2021年03月18日

「プログレッシブ・キャピタリズム」(スティグリッツ著、東洋経済新報社、2020年1月)

 「プログレッシブ・キャピタリズム」(スティグリッツ著、山田美明訳、東洋経済新報社、2019年12月)には、非常に参考になる政策が提示されているが、多くの人達に読んで欲しいと思ったものである。その中でも印象に残ったものは次の文章である。(同書p.338〜339)

「アメリカは、一夜にしてこの危険な状況に陥ったわけではない。国民の大多数にとって事態が悪化しており、このまま何の対処もしなければ、扇動政治家に支配されやすくなるという警告は、以前からあった。問題がどんな形をとって現れるかはわからないにせよ、危険があることはわかっていた。だがアメリカは、その警告を無視する選択をした。そういう意味では、現在の苦境はアメリカ国民自らが招いたものと言える。私たちが、経済や政治や価値観の選択を間違えたのだ。
 アメリカ国民は第1に、経済の選択を間違えた。私たちは、市場を自由化(減税や規制撤廃など)すれば、あらゆる経済問題が解決すると思っていた。金融化やグローバル化やテクノロジーの開発を進めれば、それだけで万人が豊かになれると信じていた。市場は常に競争が保たれていると思い込み、市場支配力の危険性に気づかなかった。やみくもに利益を追求していれば、それが社会の福利向上につながると思っていた。
 アメリカ国民は第2に、政治の選択を間違えた。私たちは、選挙さえしていれば民主主義は守られると思い、政治において金が危険な力を発揮することに気づかなかった。富が一部の国民に集中すれば、民主主義は腐敗する。エリートが金の力を利用して経済や政治を動かし、経済力や政治権力のさらなる集中を進める。その結果、1人1票の選挙制度は1ドル1票の選挙制度と化し、この制度を不正だと感じる大多数の国民の間に、民主主義に対する幻滅が広がった。
 アメリカ国民は第3に、価値観の選択を間違えた。私たちは、経済は市民のためになるものでなければならず、その逆ではないことを忘れていた。手段と目的を混同していた。グローバル化は、これまで以上に市民のためになる力強い経済を生み出すはずだったのに、そのグローバル化のために賃金や公共政策が削減された。金融もそれ自体が目的と化し、経済の不安定化、成長の鈍化、格差の拡大、一般市民の搾取を引き起こした。それにより利益を追求しても、国民の生活の向上にはつながらなかった。
 ゆがんだ経済やゆがんだ政治は、ゆがんだ価値観に支えられて発展し、ゆがんだ価値観をさらに悪化させた。その結果、アメリカ社会は利己的になってしまった。経済モデルでは人間の本来の姿とされているが、私たちの理想とは似ても似つかない社会である、人間の性質に関する誤ったモデルが、そのモデルに沿った人間、つまり実利的で、利己的で、他人を気づかうことのない、善悪がわからない人間を生み出した。かつて日曜ごとに宗教指導者たちがモラルを説いていた時代は終わった。現在では、金融産業に蔓延していたモラル崩壊がほかの産業へも広がり、もはや反倫理の手本とも言うべき人間(ドナルド・トランプ氏のこと、引用者註)を大統領に選ぶほどモラルを失ってしまった。」

「つまり、21世紀の政策の中心的課題は、社会のさまざまな要請、政府、民間企業、市民の側の社会的・経済的バランスを改善していくことにある。バランスが回復すれば、ほかの効果も見込める。ここ数十年の特徴だった過剰な実利主義やモラルの崩壊が抑制され、個人と集団両方の意向や幸福が重視され、個人や社会全体がより高い価値観や願望を反映した行動をとるようになるに違いない。より高い価値観とは、知識や真実、民主主義や法の支配、自由で民主的は制度や知識機関を尊重する価値観である。」(同書p.346)


 ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・スティグリッツ教授の指摘はアメリカ社会を念頭に置いたものだが、アメリカのシステムを追従する日本にも大枠では当てはまることである。
 日本の歪んだ経済や歪んだ政治を、有権者が修正する必要がある。日本の財政状況(GDP比200%以上の財政赤字)や少子化(合計特殊出生率1.3程度)を考えると、アメリカよりもさらに深刻である。また、官僚組織も機能低下がかなり激しい(記憶がないと答弁する官僚達の存在は、官僚のレベル低下を物語っている)。

 ドナルド・トランプを自民党安倍政権及び菅政権に置き換えると、日本でも状況はかなり深刻であることは間違いない。有権者が、持続可能は日本をどのように構築するかについて、自ら考え、投票行動に繋げることが重要である。

Posted by blog_de_blog at 22:56│Comments(0) 政治 | 社会

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