杉作J太郎 吾妻ひでおを追悼する

杉作J太郎 吾妻ひでおを追悼する 痛快!杉作J太郎のどっきりナイトナイトナイト

杉作J太郎さんが南海放送『痛快!杉作J太郎のどっきりナイト7』の中で吾妻ひでお先生を追悼。映画『チョコレート・デリンジャー』制作など吾妻先生との思い出を話していました。

(杉作J太郎)漫画家の吾妻ひでお先生の訃報が入ってまいりました。今日の昼ぐらいだったですかね? 連絡をいただきまして。ちょっとびっくりしました。まあ「びっくり」という言葉では追いつかないんですけども。衝撃でした。はい。こちら、共同通信から。「漫画家の吾妻ひでおさんが死去」ということで……。

2019年10月21日(月)『痛快!杉作J太郎のどっきりナイト7』シーズン2、今夜もよろしくお願いします。共同通信によりますとすでに今月の13日未明に東京都内の病院で亡くなっていたそうです。69歳。北海道出身。1969年にデビュー。テレビアニメ化もされた人気作『ななこSOS』やギャグマンガを手がけ、『不条理日記』などSF、不条理をテーマにした作品でも注目された。

一方、二度も失踪をしたり、アルコール依存症で入院したりするなど、型破りに生きた。壮絶な実体験を漫画に描き、2005年に『失踪日記』として出版。同年、日本漫画家協会賞大賞に選ばれたということで。すでに葬儀告別式は近親者で行われたようです。喪主は奥様の紀三代さん。食道がんで闘病中だったということのようです。

実は……「実は」っていうこともないですけども、僕はこの吾妻ひでおさんの……こちらはコミックナタリーの方の、今日のこの吾妻さんの訃報の表現を借りますとですね。あ、J-CASTニュースにしましょう。J-CASTニュースの表現をお借りしますと、「『オリンポスのポロン』『ななこSOS』などがアニメ化される一方……」ということで。この『オリンポスのポロン』という漫画は『おちゃめ神物語コロコロポロン』というタイトルでアニメになりました。『ななこSOS』は『ななこSOS』としてアニメになりました。

二度、テレビでアニメになったんですが、実写化というのはされてないんですね。で、実写化をしようとしていた、実写化で許可を頂いてたのが僕だけだったというか。男の墓場プロダクションで僕が吾妻ひでお先生の『チョコレート・デリンジャー』の映画化をスタートしまして。吾妻先生に生まれて初めてお会いしたのが2007年だったですね。その2007年の秋……夏の終わりか秋の初めくらいに初めて吾妻先生にお会いしまして。ダメでもどうでも、とにかくお会いしてお願いしないことには物語、始まりませんもんですから。

当時、青林工藝舎の浅川さんが青林工藝舎から吾妻ひでお先生のコミックスを出版するということで。ちょうど吾妻先生のお宅にお邪魔するという。まだ出版が決まったわけではなく、「青林工藝舎から過去の旧作、こういうタイトルを出そうじゃないか」という時に僕が浅川さんの方に、ちょうど『チョコレート・デリンジャー』という吾妻先生の作品を映画化したいっていうのを僕が温めてましたもんですから。「じゃあちょっと一緒に行きましょうか」っていうことで。

それで青林工藝舎の方も「それに合わせて、うちが出す方もその『チョコレート・デリンジャー』にしましょう」って。『チョコレート・デリンジャー』っていうのは1970年代に秋田書店ですかね? プレイコミックだったでしょうか? 秋田書店プレイコミックに連載されていた、女性の探偵が部下の、弟子というか子分のようなずんぐりした三蔵さんという人と2人で警察の中に住み込んで、いろんな難事件……宇宙人とか未来人とかを相手にした難事件を解決していくSF不条理漫画だったんですが。

これの映画化をさせていただきたいということで、初めてお会いしました。そしての映画化をさせていただくことになりました。映画化するには、もうひとつ僕が思っていたのは主題歌を遠藤賢司さんに……僕の中で吾妻ひでお先生と遠藤賢司さんにこの四国・松山に住んでいた中学生時代に触れまして。僕の中で、まあ一言でいいますとナイーブな、ものすごくナイーブな作家性なんですね。お二人とも。

遠藤賢司と吾妻ひでお

で、僕の中でものすごくお二人が共通した何かがあるように僕はずっと勝手に思っていたんですね。ですから、映画化する時には主題歌、音楽は遠藤賢司さんに。それで遠藤賢司さんにもお願いにあがりましたら、遠藤賢司さんも快諾していただきまして。吾妻ひでお原作、遠藤賢司主題歌、そして松本さゆきちゃんという、この主役の女の子が吾妻ひでおさんの漫画にそっくりだったものですから映画の制作を開始した。それが2007年の夏、秋の入り口の頃のことでした。

で、遠藤賢司さんが一昨年、お亡くなりになりまして。その時も大変後悔したんですが。遠藤賢司さんに完成作品を見せることができなかったということでですね。あの、大変に辛い思いをしたんですが。実は吾妻先生、闘病中だったんですよ。闘病中だったんですけど、一度その闘病の途中で松本さんと僕が渋谷で『チョコレート・デリンジャー』の会をしておりましたら、そこに吾妻先生がいきなり現れましてですね。

僕に喝を入れてくれたという。お便りが来ております。「杉作さま、リスナーのみなさま、こんばんは。伴ジャクソンと申します。本日、吾妻ひでお先生ご逝去のニュースが飛び込んできました。子供の頃から先生の作品を楽しんで、ギャグはもちろんSF、不条理、エロスを徹底的に叩き込まれました。中でも先生の生み出した美少女像は現在のコミック・アニメにも大きな影響を与え、僕らの世代の憧れと言っても過言ではありません。とてもとてもショックです。

生前の吾妻先生とは仕事をする機会もあり、何度かご対面できたのは良い思い出です。最後にお会いしたのは3年前。渋谷ロフト9で杉作さんと松本さゆきさんのトークイベントに吾妻先生がサプライズ乱入した時でした。(これは僕の先輩が仕掛けたのです)」。そうでした。アニメージュの元編集長、大野さんが仕掛けましてですね。僕はもう大変にびっくりしました。ちょうどその吾妻さんの話をしていた……まあ、悪口じゃないんですけど。松本さゆきさんが吾妻さんのことを「とても素敵な方だ」と言うから、「そうですかね?」みたいな話を僕がしていたら、そこに吾妻さんが入ってらっしゃって。僕も「何もかもが終わった……」って思いましてね。はい。

お便りに戻りますが。「……杉作さんに喝を入れ、飄々と夜の渋谷の街を独り去っていく後ろ姿をいまでも覚えています。心からご冥福をお祈りいたします。たしか杉作さんが持っていないと言っていた『ななこSOS』のシングル盤、今度送りますのでぜひ番組でかけてください。どうぞよろしくお願いします」ということですが、伴さん。「今度」じゃない。「いますぐ」です。あの、いますぐ送ってください。そうなんです。僕はこの『ななこSOS』のシングルがありませんので。ぜひいますぐ、こちら南海放送の方にもちょうどなかったのでね。ぜひとも、いますぐ、たったいま、即、すなわち。電送人間。本当にひとつ、いますぐ送っていただきたいと思います。伴ジャクソンさん、よろしくお願いします。

はい。それでは伴さんからもこうやっていただきましたけども。ちょっと吾妻先生のお便りを……あと、今日ですね、結局吾妻先生には完成した作品をお見せしたかったんです。僕もね。あの遠藤賢司さんにはお見せできなかったものですから。で、いまちょうど本当にアニメーションの追い込み作業中なんですよ。アニメーション班が。で、実はいまちょうど追い込み作業中の班の人からも今回、「吾妻さんが亡くなった」っていう連絡がありまして。メールをいただきましてね。もう本当に後悔しても後悔しきれない。どうして間に合わなかったのか。もう辛い。もっと早くやればよかったみたいなね、辛いお便りをいただきました。

まあ、もともと時間がかかってますし。アニメ班も時間はかかってますけども。やっぱりこれは本当にね、締め切りがあってやってる作業ではないということだけじゃなく、本当にいいものをしっかり作っていかないと……だいたい、吾妻先生がこの実写化の許可をなかなかお出ししなかったもんですから。実写化にチャレンジしてるチームはいないんですよね。「チャレンジさせてください」って言った方は何人かいるんですけど、許可をいただいたのが僕だけだったもんですから。

そしてお願いに行った時に「絶対にダメだろう」と思ってお願いに行きました。当然、前の晩ももういろいろ考えたんですけど、何を言っていいのかわからなくて。「ひとつ、お願いします」と。実はまだ、プロットのようなものもはっきりできておりませんでしたから、これは断られたらそれまでだと思ったんですけど。あの、吾妻先生の方から「ぜひ」ということで。

それではちょっとここで、吾妻先生の、こちらは今日はアルバム、レコードを持ってまいりまして。いま、目の前にあります。『おちゃめ神物語コロコロポロン』。僕はね、このコロコロポロンがもう大好きなんですよ。ギリシャ神話の世界をね、吾妻先生が独自の解釈でアニメにしまして。ものすごい巨大なポセイドンとかね、あとは主人公の女の子を1人で育てているお父さんのアポロンとか。それとか美の女神アフロディーテ。でも美の女神には本当は子供がいるんですけど、人前では「子供がいない」と言い張っているその美の女神とかね。

ギリシャ神話に出てくるみなさんが大変に……なんというか原寸大の人間のような雰囲気で出てくる面白いアニメなんですが。この吾妻先生の作品のまず、これはLPなんですけども。主題歌を聞いていただきたいと思います。それではですね、主題歌。原良枝さんが歌っております。作詞、作曲、編曲が山本正之さん。歌は原良枝さん。聞いてください。『オリンポスのポロン』。

『オリンポスのポロン』

(杉作J太郎)吾妻さんにお会いした時がいまからちょうど12年前の秋。いまくらいの季節だったんですね。で、遠藤賢司さんにはその前にもお会いしていましたけども。この『チョコレート・デリンジャー』の主題歌の件でお会いしたのがおそらく明けて翌年。いまから11年前のことだったと思うんです。まだね、10年ちょっとしか経ってないんですね。まさかね、その遠藤賢司さん、その頃ものすごくまだお元気でしたしね。「まだ」っていうか、普通にお元気でしたし。

吾妻先生は当時、ちょっと精神的な部分でね、鬱状態みたいな感じがありまして。大変、鬱状態みたいのが先ほどもありましたけども。アルコールの摂りすぎによる部分からも出たもんだと思うんですが。初めてお会いした時も、「来られるかどうか……」って。ご近所の喫茶店で待ち合わせしたんですけども。「来られるのかな?」なんて思っていたら、ゆっくりと現れましたですね。2階にある喫茶店でしたけども。階段を上がってきて「ああ、吾妻先生がいらっしゃった」っていうんだけど、そこから中に入ってくるまでに、じっくり割とゆっくりゆっくり。それこそ使徒に乗っ取られたエヴァンゲリオンがゆっくりt歩くようなね。

猫背でゆっくりと入ってらっしゃいまして。そしてテーブルに着席されて。僕は初対面だったんですけど、あの全然もう僕の方を見てくれないんですね。見ていただけない。もううつむいてらっしゃるんですね。で、「ああ、今日は状態があまりよくないのかな?」なんて思って。「今日は話をしない方がいいのかもしれないけど、でもいつ会えるかわからないし。やっぱりお話はしておかないとな」って思いまして。

で、話の途中で浅川さんが「あの、こちら杉作さんっていう漫画家の人なんですけど。うちの『ガロ』『アックス』で書いている漫画家なんですけど。この杉作さんが……」まで言いましたら、いやー、もうびっくりしたんですよ。吾妻さんが僕の方を見なかったですけども。「知っています」って言ったんですよ。「知ってますよ」って。「えっ?」って思ってね。まず知っていただけていたのがびっくりして。そしてさらには映画の話もしたら、先生が僕の漫画をほとんど読んでいるって言ったんですよ。「杉作くんの漫画、あなたの漫画はほとんど読んでいます。どんな感じの人かもわかっています」って。

それでどういうことなんだろう?って思ったら、「だからこちらとしてもわかっていますし。過度の期待もありませんから。自由にやってください」って。言葉は本当にぶっきらぼうな感じでしたけども、本当に僕は飛び上がりたいぐらいその時に嬉しかったのを昨日のことのように覚えております。だからずいぶん、本当に吾妻ひでお先生ってすごくスタイリッシュな方だったと思いますね。あの言い方がやっぱり全然こちらにプレッシャーを全く……それはそうだったと思うんですよ。吾妻先生の漫画はいままでアニメにしかなってなくて。「実写でやる」っていうのは相当難しいから、誰も手を出してなかった。おまけにファンの方も多いですし。また熱狂的なファンの方も多いから、ものすごく難しい作業になるのは間違いないんですけども。そういう感じ、全くなかったですね。はい。

(中略)

(杉作J太郎)実は今日は全然違う内容になる予定だったんですけども。吾妻ひでお先生の訃報をお届けしました。吾妻先生のお好きな曲などもかけていこうかと思ったんですが、これは改めて明日、もう一度この話を最初から。『チョコレート・デリンジャー』、チョコレート・サンデー・松本さゆき、三蔵・ロマン優光、砂苦刑事・田口敬、不気味くん・増子直純、歯戸刑事・掟ポルシェ、ゆかり・大西ゆかり、凶悪犯・久住昌之と。まだまだ出てます。部長・ゲッターズ飯田、パンチ刑事・花くまゆうさく、コブラ刑事・コブラ拳、所長・末井昭。

『チョコレートデリンジャー』予告最終版

この映画なんですが、大西ゆかりさんが出てらっしゃるんですけども。吾妻ひでお先生が大西ゆかりさんのこともファンでして。このキャスティングをお伝えしたら大変に喜んでいただけまして。あとは主人公の松本さゆきさんに関しては本当に……僕もこれね、本当に自信のキャスティングだったんですよ。本当に吾妻ひでおさんの漫画の雰囲気を全く持ってらっしゃる方だと思いましたんで。松本さゆきさん、吾妻ひでおさんということで進めていったんですが。吾妻先生も大変に喜んでいただけまして。本当に完成まで……遠藤賢司さんもお亡くなりになり、吾妻先生もお亡くなりになって、次は間違いなく僕の順番ということなんですけども。

まあ、僕ももう覚悟はできておりますのであれですけども。まあ、この作品に関しましては僕にもしものことがありましたら続きは内藤誠監督がまとめてくれることになっていますんで。内藤さんの方が僕よりも年齢ははるかに上なんですけども。まあ、みたいな話も含めまして、また明日。すいません。今日はみなさんにも失礼な放送になったかもしれませんが。申し訳ありませんでした。

<書き起こしおわり>

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