ルネ・ユイグのまなざし フランス絵画の精華 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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八王子にある東京富士美術館で開催中の展覧会、
”ルネ・ユイグのまなざし フランス絵画の精華” に行ってきました。


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)


こちらは、ルーヴル美術館絵画部長としてナチスから名画を守ったことでも知られ、
東京富士美術館の初代名誉館長でもあった、世界的な美術史家ルネ・ユイグに捧ぐ展覧会。
フランス絵画はフランス絵画でも、印象派やエコールド・パリの作家の作品ではなく、
フランス絵画が最も華やかだった17世紀から19世紀半ばを代表する画家らの名品を紹介するものです。

展覧会には、ルネ・ユイグがそのコレクション形成に尽力した、
東京富士美術館が所蔵するフランス絵画の名品の数々も出展されていましたが。




ヴェルサイユ宮殿美術館やオルセー美術館、大英博物館をはじめ、
フランスやイギリスを代表する20館以上の美術館が所蔵する名品も数多く出展されています。




その中には、日本初公開の作品も多数含まれていました。
あまりにも世界的な名品が一堂に会しているので、
”目の前に広がっている光景は、もしかしたら夢なのでは?”
”展示されているのは偽物なのでは?” (←もちろん本物です!) と疑ってしまったほど。
これだけ充実したフランス絵画の展覧会が、
日本で開催されているだなんて、まさに奇跡としか言いようがありません!

しかも、展覧会のメインビジュアルに使われている、
ルブランの 《ポリニャック公爵夫人、ガブリエル・ヨランド・クロード・マルチーヌ・ド・ポラストロン》 を含む3点の名画に関しては・・・


エリザベト=ルイーズ・ヴィジェ・ルブラン 《ポリニャック公爵夫人、ガブリエル・ヨランド・クロード・マルチーヌ・ド・ポラストロン》
1782年、油彩、カンヴァス、92.2 cm×73.3cm
ヴェルサイユ宮殿美術館 Photo©RMN-Grand Palais(Château de Versailles)/Gérard Blot/distributed by AMF



なんと写真撮影が可能となっています!





それも併せて、奇跡的な展覧会といえるでしょう。
「八王子は遠いなァ・・・」 と躊躇している皆様、
本国フランスを訪れるのに比べたら、だいぶ近いですよ。
星星星


さてさて、今回出展されていた作品の中で、
特に印象的だったものを、いくつかご紹介いたしましょう。
まずは、ヴェルサイユ宮殿美術館の所蔵品で、今回日本初公開となる逸品。
アングルの 《オルレアン公、フェルディナン=フィリップ=ルイ》(風景を背景に) です。


ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 《オルレアン公、フェルディナン=フィリップ=ルイ》(風景を背景に)
1843年、油彩・カンヴァス、157×121.5cm、ヴェルサイユ宮殿美術館
Photo © Château de Versailles, Dist. RMN-Grand Palais / Christophe Fouin / distributed by AMF



一見すると、写実的な肖像画に思えますが、
よく見てみると、首と左腕が異様に長いことに気が付きます。
これは、アングルによるデフォルメなのだそう。
ちなみに、もっとよく見てみると、
上半身を囲むように、うっすらと長方形があることに気が付きました。
実は、こちらの作品、その長方形部分だけをアングルが描き、
残りの下半身や背景部分を、アングルの弟子たちが仕上げたのだそう。
分業していることが、いくらなんでもバレバレです。


続いて紹介したいのは、アンヌ=ルイ・ジロデ=トリオゾンによる肖像画 (画面左)。




描かれているのは、阿部寛・・・・・では当然なく、
作家でもあり、政治家でもあったフランソワ=ルネ・ド・シャトーブリアンです。
なんとも美味しそうな名前だなァと思ったら、
彼が料理人に命じて、牛ヒレ肉の中央部分のステーキを作らせたのだそう、
そして、美味しさにすっかり魅了されたシャトーブリアンは、そのステーキばかりを食べたのだとか。
それゆえ、牛肉の中でも最上級のその部位に、
シャトーブリアンという名前が付いたのだそうです (注:諸説あり)。
栄養足りてなさそうな顔して、実は、イイもの食べてるんですね。けっ。


そんなシャトーブリアン同様に (?)、
主に女性の方から反感を買いそうなのが、フランソワ・ブーシェです。




会場では、ブーシェのこんな言葉が紹介されていました。

「女は太っておらずに、
 ぽっちゃりとして優雅ですらりとしていなくてはならないが、
 そうかといって痩せていてもいけない」


注文多いな!!
ストライクゾーンが狭すぎです。
というか、結局ぽっちゃりとすらり、
どっちがタイプなのかよくわかりませんでした (笑)


最後に紹介したいのは、バロックを代表するフランスの画家ニコラ・プッサン。
作品があまりにも貴重であるため、日本で紹介される機会が極めて少ない画家です。
今回の展覧会には、ベルリン国立絵画館が所蔵する 《55歳の自画像》 と、
ニコラ・プッサン美術館所蔵の 《コリオラヌスに哀訴する妻と母》 の2点が来日しています。




どちらも日本初公開。
個人的には、《コリオラヌスに哀訴する妻と母》 のほうがお気に入り。


ニコラ・プッサン 《コリオラヌスに哀訴する妻と母》 1652-1653年頃、油彩・カンヴァス、112 × 199 cm、ニコラ・プッサン美術館
© Christophe Deronne



古代ローマの将軍、コリオラヌス。
彼は政争に敗れ、ローマから追放されます。
そんなコリオラヌスに声をかけたのが、隣国の部族ウォルキス族。
コリオラヌスは軍の指揮を執り、ともにローマと戦うことにしました。
今まさにローマに向かわんとするその時、
コリオラヌスの妻と母が現れ、「戦わないように!」 と必死で哀訴したのです。
それを受け入れ、剣を鞘に戻すコリオラヌス。
《コリオラヌスに哀訴する妻と母》には、そんな家族の絆が描かれています。
個人的に注目したのが、画面中央の赤ちゃん。
コリオラヌスの妻と母に負けないくらい、必死に哀訴していました。
この歳にしてすでに、今置かれている現状を把握しているだなんて。
天才か。




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