84年録音。ブラームスのピアノ五重奏曲。プレヴィンのピアノ、ウィーン・ムジークフェライン
四重奏団。協奏曲にあっても重厚で交響的な響きを持ち込んだブラームスは、室内楽でも堅固な響きを好んだ作曲家でした。特にピアノを用いた室内楽には真価を発揮したところです。弦楽四重奏、五重奏、六重奏とクラリネット五重奏曲をのぞくと、多くの作品にピアノが導入されています。ヴァイオリン、チェロ、クラリネット(ヴィオラ)のソナタ、ピアノ、ホルン、クラリネットの三重奏曲、ピアノ四重奏、そしてピアノ五重奏という具合です。ピアノの響きはロマン派らしく、大きくなりつつあった響きの拡大に見合ったものでした。ピアノはブラームス自身の楽器でしたし、楽器の性能を生かしながらアンサンブルに参加することもできました。ピアノ五重奏曲は現在の形になるまでに紆余曲折を経た作品です。弦楽五重奏として構想され、二台のピアノ版を経て、現在の形へとまとまっていきます。若き日の作品であり、弦楽器の書法に充実したものを乱せなかった時期。序奏をともなった楽章があるのも初期作品のいくつかにみられる特徴です。構図としてはピアノに加えて、弦楽四重奏という形で、この曲にも多くの録音があります。それでも分野として見た場合には作品は多くはありません。ブラームス自身も四重奏、三重奏の3曲といったように、弦を減らした編成に向かう傾向がありました。弦を減らすのは、弦楽器の書法が単調なものになりやすく、活躍の場を見出すためのものでした。録音ではポリーニ、R.ゼルキン、ルービンシュタイン、グルダなど数多ある多くの録音のほとんどが、堂々とした押し出しのもと、弦楽四重奏と対峙しています。プレヴィンのものもこうした例に漏れないものですが、プレヴィンのアンサンブル・ピアニストとしての立脚点がわかりやすく提示されています。
 
ジャズにはじまり、プレヴィンはいわゆるクラシックの外の世界から踏み込んでいった音楽家です。ジャズのピアノ・トリオといったものでは、それぞれの自発性が尊重され、同時にバランスが保たれるもの。アンサンブルのうちに自発が即興ともなっています。楽音が音符となっているクラシック作品にあっても、ピアノだけが主役ではない弦の書法にも留意されたアンサンブル全体が配慮されているものです。結果、ウィーン・ムジークフェラインのウィーン情緒が発散され、主張がある一方、バランスにも留意されたピアノが展開します。堅固な演奏の中にあって緩やかな抒情は、この曲の演奏には異例のものですが、海獣ではないブラームス、アンサンブルの在り方に強い示唆を与えてくれます。
 


人気ブログランキング