ご苦労さん労務やっぱり

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休業手当は6割を支払えば足りるのか

2018-08-23 09:29:04 | 労務情報


 労働基準法第26条は、従業員を休業させた場合に少なくとも平均賃金の6割を支払うことを、罰則付きで事業主に義務づけている。
 経営者の中には、これをもって「休業させた場合には平均賃金の6割を支払えば足りる」と理解している向きも見られるが、民法第536条第2項には「債権者(会社)の責めに帰すべき事由によって債務を履行する(就労する)ことができなくなったときは、債務者(労働者)は、反対給付(賃金)を受ける権利を失わない」とあり、原則的には、会社は賃金の全額を支払わなければならないということになっている。
 ただ、この民法の条項は任意規定であるので、当事者間の合意による取り決めがあれば、そちらが優先される。とは言え、労使関係においては当事者間の力関係から使用者側に断然有利な内容になりかねないため、「少なくとも6割は支払うべし」という強行法規をもって「契約自由の原則」に制限を設けたのが、労働基準法第26条の趣旨というわけだ。

 では、例えば、就業規則で「休業手当は平均賃金の6割を支給する」と定めた場合、会社は賃金全額を支払わなくてもよいことになるだろうか。なるほど、合理的な労働条件が定められ、かつ、従業員に周知されている就業規則は、労働契約の内容となる(労働契約法第7条)ので、これが民法の規定に優先すると考えられそうだ。
 しかし、これについて、「この規定は、労働基準法26条に規定する休業手当について定めたものと解すべきであって、民法536条2項(中略)について定めたものとは解されない」(東京地判H24.4.12)と判示した裁判例もあり、それだけでは不充分と言える。
 それなら、先の規定に、例えば「前項の休業手当を支給された場合は、それを上回る休業手当を請求できない」という1項を加えておけば、民法上の請求権を放棄させたことになるだろうか。ここまで明記されているケースで争われた裁判例は見当たらないが、それでも、敢えて労働者側に肩入れするなら、合意の有無や労働基準法第1条第2項(この基準を理由として労働条件を低下させてはならない)違反を問題とすることもできそうだ。
 そうなると、結局は“裁判官の胸先三寸”ということになってしまうが、「従業員を休業させた場合に平均賃金の6割を支払えば足りるとは限らない」と認識しておかなければならないと言えよう。

 なお、これに関連して、会社が従業員を解雇するにあたり、「30日前に解雇予告すると同時に休業させれば、その間の賃金または解雇予告手当を支払うよりもコストを低く抑えられる」とアドバイスする識者もいるが、上述の通りその当否を争われるリスクがあり、また、安全配慮義務や使用者責任が継続する観点からも、その策を実行するのは慎重に考えたい。


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