 「あ、確か、奇跡を起こした後に、改名されたんでしたよね」

エ 「はい。そうなんです」

イ 「それでは、エウスタキウスさんのほうから、
  改めまして、今回の奇跡について教えて頂いてよろしいでしょうか?」

エ 「そうですね。あれは、私がローマ帝国の将軍だった時の話です。
  その日は、犬を連れて、狩りをしていました。しばらくすると、鹿が現れまして。
  これは大物だとばかりに、その鹿を追ったところ、なんと鹿の頭に・・・


ルーカス・クラーナハ (父) 《聖エウスタキウス》


  十字架に磔にされたキリスト様の姿があったのです。
  で、それを観て、私はすぐにキリスト教に改心し、
  家族とともに洗礼を受け、エウスタキウスを名乗るようになったのです」

イ 「え~。え~っと、ちょっと整理させてくださいね。
  奇跡ってそれだけですか?」

エ 「それだけとは?」

イ 「何だか奇跡としてはショボいといいますか・・・。
  角と見間違えたって可能性はないんですか?」

エ 「いえ、あれは、確かにキリスト様でした!ほら、こちらを観てください!」


アルブレヒト・デューラー 《聖エウスタキウス》


イ 「遠いんですよね・・・。あのもっとハッキリ映ってるのはないんですか?」

エ 「ルネサンス画家のピサネロが描いたものでは、ハッキリとその姿が確認できます」


ピサネロ 《聖エウスタキウスの幻影》


イ 「・・・まぁ、確かに」

エ 「こっちの中世に描かれた挿絵なんて、
  もっとハッキリとキリスト様が現れていますよ」




イ 「顔だけじゃないですか!十字架、どこ行ったんですか?!
  まぁ仮に、鹿の頭にキリストの姿が見えたとしましょうか。
  それだけで改宗してしまうのが、ある意味、エウスタキウスさんのスゴいところですよね」

エ 「ありがとうございます」

イ 「ちなみに。ズバリ、キリスト教に改宗して良かったですか?」

エ 「そうですね。改宗した途端に、いきなり貧乏になってしまいまして・・・。
  それと、妻を、とある船長に誘拐されまして、
  2人の息子はそれぞれ、ライオンと狼に攫われてしまいました」

イ 「めちゃめちゃ最悪じゃないですか!」

エ「ただ、それでもキリスト教を信じ続けた結果、
  15年後に家族と無事に再会することが出来たのです」

イ 「長かったですね・・・」

エ 「そういう意味ではやはり、
  あの日あの時あの場所で鹿に会えなかったら、
  僕はいつまでもただの将軍のまま、だったと思いますよ」


アルブレヒト・デューラー 《聖エウスタキウス》


イ 「なるほど。エウスタキウスさんにとっては、運命の出逢いだったのですね。
  そんな旗まで作ってしまうだなんて!
  こちらからは以上です。放送席にお返しいたします」




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