ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

娘は戦場で生まれた

2020-02-26 22:03:49 | ま行

アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネート。

見るべき映画!胸がつぶれそうだ。

 

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「娘は戦場で生まれた」76点★★★★

 

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死者数が数十万人にのぼるとされ

第二次大戦後最悪の人道危機といわれるシリア内戦。

 

そのシリア・アレッポで2012年からカメラを回し、

結婚&出産をしたワアド・アルカティーブ監督が

自身とその周辺を記録し、

英ドキュメンタリスト、エドワード・ワッツと共同して創り上げた

渾身のドキュメンタリーです。

 

圧倒的な現実の生々しさを持ちながら、

抑制のきいた画の選び方で、心に刺さる詩情を伴い

紡ぎ上げた、すごい作品。

 

アカデミー賞を受賞した

Netflixの「アメリカン・ファクトリー」もいいテーマだったけど

刺さる度は断然、こっちが強いなあとワシは思う。

 

 

そもそものはじまりは

2011年、アラブの春に触発され

シリアのアレッポで始まった打倒アサド政権を求める民主的なデモ。

当時アレッポ大の女子学生だったワアド監督は

2012年から、このデモにカメラを回しはじめる。

 

そのうちに彼女は

人道的活動をする1人の医師と恋に落ち、結婚、妊娠する。

だが、幸せな日々と平行して、情勢はどんどん悪化してゆく。

 

さっきまで一緒に笑っていた仲間が死ぬ。

さっきまで目の前にいた、幼い弟が死ぬ。

 

「こんなときに、あなたを産んでいいの?」――

自問しながらも、監督は娘を出産し、

カメラを回し続けるのです。

 

シリアの現状を伝える映画は

「シリア・モナムール」(16年)

「ラッカは静かに虐殺されている」(18年)

「ラジオ・コバニ」(18年)

など、このブログでも多く紹介してきたけれど

この映画は改めてそのややこしい現場が、どういう経緯を経てこうなったのか、

そこで何が起こっているかを、わからせてくれた。

 

 

カメラが捉える現実に、目を背けたくなるけれど、

そこには微妙な抑制、絶妙なさじ加減で効いてもいて

その線引きが見事なんです。

「多くの人に観てもらうべきだ」という想いを感じました。

 

 

なぜ

ワアド監督や医師である夫が危険を犯してアレッポにとどまるのか。

その理由も、2012年の状況から追うことで明確になっている。

 

彼らは逃げるわけには行かないのだ。

正義のためにはじめた戦いを、支える一人として。

犠牲になった仲間たちのために。

 

そして2020年の現在、監督がどうなったのか。

その部分も含めて、続く問題を考えることが

大事なのだと思います。

 

★2/29(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「娘は戦場で生まれた」公式サイト


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