ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

運命は踊る

2018-09-25 23:55:48 | あ行

 

なんという危うさ!

なんというシュールと、シニカル!

 

「運命は踊る」71点★★★★

 

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現代のイスラエル。

ミハエル(リオール・アシュケナージー)とダフナ(サラ・アドラー)夫婦のもとに

兵役中の息子ヨナタンが戦死した、との知らせがくる。

 

衝撃を受けるミハエルと、ショックで気を失うダフナ。

が、幸いなことに、それは誤報だった。

 

しかし怒り収まらぬミハエルは

「息子をいますぐ呼び戻せ!」と叫び、

軍部のコネを使って息子を帰らせることにする。

 

そのことが、運命の皮肉を呼び寄せるとも知らずに――。

 

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「レバノン」(09年)で

戦車のスコープから戦場を見る、という

自身の従軍体験を反映した斬新かつ、リアルな描写で戦争のやるせなさを表現した

イスラエルのサミュエル・マオズ監督が

8年ぶりに発表した長編2作目です。

 

「レバノン」に続き、ヴェネチア国際映画祭で連続受賞の快挙も成し遂げてます。

 

 

兵役についている息子の戦死を知らされた父親。

やがて誤報だとわかるが、

そのことに激高した父親の行動が運命の皮肉を引き起こす――というストーリーで

 

父親の目線で描く第1部、兵役にいった息子の目線の第2部、

そして彼の母親の視点の第3部の構成で

でもばらけることなく、しっかり物語は束ねられ、集約していく。

 

土台も映像のセンスも秀逸で

ミステリ要素を持ちつつ

「人間の愚かさ」をみつめる寓話の雰囲気もあり、

兵役や戦争という日常が国民の心にどう影響するのか、を

鋭く突いてきます。

 

実際、純粋なミステリーではなく

かなり気に触る音や、絵の作り方で不快さをむき出しで煽ってくるので

向き不向きはあるかもしれない。

 

 

ただ、その不穏と不快のなかに、

この国の病理を映そうとする、意図はよーくわかるし

「レバノン」同様、激しい戦闘シーンや殺戮シーンなしに、戦争の無益を描こうという

姿勢は徹底しています。

 

それに、ワシがすごく好きなのは

兵役についてる息子ヨナタンのパート。

 

砂漠の中にぽつんとある検問所に詰めてる兵士たち。

そこに

ラクダがポテポテとやって来て、検問所を通過する。

平和と危険がグダグダになった妙に間延びした空気。

しかし、一歩間違えば、すぐそこに死がある状況。

そのシュールさが強烈に焼き付くんですよ。

 

 

18歳以上の男女に兵役義務がある国。

ホロコーストから続くトラウマに覆われた国。

その状況が国民の心につける傷が、どれだけ大きいものか。

 

イスラエル社会、相当に病んでるなあと(まあ、よその国のことをいえた状況じゃないニッポンだけど...苦笑)

 

マオズ監督は「中の人」として

その危うさを、発信しているのだと思います。

 

AERA(9/16号)にてサミュエル・マオズ監督にインタビューをさせていただきました。

AERAdot.でも読むことができます。

監督、すごーくクレバーで、真のアーティストで、でもマッチョだった・・・(笑)

映画と併せて、ぜひご一読ください~

 

★9/29(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「運命は踊る」公式サイト


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