台風が来るとマッサージ屋が儲かる。
 
 
台風が来ると多くの会社や娯楽は、休みになる。
一方、鉄道が動いていれば、繁盛する所もある。
 
フィットネスクラブとマッサージ屋さん。
どちらも、時間ができた人達が流れ込む。
 
ストレス社会では疲れた人が多いが、休む時間が取れない。
だからマッサージ店にラグビーのトライのように倒れこむ。

とある幹線駅近くの繁華街。
 
私も初めてのマッサージ屋さんに飛び込んだ。
続々と疲れたが飛び込んできて混雑している。
 
「毎回、台風になるとお客さんが2倍になります」と店長。
延長できなかったので退店して、タイ式マッサージに電話。
 
ネット検索で見つけたのだが、なんだか変な印象が。
受付の人が不機嫌そうで日本語がほとんど通じない。
 
通常は名前や時間や携帯番号を聞いてくるだろうが、しない。
「お待ちしています」とだけ言って、すぐに電話を切られた。
 
気になったので、勇気を出して行ってみた。
雑居ビルの最上階にあるが、玄関に洗濯物が干してあった。
 
真っ黒なタイ人女性がタンクトップ姿で迎えてくれた。
恐る恐る中に入ると暗く蒸し暑くなにやら異臭もする。
 
９９％の人はここでおじけずいて撤退するだろう。
私も迷ったがここで気持ちを切り替え、入店した。

 
メニュー表を指さし「これ？」とだけ聞いてくる。
「60分５０００円」のメニューしかないのだろう。
 
お金を払うと女性はニッコリ笑ったので多分今日初めての客か。
「エッチじゃないよね」と聞くと、「違う違う」と不気味に笑う。
 
狭い小部屋には一応、タオルケットがひいてあるが、そもそも
この広さで目的とするタイ式（＝ストレッチ）ができるか不安。
 
マッサージが始まったが、結構ハード系で、悪くは無い印象だ。
無言のままで、話しかけても返事はほとんどないか、できない。
 
15分経過したところで、初めて会話があった。
いきなり、こんなことを聞いてきたのだ。

「お客さん、ケイサツ？」
 
どうも警察官だと思われていたみたいだがもちろん違うと返答。
しかし簡単には疑いは晴れないようで、笑顔で必死に払拭した。
 
すると堰を切ったようにカタコトの日本語での会話になった。
身の上話や、タイの話、ついには、うつ病の相談に移った。
 
日本に来て日本人と結婚して2人の子供を産んだものの、
夫は働かず愛人をつくり、部屋に閉じこもり怒ってばかりと。
 
マッサージ部屋が一気にカウンセリング部屋に変わっていく。
予想通りの展開である一方、マッサージはどんどん良くなる。
 
日本人のタイ式とタイ人のマッサージはまったく違う。
タイ人は本格的で、日本人は緩い癒し系で全く異質だ。
 
タイのウドンタニ出身で、田舎には年に一度帰ると。
警察官はチップを払うと、なんでも許してくれると。
 
30バーツ医療は長い列だが、２０００バーツ払うと最優先に。
医療も公安もチップ（裏金）で動くというリアルな話は続く。
 
日本の警察もひどいが、タイよりはましだな、と思った。

夫のDV、うつ病、老親の介護、そしてついに人生相談に。
私はどこに行っても人生会議ができるのが、特技なのだ。
 
「私元気なかったけど、誰かと話すと、元気出た！」と、笑顔に。
最初からはうって変わって、大声で笑いながらマッサージは続く。
 
こんなに喜んで頂き、来て良かった・・・


「私、マッサージ、下手、ごめんなさい」と笑うが
日本人では味わえないハード系の技は、超ハイレベル。
 
タイのムード歌謡CDと扇風機の風でまるでタイにいる気に。
おそらくタイでは、クーラーよりも扇風機が普通なのだろう。
 
その女性は、おそらくここに住んでいるのだろう。
生活臭もするのが、タイ人のやるマッサージ屋だ。
 
1件目のマッサージと2件目のマッサージは、まったく異質だ。
2件目は1時間の約束が終わってみれば2時間近く経っていた。
 
外に出ると台風にも関わらず、酒場の雑踏は大騒ぎだ。
タイの田舎から突然、日本の繁華街にタイムトリップ。
 
不思議なもので、在宅患者さんからの電話は1件目の
受付をしている最中と2件目が終わった直後に鳴った。
 
危険な台風の前夜の危険な旅が終わった。
マッサージのおかげで疲れはかなり改善。
 
日本中が台風で大騒ぎのなか、不謹慎な話で、恐縮です。

もし台風から少しそれた場合、非日常を楽しむ手もある。
 
 
風が吹けば桶屋が儲かる。

台風が来るとマッサージ屋が儲かる。