心底怖くて震え上がる小説に出会いました。

芦沢央さんの『火のないところに煙は』。

 

 

怖いと言ってもいろいろな怖さがあります。

例えば、無差別に殺戮を繰り返す殺人鬼や、

どうしても振り払えないストーカーなど、

犯罪系の怖さ。

あるいは、怪談系の怖さもあります。

この小説の何が怖いのか、

一言で言えば「怨念」だと思いました。

 

『火のないところに煙は』は短編集です。

 

第一話 染み

第二話 お祓いを頼む女

第三話 妄言

第四話 助けてって言ったのに

第五話 誰かの怪異

最終話 禁忌

(芦沢央さん『火のないところに煙は』 目次から転記)

 

第一話『染み』は、著者が小説新潮から、

「怪談」をテーマにした短編を依頼されたところからスタートします。

著者は、怪談やホラー小説は読んだことはあれど、

書いたことがないので、最初は断ろうと考えます。

しかしテーマ「怪談」には新潮社がある神楽坂が舞台という

条件が付いているのを知り、ふとあることを思い出すのです。

 

かつて神楽坂に絡んだある体験をしたことを。

そして、ずっと封印していたその体験を書くことにするのです。

それが『染み』です。

 

『染み』を発表したところ、

それを読んだ仕事仲間から、

自分も似たような体験をしたことがあると聞かされます。

それを書いたのが第二話『お祓いを頼む女』。

そして次から次へと怪体験の連鎖が起こるのですが、

読者にはやがて、全編通してある女の存在が見えてきます。

その女は、最後まで直接小説の中に登場することはありません。

ですが、注意深く読むと、どんどん存在が大きくなってくるのです。

その女がとても怖いの!!

 

登場人物たちが亡くなっていくのも、

きっとその女のせいなのだろうけど、

どうやったら人をそんなふうに死に追いやることができるのか、

理屈は全くわかりません。

理屈がわからないのに、その女のせいなのだろうと

納得できてしまうのがまた怖い。

 

何より怖いのは、結局これが「小説」なのか、

「体験談(ノンフィクション)」なのか、

明言されていないこと。

 

巻末にどなたかの推薦文がついていて

「いやー、怖い小説でしたよね」とでも語ってくれていたら

どれほど気が楽になったことでしょう。

でもそんなものはないんです。

ないどころか、最後の一行は不安を煽ります。

 

怖い!!

 

私はいわゆる「見ちゃう」人で、

これまでゾーッとする体験を何度もしています。

その私が心底怖いと思ったのは、

この小説(であって欲しい)に書かれていることを

だんだん真剣に考えるようになってきて、

そんなふうに考えること自体が「その女」に

取り憑かれる原因かもしれないと思うことなのです。

 

こんな説明でわかっていただけるかしら?

あと数ページで読み終える頃に私は、

本当に存在するかどうかわからない「その女」を

半ば真剣に怖れるようになっていたのですよ。

 

この本を読み終えたのは夜中の1時半。

あんまりにも面白すぎて(怖すぎて)、

途中でやめることができず、

一人リビングで読み続け、そんな時間になりました。

 

読了し、さぁ寝ましょうと、

リビングのドアまで行った瞬間です。

ドッキーン!!

心臓が止まるかと思った。

私の背後、リビングのテレビが、

なぜかスイッチオンになったのですよ。

 

リビングにはテレビが2台あります。

卓上にやや小型のものが一つ。

これはおもに朝食時につけていて、時計代わりにしています。

もう一つはくつろぎながら見る大型のもの。

そのテレビ二台が、同時にオン状態になるって、

どういうことですか?!

電気を消した室内に、同じチャンネルの番組が映っている……

 

リモコンはテーブルの上。

もちろん触っていませんよ。

静電気か何かで誤作動?

私は単に、寝るためにリビングの入り口に向かって

歩いただけなんですが?


先に寝た夫が視聴予約していた可能性は

ゼロではありません。

しかし、番組は明らかに途中だったし、

そもそもどちらか一台にしか予約は入れないはず。

これも「あの女」の仕業かと、

非科学的な考えがよぎりましたよ。



私はガクガクしながらテーブルに戻り、

リモコンをつかみ、両方のテレビを消しました。

そのとき自分の腕に鳥肌が立っているのが見えました。

 

いったい何なのよぉ。

怖い怖い、怖いよー!!

唯一の救いは、画面には普通の番組が映っていたこと。

もしこれが砂嵐の画面だったら、私は夜中でも絶叫していたでしょうね。

「貞子が出てくる〜!」って。

 

私をこんなにも怖がらせた芦沢央さん。

他にどんな作品を書いておられるんだろう。

絶対に他の作品も読みますワ。

読まずにいられないワ。

 

ちなみに、この本の怖さは他にもあります。

あなたは拡大鏡をお持ちですか?

この本のP25、P26(『染み』)を読んだら、

おそらく裏表紙を拡大鏡で確認したくなるでしょう。

ええ、私は確認しましたよ。

「ギャー!!!」

 

新潮社さんの本気度を見ました。

読者をいじめて(こんなに怖がらせて)悪い出版社だ!!

 

 

 

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