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「住宅手当」「家族手当」の存廃を含めた在り方の検討を

2020-02-13 16:17:17 | 労務情報

 賃金は労働の対価であることは異論を挟む余地の無いところだが、わが国の賃金制度には、労働の質とも量とも関係がないはずの「住宅手当」や「家族手当」といった“属人給”が昔から根付いている。
 外資系企業や新興企業を中心にこれらを支給しない(または廃止した)企業も増えてはきているが、いまだ民間企業の約52%が「住宅手当」を、約78%が「家族手当」を支給している実態が見られる(人事院調べ「平成31年民間給与実態調査」より)。

 しかし、これらの手当が一部の者(例えば正社員)にしか支給されていないのだとしたら、今後はその「支給根拠」(逆に言えば「支給しない根拠」)を明確にしなければならない。
 というのも、令和2年(中小企業は令和3年)4月1日からは、非正規雇用労働者に不合理な待遇差を設けることが違法とされる(いわゆる「同一労働同一賃金」)からだ。

 もっとも、現行法でも労働契約法第20条により“有期雇用労働者”への不合理な待遇差は設けてはならないこととされており、多くの民事訴訟が提起されている(裁判所の判断はケースバイケースで揺れている)ところだが、その対象が非正規雇用労働者(パートタイマー・派遣労働者等)すべてに拡大するので、訴訟事案が一層増えることは想像に難くない。

 ちなみに、厚生労働省が昨年末に公表した『同一労働同一賃金ガイドライン』には、正規労働者と非正規労働者との間で各種手当の支給方法や支給額に差を設けている場合の「問題になる例」と「問題にならない例」が多数示されているが、「住宅手当」・「家族手当」(を含む数種類の手当)については「労使で議論していくことが望まれる」とだけ書かれていて、具体例が示されていない。
 つまり、これらに関しては「企業ごとに実態を踏まえて、その存廃を含めて在り方を考えなければならない」ということで、言ってみれば、政府から冷たく突き放された格好だ。

 経営者としては、「では非正規社員にもこれらの手当を支給しよう」とは考えにくいだろうし、また、そもそも住宅手当は「どのような支払い方をしても従業員に不公平感を与える」と揶揄され、家族手当(特に配偶者手当)は「女性の就労意欲を阻害している」との指摘すら受けているなか、真剣にこれらの手当を廃止することを検討している会社も少なくないだろう。

 と言って、現在支給している住宅手当や家族手当を廃止し、支給を打ち切るのは、そう簡単なことではない。
 これは明らかな「労働条件の不利益変更」にあたるので、まずは該当者から個別に同意を取る(労働契約法第8条)ことを考えたい。その後に、就業規則の変更により労働条件を変更する(労働契約法第11条)という手順を採る。
 もちろん、従業員(労働組合のある会社では労働組合)への丁寧な説明は欠かせない。そして、該当者には当面「調整手当」等の名目で差額を支給するなど、激変緩和措置を講じる必要もある。

 会社も従業員も、ある種のパラダイムシフトを求められることにはなるが、「賃金とは何か」という根本的なテーマに改めて向き合う好機ととらえることもできるのではなかろうか。


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