台湾政府のコロナ後に向けた経済政策「7本の矢」

7つの矢

新型コロナに対する対応で注目が高まった台湾。2020年05月18日というかなり早い時期に、台湾政府の国家発展委員会ではコロナ後に向けて台湾を抜本的に変革させるための提言「7つの矢」を発表しています。その概要を紹介いたします。

本記事は参考資料を基に書いていますが、分かりやすくするために筆者によって内容が要約され、説明も追記していますので、原文からの完全な翻訳ではありません。どうぞご了承ください。

「7本の矢」とは?

台湾のコロナ後の重点政策・7つの矢
  • ヘルスケア 産業の創造
  • ゼロ接触エコノミーの発展
  • 労働市場柔軟化
  • 台湾をアジア・太平洋のスタートアップセンターに
  • データ ・エコシステムの発展
  • サプライチェーン強靭化
  • 資本市場改革・スタートアップの資金調達への対応

上記の重点項目を矢に例えて「7本の矢」と呼んでいます。この「7本の矢」はコロナによる経済落ち込みへの対応ではなく、コロナを契機としてデジタル(IT)とイノベーションを軸にした大胆な取り組みで台湾を再構築することを目的としています。

台湾の経済企画庁、国家発展委員会

「7本の矢」を策定したのは台湾の国家発展委員会、敢えて言えば日本の旧経済企画庁に近いイメージの省庁です。国家発展のための戦略を策定し、政府を動かし、経済や社会全体を発展させていくのが主な任務です。関わる範囲が広く、省庁を跨いだ業務でもあるため、影響力は意外に大きいとされています。

1の矢:ヘルスケア 産業の創造

台湾の有力産業であるITと医療を結合した「スマート医療」は、IT大手各社も参入を狙っている領域です。新しい技術とヘルスケアを結びつけ、デジタル治療、スマート医療、オーダメイド医療、デジタル防疫など、ヘルスケア産業を推進していくことを提言しています。具体的な政策として提言されているのは以下の項目です。

  • ITを活用した治療
  • 精密医療
  • 感染症対策技術への支援
  • ヘルスケアサービス産業の拡大
  • スマート医療システムの輸出
  • 医療規制サンドボックス

「サンドボックス」とは新たな技術の実用化や新たなビジネスモデルの実施が、現在の規制の関係で難しい場合、案件・期間限定で暫定的に規制緩和して実証を行い、実証で得られた経験やデータを基に、必要に応じて本格的な規制の見直しに繋げていく制度です。

2の矢:ゼロ接触エコノミーの発展

新型コロナにより、渡航や移動が制限されるなど、人々の行き来はかつてないほど制限されています。そこでITを活用し、プライバシー保護や操作性などの課題を解決しつつ、「ゼロ接触」に関する商機を開拓することを提言しています。具体的な提言は以下が含まれます。

  • 企業のリモートワーク対応など、デジタルへの対応能力をアップ
  • VR/ARによる付加価値を付けたサービスの提供
  • 業界を横断した提携による遠隔教育関連産業の発展

3の矢:労働市場柔軟化

コロナ後の新生活様式はデジタル技術による新しいビジネスモデルの立ち上がりにつながると考えられます。例えばUber Eatsなどのようにネットを通じて単発や案件単位で仕事に従事する「ギグ(Gig)ワーカー」は、伝統的な労働形態を前提にした制度では対応できません。 そこで以下を提言しています。

  • 「(雇用と自営の)中間形態労働者」を追加し、リスクの高いギグワーカーへの基本的な社会保障を提供する。
  • 労働法規を新設または緩和し、様々な働き方の選択に対する労働者の需要、柔軟な雇用に対する企業の需要を満足させる。
  • 労働者の転職や再就職を支援し、デジタル人材へのひっ迫した需要に対応する。

4の矢:台湾をアジア・太平洋のスタートアップセンターに

デジタル技術による産業変革が進み、様々な国でスタートアップが重視されています。台湾は起業環境に恵まれており、スイスの世界経済フォーラム(WEF)の評価において、アメリカ、ドイツ、スイスと並んで世界の4大スタートアップ拠点となっています。

台湾の豊富なエンジニア人材やサプライチェーンなどの長所を活用し、さらに国際競争力を持つスタートアップ環境を構築し、台湾をアジア太平洋のスタートアップセンターにすることを提言しています。 具体的な提言には以下が含まれます。

  • 企業の活力を引き出し、スタートアップの成長とイグジットを支援
  • スタートアップ環境を完備し、いち早く商機をつかむ
  • AIoTを活用した新しいサービスを展開
  • 厚みのあるICT産業の育成により、領域を横断した応用・活用を加速

5の矢:データ ・エコシステムの発展

様々なデータのマッシュアップ(組み合わせ・連携)が、公共部門の効率化を促し、新しいビジネスモデルの創造につながります。

例えば日本でも郵便局が公開している郵便番号情報はショッピングサイトで郵便番号を入力すると大まかな住所が自動入力される仕組みなどに活用されています。また地図と公衆トイレの住所の一覧を組み合わせることでトイレが近隣のどこにあるのかすぐに分かるスマートフォンのアプリが作成されたりもしています。

現在台湾では政府が各種資料のオープンデータ化を進めていますが、商業的な利益が少ないためか、民間側のオープンデータ化やデータ共有への取り組みがあまり活発ではありません。そこで民間の取り組みを促すため、台湾の各省庁のオープンデータのフォーマットを統一し、民間での活用を行いやすくすることを提言しています。

またデジタルエコノミーの時代において、ビッグデータの運用や共有はもう後戻りできない状況になっている。よって情報の流通、活用、管理そしてセキュリティーなどの問題は既に台湾政府が直面している課題となっています。具体的な提言としては以下が挙げられています。

  • オープンデータの推進とデータ再利用に関する法制度の整備
  • 国でのデータ・ハブ(情報流通プラットフォーム)の構築
  • 公共案件におけるデジタル技術の積極的な採用、デジタルインフラの建設
  • 国際協力を積極的に進め、データの国際流通を促進
  • 異分野を横断したデータ分析ができる人材の育成
  • データ ・エコノミーに関する指標の策定

6の矢:サプライチェーン強靭化

コロナ前の米中貿易摩擦、米中ハイテク摩擦により米中の産業チェーンの切り離し(デカップリング)につながっており、またコロナによってサプライチェーン物流、原材料供給、人の移動を制限される状況になっています。よってコロナ後に向けたサプライチェーンの見直しを提言しています。具体的な提言には以下が含まれます。

  • 企業の海外進出拠点の見直しを支援
  • サプライチェーンの柔軟性の向上、基幹技術(キーテクノロジー)の台湾内開発の強化
  • 地域分散によるバックアップの仕組の構築
  • 台湾内における食料安保の仕組の構築
  • 戦略物質産業の台湾内維持
  • 地域に置けるサプライチェーン戦略パートナーシップの構築

7の矢:資本市場改革・スタートアップの資金調達への対応

台湾では直接金融の比率は2割程度で欧米やアジアの主要国に比べてかなり低く、銀行などの間接金融に依存しています。台湾内の資本市場の機能を見直し、企業の直接金融による資金調達、スタートアップの資金調達を政策面で支援することを提言しています。具体的な提言には以下が含まれます。

  • 株式投資型クラウドファンディング適格エンジェル投資家リストの作成
  • 証券会社による株式投資型クラウドファンディングに対する制限の緩和(個人の投資金額上限の緩和など)
  • より多くのエンジェル投資家が株式投資型クラウドファンディングに参加するインセンティブの付与(税制面の優遇など)
  • 未公開株の取引機構の設置
  • STO(Security Token Offering)、ブロックチェーンで管理され、デジタル化された有価証券の取引規制緩和
  • 退職基金や保険契約準備金などの運用規制緩和、企業の社債発行規制の緩和
  • 優良スタートアップの上場への支援
  • デジタル通貨など金融イノベーションへの関心

まとめ

提言は「コロナによる痛みの緩和ではなく、コロナを機にすぐ取り組むべき経済発展のための計画(Not immediate relief, but immediate kick-off)」と強調されています。

またCOVID-19を世界大戰に例え、100日ほどで世界に広まり、人類に様々な根本的な問題を思い出させてくれている。大局的な考え方をもってこそ、旧弊の打破や改革を行い、新たにスタートを切ることができると説いています。

これは日本にも言えることではないかと思います。いつまでも政府や地方自治体の助成金などに頼ることはできません。筆者を含めて我々も出来るところから復活のきっかけをつかむ努力を始めなくてはいけないと痛感しました。

参考文献 (クリックすると一覧を表示)
  • 後COVID-19臺灣經濟發展對策 國發會射七支箭!-數位含金量決定成功之關鍵 (https://www.ndc.gov.tw/News_Content.aspx?n=114AAE178CD95D4C&sms=DF717169EA26F1A3&s=192DA0BC253E472E、2020年10月31日閲覧)

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