ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

休職満了時における「治癒」の考え方

2020-03-03 17:59:37 | 労務情報

 労働契約は、「労働者が労務を提供し、これに対し使用者が賃金を支払う」という“双務契約”であるので、契約当事者の一方がその債務を履行できないなら、他方の当事者はその契約を解除することができる。
 ちなみに、現行民法第543条ただし書きは履行不能による契約解除に債務者の帰責を求めているためこの点がしばしば争いのタネとなっていたが、改正民法(2020年4月1日施行)第542条第1項では債務者の帰責の有無を問わずに履行不能を理由として契約解除できる旨を明文化している。

 したがって、労働者が労務を提供できない状態になったら、使用者は労働契約を解除(=解雇)できると解される。
 しかし、一定期間を経過すれば再び働けるようになる可能性があるなら、その一定期間、解雇を猶予するのも使用者の任意であって、これを制度化したのが「休職制度」だ。
 そして、休職制度を適用した場合は、所定の休職期間が満了しても治癒しなかったら、その時にこそ労働契約は解除(こういったケースでは「解雇」ではなく「自動退職」としているのが一般的)される。

 では、その「治癒」とは、どういう状態を言うのだろうか。
 古くは「原則として従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復したとき」(千葉地判S60.5.31)など、完全回復が求められており、この判決の文面にならって休職期間満了後の復職条件を定めている会社も少なくなかったが、今日(その規定がまだ有効に現存しているとしても)、それを文言通りに適用するのはリスクが高い。
 というのも、(休職制度を争点とした事件ではなかったが)「現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、‥他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解する」(最一判H10.4.9)との判決が出されて以来、裁判所は、完治していなくても軽微な業務に就かせることの現実的可能性を検討するよう、会社に対して求めてきているからだ。
 これは、「完治」という概念の無い精神疾患の場合には特に顕著だ。

 また、行政府も、厚生労働省を中心として、現在、「病気治療と仕事の両立」を推進しているところでもある。

 なので、会社としては、休職満了時において「従前の職務ができない」からと言って安易に解雇(または退職)に走るのでなく、上述の「軽微な業務に就かせる」のほか、「時差勤務や短時間勤務を認める」、「通勤しやすい職場に配置転換させる」等、その人の健康状態に配慮した働き方を、まずは考えたい。
 確かに「休職」は「解雇の猶予」ではあるのだが、であればこそ「解雇回避義務も問われる」と認識しておくべきだろう。


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