光のステージで
世界的ヴァイオリニスト・神宮寺綾の存在感に負けずに
後ろでピアノを弾く奏のオーラを感じた。
時折、ライトに耳につけたピアスがキラっと光る。
横顔が少し大人っぽくなった。
ひなたはそんなことをぼんやりと考えていた。
1年前、2年前
それぞれの奏を思い出す。
ここにたどり着くまでたくさんのことがあったけど
何だか一瞬でここにタイムスリップしてきたかのような
すごいスピードで彼は上り詰めて行った。
クラシックのこともピアノのことも少しもわからないはずなのに
奏のピアノを聴いていると、いつもいつも胸がいっぱいになる。
バッグからハンカチを出して涙が零れないようにそっと抑えた。
たぶん秋からは遠くウィーンへ行ってしまう。
元気に背中を押してあげなくちゃいけないのに
これから先の彼がどうなるのかが少し怖い。
ようやく心も体もひとつになったのに
不思議に前より遠くにいるみたい。
フィニッシュもぴったり合って、一瞬の静寂のあとものすごい拍手に包まれた。
スタンディングオベーションをする人たちがたくさんいたけれど
ひなたは立ち上がれなかった。
綾が満面の笑顔で奏に歩み寄り握手を求め、奏も笑顔でそれに応えた。
そのまま彼女が彼の手を引いて、中央に連れてきて手を挙げる。
ライトに奏の笑顔が光る。
公演が終わって、みんなぞろぞろと客席を立って後にする。
ひなたはずっとその場に座ったままだった。
「・・ひなた、」
声を掛けられてハッとして振り返った。
佑真だった。
「・・佑真、来てたの、」
「うん。 奏からチケットもらって・・、 母ちゃんと。」
後ろにいた佑真の母を指さした。
「・・あ、こんにちわ、」
ひなたは慌てて立ち上がった。
「このチケットくれた志藤さんの娘で・・クラスメイト。」
簡単に母に紹介すると、
「え！ そうなの？ へー・・。 この度は貴重なチケットをありがとうございました。 今日はお店もお休みなんで来させてもらいました、」
母はひなたにお辞儀をした。
「あ！ いえ・・ あたしは・・ そんなチケットのこととか、」
「かわいいお嬢さんねえ。 佑真のクラスメイトだなんて、偶然なのね。」
「偶然・・っていうか。 まあ・・いろいろ複雑な、」
佑真は奏との関係があまりに複雑で母に説明できなかった。
「こいつ。 高遠奏の彼女だから、」
と簡単に言うと
「え！ そうなの？ もー、やっぱりイケメンにはかわいい子がつくのねえ・・。 残念ねえ、佑真。」
母はアハハと笑って息子の背中を叩いた。
「もう、そういうリアクションうざいから！」
「じゃあ、あたし先に帰るね。 明日の仕込もあるから。 じゃあ、お父様によろしくお伝えください。 高遠くん、本当に素敵だった、」
佑真の母の笑顔にひなたはつられて少しだけ微笑んだ。
神宮寺綾との共演は大成功に終わります。ひなたはそんな奏に胸がいっぱいになりながらも寂しさもつのり・・
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