小説「方技官(改)第四話、削魂谷(しょうこんだに)」 | カツオシ D の小説ブログ

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 右イラストはMECHAさんに書いて頂いた「餓鬼ども!」のキャラクター、餓鬼ちゃんズです。    ⇒

    チビポンの成長


 その① 譲りません


 チビポンが脱衣カゴに入っているのを見つけたシマポンママ。

 追い出そうとやってきましたが・・・、

 

 いつもならすぐに逃げ去るチビポンがどきません。


 ならばと揺すってみましたが、チビポンは無視!


 すると、ママは・・・、

   猫パンチ! それでもこの日のチビポンはねばるので、


 ついに、ガブッと噛みました。

 これはさすがにイケないので叱りつけると・・・、


 おとなしく一緒にカゴに入りました。

 チビポン、よく頑張りました。


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 その②、ベランダの管理。



 朝、ベランダのドアを開けると、さっそく現れたのがハチワレ君。

 そのままスタスタと部屋の中に・・・。



 ところが、それを止めるはずのシマポンママも注意せず。



 そのままゴロリと寝転び、



 

 部屋に転がっていたボールをくわえて遊び始めました。



 すると、チビポンがベランダから戻ってきて、



 「出なさい」 と一言。

 ハチワレ君をベランダに追い返しました。



 最近はチビポンがベランダ管理を手伝ってくれるので、

クロちゃんも思う存分雑草取りができます。 (^▽^)

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 また台風が近づいているようです。



 このところ気温も下がり、快適そうなめっちゃ君ともんちゃんですが・・・、


 どうやら台風24号が、また日本に接近しているようです。

 みなさんもご注意下さい。
 


ペタしてね  

#猫 #兄妹猫 #親子猫 #クロネコ #キジトラ


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  今週の小説も過去作を新たに加筆修正したものです。

 

 【 削魂谷 (しょうこんだに) 】

 我々、封魔方とは犬猿の仲である陰陽寮にあって、
一人擦り寄って来るのが次席方技官・土御門希沙良(つちみかどきさら)だ。

 もっとも、この男が我々の詰所(事務室)にやってくる場合は殆ど、やっかいな問題を押しつけに来る時といえた。

「八柱さん、また現れましたよ。疫病神が」十朱補佐官が私に耳打ちした。

「聞こえましたよ。十朱君」

資料を抱えた希沙良がこちらを見てニッコリ微笑んだ。

「くわばらくわばら」長身の十朱が首をすくめて別室に退避していった。

「で、どんな用だ? まさか菓子折りを届けに来たわけでもあるまい」

「八柱方技官がご希望とあればデパートから届けさせますよ。しかし、今日は重大な案件が発生したことを報告に参った次第」

「と、いうとウチへの依頼ではないんだな」

「この件は当方で処理せよということでしたから」

「聞こう」

 俺は来客用のテーブルに案内し見習いの女性職員に茶を頼んだ。

「実は削魂谷の封印が解かれました」

 希沙良がポツンと言った。

「何!? 誰がそんなことをした」

 俺は思わず気色ばんでしまった。それ程、これは大変なことだったのだ。

「我々ですよ。詳しく言えば陰陽寮統括の賀茂方技官です。上からの命令でしたので」

 平静を装ってはいるが、希沙良のカップを持つ手が震えていた。

「あれがどんなものかは陰陽寮は元より、政府も分かっているはず。それなのに賀茂さんは、あえて封印を解いたのか」

「命令でしたので」

「賀茂昇華(かものしょうか)、あのバカ女! いくら副長官の命令でもやっていい事と悪いことと……」

「とにかくご報告まで」

 そう言って希沙良は資料を置き、逃げるように帰っていった。

「八柱さん、やつの言っていた削魂谷とは何です?」 

希沙良が出て行くのを見届けて部屋に戻ってきた十朱が開口一番尋ねた。

「以前訪ねた庵本寺とは比較にならない程強力なパワースポットだよ」

「それが問題なんですか」

「扱い方によっては国家が揺らぐ。そういう場所だ。事後報告とはいえ、昇華が希沙良を寄こしたということは彼女なりに心配しているんだろう。とにかく現地に飛ぶぞ」


 俺達は市ヶ谷駐屯地から自衛隊のチヌーク(タンデムローター式ヘリコプター)で飛び立ち、すぐに現地に向かった。

 削魂谷は紀州山中を縦断する熊野古道から脇に逸れ、裏古道沿いに半日ほど歩いた場所にある谷で、ヘリコプターでも使わない限り、人間が容易に分け入ることはできない。

 物部文書の残された断片を元に調べると削魂谷は、邪馬台国以前、吉野三族が聖地として信仰の対象にしてきたが、あまりにも危険な為に、卑弥呼が禁則地と定め、後の大和朝廷でもそれが受け継がれたという。

「で、いったい何が危険なんですか?」

 十朱がヘリコプターの爆音に負けない大声で聞いてきた。

 彼もまた封魔方の補佐官である以上、教えないわけにはいかない。

 俺は対面に座る十朱を隣に来させ、他には聞こえないようにして、「安易に望みが叶う場所なんだ」と教えた。

「えっと……、すばらしいことなのでは?」

 十朱には、それが何故危険なのか、訳がわからないようだった。

「人は誰でも生存競争をしている。目標とした夢を叶えるには人一倍努力しなければならない。だからこそ、成功した人は尊敬されるし、逆に努力もせず怠けて落ちぶれた人は嘲りの対象となる。これが日本のみならず、世界中で教えられている道徳だ」

「それはそうですね」

「しかし実際にはそう単純なものじゃない。無論努力は必要だが、同じだけ努力しても誰もが同じ成果を得られるわけじゃないし、そもそも何かを目指して努力できる環境にある者と無い者がいる。人生というゲームには難易度が存在するんだよ」


 ハーバード大学のマイケル・サンデル教授も語るように、裕福な家の長男に生まれた者と貧しい家の末弟に生まれた者では受ける教育の質に差がある。あるいは義務教育が確実に受けられる、先進国に生まれた女性と、女子教育は悪だと考える国で生まれた女性では人生を切り開く力が、まったく異なるのだ。

 勿論、貧困の中から成功を勝ち得た者もいる。それは確かに努力した結果といえるだろうが、自身の手に負えないような邪魔は入らなかったという事でもある。例えば命ある物は道端のペンペン草でさえ生きる為の努力をするが、引き抜かれてしまえばそこで終わる。困難な中から成功した人もよく分析すれば、人生における数多くの分岐点で、不思議と助けが入った事で目的を達成した事に気付くだろう。

「つまり削魂谷というのは、人生の難易度を下げる能力があるんですね」

「単純に言えばそうだ」

 十朱が理解したように何度も頷いた。


 紀州は木の国とも呼ばれている。山深い渓谷に添う熊野・裏古道はブナ林に覆われ空からは見えなかったが、森の中に、100m四方の切り開かれた空間があった。通常のヘリポートよりかなり大きいが、全長30mのチヌークが離着陸できるように設計されているのだろう。そのヘリポートから一つ尾根を超えた削魂谷に続く山道は、既に舗装され、対向二車線のアスファルト道路になっている。

 その風景を俺は苦々しく見つめた。

 ヘリコプターの中で、削魂谷の基本的な特徴は説明したが、十朱はおそらく誤解していると思われるので、俺は送迎車に乗り込むと同時に説明を再開した。

「要するに、削魂谷に行けば願いが安易に叶う。知者であれば名を成し指導者となる。商人であれば大成功し大金を得る。戦士であれば武勲を挙げ、将となる。そういう力を訪問者に与える場所とも言える」

「すると削魂谷には、すごい神様がおられるんですね。その人のレベルを上げて強くする。だからこそ削魂谷が奪い合いの対象となり、卑弥呼が禁則地にしたと……」

 やはり十朱は本質を理解していなかった。

「いや、逆だ! 削魂谷に神はいない。そこにあるのは『虚(うつ)ろ』だけなんだ」

「へっ?」

「削魂谷は人が輪廻によって得た、隠された経験値を掃除機のように吸い取り、初心者に戻してしまう。すると、その瞬間に人生がやたら楽なものになる。初心者用のゲームは難しくないだろう?」

「あっ! 確かにRPGのド◯クエでも、レベルの低い者には、二、三発で倒れるスライム程度しか現れませんね。つまり人生が全く簡単なクソゲーになるという事ですか」

「生まれた家は裕福で、たいした努力をせずとも成績優秀。やたら人に引き立てられて出世する。そのうち自分は誰より努力した偉い人間だと考えて、他人に浅い説教を垂れ流す傲慢な輩になる。そうした実際は低レベルなのに野心を簡単に叶える人間が増えると、社会が混乱する。だから卑弥呼は削魂谷を禁則地とし、徳川も御三家の一つである紀州藩を置いて、他の大名がその力を使うのを防いだんだ」

 俺がそこまで説明を終えた時、車は削魂谷近くのパーキングエリアに到着した。

 そこは、つい先頃まで厳重に封印されていた禁則地とは思えないほど、大きく森が切り開かれ、売店や食堂が完成間近となっていた。また底が見えない程、深い亀裂である削魂谷を覆う形で立派な社殿が地元宮大工の手によって建てられていた。

「いつのまに……」

 俺はうなった。

「おや、これは封魔方の主席方技官殿。わざわざこのような場所までご苦労様です」

 その声に振り向くと陰陽頭・従五位の下陰陽寮統括の賀茂昇華が立っていた。

 1メートル60センチの俺より、背が低い彼女は顔立ちも若く20代前半に見えるが、実は36歳という落ち着いた年齢だ。気場を肌で感じる為という理由を付けているが、酒が入ると裸になるという露出狂(?)で、今も全身が透けて見える羽衣状の薄衣一枚という格好だ。

「よく寒くないな。ここの気温は10℃を下回るぞ」

 これから重大な詰問をしようというのに、俺の口から出た第一声がこれだった。

「ホホホ、さすがの八柱君も私の姿態に惹かれましたか? 明階位(神主の位)を持つ者は鍛え方が違いますので」

「ふん、それより何故だ?」

「秘密にしていたわけではありませんよ。周辺部から開発を進め、削魂谷本体の封印を解いたのは昨日ですから」

「そういう問題じゃない。どうして封印を解いたのかを聞いている」

「万策を尽くしても日本経済の成長率が伸びない為ですよ。政府は、有望な若い企業経営者をここに連れてきて幸運を授けようというのです」

 要するに、将来日本の産業を引っ張ってくれそうな人材に強運(?)を付けさせ、ひいては日本の経済を活気あるものにしてもらおうという戦略らしかった。

 卑弥呼や徳川の時代には天下を目指すものが多くいて内戦になると困るという事で封印したが、いまや日本は世界と経済戦をしているので国自体の底上げを計れると考えたのだろう。しかし、その犠牲になる若い企業人は……。

「それが何を意味するか分かっているだろうが。彼らのこれまでの輪廻転生が台無しになるんだぞ」

「いいじゃありませんか。誰もが菩薩を目指しているわけではありませんよ。人生を苦行で満たさず、何度生まれ変わっても初心者のフィールドで、面白おかしく生きればいいのです」

 そう言われると、そんな気もした。

 ただ、今でさえロクでもない低レベルの指導者が各界を牛耳り顰蹙(ひんしゅく)を買っているというのに、この先もっと酷くなるのでは? と、考えると頭が痛かった。

「少し不安は残りますが、老熟して動きの鈍かった日本も若々しい国に生まれ変わるかもしれません」

 遠い目で完成しつつある社殿を見つめる昇華の薄衣が風に吹かれ、お尻が見えた。

 いずれにせよ俺達にこのプロジェクトを止める権限は無い。黙って経緯を見続ける以外に無さそうだった。

 どうなることかと心配しつつ、その後の様子を見守っていると、社殿が完成するや、参拝客が続々と訪れるようになった。

 かなり偏狭の地なので、今の所たいしたことはないが、噂が噂を呼んで海外にまで最強のパワースポットと知られると、日本政府の思惑は外れるのではないだろうか。

「そうなれば世界の誰もが幸せになるかもしれませんね」

 十朱はのんきな事を言うが、その逆かもしれない。いずれにせよ誰もが簡単に成功してしまう世界はきっと、酷く退屈なものになるに違いない。


     
       (第四話・削魂谷 おわり)

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