「ごらんのとおり。 何も危害を加えてございません、」
綾はムッとしながら葦切を迎えた。
「さくらちゃん、だいじょうぶなんですか?」
律も心配そうに言った。
「とにかく。 奏くんに会えなくて、どうなっているのか心配をしていて・・」
葦切はその光景を見回して意外そうに言った。
たくさんの書物がデスクに積まれ、ホワイトボードにびっしりと字が書きつめられて。
奏はノートに何やら書いている途中だった。
「ちゃんと練習はさせているわよ。 でも。 弾くだけじゃあ・・理解できない部分はたくさんあります。 この人には『音楽の中』にまで入ってもらいます。」
綾は腕組みをしていつものように冷静にそう言った。
ホワイトボードにはクラシック音楽の歴史に関する記述が書かれ
ベートーヴェンの楽曲が生まれていく背景など。
その時代のドイツやウイーンの情勢まで事細かに書かれていた。
「彼には100%音楽のことだけを考える時間にしたいの。 外で今戦争が起きようが、地球外生命体が攻めて来ようが。 食事と睡眠以外は音楽に没頭させたいんです。 篠宮先生であっても、そういう時間を取ることは難しいでしょう。 いくら音楽の才能があってもね。 没頭してストイックに精進しなかったら、ただの人で終わる。 篠宮先生だってこの人をそんな風にしたくないでしょう。 余計なことは一切シャットダウンしたかったんです。 おわかりになったら、帰って下さい。」
綾は冷たくそう言った。
「・・わかりました、」
葦切はそっと頭を下げた。
「篠宮先生が。 普通の身体じゃないから、仕方なくあなたをここに入れたんですから。 ちゃんと言い聞かせて下さい。」
「・・はい。 どうもすみませんでした、」
そして出て行こうとすると
「あの、」
奏は綾に
「少しだけ葦切さんと話をしてもいいですか、」
と言った。
綾は時計を見て。
「3分よ、」
とだけ言った。
葦切を玄関まで送りに行きながら
「ぼくも驚きました。 どんだけ弾かされるんだろうと思って。 でも。 神宮寺さんはああやってものすごく熱心に2時間ぶっ通しくらいでぼくにレクチャーをしてくれます。 もちろんピアノは弾いています。 でも・・時には歌を歌わされたり、」
奏は葦切にざっと説明をした。
「は? 歌?」
「この隣にカラオケルームみたいなのがあって。 ぼくはピアノをやっていますけど、カラオケとか行ったことなくて・・。 戸惑いました。 歌うことで自分の中の音感を研ぎ澄ませるためらしいんですけど。 照れずに自分を出すようにって言われて・・、」
「・・へええ・・」
「先生、身体は大丈夫なんですか? この前も寒いのにこの裏口で待ち伏せしてたって・・」
「ぼくからも言っておきます。 神宮寺さんは決して無茶をしているわけではなさそうですって、」
葦切はにっこりと笑って奏の背中をぽんと叩いた。
葦切が目にしたのは意外な光景でした・・
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