「君のお母さんは、素晴らしいよ。お母さんの説明で、ほらこんなに買っちゃった。」、家内がこの金曜日から1カ月限定で始めた、義姉の作品展。どんな感じか息子とのぞきに行った時、帰りがけの見知らぬおじ様が息子に笑顔で声をかけて下さいました。「こんなご時世、逗子の路地裏の小さな古本屋の一角を借りてやっている、福岡の無名な作家さんのイベントに来る人なんかいるんだろうか?」、そんな風に思っていた私にとってはとっても嬉しい驚き!私の家内、そんなに商才があったっけ?なんて思いながらしばらくお店で様子を見させてもらいました。

ストーリーに共感する
作品展初日ですから、勿論知り合いも来て下さる。でも、古本屋に立ち寄った人が、けっこうな頻度で見に来て下さっている。そこで家内がしている説明を聞いていると・・・
「姉は、唐津で陶芸を学んで、その後東京の桧原村に来て最初の窯を持ったんですけど・・・」
「えっ、桧原村ですか?私、以前近くに住んでいて・・・」
なんて、義姉が過去に居たところの話でひと盛り上がり。
「姉は、今も猫を10匹以上飼っていて、犬もいるんですが・・・以前はウサギも飼っていて、自分の愛情を注いでいる家族の一員をモチーフにして作品を作っているんですよ。」
「そうなんですね。そう聞くと、この猫ちゃん、今にも飛び出してきそう。」
と、姉の得意な動物たちの絵の話に花が咲く。
「こっちは、『にこまんま』というシリーズで、子供食器なんですよ。実は、姉の甥っ子、つまり私の子供が生まれて、そのお祝いにと作ってくれたところからこのシリーズ始まったんですよ。小さいころから本物を使った方が良いと言って。で、子供が机から落っことさないように、ほら、裏が滑りにくくなるように工夫して作ってるんです。」
「あら、本当だ!」
「子供用なんですけど、大人にもとっても良くって、家ではBBQの時に、この区切りがあるお皿を使ってるんですよ。こことここにたれを入れて、ここに食材をとって・・・」
なかなかのもんですね、聞いていると。で、こんな話をしていたお客さんが、「この猫ちゃん、かわいいから頂いていくわ」なんて買って行って下さる。面白いなぁと思いました。基本的には姉、つまり作家さんのこれまでの歴史や作品を作る時の考え、思いなんかを話してるんですね。つまり、ここにある作品が生まれてきたストーリーを語っているわけです。そこに共感すると、その作品が好きになる、人によってはその作品が自分のために作られたように思うのかな?「マーケティングには、ストーリーが大事!」、色々な場で近年よく私が口にしている言葉ですが、そんなつまらん話を聞かなくても妻は実践している。自然に出てくるこういうストーリー、本当に人を引き付けるようですね。

ストーリーは自分のもの
こんな話を邪魔せずに聞くために、私はこそこそと古本屋さんにどんなものがあるのかぶらぶらと見ながら聞き耳を立てていました。妻の接客の様子を知るのが目的だったのに・・・いつの間にか私自身が古本屋さんに引き込まれていました。この本屋さん、狭いんだけどいろんな本があって面白い。勿論、純文学とかも揃っていますが、漫画なんかもあって昨日は石ノ森章太郎の「変身忍者嵐」を見つけて喜んでました。その他、映画雑誌なんかも沢山あり、それがとても懐かしい。なんて思っていたら、なんとトリス人形6体セットが売っている!私のような年代のおっさんにとっては、なんだかタイムマシーンに乗って昔に戻ったような、不思議な感覚。そんな事思いながら見つけたのが、星新一の本。「昔読んだなぁ」なんて思いながら、「よし、息子に買ってやろう」と早速購入しました。で、本屋さんの中をぶらぶら歩いて思ったことは、「この本屋さんて、置いてある本を見て、お客さんが勝手に自分のストーリーを作って見て回ってるんだなぁ」ということ。私の場合は、子供の頃なんかを思い出しつつ、あのころこんなことしていた、あんなものが欲しかった・・・なんて思いつつ、タイムマシーンのような感覚が星新一の世界とリンクする。そして、本嫌いの息子もこんなSFの世界だったら興味を持つかも、子供の頃の自分のように、なんて色々なことを繋げて考える。つまり、売り手がストーリーを作るんじゃなくて、買い手が売り物から勝手にストーリーを作って商品を見ている、そのストーリー乗っかって買い物もしている、ということ。実に、面白い。ドンキーの「面白い陳列で、お客様はおもちゃ箱からものを探すように買い物をする」という手法にも似ている。でも、多分ここの店主はそんな事意識していないんゃないかな。自分の好きなものを集めて、自分なりには分かるジャンル分けで狭い店内に出来るだけ多く物を置いている。そんな感じがします。しかし、それがお客様に自分なりのストーリーを作る余裕を生み出している。それが面白くて、こんなご時世にもお客様が途切れることなくやって来てくれる。理屈じゃなく、実践している素敵なお店を見せて頂き、とっても勉強になりました。

さて、こんな素敵な逗子の古本屋「ととら堂」、このお店だけでも素敵なのですが、4月19日までは義姉のかわいくて素敵な作品の展示会もやっています。日中は、家内がお店番してますので、良かったら是非お立ち寄りください。
20200320_八重さん春の作品展