五目並べ < 番外編・下 > | ナベちゃんの徒然草

ナベちゃんの徒然草

還暦を過ぎ、新たな人生を模索中・・・。

オフィスに戻ると、ペアの女性社員はエラい剣幕で出て行った私を心配して、帰りを待っていてくれました。

 

「渡辺さん、また社長と喧嘩したんじゃ・・・。」

 

「あははっ、大丈夫だょ。 ちょっと五目並べしてきただけだって。」

 

「本当? ならいいんだけど。」

 

「心配ないって。 待たせちゃって、ごめんナ。」

 

そう言うと、ようやく安心した素振りで彼女は帰りました。

 

さて、翌日。

 

営業の外回りで朝から出歩いていた私が夕方帰社すると、ペアの女性社員がニコニコしながら待ってました。

 

「ちょっと渡辺さん、信じられないことがあったのョ。

 D社長がさっき来てネ、私にコレをくれたの。」

 

彼女が指を差した先には、高島屋の紙袋が・・・。

 

       

 

「こんなこと、初めて・・・渡辺さん、昨日社長に私の好物を教えたでしょ!」

 

「いやっ、そんな事話してないって。 きっと前から知ってたんじゃない。

それよりもケーキを渡した時、何か言ってた?」

 

「いえ、何も。 『ほれっ。』 っていきなり渡して、すぐ帰ったわょ。」

 

「ふ~ん。 じゃ、きっと社長も昨日は言い過ぎたって反省したんじゃない? 恥ずかしくて言えなかったんだょ、きっと。」

 

「そうかなァ・・・そうだといいけど。」

 

そして彼女が帰った午後6時過ぎ・・・私は再びD社長の事務所へ。

 

「こんばんは~、また五目並べしに来ましたョ~。」 

D社長、ブスッとした顔でソファに腰掛けてました。

 

「なんだ、お前か。 また説教でもしに来たのか?」

 

「またまた、ご冗談を。 じゃ、今日はもう帰りましょうか?」

 

「まぁ、せっかく来たんだから、少しやろうか。」

 

「そうこなくっちゃ。」

 

・・・しばし黙って碁盤を囲む2人。

そしてまた3局目に入ったところで、私から口を開きました。

 

「さすがですねェ、社長。」

 

「何がだョ。」

 

「今日ちゃ~んとケーキ持って来てくれたらしいじゃないですか。」

 

「あぁ・・・まぁな。」

 

「で、ちゃんと謝ったんですか、彼女に。」

 

「・・・・・忘れた。」

 

「あらまっ・・・でも彼女、喜んでましたョ。 

しかし社長も、意外と素直なところがあるんですねェ。」

 

「うるせェ。 あっ、これで四・三の出来上がりでオレの勝ち。」

 

「ありゃりゃ・・・。 やっぱりイイ事した日は強いや。」

 

「お前、ホント口の減らねェヤロウだな。 

 また出入り禁止にしたろか?」

 

「はいはい、ご自由に。」

 

その晩は、10局以上付き合ったナベちゃんでありました。

 

そんなD社長も、既に鬼籍に入られました。

 

怖いけどカワイイところもあった・・・なんて書いたら、「日本軍人をナメるなっ!」 って今晩あたり日本刀を手に、私の夢枕に立つかも?

 

・・・そういえばD社長、私には何もくれなかったなァ。あせあせ

 

 

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