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平成の敗戦

『月刊日本』2019年4月号 酒井信彦の偽善主義を斬る 2019年3月22日

 天皇陛下は昨年の天皇誕生日に続いて、在位三十周年式典のお言葉でも、平成の時代は戦争がなかったと述べられ、また皇太子殿下も誕生日の会見で、同じ表現を使われていたと記憶する。しかし本誌2月号で指摘したように、平成の時代は不況によって、膨大な自殺者の増加を見たのであり、しかもそれは日米経済戦争の戦死者なのである。平成の時代を、戦争のない平和な時代であったと認識するは間違である。

 つまり平成の時代とは本当は極めて悲劇的な時代であるのだが、平成の悲劇はそれだけにとどまらない。さらに日本を襲った重大な「戦死」が存在することを見逃してはならない。不況による自殺者は、「生物的」な死であるが、それよりはるかに悲劇的でしかも膨大なのは、目に見えない「精神的な死」である。しかも生物的な自殺者数は、現在は以前の状態を回復しているが、精神の死の方はいっそうひどくなり、回復の見通しは全く立っていない。

 では精神の死とは何か。それは例の歴史問題が原因である。それが紛れもない戦死であることは、本稿の後方で説明しよう。

 歴史問題の淵源は、日本の敗戦による東京裁判にあるが、現在まで続く国際問題としての歴史問題の勃発は、1982年の第一次教科書事件で1986年の第二次ある。その後1教科書事件・靖国参拝問題と続く。この歴史問題の展開には、基本的なメカニズムがある。それは日本のメディアが騒ぎ出し、中共・韓国が日本政府に抗議し、日本政府が屈服するというメカニズムである。第一次教科書事件の際は、侵略を進出に書き換えたとの報道が、完全なフェイク・ニュースだったにもかわらず、近隣諸国条項を作ってしまった。歴史問題の重大化には、日本人自身が深く関与しているのである。

 すなわち歴史問題は昭和の末年からはじまっているのだが、真に本格化したのは平成時代であり、その歴史問題の代表格が慰安婦問題である。それは平成の初年からはじまり、しかも一向に解決することなく、三十年がたって、現在に至っている。慰安婦問題はその当初に、宮沢総理大臣が謝罪してしまい、次いで河野談話が出され、日本人支援者が国連に持ち込み、そこで性奴隷と表現されるに至った。2000年には、「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」なる、政治ショーが日本人の手によって開催され、国際的に広く宣伝された。しかもこの裁判劇の目的は、東京裁判で裁かれなかった昭和天皇に対して、戦犯として有罪判決を下すことであって、慰安婦は単なる口実にすぎなかった。

 この慰安婦問題を韓国は徹底的に利用し、韓国のみならず世界で慰安婦像を立て、真の謝罪なるものを要求し続けている。一時的には解決したかに見えても、常に蒸し返しており、さらに徴用工問題にまで発展させている。それは彼らの目的が、日本を精神的に傷めつけることであって、つまり陰湿・卑劣な精神的なジャパン・バッシングに他ならないからである。日米経済戦争のときには、ジャパン・バッシングという表現が使われたのに、歴史問題で使われないのは、歴史問題の本質が全く理解されていないからである。

 ではなぜ歴史問題が「戦死」なのか。日本の新聞のなかでも、歴史問題を「歴史戦」と正確に表現しているのは。産経新聞だけであろう。つまりいわゆる戦争ではないが、情報戦・心理戦と言う精神の戦いである。この精神戦という根本的な本質が、全くと言って良いほど認識されていない。それは平成時代を通じて、この精神戦に完敗しているからである。日米経済戦争における敗戦は、第二の敗戦と言われるが、これは明らかに第三の敗戦と言うべきものである。しかもこの敗戦には、日本人自身が深くかかわっており、その意味で虐日メディアと自民党を主とする政権の犯した罪は、限りなく重い。しかもこの重大な真実が、全く回顧・反省されていない。70年前の戦争の反省より、平成30年の精神的敗戦こそ、真に反省すべきものである。

 精神的敗戦によって日本人は国家意識・民族意識を完全に骨抜きにされてしまった。今の日本人は幕末・維新の時代の、日本人とは似ても似つかない、驚くほど愚かな民族になっている。それは紛れもない精神の奴隷である。慰安婦が性奴隷であるという、全くの虚偽による冤罪を着せられて、民族の名誉と尊厳を、無茶苦茶に踏みにじられて、精神奴隷にさせられているのである。精神奴隷は労働奴隷と違って、自分が悲惨な奴隷状態に陥っていることを、全く自覚できない。したがって奴隷状態と言うより、精神そのものが殺されているというべきであろう。つまり歴史戦の敗北による、無残極まりない戦死である。

 

sakai-book01.jpg ← 酒井信彦 著『虐日偽善に狂う朝日新聞―偏見と差別の朝日的思考と精神構造』(日新報道 2013/08出版)


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